<炭山アキラのTIASレポート>アナログファン必見の注目製品を総まくり

2007/10/07
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元気者スピーカーのモデル125をCDレシーバーPLS-1610で鳴らすセットWBS-1EXIVのデモにも、アナログプレーヤーが使われていた
今年の会場を回っていて最も印象的だったのは、大半のブースで試聴機器のソースにアナログレコードがかかっていたことだ。もちろん、熱心なオーディオマニアにとってアナログは常に変わらぬ最重要ソースのひとつではあるのだが、それにしても今年の会場はアナログ好きにとっては目移りして仕方ない展示にあふれていた。

■リンのLP12「ソンデック」の進化に刮目

完全に見慣れたLP12だが、削り出しベースのKEELとチタンアームEKOS SEを得て、全く別のプレーヤーになってしまったといっていい。並み居る巨人と渡り合うダビデのようなプレーヤーといっていいだろう

まず筆頭といっていいのはリンであろう。同社のLP12「ソンデック」は35年間も作り続けられている永遠の定番で、オーディオマニアに知らぬものなき名声を得て久しいが、ずっと同じ構成で作られてきたわけではない。つい先だってもサブシャーシとアームベースをアルミ削り出し一体成型としたアップグレード・パーツ、KEELが登場したばかりだが、これ一つでLP12は全くの別物になってしまう。また、チタン製のアームEKOS SEも、現在入手できる究極のアームの一つといって間違いない。LP12は一体どこまで進化を続けるのか、購入希望者はもとより、現用ユーザーも注目せねばならないだろう。これらのアップグレード・パーツは現用機にも後付け可能なのだから。

■米VPIの超高級プレーヤーは要注目

VPI社の高級プレーヤーが日本に登場するのをを待ち望んでいた人も多いのではないか。精度の高さといい頑丈そのもののキャビネットといい、アナログの基本を忠実に抑えたプレーヤーといっていい

一方、新製品で注目を浴びていたのは、ティアックエソテリックがこのたび輸入代理業務を始めた米VPIである。これまで同社製品は、高度な能力を持つレコードクリーナーが主に日本へ入ってきていたが、エソテリックは同社の超高級プレーヤーまで輸入を行っているから要注目だ。トップモデルのHR-Xは、2基のACシンクロナス・モーターで重量のあるイナーシャを回し、そのプーリーでターンテーブルを回すという凝った方式のベルトドライブである。MDFとスチールを複合することで大変な高剛性のキャビネットを構築、リジッド構造でもハウリングマージンは驚くほど高いという。アームはスパイクによる1点支持という独創的なものだ。

■アナログプレーヤー「SG-1」は猛烈な情報量を涼しい顔で再現する

スパイラル・グルーブのプレーヤーとグラハム・エンジニアリングのアーム。この組み合わせも世界最高峰のアナログサウンドを手に入れる最良の方法といえるだろう

スキャンテック販売では、もちろんかのグラハム・エンジニアリングのアームをマウントしたスパイラル・グルーブのプレーヤーSG-1が素晴らしい。猛烈な情報量を涼しい顔で再現するといった懐の深さは、なかなか実現できるレベルではない。このサウンドは同社扱いのライラ、ライラ・アンフィオンとも共通する部分だ。

■超ド級アナログプレーヤーの弟分「クライテリオン」登場

コンティニアムの1号機「カリバーン」は1,800万円近い怪物だったが、本機は半額以下の825万円。とはいっても十分なモンスターである。トーンアーム「カッパーヘッド」は100万円で単体販売も可能

多機能なフォノイコライザーである上、明らかに業務用の顔つきをしているため、ちょっと取っつきにくく思えるが、機能はうまく整理されていて操作にまごつくことは少なそうだ

