カメラータのクラシック音源やチューリップなど

クリプトンHQM、MQA音源を10月に配信開始。開発者がその優位性を改めて説明

2016/08/25 編集部:小澤貴信
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クリプトンは、ハイレゾ配信サイト「KRIPTON HQM」にて、新フォーマット「MQA」方式にでエンコードを行ったハイレゾ音源 10タイトルを10月1日より配信する。

MQA Limited.のCEOであるボブ・スチュアート氏(左)と(株)クリプトンの濱田正久社長

■10月1日より配信予定のMQAタイトル
・『驚異のデュオ』(HQMA-00001)¥3,300(税別)
・『ロッシーニ:3つの弦楽ソナタ』(HQMA-00003)¥3,300(税抜)
・『ヴィヴァルディ:「四季」』(HQMD-10033)¥3,300(税抜)
・『フィツィオーリ F278』(HQMD-10034)¥3,300(税抜)
・『高橋アキ エリック・サティ 1』(HQMD-10040)¥3,300(税抜)
・『高橋アキ ピアノ・ソナタ D.894「幻想」& D.575』(HQMD-10046)¥3,500(税抜)
・『ツィクルス/吉原すみれ』(HQMA-00020)¥2,200(税抜)
・『シュッツ plays バッハ・ソロ』(HQMD-10055)¥3,500(税抜)
・『チューリップ・ガーデン1』(SMHQA-0007)¥2,760(税抜)
・『ウィリアムス浩子 a time for Ballads』(BSMHQ-0002)¥2,400(税抜)

フォーマットはいずれもMQA 192kHz/24bitで、いずれも製作者のお墨付き(オーセンティケーション)の得られた「MQA Studio」音源となる。

MQA第1弾として配信される作品は、カメラータ・トウキョウによるクラシック作品8タイトル、およびチューリップ『チューリップ・ガーデン1』とウィリアムス浩子「a time for Ballads」の全10タイトルとなる。

なお、現時点でクリプトンはMQA対応の再生機器をラインナップしていないが、後述の通り、近日中にMQA対応のハードウェアを発表する予定があるという。

MQA(Master Quality Authenticated)は、ハイレゾ音源をCD並のファイルサイズに“ロスレス”圧縮できるという音楽フォーマット。またMQAは、最新の神経工学の研究を踏まえ、従来のデジタル音声処理で用いられてきたデジタルフィルターによるリンギング(時間軸のノイズ)や、時間軸の情報精度を大幅に改善できるとしている。

本日開催された発表会には、MQAを手がけるMQA Limited.のチェアマン兼CEOであり、MQA方式の開発を自ら手がけたボブ・スチュワート氏が登場。MQA JAPAN代表の鈴木弘明氏と共に、MQA方式について説明を行った。

MQAにおける時間軸精度の優位性をボブ・スチュアート氏が改めて説明

MQAについては、ボブ・スチュアート氏へのインタビューも含めてファイル・ウェブで度々詳しくお伝えしている。MQAの詳細については、こちらの山本敦氏のレビューも参考にしてほしい。

ボブ・スチュアート氏

MQA JAPAN代表の鈴木弘明氏

ボブ・スチュワート氏は、MQAの長所を「High Quality(高音質)「Convenience(利便性)」「Compatibility(互換性)」だと説明する。

まず最初に、ここ50年間における音楽フォーマットのクオリティと利便性についての相関について言及。圧縮音源のダウンロードやストリーミングについて「利便性は向上しているのに、クオリティは低下している」と述べ、さらには「音が悪くなることを、ユーザーが望んでいるわけではない」とした。

「音質と利便性が一緒に向上することが重要」と同氏。MQAはファイルサイズを小さくすることで利便性を高めつつ、高音質を実現できることに大きな強みがあるとした。互換性については、MQAは非対応プレーヤーでもFLACとして再生でき、その場合でも一定のクオリティを確保できることを挙げた。

MQAの音質面の特徴についても、時間をかけて説明してくれた。同氏はMQAのコンセプトについて以下のように述べる。

スタジオにおいてマイクで集音した音を、そのままスピーカーから出せれば最もピュアな再生だと言えるだろうが、そんなことは不可能だ。現実には、音源ができ上がるまでにデジタル/アナログ問わず様々な録音機器や音響機器を通過し、各所で変換が行われる。特に音質を左右するのは、A/D変換とD/A変換になる。

