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【飯塚克味のコレクター魂 vol.3】双子のホラー映画監督、パン兄弟

2008/01/03
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■演出方式がすでにオカルト?!

来る2月1日に、いよいよ全米でハリウッドリメイクの『THE EYE』が公開される。そのオリジナルを生み出した双子の映画監督、パン兄弟をご存じだろうか。香港生まれのパン兄弟(兄/オキサイド、弟/ダニー)は2000年の『レイン』、2002年の『the EYE[アイ]』の成功で一躍有名になった。その後は『the EYE[アイ]』の続編製作などを行ってきたが、2006年から製作速度が一気に加速し、12月には4タイトルものDVDがほぼ同日に発売という快挙を成し遂げた。リリースされたタイトルは『リサイクル −死界−』(発売元/ジェネオン エンタテインメント)、『ゴースト・ハウス』(発売元/ポニーキャニオン)、『妄想 diary』(発売元/ポニーキャニオン)、『死の森』(発売元/竹書房)となっている。

作品はなんと、どれもバリバリの劇場用新作だ。日本では『妄想 diary』と『死の森』は未公開となってしまったが、『リサイクル -死界-』と『ゴースト・ハウス』はしっかり劇場公開されている。1年に4本の新作なんて、まるで三池崇史監督を思わせるハイペースだが、手抜き作品は1本もなく、思いの丈を感じさせる力作揃いだ。

二人は日々、交互に撮影現場に立つという演出スタイルをとる。現場にいないどちらかは編集室で作業をしている。もちろん事前の打ち合わせは綿密に詰めているが、それで1本の作品になった時、「よく不自然にならないものだ」と誰もが驚くそうだ。タビアーニ兄弟やコーエン兄弟など、兄弟監督はいるにはいるがこの独特の演出スタイルを取っているのはパン兄弟くらいだろう。

■ハリウッドも認めた才能


『リサイクル −死界−』

『ゴースト・ハウス』
まず紹介するのは『リサイクル −死界−』。本国では2006年にDVDが発売されていた作品だが、このほどのDVD発売で、日本語字幕と吹替えでようやく見られるようになった。

霊体験をテーマにした小説の執筆が思うように進まない女性作家ディンイン。昔付き合っていた男性との再会が影響したのか、次々と奇怪な現象に襲われるようになってしまう。そして何とその現象とは彼女が没にした原稿の内容と一致していたのだ。エレベーターに乗ったディンインが降り立つとそこは世界の終末とも思えるような光景が広がっていた。彼女は見たことがあるような少女の誘導で、その世界に足を踏み入れていく…。

ホラー映画にはありきたりな設定で始まるものの、ふんだんに予算をかけた世界観の構築に見るものは圧倒されてしまう。そのビジュアルセンスにも驚嘆するが、作品のテーマもしっかり描き込まれている。年末は並み居るハリウッド大作のソフトリリースが相次いでいるものの、それらに引けを取らないスケールの演出はみごととしか言いようがない。ネタばれは控えるが、『シックス・センス』で感じた以上の感動を得られるといっていい。

お次は『ゴースト・ハウス』。2007年の春に公開され、いきなりボックスオフィスの第1位を獲得した作品で、香港出身の監督が手掛けたホラー映画としては初という快挙となった。製作は『呪怨』シリーズをハリウッドで成功させ、今は『スパイダーマン』シリーズの監督で知らぬ人はいないサム・ライミ。『死霊のはらわた』シリーズの監督でもある彼は、ホラーの才能の発掘には余念がない。新しい才能はリメイクとしてではなく直接ハリウッドに知らしめるべく尽力している。この『ゴースト・ハウス』もそうした1本で、全米の観客を恐怖のどん底に陥れることに成功した。

ノース・ダコタの農場に引っ越してきたソロモン家。古い屋敷で新たな生活を始める一家だったが、家の周囲にはやたらと烏が目立ち不穏な空気が流れている。そして一家の長女ジェスと3歳の長男ベンは家で起こる怪現象に直面する。

