<岩井喬の真空管オーディオフェアレポート>フェアでみつけた魅力的な製品群を一挙紹介

公開日 2008/10/06 10:05
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幕張では『CEATEC』、有楽町では『東京インターナショナルオーディオショウ』が開催され、オーディオ&ビジュアルのイベントが盛りだくさんであるこの時期、秋葉原・損保会館ではベテランファンには待望の『第14回真空管オーディオ・フェア』が10月4日、5日の日程で開催された。

秋葉原からもアクセスのよい損保会館にて行われた

展示・販売会場の様子。大盛況だ

WEC5ブースにて、安価で値打ちのある管球を捜し求めるファンも多数

一歩会場に足を踏み入れると、年季の入ったベテラン・オーディオファンの方々の熱気で溢れかえっていた。入口の奥には毎回恒例の「展示・販売会場」が展開されており、会期ならではの出物を求めて、多くの方々が一つ一つのブースを念入りにチェックされていた。また、今回よりアマチュアの方を対象としたフリーマーケットも行われており、こちらも大変混雑していた。

■カインラボラトリージャパン
3Fの展示会場で販売ブースも含めて展開してた同社のブースでは、大型真空管845を用いたオーディオスペースのフラグシップモデル「Reference One」をハーフサイズにし、出力管を805に置き換えた「Reference Three 805」(¥735,000/ペア)を中心にしたラインナップを揃えていた。リスニング・システムには誕生60周年を迎える、英国の名門“ロジャース”のA級管球アンプ「E40a」(出力管6L6GT×8、出力40W)とその小型版「E20a」(同6L6GT×4、出力20W)も用意され、今回の復刻に当たってBBCから再度ライセンスを取得した「LS3/5a」もセットされていた。

ロジャースの管球パワーアンプ

オーディオスペース「Reference Three 805」

また、同室内において注目されていたものとして、ピュアサウンド横浜が取り扱う中国のブランド・オペラのアナログプレーヤー「LP2.0MK II」に、約17kgの天然石(花崗岩)プラッターを装着したプロトモデルが挙げられる。来年の中頃を目指し、プレーヤー全体を天然石で構成されたモデルを検討しているとのこと。石材加工工場も持つという同社ならではの試みとして、様々な種類の石材と色、模様を製品に用いて展開していきたいという。

花崗岩ターンテーブルが目を惹くアナログプレーヤー「LP2.0MK II」

参考出品されている製品の一つで興味を持ったのは、KT88プッシュプル・プリメインアンプとして低価格で人気も高いカイン「A-55T」とほぼ同構成のスパーク「MT-45」である。今回のショウでの反応によって取り扱いを検討したいとのことであるが、デザイン的にも面白みがある。ヘッドホン端子のほか、裏面にはUL接続と3極管接続を切り換えられるスイッチも搭載している。製品化の際は音質に影響を与える放熱問題への対処をさらに強化するだろうとのこと。

参考出品のスパーク「MT-45」


■サンバレー

カインラボラトリージャパンのブースと共に、3Fで大きな会場を用意しているサンバレーでは、毎回試聴セッションが大盛況であった。特に注目される製品としては、12AU7をバッファに用いたD/Aコンバーター「SV-192S」(完成品のみ・予価¥99,800)である。同社10周年を記念して12月に発売予定であるという。入出力には光・同軸の他、AES/EBUやUSB、将来オプションとしてDSDの入力も検討しているという。同社のアンプはマニア心をくすぐる、往年の名アンプを意識したものや、その時々で注目されるトピックを織り込んで、手頃な価格のキットとして構成し、いつも驚きと期待を提供してくれる。しかし、その音質は価格を感じさせない本格仕様であり、聴感においても驚きを与えてくれる。『analog』誌21号で筆者が製作・試聴させていただいた「SV-19D」のほか、20号で炭山アキラ氏が製作した「SV-18D」など、同社の主要ラインナップが勢揃いし、スクリーンを用いた分かり易い解説による試聴スタイルは、音の違いや製品の特徴も非常に理解しやすい。

6L6系のコンパチが可能な「SV-19D」

価格、構成としても手軽な構成のOTLアンプ「SV-18D」

注目の真空管バッファ付きD/Aコンバーター「SV-192S」

■山本音響工芸

会場4Fの中で特に興味深かったのは、天然木素材を管球アンプにも用いて独特の製品を提供している山本音響工芸のブースであった。数ある展示製品の中でも、同社初のDAコンバーターユニット「YDA-01」(¥239,400)は管球こそ使用していないものの、出力回路をシンプルにトランジスター1個の無帰還シングル構成とし、同社の管球アンプの設計思想に近いマインドで製作されたモデルとなっている。また面白いと感じたのは出力回路部分を自分で作り上げられるキット仕様モデル「YDA-01KIT」(12月発売予定・¥186,900)も発表されたことだ。DAコンバーターの主幹部であるチップにはPCM1794Aを用いているが、大変小さいパーツで自作においては大変難易度の高いものになってしまうため、デジタル回路部は完成したものにし、出力回路用には別途自作で管球バージョンが組めるよう電源トランスにも独立した巻線を用意しているという。

