技術者へのレクチャーも

<IFA>パナソニックとベルリン・フィルの協業進展。10月開始「DCH」4K/HDR配信の裏側を見た

編集部:風間雄介
2017年08月30日
パナソニック(株)は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との協業成果を、ベルリン・フィルのコンサートホールでプレス向けに披露した。

ベルリン・フィル コンサートホールのエントランス

今回のトピックは大きく分けて2つ。1つはベルリン・フィルの映像配信サービス「デジタルコンサートホール」(DCH)の4K/HDR配信が決定し、その映像システムをパナソニックが構築したこと。もう1つは、ベルリン・フィルとパナソニックの技術者が交流し、その成果を実際の製品の音質向上につなげたことだ。

パナソニックでは今回の協業成果を、住空間だけでなく車載エンターテイメントにも広げていく方針だ。同社は「クルマは今後、電気自動車や自動運転が広がっていく。すると車内は静かでエンターテイメントを楽しめる場、音楽を聴く場になる」との考えから、クルマのエンタメ環境を整えていく。

今回の協業の概要。正式には今年1月1日から協業がスタートした

パナソニック側から見た協業の狙い

4K/HDR配信は10月開始。1年後にはライブストリーミングも視野に

まずは協業成果の1つめ、4K/HDRでのDCH配信について見ていこう。

パナソニックとベルリン・フィルは、昨年のIFAで協業を発表。10月から全世界に向け、本格的に4K/HDR映像をオンデマンド配信する。昨年12月に両者は、4K/HDR配信を始めることを発表していたが、それが今回実現した格好だ。

パナソニック 執行役員の小川理子氏は今回の4K/HDR配信について「DCHの映像を、これまでのフルHDから4Kへ、SDRからHDRへとクオリティアップさせる。先週金曜夜にオープニングコンサートではじめて実際にテストし、その公演を一観客として聴いた。裏側で機材がちゃんと動くか心配していたが、無事スタートできた」と語った。

パナソニック 執行役員の小川理子氏

このオンデマンド配信は、テレビやBDレコーダー/プレーヤー向けサービスについては、開始後120日間は、パナソニックの対応機器でのみ視聴できる。その後は他社製機器でも視聴可能になる。

HDRの方式はHLG(ハイブリッドログガンマ)で、ビットレートは8〜15Mbps程度になる見込み。

ベルリン・フィルのZimmerman氏は、「我々は100年以上前の設立時から、テクノロジーに強い関心を抱いてきた。常に最高の技術で録音するためだ。ただし我々オーケストラは、テクノロジーそのものを持っているわけではない。そのためこれまでずっと、最高のパートナーを探そうと努めてきた。今回、パナソニックというパートナーを得られたのはとても嬉しい」と挨拶した。

ベルリン・フィルのZimmerman氏

Zimmerman氏はまた「8年前にDCHを始めたが、それはなるべく間に人やものを介在させず、ファンの皆様に直接直接アプローチしたいと考えたから。一方でこの8年の間には、技術面で驚くほどの変化があり、設備をアップデートしなければならなかった。この点でパナソニックとのパートナーシップは非常に重要だった」とも紹介した。

「今回、2ヶ月半の改修で、4K/HDRで映像を配信できる世界で唯一のオーケストラになった。ただし4K/HDRは非常に複雑な技術で、我々だけではとてもできなかった。パナソニックがなければできなかったと偽りなく申し上げる」と、パナソニックの協力が実現に大きく寄与したことを強調した。

実際にコンサートホール内で4K/HDR配信を行うための機材も披露された。まず4K/HDR撮影用のカメラは9台が配置されている。これらのカメラにはカメラマンが付かず、リモート操作で撮影が行われる。カメラマンがいると団員の集中力が削がれ、演奏に影響が出る可能性があるからだという。



また技術的に難しかったのは、コンサートホールの照明が薄暗いことだという。これ以上明るくすると、その分ライトの熱で暑くなり、団員が汗をかいてしまう。このためこれ以上明るくできなかった。

光量が限定されている中、鮮明なHDR映像を実現するのは難しかったという

ホールのほぼ最上部からステージを見下ろす。立体的かつ広大なホールであることがわかる

「光量が限定されているなか、4K/HDR収録するのは難しい。この限定された条件の中で、たとえば金管楽器のきらめきなど、HDRならではの映像を実現しようと努力した」とベルリン・フィルの担当者は説明する。そのほか、たとえばホールの全景を映した場合などに、HDではディテールが粗くなるところが4Kではクリアに見えること、さらには50P収録なので、バイオリンの弓など速い動きにも対応できることなどを、4K/HDR化の利点として挙げた。

なお今回導入したカメラは、4K/HDR映像とHD/SDR映像のサイマル出力に対応している。HDR映像をあとからSDRに変換すると、明るすぎるなどの弊害が起きがちだが、新カメラではゲイン差をカメラの中で変えてサイマル出力することで、こういった弊害を抑えている。

カメラで撮影された映像は、ホールの上部裏側に設けられた映像スタジオで収録・編集される。

同スタジオ内には4K/HDR対応モニター7台とカメラ操作用ジョイスティックを備えた機器、スイッチャーなどを装備。さらにユーザーが家庭で視聴する映像の確認用として、すでに市販されている有機ELテレビ「65EZ1000」「55EZ950」も備えている。非常に少人数でオペレートできるよう工夫されており、通常は6〜7人で収録を行う。



