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【日仏監督インタビュー/日本編1】諏訪敦彦監督に訊く『不完全なふたり』

2008/01/02
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東京新宿の武蔵野間での『不完全なふたり』初日、上映後のトークにて。諏訪監督とプロデューサーの吉武美知子氏、音楽の鈴木政行氏
2007年6月『不完全なふたり』の公開初日、新宿の武蔵野館にて諏訪監督にお話を伺った。

― フランスに一年暮らしていて、それがきっかけでフランスのスタッフと知り合ったのですか?

諏訪:そうでもなくて、(フランスに)行ったきっかけって、向こうに映画の友人がいたからというのが大きかったと思うんですよ。『M/OTHER』 という映画を撮ったときに、カメラをさがしていたんです。というのは、一本目の『2/DUO』 を撮ったときに、カメラは田村正毅さんにやっていただいて、すごく面白かったんですけれど、『M/OTHER』はスケジュールが駄目で、では誰がいいのかという話をしているときに、これは、ほとんど冗談みたいに、キャロリーヌ・シャンプティエがいいんじゃないかということを僕がぽろっといったんですね。

― それは何か見てらして?

諏訪:もちろん、キャロリーヌの映画っていうのは、僕にとっても大事な映画っていうのはありますけれどもね。彼女の経歴の中で、ゴダールとの共同作業もあるし、ジャックドワイヨン、ポネットとかもそうですよね。リベットとか、自分にとっては重要な作家と仕事をしてきた人で、画面を見ても、考え方というのはすごくいいなと思っていましたから。ただ、本当に実現するとは思わなかったけれど、田村さんが駄目なら、キャロリーヌ・シャンプティエぐらいしかいないよと半ば冗談のように言って、それがいいかもしれない、彼女に依頼してみようかという話になって、それで、彼女に僕の作品の『2/Duo 』を送ったんですよ。そしたら、彼女は僕の作品にすごく興味を持ってくれて、じゃあ、やってみようみたいな話にはなったんですよ。だけれど、やはり彼女もその時はスケジュールが合わなくて一緒にはできなかったんです。

それがきっかけで『M/OTHER』で初めてカンヌ映画祭にいったときに、審査員で来ていた彼女に会って、99年ですね。そこから始まったのが『H STORY』だったんですね。

― 『H STORY』は、マルグリット・デュラスの原作をアラン・レネ監督が映画化し、岡田英次とフランス人女優エマニュエル・リヴァが出演した『24時間の情事』(1959年)をリメイクした諏訪監督の作品ですが、フランス人女優のベアトリス・ダルが出ていますね。

諏訪:『H STORY』でフランス人の俳優をキャスティングしようということになって、キャロリーヌとフランスの俳優何人かに会って、最終的に女優も5人ぐらい会ったんだけれど、一人一人と5本映画を撮りたいみたいな気持ちになりましたよね。やはりフランスの俳優さんは、おもしろい人がたくさんいるなあと思って。

『M/OTHER』 という映画はフランスですごく受け入れられたし、批評的にも理解されたという気持ちがあったんですよ。フランスでは70館以上で上映されたのかな。日本より受け入れられたという印象があったんですよ。自分の映画の観客がここにもいるんだということが自分にとっても発見だった。ああ、何も日本だけでやらなくてもいいんだということにそのとき気がついた。そういう経緯があって、そういうつながりがあったからフランスに行って、一年間暮らして、その中で自然に次、何をやろうかという話がでて、映画ができていったというところがあります。

だから映画を撮るために、よし、これはフランスで撮るぞみたいな感じで、日本から映画を撮りに行ったという感じではないんですよね。自分としては、割とこういう環境の中で映画を撮るという事が起きてしまったという感じなんです。

― 諏訪さんの映画は男女のカップルをじっと見つめるというものが続いていますが、フランスの観客や映画人には日本の観客よりもこのテーマが自然に思われているということでしょうか?

