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ドルビーTrueHDで迫力の音声にリファインされたBD版『戦闘妖精雪風』

2007/12/03
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DVD版をBD版にリファインすることで、どれほど映像や音声のクオリティは向上するのだろうか?━━そんな素朴な疑問から、2008年1月25日にバンダイビジュアルから発売される「戦闘妖精雪風 Blu-ray Disc Box」の制作現場への取材を行った。

『戦闘妖精雪風』

本作は2002年に発売されたDVD版でも、当時最新鋭のCGを駆使したほか、音や映像も徹底した作り込みを行うなど、クオリティには定評のある作品だ。その雪風がBD版化されることになった。しかしいくら高画質とはいえ、もとはSD画質だ。HD画質にアップコンバートしても限界があるのではないか?と、筆者は心配していた。しかしすでにお伝えした映像についてのレポート(関連記事)を見ていただければわかるように、BD版雪風は、筆者の想像を遙かに超えるクオリティであった。DVD版はマスターテープの映像が持つ情報のすべてを記録できていなかったのだ。実際に映像を比較して、BD版はマスタークオリティでの記録を実現していることが確認できた。

今回は、映像と同じくブラッシュアップされた音声についてお伝えしよう。BD版雪風の音声は、原理上原音をそのまま再現すると言われるドルビーTrueHDで記録されてる。DVD版はドルビーデジタル 5.1chで収録されているが、ドルビーTrueHDとの音の迫力の違いはどれほどのものなのだろうか。またドルビーTrueHDへのエンコード(変換)作業はどのように行うのだろうか。BD版「雪風」の音声エンコードを行った、Dolby Japan(株)を取材し、技術サポート部の中山尚幸氏にお話を伺った。


━━まずドルビーTrueHDについて教えてください。

Dolby Japan(株)技術サポート部 コンテンツ技術担当シニア・マネージャー 中山尚幸氏
中山氏:DVDビデオで使われているドルビーデジタルはロッシー(不可逆圧縮)コーデックなので、人が聞こえづらい音を削除することで音声データを圧縮しています。携帯音楽プレーヤーで使われているMP3、AAC、WMAもロッシーコーデックです。このロッシーコーデックは音声データを効率よく圧縮できますが、圧縮時に削った音声データを再現できません。一方、ドルビーTrueHDは“捨てない”コーデックです。ドルビーTrueHDはオリジナルの音源を一度圧縮し、再生時にはオリジナルの音声データを100%復元するロスレス(可逆圧縮)コーデックなので、スタジオのオリジナル音声をそのまま再現できます。まずは実際にドルビーTrueHDの音を聴いてください。


取材はドルビージャパンの視聴室にて行った

試聴にはまず、ビデオアーツ・ミュージックのHD DVDビデオ「リー・リトナー/アンソロジー・ライヴ」を使用した。オリジナルマスターとドルビーデジタル、ドルビーTrueHDの3方式で記録した音声を連続して再生して比較した。試聴のポイントはハイハットやベルなどの金属音の音色と響きを重点的に聴いた。

オリジナルとドルビーデジタル、ドルビーTrueHDを比較した際に、もっとも違いを感じるのは“余韻”だ。ベルの響きやハイハットのシズル感など、ドルビーTrueHDの方が圧倒的に豊かで、楽器の質感まで目に見えるように伝わる。それに比べDVDビデオで聴き慣れていたはずのドルビーデジタルは、ドルビーTrueHDに比べるとやや平板でメリハリに欠けてしまっている。


中山氏:次にロッシーコーデックがどれぐらいの音を削っているかテストします。ドルビーデジタルとドルビーTrueHDの音声の波形を正反対の逆相にして、それぞれをオリジナル音声と同時に再生します。オリジナルと逆相にした音声データが全く同じならお互いが打ち消しあって無音になります。しかし、もし逆相した音声データに不足する情報があれば、復元できなかった音声データの音が聞こえるはずです。


DD/ドルビーTrueHDの音声を逆位相にし、オリジナル音源と同時再生した

中山氏が提案するテスト方法で、ドルビーデジタルで削られてしまっている音声データをチェックした。すると、ドルビーデジタルはちょうどヘッドホンから音漏れするような感じの音が聞こえた。もちろん通常の再生音とは大きく異なるが、旋律や楽器の判別がつく。これだけの音が削除されていたのかと驚くほどだ。

一方、ドルビーTrueHDは全くの無音だ。ドルビーデジタルからドルビーTrueHDに切換えたとたん、再生を停止したかのような静けさが訪れる。オリジナルと比較して削除された音声データが殆どないことが分かり、ドルビーTrueHDの能力がいかに忠実に原音を再生することができるのかを確認できた。

━━ドルビーデジタルの音声をドルビーTrueHDに変換するまでの大まかな流れを教えてください。
中山氏:DA-88で記録された雪風のオリジナルの音声をMacintosh上に取り込んでAIFFファイル化します。その音声データをドルビーTrueHDのエンコーダーソフト「ドルビーメディアプロデューサー」を使って変換します。変換に要する時間は使用するパソコンのCPUパワーによりますが、実時間の1.4倍ぐらいかかります。このソフトはネットワーク機能対応なので、細かな設定を済ませたら、サーバーにデータを転送して、エンコード処理することができます。

「ドルビーメディアプロデューサー」の構成要素のひとつ「ドルビーメディアエンコーダー」

同「ドルビーメディアデコーダー」


ではいよいよBD版雪風のサウンドをチェックしてみよう。物語が最高潮に盛り上がる5巻のジャムとフェアリイ空軍の最終決戦のシーンを試聴した。最も違いを感じたのは雪風など戦闘機のエンジン音だ。雪風は実際に航空自衛隊の協力の下、小松基地の滑走路端で録音したF-15Jのエンジン音を使用している。雪風の効果音はそういった貴重な音源にエフェクトを加え、リアリティのあるサウンドを作り上げている。

ドルビーTrueHDとDVD版を再生して比較した。ドルビーTrueHDは、DVD版では再現し切れていない空気の震える振動や細かなアラート音を克明に再現している。総じてDVD版に比べて立体感のある仕上がりになっていた。10月上旬に行った今回の取材では、残念ながらSD画質の映像に合わせての再生になったが、ハイビジョン映像とこの音声を合わせて再生すればどれほどすばらしい体験ができるのかと楽しみになった。

前述したように、戦闘妖精雪風はDVD版の制作時に、すでにリッチな音響が用意されていた。DVD版でもその片鱗は感じたものの、ドルビーTrueHDによりその全てを余すことなく再現しきっている。さらに今回は英語版と日本語版の両方がドルビーTrueHD音質で収録される。雪風ファンならドルビーTrueHD対応の機器をそろえて、迫力あるサウンドに身を委ねていただきたい。

(鈴木桂水)

筆者プロフィール
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら

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