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3D映像制作のノウハウ解説も

「アバター 3D」大ヒットでハリウッドはどう動く − 3D映像セミナーレポート

公開日 2010/02/02 15:32 ファイル・ウェブ編集部
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オーバルリンクと(株)クォンタムアイディは1月29日、「立体映像ビジネスの現在と未来」をテーマにしたセミナーを開催した。セミナーが約3時間の長丁場だったこともあり、ここでは当サイトの読者にとって重要と思われることを中心にレポートする。

セミナーでは冒頭、音楽/映像関連ソフトウェア会社、アールテクニカ代表の古瀬学氏が「40分で分かる3D」と題して、3Dを取り巻く現在の状況を概説。今回の3Dブームが、1950年代、1980年代に続く「第3のブーム」と位置づけられることを説明し、今回のブームの背景についても説明した。

アールテクニカ代表の古瀬学氏

古瀬氏は「今回のブームは定着するのではないかという気がする。それはなぜかというと、『ハリウッドが本気を出した』と感じるから。少し古いデータだが、北米は2009年5月時点で2,100スクリーンが3Dに対応している。日本に比べれば多いが、『まだまだスクリーン数が足りない』とハリウッドのメジャースタジオは主張しているようだ」と説明。

日本の状況については「2009年末に289スクリーンと、全体の8%程度にとどまっているが、急速に増えてきている。2008年に日本で公開された『ベオウルフ』が、2D版より3D版の方が興行収入が高かったこともあり、『3Dは行けるぞ』という声が広がってきている」とした。

■3D映像制作のノウハウと今後の課題

続いて、BS11の3D番組を製作している毎日映画社の木村将彦氏が、同社の3D映像の制作方法を解説。同社は「実写での3D映像製作にこだわっていこうという方針」で制作を行っており、「実写の3D撮影は非常にテクニックが必要。撮影時間も通常の3〜4倍必要になるが、どんなシーンでも立体感溢れる映像で撮れるよう、ノウハウを蓄積してきた」という。

毎日映画社の木村将彦氏

木村氏によると「これまで制作されていた3D作品は、被写体までの距離が3〜10mのものが多い」という。この理由について同氏は「カメラ間の距離を、人間の両目の間隔の6.5cmで固定して撮影した場合、被写体までの距離が遠かったり近かったりすると立体感が出すぎたり、逆に出なかったりするから」と説明する。

この問題をクリアするため、毎日映画社では3D撮影機器を自社開発した。具体的には、視差を自由に調整できるレールにカメラ2台を固定した「並行式架台」と、ハーフミラーを使って視差を最短0cmまで調整できる「ミラー式架台」を主に利用している。被写体との距離が変わるのに合わせて、リアルタイムで2台のカメラのあいだの距離を変えていけば、より自由で自然な3D映像が撮影できるという。

毎日映画社の3D撮影用機材

ミラー式架台も独自開発

たとえば被写体までの距離が非常に近い昆虫の撮影なども、ミラー式架台を使うことで可能になる。さらに、花火など非常に遠くにある被写体を撮影するときは、数メートル単位でカメラを2台、三脚を使って固定して撮影することもあるという。

今後の課題について木村氏は「3Dテクニカルディレクター、3D撮影カメラマンなどの人材育成が重要」と語る。特に、立体感を調整する3Dテクニカルディレクターの必要性を痛感しているという。もう一つの課題は「的確な機材の選定」。「1台の3Dカメラがあれば全てのシーンが撮れるというものではない。適切なものを選定できるか、制作できるかが勝負だ」という。

木村氏はまた、3D映像の安全性の確保についても十分に検討する必要性があると指摘。「我々は3D映像を製作する際、長時間視聴しても目に負担をかけないことを心がけている。見ていて気持ち悪くなるようでは意味がなく、せっかくのブームがしぼんでしまう。現在、3Dコンソーシアムがガイドラインを策定しようとしているが、その実行能力が求められる」と締めくくった。