この作品の企画はすでにパン兄弟が参加する以前から進行していたもので、残念ながらパン兄弟のエッセンスが充分に発揮された作品とは言いがたい。それでもハリウッドスタイルの製作環境の中、これまでの自分たちのスタイルを維持し、成功を収めたことは評価されるべきだろう。彼らには、ピーター・ジャクソン監督のように大バケする可能性もある。ハリウッドシステムに慣れておくことも、よい経験になるはずだ。

ところで、本作で特筆したいのが主演のクリステン・スチュワート。『パニック・ルーム』ではジョディ・フォスターの娘に扮したり、『ザスーラ』では主人公兄弟の姉(凍ってしまう彼女です!)を演じていたが、今回は堂々の主役。ホラーワールドの中で女性たちを美しく描いてきたパン兄弟は、女性たちを魅力的に描くことにかけて長けており、クリステンも実に魅力的に捉えられていた。

音響はハリウッド作品らしく、他の作品のワンランク上の仕上がり。日本国内はDVDのみの発売だが、北米ではブルーレイもリリースされているので、リニアPCMによるサラウンドを体感したければ輸入盤を手に入れよう。

■高い完成度。今後の活躍に注目あれ!


『妄想 diary』

『死の森』
続く2本は兄弟がそれぞれ単独で監督した作品だ。『妄想 diary』は兄オキサイド・パンが描いた、女性の内面に迫った心理サスペンス。恋人に去られ、孤独な日々を送る女性ウィンナ。日記を書き、趣味の人形作りに没頭するが、元カレを忘れることができない。彼女は恋人に会おうと何度も携帯に電話したり、会社を訪ねたりするが、行方は完全に途切れている。そんなある日、彼女は元カレにそっくりな男性に出会う。その男性に惹かれたウィンナは、彼を家に呼び入れ、食事を振る舞い、楽しい日々を期待していたが、またもや男性の気持ちが離れていってしまう・・・。予想通りといえば予想通りの展開だが、モニターが故障したのでは?と思うほどの色彩設計や、クリント・イーストウッドもビックリの画面の暗さなど、映像作りに徹底したこだわりがあり、ただならぬ緊張感が全編を覆っている。一見する価値は充分にあると言えよう。

ラストは『死の森』。監督は弟のダニー・パン。日本では富士の樹海が自殺の名所として知られるが、この映画もそうした森を舞台にしている。森は生きていると信じている植物学者と、森で起きた強姦殺人事件を追う女性刑事の出会いが、予想外の結果を引き起こす。

精神世界を描いた『妄想 diary』に比べると開放的な雰囲気だが、神秘性を感じさせる内容だ。マスメディアや強権力といったものに対する冷静な視点も感じられる。主演は『the EYE 2』でも組んでいるスー・チー。監督の狙いをしっかり汲み取った演技を見せてくれる。ちなみに、ダニー・パンが単独で監督した『ツイン・ショット』に出演したイーキン・チェンが無精髭を伸ばした植物学者に扮しているところもアジア映画ファンには要チェックだ。本作も他のDVD同様に5.1ch音声が収録されており、ホラーテイストを音からも体感できる。アジア映画の場合、未だにステレオ音声しか収録されないケースがあるなかで、これはうれしい仕様だろう。

今後、ますますの活躍が期待できるパン兄弟。ホラーファンの間では着実に知名度を上げているが、一般の映画ファンにはまだ知らぬ人も多いのでは? ぜひ今のうちにチェックしてみてもらいたい。

(ホームシアターファイル編集部)


飯塚克味:映像ディレクター。『ハリウッド・エクスプレス』(WOWOW)演出、『シネマ・コンシェルジュ』(スター・チャンネル)構成、『週間 SPA!』連載執筆など、映画への愛を胸に大活躍中!

【作品詳細】
●『リサイクル −死界−』
http://db.geneon-ent.co.jp/search_new/show_detail.php?softid=GNBF-1187
●『ゴースト・ハウス』※
http://db.geneon-ent.co.jp/search_new/show_detail.php?softid=GNBF-1187
●『妄想 diary』※
http://visual.ponycanyon.co.jp/
●『死の森』※
http://www.takeshobo.co.jp/mgr.m/main/shohin

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