ベルリン・フィルのZimmerman氏は、「4K/HDR収録はこの9月にスタートし、10月からオンデマンドで提供する。パナソニックとのパートナーシップ契約は4年間だが、年間40-50本は収録するので、4年後には150本から200本の4K/HDR映像が残されることになる」と、そのスケールの大きさをアピールした。

映像編集ルームの模様。マスモニ画面を見ながらスイッチングしていく

各カメラをコントロールするジョイスティック付きのコントローラー

さらにZimmerman氏は、「来年のこの時期、2018年〜19年シーズンの開始時には、ライブ4K/HDR映像をストリーミング配信したい」との新計画もアナウンスした。1年後を目途に4K/HDR対応の映像ミキサーやエンコーダーを導入することで、ライブストリーミングが可能になるとの見通しを示した。

音声は映像と別のスタジオで収録・編集される。ホール内には編成によって15本〜50本程度のマイクが使われる

ベルリン・フィルが「音の本質」をパナソニック技術者に伝授

ここからは、協業のテーマの2つ目である、パナソニック/テクニクスの映像・音響機器開発での協力関係について見ていこう。

この協業は、パナソニックやテクニクスの技術者がベルリン・フィルに足を運び、ベルリン・フィルが長時間をかけて、自分たちの音に対するフィロソフィーをレクチャー。技術者の音に関する理解を深め、それを実際の機器に取り込むというものだ。

パナソニックの小川氏は、「私はサイエンス・オブ・アートと呼んでいるが、音楽を総合的に、入り口から出口まで深く理解しながら機器を開発することがお客様に感動を与えると考えている。このため、物理的なスペックだけではなく、作曲者の意図や指揮者の指示などまでを総合的に理解し、音楽の科学やアートの科学を深く理解するトレーニングプログラムが必要と考えた」と説明する。

ベルリン・フィルのZimmerman氏も、今回の協業について「4K/HDRの設備を導入してもらうなど、一方通行で行われるわけではなく、我々がパナソニックに対してできることはないかと当初から考えていた」とコメント。「テクニクスのエンジニアの方々は、我々がどう録音し、音についてどのようなフィロソフィーを持っているか関心を持っていた」と付け加える。

実際にベルリン・フィルでのインターンシップを経験したパナソニックの担当者は、「彼らがリスナーに伝えたいと考えている、芸術としての『音の本質』の見識を深められた」と振り返る。「スナップショットのような、自然なリアリティが重要であること、そして音の本質を技術要素として落とし込んだ際には、楽譜の理解が欠かせないこと、時間軸の再現性がとても重要であることがわかった」と語る。

パナソニック/テクニクスのエンジニアがベルリン・フィルで「音の本質」を学び、それを製品開発につなげていく

そこで学んだ知見が活かされたのが、Technicsブランドのハイレゾ対応一体型オーディオシステム「OTTAVA f(フォルテ)」だ。今年5月にミュンヘンで行われた「High End」で披露された(関連ニュース)モデルで、欧州ではこの9月に発売される。価格は900ユーロ。国内での発売は未定となっている。

Technics「OTTAVA f(フォルテ)」

フロントのスリットがデザイン上のアクセントになっている

ガラスカバーによるCDドライブ、Wi-Fi/イーサネット経由でのDLNA/AirPlay再生、SpotifyやTIDALなどの音楽ストリーミング、USB-A端子によるストレージ再生、Bluetooth、FMチューナー/DABチューナーなどを一つの筐体にまとめたシステム。アンプにはテクニクスの他のモデルでおなじみのフルデジタルアンプ「JENO Engine」を採用した。

シンプルな背面端子部

底面にウーファーも装備した

スピーカーは2.1ch構成で、本体前面にトゥイーター2基とミッドレンジ2基を装備。さらに本体底面にはダウンファイヤーのウーファーを1基備えている。トゥイーターの前面に、音を拡散させるサウンドレンズ(ディフューザー)を搭載していることも特徴で、離れた場所でも音像バランスが崩れないよう工夫した。

「AirPlayでDCHを楽しみ、リラックスしてほしい」と開発担当者

ベルリン・フィルとの協業成果を製品に落とし込んだもう一つの例が、先日日本で発表されたばかりの液晶テレビ“VIERA”「EX850」シリーズだ。

ベルリン・フィルと音決めした「ミュージック」モード搭載の“VIERA”「EX850」シリーズ

本機はテクニクスのチームが音づくりを行っているのだが、それだけではなく、ベルリン・フィルと共同でチューニングしたサウンドモード「ミュージック」を搭載。DCHの再生用にチューンナップしたモードで、情報量が多くダイナミックレンジが広いベルリン・フィルの演奏を正確に再現するよう工夫した。

実際にDCHのサウンドを「ミュージックモード」で聴いてみると、テレビの音とは思えないほどの迫力あるサウンドが楽しめる。EX850シリーズは日本国内のみの展開となるが、音のよいテレビを探している方はぜひ聴いてみることをおすすめしたい。

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