音楽ソフトは量から質へ

【年末年始特別企画】オーディオ編集部編集人・樫出が予想する2011年 − 「高品位ソフト時代にオーディオの必要性はますます高まる」

公開日 2010/12/27 19:18 オーディオ編集部 編集人 樫出浩雅
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私が2010年に一番聴いた音楽ソフトは、聴き馴染んだ50年代〜70年代のジャズとロック/ポップス、クラシックの名盤たちだった。

こだわりを持って制作されたエソテリックのクラシックSACD/CDソフト、究極のSACDソフトを目指したユニバーサルミュージックのSA-CD -SHM仕様 -。さらにはザ・ビートルズの赤盤・青盤やポールマッカートニー&ウイングスの「バンド・オン・ザ・ラン」といった最新のリマスターCD。これらの内容が非常に優れていたので、ずいぶんと聴き込んだ。

聴くと「こんな楽器の音が入っていたのか」「こんな高い音楽性を持っていたのか」といった発見や感動が確実に得られた。今まで何度も聴いてきたソフトなのに、次から次へと聴き直してしまう。これらのソフトは、そんな魔物のような魅力を持っている。

◇  ◇  ◇


ソフトに関してはもうひとつトピックがあった。いわゆるスタジオマスター音源ともいえる高音質ネットミュージック(データ音源)の登場である。

ダウンロード、あるいはDVD-ROMなどで入手した音源を聴いてみると、96kHz/24bit、192kHz/24bitのデータは、今まで聴いてきたディスクメディアとは明らかに異なる、新次元のクオリティを持っていた。まだ未体験の方も、これまでオーディオをやってきた人ならば、聴けばすぐにその違いと優位性がすぐ分かるはず。ぜひ体験することをお薦めしたい。


「バンド・オン・ザ・ラン」<スーパー・デラックス・エディション>
例えば2010年リマスターの「バンド・オン・ザ・ラン」には、『3CD+1DVD+写真集』という豪華仕様の限定版<スーパー・デラックス・エディション>が発売されているが、封入カードに記されたコードで96kHz/24bitの高音質データがダウンロードできるという特典が付いている。通常のリマスター全曲の音源と、コンプレッサーをかけていない音源の、まるまる2枚分のマスタークオリティのデータ音源が入手できるのだ。

ただし、このダウンロードにはかなり手間がかかるので注意してほしい。ある意味、これこそ年末年始に試すには最適なアイテムといえるだろう。苦労して入手した96kHz/24bitサウンドには、それに見合うだけの価値があると確信している。

蛇足ではあるが「バンド・オン・ザ・ラン」は、輸入盤ではあるがアナログレコードも発売されており、マスタークオリティのデータ音源、リマスターCD、アナログレコードの聴き比べもできる。これもオーディオの醍醐味の一つといえるだろう。

◇  ◇  ◇


ここまで述べたのは、2010年に、私が実際に体験して感じたことだ。年末年始は、現段階の最高水準のソフトを入手するか、店頭で聴くなどして、なるべくしっかりしたシステムで試聴してみてほしい。新たなクオリティの時代が到来していることに気付くはずだ。

音楽は、内容はもちろんのこと、クオリティが大切。このことに業界がようやく気付き、動き始めたといえるだろう。ソフトは大量販売の時代から、質への転換を図る時代へと変わりつつある。

そしてソフトの品位を引き出すには、ますますオーディオ機器のクオリティが重要になってくる。

高音質データ音源を聴くためのネットオーディオを、簡単に従来のオーディオシステムに組み込むにはUSB-DACがシンプルで分かりやすい。2011年は単体USB-DACを含め、USB端子を搭載したオーディオ機器が続々と登場してくるだろう。

またLINNが先駆者であるネットワークプレーヤーの分野でも、マランツのNA7004のように、より導入しやすい機器が登場してきている。96kHz/24bit、192kHz/24bitのマスター音源の世界を、手軽に体験する環境が整ってきたのである。

またネットオーディオは、音質を決定づけるポイントが多岐に渡っている。これも趣味として成立するための大きな要素となる。

もちろんソフトのクオリティを引き出すには、オーディオシステム全体のバランスが大切である。良い音のソフトによる感動を十分体感するには、ネットワークオーディオプレーヤーなど再生機器以降のアンプ、スピーカー、そしてケーブルなどのアイテムもますます重要になってくる。

新しい高品位メディアと、それらのクオリティを引き出すオーディオ機器。その密接な関係が再び構築され、今後3〜5年ほどで、新しい時代の音楽の楽しみ方が生まれ、確立されることだろう。

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オーディオ機器自体のクオリティも上がってきている。2010年は価格ばかりにこだわるのではなく、独創的な発想と技術で、確実にクオリティを上げた製品がヒットを飛ばした。アキュフェーズのC-3800やエソテリックのK-01が良い例である。たとえ高価でも確実な進化を遂げれば、多くの人に認められることが証明されたのである。それは先に紹介したソフトにも同じことがいえる。

もちろん高価なものばかりではなく、比較的手ごろな価格帯の製品でも、独自の視点や、これまでなかったラインアップで、価格を超えたクオリティと個性を手に入れたものも数多く登場している。年末に発売されたこれらのモデルは、比較的、国内メーカーのものが多いのも嬉しいことである。

いくつか例を挙げてみよう。広指向トゥイーターを搭載したソニーのスピーカー「SS-NA2ES」や、フォステクスの25cmウーファーを搭載した、フロア型に近い形状のスピーカー「GX250」、本当に久しぶりにセパレートアンプ「P-3000R」「M-5000R」を登場させたオンキヨーなど、挙げるとキリがないほどである。

もちろん海外ブランドからも、価格を抑えつつもクオリティを高めた、良い製品が続々と生まれてきている。

ネットオーディオ関連機器も含め、こういった高いコストパフォーマンスを持つ製品の需要が、2011年にはますます高まると予想される。

かつてない高品位な音楽ソフトと、手が届きやすい価格帯の、新しい高品位なオーディオ機器。これこそ、音楽を楽しむ最良のコンビといえる。

2011年は、これまで愛用してきたオーディオシステムを見直すには、絶好の年になりそうである。

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