ステラヴォックス/ゼファンでは、一昨年に突如デビューを果たして世界を釘付けにした超ド級アナログプレーヤー、コンティニアム「カリバーン」の弟モデル、クライテリオンが音の出る状態となっていたのが目と耳を惹いた。ああいう会場だから究極のS/N比だとかそういったところまでは分かりかねたが、それでも情報量の多さと音の安定感はただ者ではない、という感じを一聴して与えるプレーヤーである。

また、ステラヴォックス扱いの米KAB社のフォノイコライザーEQS MK 12も見逃せない。SP盤から各国の初期LP、そしてもちろん現行のRIAA−LPまで、かつて歴史上で存在したほぼすべてのレコードに対応する、11種類ものイコライズ・カーブを持つフォノイコなのだ。

■EMTのフォノイコ「JPA66」はRIAAカーブの微調整が可能

こちらも測定機か無線機のような顔つきだが、これはターンオーバーとロールオフの切り替えができるせいだ。回路は真空管式

エレクトリのブースでは、EMTのフォノイコライザーJPA66が目を引いた。同社の創立66周年を記念した製品とのことである。初期LPは特に高域特性が各社で微妙に違うことがあり、普通のRIAAカーブでは時に耳障りだったり不自然だったりするものだが、本機にはその微調整機能が装備されているのがうれしい。

■オーディオ評論家諸氏のセミナーは大盛況

マイソニック・ラボの松平氏が講演中のカット。エアータイトのスーパー真空管パワーアンプとトランスローター、そして「エミネント」で聴くアナログは、それはそれは素晴らしい音だった

さまざまな会場で数多くのオーディオ評論家諸氏がセミナーを行うのもこういったショウの見どころだが、アナログ関連ではAIR TIGHTの真空管アンプで知られるエイアンドエムが面白い。同社扱いの独トランスローター社のプレーヤーを使って、マイソニックラボの松平吉男氏が「エミネント」を鳴らし、またキングレコード「スーパーアナログディスク」の総帥、高和元彦氏が自慢のディスクをかける。いずれも自らの“愛児”とも呼ぶべき品を、製作者自らがかけてくれるのだから、こんなに参考になるセミナーもない。当然のことながらブースには生気に溢れた素晴らしいサウンドが鳴り響き、押すな押すなの大盛況となっていた。

アナログについて書いていたらずいぶん文字数を取ってしまった。先を急ごう。

■スピーカーのマルチアンプ・ドライブが復権しつつある

振動膜がチタンからカーボンに変更されたトロバドゥール40を置いてある台は、分かりにくて申し訳ないが自作の大きなウーファー箱だった。これこそマルチアンプに好適のセットではないか

何の気なしにラックスマンのデモを聴いていたら、C−800fがマルチアンプを考えて設計されているとのこと。すっかりうれしくなってしまった

ここ数年、小さな伏流のように流れが続いていたが、今年になっていよいよ表に現れ始めたと思しき現象がある。スピーカーのマルチアンプ・ドライブが復権しつつあることである。30年ほども前に一世を風靡したマルチアンプだが、対応するメーカー製品の少なさと調整の難しさ、そしてコストの高さで最近はすっかり少数派となってしまっていた。

それが近年、リンは専用のアンプとスピーカーを組み合わせることで全ユニットのマルチアンプドライブを可能にし、アキュフェーズも高度なデジタルチャンネルディバイダーを継続的に発売している。ゼファン扱いのビオラ社からも高品位なチャンデバが出ているし、今年は振動板がカーボンに変わったジャーマンフィジックスの「トロバドゥール40」が、自作の巨大なウーファーボックスと組み合わせられていた。これらとビオラによるマルチアンプ・ドライブは、ぜひとも聴いてみたかったのだが、残念ながら音が鳴っているタイミングで訪問することがかなわなかった。

ラックスマンのプリアンプC-800fは、プリアウトのバランス出力を利用してアンバランス出力時には2回路並行で出せるようになっている。マルチ向けのプリだ。

皆さんもぜひ会場で直接素晴らしいサウンドに触れてほしい。このレポートが参考になると幸いだ。

(炭山アキラ)

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