諏訪:例えば、今回のは40代のカップルの話ですよね。で、こういう物語を見る観客層がフランスの方が多いですよね。実際、そういう夫婦の話というのが多いですよ。日本に比べると。で、その年代の人が結構映画に行く訳ですよね。日本だと、若い人か、現役を引退した年配の人とかね。僕たちの世代の男が一番映画に行かないような、そういう感じでしょ。大人の人が映画を見て、例えば夫婦で映画を見たりして、その映画について話すということが日常的には日本ではあまりない。男性の場合特にね。それで、僕が思うのは映画を見て、その映画が今の自分たちの生活を考える力や生きる糧になる場合もあるんじゃないかということ。今を生きるためにね。

― 今回、カップルの女性を演じているヴァレリア・テデスキの演技については?

諏訪:力ある俳優さんだということは、映画見ればわかるんですが、ただ、こういうやり方(即興的な演出)をやっていると、単なる仕事ではないことがあるから、本当に信頼関係がないとできないだろうと思いますよ。でも、彼女はやってみて改めて、すごくクリエイティブな、創造性に富んだ俳優だなあと思いましたね。初めて仕事をしたような気がしませんでしたね。彼女は疲れていても撮影に入るととても元気になってくれた。最後のシーンですが、あれは、彼女のアイデアなんです。

― スタッフワークはどうでしたか。

諏訪:スタッフワークも常連の人たちとやっているような感じでした。ちょっと、やはりそのことが不安だったんですね。今までやはり同じスタッフで日本でやってきたところがあるから、みんな諏訪の映画のやり方というのを、ある程度理解してやってきたスタッフだったんだけれど、今回、そのチームが総入れ替えになって、大丈夫かなというのがあったけれど、すごくスタッフも柔軟だったから、とてもスムーズでしたね。

― クルーは何人ぐらいだったんですか?

諏訪:撮影照明で、3人。助監督1人。制作部1人、私と、通訳の吉武さん。録音が2人。10人かちょっとぐらいですね。助監督は、劇映画の場合、普通は3人ぐらいいるんですね。でも人数を増やさないようにしようとキャロリーヌも提案してくれて、みんな仕事は大変になるけれど、少数精鋭でやりましょうということでやってくれましたね。

― 撮影の計画などについては?

諏訪:最初の車のショットはキャロリーヌのアイデアなんですけれど、撮影にガラスのショットがあるのは、『M/OTHER』の中にガラスの反射を結構僕が使っていて、それをキャロリーヌが見ていて、撮影計画を立てていたんだと思いますね。室内のシーンが多いんですけれど、カットを割って空間を再構成はしていないんです。それをやってしまうと、俳優の感情の流れが分断されて分割されてパーツを撮っていくという作業になっていくので、それはやっぱりできないよね。できるだけ空間をひとつのショットで様々な空間を感じられるような構成にしたいわけですよね。

― 別の対談で、ヨーロッパ的な映画の伝統を諏訪さんの映画が持っているという話をされていますけれど、それは、ご自分で意識されていますか?

諏訪:うーんと、もちろん、自分でヨーロッパ的にやろうとか、日本的にやろうとかの意識はないわけですけれど、やっているときには。ただ、映画っていうのは、日本人だからって日本映画ばっかり見ているわけじゃないじゃないですか。フランス人だからといってフランス映画ばっかり見ているわけじゃないし。ベンダースが小津の映画の影響を受けたり、小津はアメリカ映画の影響を受けていたりとか。そういうことが割と日常的におきることですよね。文学とはちがって、映画というものは、映画って、日本人だからといって日本語で映画を撮っているわけではない。僕がフランス映画とかをある年齢のときに見て、ショックを受けたりしたことが、自分の映画体験の中にすごく深く刻まれているところはありますね。

― ゴダールとかリベットとかですか。特にというのは?

