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【飯塚克味のコレクター魂vol.2】吹替え鑑賞のススメ〜山寺宏一のお仕事

2008/01/02
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■吹替えの達人、山寺宏一

映画は、字幕もいいが、吹替えで観るのもおもしろい。字幕を目で追う必要がなく、映画に集中できるから、これまで気づかなかった細かい演技に目が行くことも多いのだ。吹替えでの映画鑑賞に抵抗ある向きも多いかもしれないが、今日は吹替え鑑賞のススメとして、日本声優界の実力者、山寺宏一の仕事を紹介しよう。

2007年は『物まねバトル』(日本テレビ系列)であのコロッケに勝利を収め、ダンス番組でも見事優勝し、ますます認知度を高めた“山ちゃん”こと声優・山寺宏一。平日は毎朝7時から『おはスタ』で元気に子供たちに呼びかけ、文字通り山のような仕事をこなし「一体いつ寝ているんだ?」との疑問もよく聞く。しかし彼の本業は洋画やアニメの声優である。私自身、すでに5年近くWOWOWの映画情報番組『HOLLYWOOD EXPRESS』でナレーションをお願いしている立場だが、声優としての仕事ぶりを見る(聴く?)度に新鮮な驚きを味わっている。芸の幅の広さなんて言葉では形容しがたい声の芝居の質の高さはファンの方のほうがよほど詳しいだろう。今回は自分が映画館やDVDで体験した山寺氏の吹替えの仕事を振り返り、普段「映画はやっぱりオリジナルの音声で聞かなくちゃ」と思っている映画ファンに、彼の業績をアピールしたい。

■ハリウッドスターの幅広い演技もお任せ!

まず紹介したいのは、持ち役であるエディ・マーフィ出演作である。


『ドリームガールズ』

『マッド・ファット・ワイフ』
アカデミー賞でも話題にのぼり、助演男優賞の候補としても有力だった『ドリームガールズ』。普段のエディと違う、抑制の効いたキャラクターが話題になったが、見事な吹替えでそれを表現してくれた。大勢のキャストが歌うだけに歌唱シーンはオリジナルだったが、エディ・マーフィの単独ミュージカルならきっと山寺節の歌も聞けたのではないか? 映画館ではさすがに字幕版しか公開されなかったが、次世代ディスクをお持ちの方は是非吹替えも試してもらいたい。

エディ・マーフィが一人三役に挑んだ『マッド・ファット・ワイフ』(DVD)ではエディと同じく、山寺が一人でエディが演じたすべての役をこなしている。『ナッティ・プロフェッサー』シリーズでも複数の役を一人でこなしてきただけに、手馴れた感すらあるが、やはり改めて聞いてみるとスゴイ吹替えだ! (ちなみにこの作品、未公開だが面白い! お見逃しなく!)
 
ヒットシリーズ作『シュレック3』でも、やはりエディ・マーフィが声を担当しているドンキーを吹替えている。『HOLLYWOOD EXPRESS』でもよくドンキーの声を披露してくれるのだが、やはり大スクリーンで見る吹替え作品は映像に集中できて、特にこうした作品の場合、字幕より数段楽しめる。

今後、山寺宏一の持ちキャラとして大いに伸びてきそうなのがウィル・フェレルである。日本ではなかなか人気が出てこないが、アメリカでは出演する映画が軒並み大ヒット。今年前半にDVDがリリースされた『タラデガ・ナイト オーバルの狼』は年間ベスト10に入るほどのヒットを記録した。アメリカでは知らぬ人はいないカーレース、ナスカーの世界で活躍するレーサー、リッキー・ボビーの物語だが、フェレルらしく非常識かつ大胆なキャラになっており、吹替えもノリノリの出来だ。北米ではブルーレイも発売されたが、日本では未公開作なので、通常のDVDのみのリリースというのが残念だ。

年末にブルーレイが出たウィル・フェレル主演『主人公は僕だった』でも、山寺の吹替えを堪能することができる。こちらは『タラデガ・ナイト』と違ってシリアスな役どころだが、変幻自在のウィル・フェレル同様、役になりきった吹替えになっており、試写室で見た時以上に作品世界に没頭できた。欲を言えば、吹替え版も『スパイダーマン3』のようにドルビーTrueHDで収録してもらいたいが、ドルビーデジタルのみなのが何とももったいない。


