「存在を感じさせないスピーカー」を目指して開発

【HIGH END】PMCの新旗艦スピーカー「Fenestria」詳報 − 開発陣がその技術を解説

公開日 2018/05/17 17:40 オーディオ編集部:浅田陽介
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PMCは、現地時間の2018年5月10日よりドイツ・ミュンヘンで開催されたHIGH END 2018 MUNICHにて、「Fact」シリーズの最新モデルであると同時に同社コンシューマー向けスピーカーのフラッグシップとなる「fenestria」を発表した。価格は54,000ユーロ(ペア)で、日本での発売はまだ未定とのこと。

PMC「Fenestria」

製品名となる「fenestria」は、人間の聴覚を担う鼓膜へ至る“蝸牛窓”のことを意味している。この言葉には、しばしばスピーカーの評価の際に最高の賛辞として用いられる「存在を感じさせないスピーカー」を目指して開発された製品であるという意味が込められている。

製品発表会にて、これまでの技術をフルに投入したフラッグシップとしての開発経緯を話すMiles Roberts氏

発表会にて、本機の技術的解説を行ったKeith Tonge氏

高さ1,700mm、幅370mmという上背がありながらもスリムな外観を見てまず目を引くのが、中心にあるトゥイーターとミッドレンジを搭載したアルミニウムのバッフル部分だ。これは同社が“nest”と命名したもので、キャビネットからユニットを仮想的に独立させるデカップラーとして機能する。不要共振を徹底的に排除して純粋に音楽信号のみを再生するために生み出されたこのnestだが、後述するトランスミッションラインによって強靭な低音を再生する本機にとって、極めて重要な意味を持つものだという。その形状も特徴的だが、これは一般的な箱型スピーカーで発生するバッフル面の反射を徹底的に抑制するために生み出されたものだ。

fenestriaに搭載されたnestのフレーム。この特徴的なデザインは、バッフル面の反射を徹底的に抑制できる構造となっている

このnestにマウントされたユニット群にも、PMCらしい技術が満載されている。fenestriaのφ75mmミッドレンジは、世界中のスタジオで高い評価を受けるモニタースピーカーや、同社の上位モデル「BB5-SE」にも採用されたソフトドームを採用。ハンドメイドで成型されるこのソフトドームをはじめ、大型のフェライトマグネットやハンドワイヤリングされる純銅製のボイスコイルなど、随所に同社が培ってきたユニット技術が投入されている。なかでも注目は、今回新開発となったアルミニウムで成型されたバックチャンバーの採用で、これにより一般的なキャビネットで発生する内部反射を徹底的に排除することに成功した。


ミッドレンジとトゥイーターを搭載するnestを横からみたところ。この部分だけ、ウーファーを含むエンクロージャーから独立させた構造としている
トゥイーターには、φ19.5mmのSONOMEXソフトドームを採用。マグネットは強力な磁力を持つネオジウムを用いており、ステンレススチールとAureoleシリコンによるリングを組み合わせたうえでnestにマウントされる。さらに同社デザインによる拡散性能を高めるグリルを搭載するなど、これまでのPMCのテクノロジーの全てを投入した上で設計されたとのこと。


AMT採用のエンクロージャーの上下に配置されたウーファーは、3層のカーボンファイバープレートから成るΦ165mmウーファーを採用
fenstriaは、このnestを中心とした仮想同軸構造を採用していることも特徴だ。合計4基を搭載されるウーファーユニットは、上下で分割された上で対象に配置される2つのエンクロージャーへそれぞれ2基ずつ搭載。異なる方向の繊維を持つカーボンファイバーを3層にした平面振動板を採用するほか、2つのフェライトマグネットによる強靭な磁気回路を用いるなど、やはりPCMの技術が結集。これにより、φ165mmというサイズながら強力な低域を再生することを可能とした。

この4基のウーファーユニットは、PMCのお家芸とも言えるエンクロージャー/ダクト構造“アドバンスド・トランスミッションライン(AMT)”を採用したエンクロージャーにマウント。またダクト部分には、Laminairと呼ばれる独自の構造を採用。これは極めて効率的な排気が求められるF1やル・マンなどのレーシングカーのダクトからアイデアを得たもので、ポート部分にスリットを設けることで低域に正しい指向性を持たせることを可能にするエアフローを実現したという。


レーシングカーの排気からアイデアを得て誕生したというLaminair
ウーファー4基にトランスミッションラインを組み合わせた強力な低域再生能力を誇るfenestriaだが、特にユニークなのがその振動対策だ。基本的にはTMDを応用したものだが、fenestriaでは側板自体を自由に動く構造としたことで、高層ビルの地震対策に用いられるマスダンパーのような働きを持たせている。つまり、ユニットが音を出すことによる振動を、fenestria自身がキャンセリングできる構造となっており、これにより純粋にスピーカーユニットからのサウンドのみをリスニングポイントへ届けることを可能にしたと、開発陣は自信をのぞかせる。


発表会ではTMDと非TMDの場合の振動減衰特性を示す動画も公開された
また、スピーカーターミナルやスパイクなどは全て自社によってデザインしたものを採用。パーツひとつひとつを見ても、20年を超えるPMCの技術を全て投入したフラッグシップへと仕上がっていると言っていいだろう。


ネットワーク基板は10点をアイソレートさせてマウントされるなど、徹底した振動対策が行われている

スピーカーターミナルなどはロジウムメッキを採用したオリジナルのパーツを採用した
PMCのスピーカーは、創業者であるPeter Thomas氏の時代から、その極めて正確なサウンドで、世界中のスタジオやレコーディング/マスタリングエンジニア達から高い評価を獲得してきた。現在の同社製品は、その息子にあたるOliver Thomas氏がデザインの責任者として名を連ねるなど、次なる時代へと歩みを進めている。そんなこれからのPMCにとって極めて大きな意味を持つことになるfenestriaは、今回のHIGH END 2018 MUNICHの会場でも最も注目すべきスピーカーのひとつとして話題を集めていた。


PMCの創業者として数々の銘機を生み出したPeter Thomas氏

Peter Thomas氏の息子となるOliver Thomas氏は製品デザインの責任者としてPMCでその手腕を発揮している

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