諏訪:そうですね。やはりヌーヴェル・ヴァーグの一連の映画を見たときは、ショックを受けましたね。ゴダールだけじゃないんですけれどね。トリュフォーも見ました。ジャン・ピエール・レオーは、僕にとって特別な存在だったかな。だから最初に会ったときは緊張しましたよ。会ったけれど、彼は本当にかわいそうな人で。『パリ・ジュテーム』には本当は出ていたんですよ。カットされましたけれど。彼は台詞を覚えられないから。何テイクもやっていて。ちょっと痛々しかったね。悪いときは、彼は道ばたで叫んでいますよ。

― 今回の映画でマリーの心理を追っているところが、トリュフォーの映画のように女性の心理に迫っているように感じたんですけれど。

諏訪:僕のはトリュフォー的ではないというか、トリュフォーの場合は、彼の女性性で女性を描いている、彼の見た女性というところがあると思うんだけれど、僕は僕が女性を描いていると思っていないんですよね。僕が、女性がこういうときにこう感じるだろうとか、こうするだろうということを作っているわけではないという感じがするんですよ。僕があるシチュエーションを投げかける、そこで、ヴァレリアの中にある反作用が起きて、彼女がどういうふうに表現していくかということに、渡してしまうところがあるわけですよね。自分はあるきっかけを与えて、ヴァレリア自身の中で反作用がおきてくるわけで、それはヴァレリア自身のものなんですね。だからそこで彼女自身のリアクションを我々が受け入れていく。だから僕が描いているというより、彼女の表現を我々が映画の中に組み入れていくという関係なんですね。だから、僕は女性のことを知っていると思っていないですよ。わからない。わからないからこそ、ヴァレリアである意味でゆだねている。だから、そのリアクションは彼女から出てきているからこそ、だから女性的なんですよ。


(日本編2へ続く)

(インタビューと文/山之内優子 写真/丸谷 肇)



諏訪敦彦(すわ のぶひろ)
1960年広島市出身。東京造形大学教授。東京造形大学デザイン科在学中『はなされるGANG』でぴあフィルムフェスティバルに入選。石井聰亙監督や山本政志のインディペンデントの映画製作に加わり、デレビドキュメンタリーの演出も手がける。1996年『2/Duo』で長編映画監督としてデビュー。以来、状況設定を中心にする簡単な脚本で、台詞や動きを役者の自発性に任せる即興的演出を試みている。1999年『M/OTHER』で第52回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。第54回毎日映画コンクール脚本賞受賞。2000年『H STORY』ではアラン・レネ監督の『24時間の情事』を町田康、ベアトリス・ダルを役者に迎えリメイクした。2007年に日本で公開された『不完全なふたり』(2005年)は、フランス人キャスト、スタッフにより製作され、1986年に大島渚監督が製作した『マックス・モン・アムール』以来の日本人映画監督によるフランス映画となった。この作品は第58回ロカルノ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。2006年にはフランスのオムニバス映画『パリ・ジュテーム』に参加している。


【関連リンク】
フランス映画祭2007オフィシャルサイト
http://www.unifrance.jp/festival/index_pc.php?langue=JAPANESE

【作品詳細】
『不完全なふたり』
http://www.unifrance.jp/festival/films_view.php?langue=JAPANESE&id=61

●解説:
男女の関係を描き続ける諏訪監督の長編最新作。本作では、情熱が去った後の他者への愛がテーマとなった。諏訪監督が「今回は共同監督」と呼ぶC・シャンプティエ(『H story』)とは、阿吽の呼吸で独自の作品世界を実現。マリー役のV・ブルーニ=テデスキも、「監督の力強い視線に導かれて、ほぼ盲目で演じてるようだった」。ロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞した他、フランスではロッセリーニ作品を継ぐ現代映画として絶賛された。

●ストーリー:
15年間、外国で結婚生活を送ってきたマリーとニコラ。破局寸前のふたりは、友達の結婚式のためにパリにやって来る。友人との食事の席で夫は離婚を口にして周囲を驚かせ、彼らの関係はもはや修復不可能に思われたが……。

●スタッフ:
監督/諏訪敦彦 プロデューサー/澤田正道、吉武美知子 撮影・アーティスティックディレクション/キャロリーヌ・シャンプティエ 出演/ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ、ブリュノ・トデスキーニ

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