スピーカー再生に近い自然な定位を実現

音楽をヘッドホン/イヤホン再生に最適化する新エンコード技術「HPL」詳細発表会

2014/12/15 ファイル・ウェブ編集部
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(株)アコースティックフィールドは、音源をヘッドホン/イヤホンでのリスニングに最適化するための新エンコード技術「HPL」を発表した。このHPLについて本日、アコースティックフィールドおよび沢口音楽工房UNAMASレーベル、(株)シンタックスジャパンの3社による合同発表会が開催された。

ヘッドホン/イヤホン用に音源を最適化する新エンコード技術「HPL」

発表会会場では、HPL音源の試聴デモも実施していた

HPL(Head Phone Listening)とは、(株)アコースティックフィールド 代表取締役 特殊音響システム開発/立体音響技術 久保二朗氏が開発したヘッドホン/イヤホン向けの新たなエンコード技術。簡単に紹介すると、ヘッドホン/イヤホンでの音楽リスニング時の音の定位を、スピーカー再生時に近い自然な定位にするために、音源自体を最適化するエンコード技術だ。

スタジオにおいてミックスされた各楽器の定位イメージ

通常のヘッドホン再生による各楽器の定位イメージ


HPLを適用した場合のヘッドホン再生による各楽器の定位イメージ

5chサラウンド音声の定位もヘッドホンでスピーカー再生のような音場が得られるとしている
なお、2chステレオの定位を再現するだけでなく、5chサラウンドの定位もヘッドホンリスニングで再現できることが特徴。音源のファイルフォーマットは、ステレオおよびサラウンドともに通常のPCM(WAV/FLAC)となる。HPL音源に付与する公式ロゴマークも配布されており、通常ロゴのほか、マスター音源が2chの場合は真ん中に「2」、マスター音源が5chサラウンドの場合は真ん中に「5」の数字が配置されるものもあわせて全部で3つを用意している。

3種類の公式ロゴマークを公開している

HPLのメリットとしては、再生機器側に搭載されるアプリやヘッドホン本体の機能で行うバーチャル再生とは異なり、音源そのものにHPLを適用してヘッドホンリスニングに最適化すること。リスナーは専用のヘッドホン/イヤホンや再生機器などを別途揃えなくても、従来の手持ちの再生機器およびヘッドホン/イヤホンで、スピーカー再生のように自然な定位のHPL音源を楽しめることになる。アコースティックフィールドでは、「これまではホームシアター・ユーザーやサラウンドヘッドホン・ユーザーでないと聴くことのできなかったサラウンド音源も手軽に楽しんで頂ける」とアピールしている。

今月12日には、UNAMASレーベルとRME Premium RecoedingsからこのHPLを採用したハイレゾ作品合計5タイトルがリリースされ、既にe-onkyo musicにて配信を開始している(関連ニュース)。

e-onkyo musicから、UNAMASレーベルとRME Premium RecoedingsのHPL採用合計5タイトルが配信開始されている

本日開催された発表会では、HPLを開発したアコースティックフィールドの久保氏によって開発の概要が語られた。以下に、その内容を紹介していく。

■アーティストやエンジニアが意図した通りのバランスでヘッドホン/イヤホンリスニングを楽しむための技術「HPL」

久保氏は「ヘッドホン/イヤホンで音楽を聴くリスナーが増えている状態だが、音源自体はスタジオでスピーカーを用いて製作されている。スタジオでアーティストやエンジニアが意図したミックスのバランスが、ヘッドホン/イヤホンリスナーにはそのまま届いていない状態だ。そこで、ヘッドホン/イヤホンで音楽を聴く人のために最適化した音源を作らなくてはいけないのではないか、そんな思いからHPLを開発した」とコメント。「HPLによって、制作者の意図通りのミックスバランスによる音楽を、ヘッドホンリスナーにそのまま届けたい。一言でいうと、ヘッドホン再生でもスピーカーで聴いているような再生を目指している」と説明した。