■「アバター3D」効果でハリウッドが続々と実写大作を3D化

続いて、今回のセミナーのメインイベントとなるトークセッションが行われた。司会進行は前述の古瀬氏で、立体映像ジャーナリストの大口孝之氏と、ソニー(株)クリエイティブセンター デザインR&D プロデューサーの吉村司氏が参加した。

立体映像ジャーナリストの大口孝之氏

ソニー(株)クリエイティブセンター デザインR&D プロデューサーの吉村司氏

ソニーの吉村氏は「テレビは白黒からカラー、ハイビジョンになった。次に何が来るかと考えたとき、私はバーチャルリアリティー放送が来るのではないかと思った。お客さんを“空間転送”できればよいと考えたからだ」とあいさつ。

「この考えに沿って、2001年にモーニング娘。さんにご出演頂き、PS2用に『自由視点映像テレビ』を作った。複数のカメラでモーニング娘。さんのメンバー一人一人を同時に撮影し、見たいメンバーの映像だけを自由に切り替えて楽しめるというものだった。とにかく個人的に、今後の流れは4Kや8Kといったさらなる高画素化ではないだろうと考えてきたが、今回、3Dが『ついに来てしまった』という印象だ」と感慨深げに述べた。

大口氏は、日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のカラードーム3D映像「ユニバース2 太陽の響」のヘッドデザイナーなどを経て、フリーランスの映像クリエーター/ジャーナリストに転身。NHKスペシャル「生命 40億年はるかな旅」のCGでエミー賞も受賞している。なお大口氏は、1990年の花博でドーム型3D映像を制作した際、現在のXpanDと似た構造のアクティブシャッター式メガネを製作した経験も持つ。

また大口氏は、3D映画に関するコレクターでもあり、3D映画のメガネやパンフレットなどを1,000点以上収集しているという。

トークセッションの模様

大口氏が収集した過去の3D映画の資料なども披露された

大口氏はセミナーの中で、ハリウッドの裏話を次々に紹介。現在、世界的に大ヒットとなっている『アバター 3D』については、「厳密に3D撮影を行ったのに、実際に見てみるとうまく立体感が得られないシーンが直前になって見つかった。ジェームズ・キャメロンは2D→3D変換が嫌いなので抵抗していたが、ステレオDという会社が作った、撮影映像をすべてボクセルデータに変換する技術が、ブラインドテストの結果が良好だったこともあって採用された。いったん映像をボクセルデータにしてしまうので、後処理で自由に視差が変えられるのが最大の利点だ」とした。

大口氏は「2D-3D変換技術は様々な方式があるが、精度が向上していることと、アバター 3Dがあれだけの成功を収めたことで、需要が急速に増えている。パラマウントは『アイアンマン2』を3Dにするかどうか、ずっと検討とテストを続けているし、次のハリーポッターはフル3Dになる予定だ」とも語り、ハリウッド映画の3D化の波が、さらに激しさを増している状況を説明した。

また大口氏は、映画館や周辺メディアに対する要望として「どの3D方式で観るかによって視聴体験は大きく異なる。だからあらかじめ、どの劇場でどの方式が採用されているかがわかるような仕組み、あるいはメディアが必要だ」と訴えた。さらに大口氏は「座る席によっても3D体験はまったく違うものになる。厳密に言えば、理想的な席は映画館の中でたった一席だけ」とも説明。これは裏返せば、家庭用3Dテレビの必要性が増すということでもあるだろう。

一方で大口氏は「画面の大きさと立体視の強さは大きく関係しているので、劇場用に作られたものを、そのまま中小型のテレビで視聴するとあまり立体感を感じられない」とも述べ、劇場とテレビで、3Dのステレオベースを調整する必要性が生じる可能性もあると指摘した。

また前述の木村氏と同様、3D映像の安全性についても、さらなる検証が必要と指摘。「輻輳角で奥にポイントを付けすぎてしまうと、目が離れて斜視になる危険性もある。あまりに過剰な3D表現は危険だ」と訴えた。

最後に3Dの未来について尋ねられた大口氏は、「解像度ではなく、フレームレートの低さが一番気になる。ハリウッドやメーカーは、それを重視して欲しい」と述べた。

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