■シニカルな笑いもお手の物

全米大ヒットの爆笑ドキュメンタリー『ボラット 栄光なる国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』もDVDでリリースされたが、この作品ではタイトルロールのボラットの声を吹替えている。カザフスタンの国営放送からやってきたボラットが全米各地でトンデモ取材を敢行! 実は『タラデガ・ナイト』にも出ていたサシャ・バロン・コーエンがカザフスタン人に扮したヤラセなのだが、取材されている人の真剣な対応とのギャップがおもしろい。

オリジナル言語では現地語となまりの強い英語で話しているが、吹替え版では全て日本語にしなければならない。そこで現地語は比較的スムースに、アメリカで話す英語はちょっとなまりが入ったような吹替えになっているのだが、これまた爆笑もの。原語以上に笑える吹替えになっているから、正月に見るにはピッタリの出来である。ちなみにサシャ・バロン・コーエンは年明けの公開となるジョニー・デップ主演の『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』にも出演している。この吹替えも山寺宏一起用を期待したい。


『クイア・ダック ザ・ムービー』
意外な掘り出し物が海外アニメ作品の『クイア・ダック ザ・ムービー』だ。『ザ・シンプソンズ』のマイク・ライスが製作と脚本を手掛けただけに、情け容赦ないギャグ作品に仕上がった。出演者は基本動物キャラなのだが、描かれる出来事はシニカルなものばかり。主人公のクイア・ダックはゲイのアヒルで、同棲中のアリゲイターの“ゲイ”ターとベッドを共にしている。当然話し言葉もオカマっぽいわけだが、こういう悪ノリキャラは山寺のお手の物。同じくゲイのパンダやテレビの電話相談番組にいたずら電話をかけるシーンなど、とても子供には見せられないような会話が満載だが、大人の娯楽としては最上級の作品となっている。

中国語に挑戦した『ストレンヂア 無皇刃譚』や、サイボーグ役の『エクスマキナ』、そして毎年恒例の『劇場版ポケットモンスター/ダイヤモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ』などの日本製アニメも充実していた。

現在は『サーフズ・アップ』が公開中だし、ジム・キャリーのあの心理サスペンスや、話題になったあのミュージカル映画、そしてアダム・サンドラーの新作もすでに吹替えの収録が行われているので、山寺ファンにはたまらない日々が続きそうだ。

海外ドラマなどは吹替えで見る人が多いだろうが、映画も吹替えで見ると今までと違った面が見えてくる。日本の吹替え技術は世界的に見ても高いので、これを見ずにいることは宝の持ち腐れといってもいい! まずは手持ちのDVDから、一度吹替えで見て映画の理解度を試してもらいたい。吹替えにはまると今度は声優のキャラ作りも奥深いことがわかるはず。時間のある年末年始こそ、ぜひチェックしてほしい。





山寺宏一:声優、俳優、タレントとして活躍中。「やまちゃん」「バズーカ山寺」などの愛称を持つ。声優としての評価は非常に高く、「七色の声を持つ男」と呼ばれる。ドナルドダックをはじめ、『アラジン』『リトル・マーメイド』など、ディズニーキャラクターの吹替えも多い。東京俳優生活共同組合所属。
http://www.haikyo.or.jp/PROFILE/man/10285.html



飯塚克味:映像ディレクター。『ハリウッド・エクスプレス』(WOWOW)演出、『シネマ・コンシェルジュ』(スター・チャンネル)構成、『週間 SPA!』連載執筆など、映画への愛を胸に大活躍中!

【作品詳細】
●『ドリームガールズ』
http://www.paramount.jp/dvd/catalog/dvd07000.html
●『マッド・ファット・ワイフ』
http://www.kadokawa-ent.co.jp/detail/DWBF-10068.html
●『シュレック3』
http://www.kadokawa-ent.co.jp/detail/DWBF-10069.html
●『タラデガ・ナイト』
http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/cgi-bin/detail.cgi?goods_code=TSDD-42283
●『主人公は僕だった』
http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/cgi-bin/detail.cgi?goods_code=TSDD-41272
●『クイア・ダック』
http://www.paramount.jp/dvd/catalog/dvd06980.html

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