久保二朗氏

HPL開発の狙い

基本的な原理は、従来のバーチャル再生技術と同じで、スピーカーとリスナー間のインパルス応答を用いたバイノーラルプロセッシングによるバーチャル音場の生成技術。HPLのポイントとしては、“高品位な音楽リスニングが行えるように”マスター音源を高音質で最適な状態にエンコードできるバイノーラルフィルターを設計したこと。久保氏によれば、スピーカー再生時と同じミックスバランスの音場生成を重視し、頭外定位の感覚は重要視せずにフィルターの開発を行ったという。しかし、“本来のアンサンブルをよい音で”ということを最優先にした結果、頭外定位も充分に得られているとしている。

このフィルターには、「クラシックやジャズなど大編成向け」「ロックやポップス向け」「ライブ版など広い音場の音源向け」の大きく3種類があるとのこと。なお、2chマスター音源用と5chマスター音源用にそれぞれ最適化したものを用意しており、3種類ずつ合計6種類のフィルターを音源にあわせて適用している。

会場内の試聴デモの様子

なおエンコードに際しては、「ただフィルターを通すだけではなく、カットされる低域周波数の調整など音源によって多少の調整が必要な部分もあるため、マスタリングに近い作業をしている」とのこと。

また久保氏は、フィルター開発時に想定した音場イメージを「理想のリスニングルーム」と語っており、「実在する音場やスピーカー配置をシミュレートするのではなく、理想の架空音場においてスピーカーとリスナーの理想的な位置関係を追求した」と説明。「理想のリスニングルームにきちんとスピーカーを設置して、正しいリスニングポイントで音楽を聴いているかのような音場をヘッドホン内に生成することを目標とした」と語った。

なお、HPL音源はスピーカー再生でも違和感がなくリスニングが行えるとのことだが、久保氏は「ヘッドホン/イヤホンをメインで音楽を聴くリスナーはHPL音源、スピーカーをメインで音楽を聴くリスナーはHPLではない通常の音源を選択するような形」が望ましいとコメント。あくまでも、リスニングスタイルにあわせて最適な音楽ファイルを選択できることが重要であるとしている。

なお、現在e-onkyoで配信しているHPL音源は192kHz/24bitまたは96kHz/24bitのPCM(WAV/FLAC)だが、例えばこれらの音源をダウンロード後にMP3などに圧縮した場合でも、HPLの効果自体は確保されるという。ただ、圧縮することで、HPLによる効果部分の情報量も削られることになるので、元の音源よりも効果は落ちるとのことだ。

今回の発表会には、沢口音楽工房UNAMASレーベルの代表 沢口真生氏、RME Premium Recoedingsを手がけるシンタックスジャパン ジェネラルマネージャー 坂本有紀氏も登場した。

沢口真生氏

坂本有紀氏

沢口氏は、「これまでヘッドホン再生では、音場を広く確保することを優先すると残響が増える、しかし、音質に比重を置こうとすると結局定位が変わらない。この二律背反が課題だった。HPLは、この二律背反を克服したエンコード。まさにハイレゾにマッチした素晴らしいものだ」とコメント。坂本氏は「最初にHPLでエンコードした音源を試聴したときは驚いた。これまでは、ヘッドホン向けではない音楽を無理矢理ヘッドホン/イヤホンで聴いていた状態だったのだということを実感した」とし、「先日e-onkyoからリリースした作品も早くも売上ランキングに入っているようで、リスナーの方からのニーズも感じている」とコメントを寄せた。

なお、久保氏によればHPLの開発に関しては、元々“ハイレゾ”を強く念頭に置いたものではなかったという。「しかし、結果として今回配信開始された5作品ともハイレベルなハイレゾタイトル。HPLを適用してちゃんと聴くことができるか、という評価にも直結する。結果としてとても良かった」と述べた。

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