ヒノ・オーディオと共に展示を行っていた山本音響工芸の試聴システム

同社初のDAコンバーターユニット「YDA-01」

■テクソル、エレム、PARC AUDIO

続いて5Fの会場ではゴールデンドラゴンなどの真空管を取り扱うテクソルのブースから紹介したい。会場には自社開発したというコンピューター制御による、真空管エージング・測定装置も出展され目を惹いていた。同社の取り扱う管球は、この測定器を用い、全数検査を行って選別されているという。取り扱うブランドとしては、前述のゴールデンドラゴンの他、ロシアのスヴェトラーナ、イギリスのブランドPM(管球の製造はロシア、中国、欧州の工場で行われ選別される。)、カナダのトランスメーカー、プライトロンなどで、各ブランド製品が一堂に展示されていた。参考出品としてトロイダルコアを用いているプライトロンのトランスを搭載したiPod用管球アンプが置かれ、こちらも注目されていた。

テクソル自社開発による自動真空管測定器

プライトロン・トランスを用いたiPod用管球アンプ

ギターアンプ用にも多く用いられるというPMブランドの管球

同スペース内に展示されていたエレムの管球アンプ「EA-100DFC」(¥693,000)はKT88プッシュプルによる、50W×2の本格仕様なモデルであるが、ダンピングファクター値が可変できる、ダンピングファクターコントロールを搭載しており、様々なスピーカーとのマッチングも可能としている。また、お好みの音質補正にも活用できる機能ともいえるだろう。

ELM「EA-100DFC」

エレムの隣にブースを構えていたのは今年の『A&Vフェスタ』でも展示を行っていた、PARC AUDIOだ。同社の取り扱うスピーカーユニットは、ビクターによって一躍有名になったウッドコーンを採用したモデルの数々が中心となっているが、その製造法はビクターとは異なり、マルチレイヤーによる独自の張り合わせた構造を採用しているのだという。そのラインナップは8〜13cmのフルレンジから、15、17cmのウーファーまで揃っている。スピーカー自作派には注目の新進メーカーである。

PARC AUDIOのスピーカーユニット各種

■アストロ電子企画、橋本電気

同じ5Fのフロアーの別室では、サンスイトランスの製造元として知られる橋本電気と、橋本電気が手がけるハシモトトランスを製品に用いているアストロ電子企画がデモを行っていた。アストロ電子企画の製品は、重厚な構成によるシャーシによって形作られており、「AS-KT88MK II」の内部構成を見ても分かるように、全面銅板による本格的な仕様で、きれいに手配線されたハードワイアーが美しい工芸品のようである。試聴システムに用意された上位ラインナップVIPシリーズの音質は、優雅で落ち着きのあるものであった。

中央にあるものが橋本電気・新製品のMCトランス「HM-X」

「AS-KT88MK II」の内部展示モデル

これらアストロ電子企画の全アンプ製品に搭載されるトランスは前述の通り、橋本電気が手がける製品となっているのだが、電源、出力、チョークトランスの他、MC昇圧トランスも人気の製品である。この人気モデルであるMCカートリッジ入力トランス「HM-3」の上位モデルとして昨年末に発売したものが「HM-X」(¥34,125)だ。Hi-μ・PCコア材による内鉄型構造のトランスで、静電・電磁遮へいを厳重に行った3重シールドを採用し、材料や巻き線構造においても再検討した末に辿り着いた構成という、本格仕様の高級MCトランスとなっている。

■イーディオ
アストロ電子企画、橋本電気ブースの隣においてデモを行っていたのはイーディオだ。小型パワーアンプ「P-01」(予価¥31,500)は高級アンプにも用いられるパワーIC、LM3886Tを用いており、20W×2の出力を持つ。ヘッドホン端子やボリュームのほか、本格的なシャーシによって、価格以上のパフォーマンスを提供してくれる。同時に出展されていた96kHz/24bitのDAコンバーターLITE AUDIO「DAC-AM」(¥47,250)も、電子ボリュームやバランス出力を搭載した小型モデルとして注目されていた。デジタルドメイン「B-1a」とともに試聴デモを行っていた、ダイナコ「A25」をベースとした2ウェイ・スピーカーキット(¥168,000/ペア)は、SEAS製25cmコーンウーファーとAUDAX製34mmシルクドーム・トゥイーターによる構成で、サイズ以上のダイナミックなサウンドを提供していた。

5cmフルレンジユニットに接続されていた「P-01」と「DAC-AM」

同じく5Fのイベントスペースでは様々な雑誌社におけるイベントが催されていた。4日の午後一番のセッションでは『オーディオアクセサリー』『analog』誌企画協力による、石田善之氏の「自然派無加工サウンド/高品位生録の世界」の公演が行われ、筆者も参加させていただいた。『オーディオアクセサリー』130号において掲載された、秩父でのSLや環境音生録素材を各レコーダーごとに紹介。鮮度の高いSLの轟音を来場者の皆様にも楽しんでいただけたことと思う。最後には石田氏の秘蔵生録素材のクリアで生々しいサウンドも披露され、パッケージメディアにはない魅力に、会場内からも「感動した」との声が聞かれた。

開催一日目は各ブースとも熱気に溢れており、復活したブランドの製品やパーツ、より幅の出たキット製品の数々が発表され、物量的にも満足感のあるイベントであった。斬新な製品よりはオーソドックスなものが増えてきたような印象はあるものの、それだけ支持層の幅も安定してきた現われなのであろう。デジタル機器がより進歩し、簡単にキットに組み込めるようになってきたことも今後の真空管オーディオ製品にとってありがたいことといえるのかもしれない。これからどんな新旧融合製品が生まれるのか、次のイベントと共に楽しみに待ちたいと思う。

(岩井喬)

■執筆者プロフィール
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。

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