HOME > ニュース > エプソン「MOVERIO」が映画字幕メガネに。仮面女子・猪狩ともかもスマートグラス普及にエール

『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』を体験上映

エプソン「MOVERIO」が映画字幕メガネに。仮面女子・猪狩ともかもスマートグラス普及にエール

公開日 2019/11/06 23:04 永井光晴
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
バリアフリー映画の普及促進に関するイベント

10月28日〜11月5日まで開催された第32回東京国際映画祭では、メインのコンペティション以外にもさまざまな上映イベントが行われた。なかでも10月29日に実施された特別招待作品『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』は、エプソンのスマートグラス「MOVERIO」を活用し、多言語バリアフリー映画鑑賞を体験するというものである。

満席になった135名の客席の全員がスマートグラスを装着する (C) 2019 TIFF

一般社団法人映画産業団体連合会と、一般社団法人日本映画製作者連盟は、視聴覚障がい者のためのバリアフリー映画の在り方について普及促進を行っており、第24回(2011年)東京国際映画祭以来、視聴覚障がい者のためのバリアフリー映画の普及促進に関するイベントを毎年開催している。

今年のイベントは1964年製作のドキュメンタリー映画『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』を鑑賞する135名の方に、映画の進行に合わせて自動的にバリアフリー字幕と解説字幕を表示する字幕メガネMOVERIOを配布して、その利便性を体感。上映会場となる東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズには、ゲストとして、仮面女子の猪狩ともか氏と、ソフィア(上智大学)オリンピック・パラリンピック学生プロジェクト・Go Beyond代表の山本華菜子氏が出席した。

イベントのゲストには、仮面女子の猪狩ともか氏と、ソフィア(上智大学) オリンピック・パラリンピック学生プロジェクト・Go Beyond代表の山本華菜子氏 (C) 2019 TIFF

オリンピックイヤーを前に初のパラリンピック映画が復活

上映された『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』は、「パラリンピック」という名称が初めて使われた、1964年11月開催の東京パラリンピック大会の模様を収めた1965年のドキュメンタリー映画。東京オリンピックを翌年に控え、2019年に改めてデジタル修復された。

『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』(C) KADOKAWA

近年はドキュメンタリー映画もエンターテインメント性が高いものが多いが、50年前の本作はどちらかというと「記録映画」に近いもの。映像を介して障がい者をどう見せるか、見せていいかという社会通念も現在と異なるなかで、映画は、大会に出場した選手たちの悩みや、障がいを抱えながらスポーツにかける思いなどの貴重な声や映像が収められている。

「東京パラリンピック」は、当時の「国際身体障がい者スポーツ大会」の、第一部「13回国際ストーク・マンデビル車いす競技大会」を指す。第二部は日本人選手だけの国内大会で、第一部が車いす競技に限られていたため、広く全身体障がい者の大会にするため、第二部と合わせて全身体障がい者を対象としている。そして、この東京パラリンピック大会をきっかけに、障がい者スポーツが広く認知されるようになった。

スマートグラスの普及が字幕サービスのカギ

映画の進行に合わせて字幕を表示できる技術は、エヴィクサーの開発した音響同期システム「Another Track」を採用している。

今回のイベントは、エプソンのスマートグラスMOVERIOを使うという点がポイントとなる。視覚障がい者向けの音声ガイドは、多くの人が携行するスマートフォンを使い、ヘッドホンとの組み合わせにより、多くの映画館や映画作品での対応が可能となっている。しかしながら、“聴覚障がい者向け”の字幕表示に画面の明るいスマートフォンを使用することは、映画館の視聴環境には不向きである。その点、スマートグラスがあれば、隣り合う鑑賞者同志が互いに干渉することなく、作品を楽しむことができることになる。

エプソンのスマートグラス「MOVERIO」

とはいえ、スマートグラスを携行している人はまだまだ稀有。またバリアフリーサービスを提供する映画館にとっても、スマートグラスを常備することはコスト面の問題が少なからずある。

この状況を打開するために、このほどサンライズ社より、500台の字幕メガネ用端末が映画界に寄贈されることとなった。これは経営理念を「映画をコミュニケーションメディアに」とする同社がMASC(NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター)を通して、500台の字幕メガネ用端末を本年度末より全国100ヵ所の映画館に順次配備し、レンタルを開始する予定。これによって課題であった字幕メガネの普及の大きなきっかけになる。

実際、MOVERIOを装着して、『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』を鑑賞する機会を得ることができた。映画館で使われる一般的な3Dグラスよりもデザインはオシャレな印象で、ゲストの山本華菜子氏も「スタイリッシュで、障がいの有無に関わらず誰でも楽しめる」とコメント。メガネとケーブルでつながっているコントローラーが手元にあるが、基本的にコントローラーを操作することはなく、そのまま装着するだけである。

MOVERIOはシースルーになっているため、装着してもディスプレイを透過して、上映中のスクリーン映像に字幕がそのまま重なるようになる。字幕自体は映画の音声に同期する「Another Track」で映像とのズレは皆無である。あくまでも字幕はスマートグラス上に表示されているので、顔を左右に振って正面スクリーン以外を見ても、字幕は視野中央に表示されたままついてくる。

また今回は、スタッフによるMOVERIOの操作で、字幕を「英語」と「中国語」が選択できるようになっており、多言語バリアフリー上映としての体験も可能となっていた。

バリアフリーへの関心をパラリンピック後も続けることが重要

「仮面女子」に所属するアイドルの猪狩ともか氏は昨年、強風で倒れた看板の下敷きになって負傷、両下肢麻痺となったが、その後も車いす生活を送りながらリハビリとアイドル活動を続ける。また東京都が設置する「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会メンバー」の委嘱も受けている。

猪狩氏は本作について「モノクロ映像や昭和の音楽でタイムスリップしたよう。選手が競技用ではなく、普段使っている車いすで競技に出場していることに驚いた」と述べていた。さらに「東京パラリンピックの開催でバリアフリーへの関心が高まっているが、大会後も関心を持ち続け活動していきたい」と続けた。

なお、映画『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』は、オリンピックイヤーとなる2020年1月17日より、ユナイテッドシネマ豊洲にて再映されることが決まっている。通常上映のみで、バリアフリー上映の有無については未定。歴史上の貴重な記録映像をスクリーンで見られる。

<上映作品>
『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』
製作:〈日芸綜合プロ〉上原 明 / 監督・脚本・撮影:渡辺 公夫 / 解説:宇野 重吉 / 音楽:團 伊玖磨
ドキュメンタリー/上映時間:63 分/白黒/モノラル 配給:KADOKAWA

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

トピック