「このA/D変換・D/A変換をいかに正確かつ効率的に行うかが、MQAのコンセプトと言えます。そして、これを実現するために、神経工学の技術を応用していることがMQAの特徴です」(ボブ・スチュアート氏)。

MQAと通常のPCMのインパルスレスポンスを比較する図。MQAのインパルスはリンギングなく俊敏な立ち上がり・立ち下がりであることがわかる

人間は自然音に対して非常に鋭敏な感覚を持っている。その仕組みの解明はこの10年で大きく進んだ。そして、人間の聴覚は周波数よりも時間精度に対する感度が強いということがわかってきたという。

「かつてデジタルオーディオの世界では周波数が最重要視され、周波数をどこまで伸ばすかがテーマになってきました。MQAでは、人間の聴覚が数マイクロセカンドという領域の時間差を聴き分ける能力を持っていることを踏まえて、時間精度の問題を解決することを目的にしたのです」(ボブ・スチュアート氏)。

時間軸精度の向上を、MQAでは人間の聴感や神経を考慮した特殊なデジタルフィルターをエンコードに用いていることで実現すると同氏は説明する。

一般的なデジタル変換においては、インパルスレスポンス(瞬間的な音の波形)の前後にリンギング(自然界には存在しない付帯的な響き)が発生して、過渡的な音を滲ませてしまうという(下図参照)。MQAでは、その原因になるという一般的なブリックウォールフィルターを使わずに、上述のような人間の聴覚に合わせたフィルターを採用。10マイクロセカンド領域の分解能での正確な時間再現を実現したとボブ・スチュアート氏は語る。

MQAが高い時間精度を持つことを示す図

時間解像度の向上により、空間情報がより稠密になり、音の定位や音場をより正確に再現できるようになるという。この点で、MQAは、従来のロスレス音源に対しても優位性を持っていると同氏は語っていた。

一方、前述のように「音質と利便性を共に伸ばす」ことを目的としたMQAでは、ハイレゾ音源のファイルサイズが膨大で扱いにくいという問題に対処する取り組みも行われた。ここで用いられたのがMQAが「ミュージック・オリガミ」と呼ぶ手法だ。ハイレゾ音源の膨大なデータ領域の中で、可聴帯域外の部分を暗騒音の部分などへと埋め込んでいく(「エンカプセレーションする」と同社は呼ぶ)というもの。こうして膨大な情報を折り紙のように折りたたむことで、ファイルサイズを劇的に小さくすることが可能になった。

オーディオ・オリガミの原理を示す図。こちらは元のデータサイズ

まずはデータを半分の領域に織り込む


こちらはエンコード後の最終的な状態。4分の1にまで織り込まれた

なお、このエンカプセレーションを含むMQAのエンコード、およびデコードは、全て“ロスレス”で行われるということが強調されていた。

MQAにおいては、周波数が向上しても転送レートが維持されていることを示した図

この折り畳まれた状態のMQAは、MQAデコーダーが搭載された機器では元の状態に開かれて本来のクオリティで再生される。さらにMQAデコーダーが非搭載の機器についても、折り畳まれたまま再生することで、CD並のクオリティを維持して再生を行える。

近日中にHQM対応のオーディオ機器がクリプトンから登場予定

発表会の冒頭では、クリプトンの濱田社長が挨拶。クリプトンは2年ほど前からMQAの検討を開始。そして、ボブ・スチュアート氏とカメラータの音源をやりとりするなど、踏み込んだ検証を進めてきたという。


MQA配信について意気込みを語る濱田正久社長
濱田社長は「MQAの音の良さは当初から認識していましたが、技術的な裏付けをクリプトンと今回も音源を提供したカメラータ、そしてMQAの3社で慎重に重ねた上で、配信を行うことを決定しました。MQAに対応したオーディオ機器も1ヶ月くらいの間に発表できる予定で、その際にはクリプトンの先進性を改めて示すことができるはずです」と述べた。

なお、なぜMQAのイメージにボブ・ディランが使われているのかという質問が挙がったところ、ボブ・スチュアート氏は「ディラン氏自身にMQAのサウンドを聴かせたところ非常に気に入ってくれて、イメージにポートレートを使うことを許諾してくれたのです」とエピソードを披露してくれた。

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