2010年02月22日
山之内正のデジタルオーディオ最前線

第2回:PCでの高音質再生のカギ!USB-DACを使ってみよう − 注目製品もレビュー! 山之内 正

パソコンの音楽ファイルをいい音で楽しむ第一歩は、いい音とは何かを知ることだ。これがわかっていないとどうやって取り組むのか目標が定まらないし、頭のなかでイメージできない音を実際に出すのはオーディオでも楽器でもきわめて難しいのだ。

今回はヘッドホンではなく、スピーカーでなければ出せない音の再現を目標にして話を進めるが、その場合のいい音の基準をひとことで言えば「立体的なステレオイメージの再現」である。中央にボーカルに浮かび、スピーカー後方に余韻が広がる様子を想像するといい。そこに歌手が立っているようなリアルなステージが目の前に広がる、そんなサウンドをイメージして音質向上を狙ってみよう。

今回はパソコンに保存した音源を使うが、前回提案したようにMP3などで圧縮したファイルではなく、ロスレス音源を聴くことがポイントだ。そして、高音質再生の2番目の条件「パソコンからピュアな信号を取り出す」を満たすために、パソコンのヘッドホン出力やライン出力ではなく、USB出力からピュアなデジタル信号を取り出す。そのデジタル信号をアナログ信号に変える「USB-DAC」が今回の主役であり、パソコンの弱点をメリットに変える秘密兵器なのだ。

USB-DACの使い方は非常に簡単で、Windows、MacいずれもUSBケーブルをつないで電源を入れるだけでよい。USBケーブルはパソコン側がAコネクター、USB-DAC側はBコネクターのものを使う。Macの場合、USB-DAC接続後、「システム環境設定」の「サウンド」に表示されるUSBデバイスを選択する操作が必要になることがあるが、特別なソフトのインストールや設定変更は不要だし、音が出ないなどのトラブルに遭遇することはほとんどない。

USB-DAC以降の配線は、スピーカーの種類で決まる。アンプ内蔵モデルならUSB-DACのアナログ出力から直結、そうでなければアンプを用意する必要があるが、その詳細は次回以降に紹介することにしよう。

信号の流れをもう一度整理しておくと、パソコン⇒USB-DAC→(アンプ)→スピーカーというシンプルな構成が基本だ(⇒はデジタル、→はアナログ)。機種を吟味すればこのすべてをデスクトップで実現することも不可能ではない。
今回、この記事のために自宅の仕事部屋で実際に机上にセットしてみたが、期待以上にきれいなステレオイメージが浮かぶし、ステージの奥行きにも深みがある(使用スピーカーはオンキヨー WAVIO GX-500HD)。

今回試聴したUSB-DACの音質を紹介する前に、パソコンのスペックと再生ソフトについても触れておこう。パソコンはMacBook Air(Core 2 Duo 2.13GHz、SSDモデル)を使用し、再生ソフトはSongbird 1.0(FLAC再生用)とiTunes+Amarra MINI(ALAC再生用)を使い分けている。Songbirdでの再生時はCPU負荷はかなり低く、パソコンのファンが最低回転数(約2500回転/分)を超えることはないが、後者はやや負荷が大きめで、約3000回転/分を上回ることもあった。静かな環境では負荷の低いソフトを選ぶのが正解だが、音の良さではAmarra MINIが上なので、悩ましいところだ。


【編集部解説】
★Songbird…楽曲管理ソフト。再生可能ファイルはMP3/AAC/Ogg Vorbis/FLAC/Apple Lossless/WMA。フェザー(スキン機能)で見た目をカスタマイズしたり、アドオンを使って機能を拡張することもできる。webブラウザ機能も備え、ブラウジング中にwebページ内の音楽ファイルを簡単に聴くことも可能。対応OSはWindows Vista/XP、Mac OS X以降、Linux。

★Amarra MINI…Mac用高音質音楽再生ソフト。再生可能な音楽ファイルはAIFF/WAV/BWF/AppleLossless。iTunesの利便性を利用しながら、Amarraの音声処理による高品位な音声を楽しめるのが特徴。シンプルな「Amarra MINI」(税込47,500円)と、イコライザー有&192kHzまでのPCM音源再生に対応した「Amarra」(税込126,000円)の2種類がある。詳細はこちら


【手頃な価格で高音質!注目製品レポート】
オンキヨー SE-U55SX
■オンキヨー SE-U55SX ¥OPEN(予想実売価格19,800円前後)
製品データベース)(メーカーの製品情報
他の製品に比べてサイズが大きいのでデスクトップ向きだが、入出力端子は豊富で、パソコンへの録音機能なども積む多機能タイプのUSB-DACだ。付属ソフトの「CarryOn Music」はWindows7をサポートしておらず、Macも非対応だが、USB-DACとしてはどちらのOSでも動作する。96kHz/24bit対応。

サウンドは声の音域の密度が高く、女性ボーカルや旋律楽器を温かみのある音で再現した。ステレオイメージはコンパクトにまとまるが、輪郭は緩めの感触がある。ジャズではギターのナイロン弦の柔らかさが印象的で、妙な突っ張り感のない音色は聴き疲れしにくい良さがある。

AUDIOTRAK PRODIGY CUBE
■AUDIOTRAK PRODIGY CUBE ¥OPEN(直販サイト価格19,800円)
製品データベース)(メーカーの製品情報
コンパクトで電源もUSBバスパワー方式だが、オペアンプを好みのチップに交換できるなど、見かけに似合わずマニアックな設計。マスター音源の96kHz/24bitにも対応する。ヘッドホンアンプを兼ねており、ボリュームを回すとアンプへの出力レベルも変化した。

音質は中高域の明るさに特徴があり、ヴァイオリンやフルートなど旋律楽器が積極的に前に出てくる。ギターやピアノの立ち上がりがクリアなので、ジャズやポップスはリズム楽器の存在が明快に伝わる。オーケストラはもう少しスケール感が欲しいが、細部を細かく描き出す能力は高い。

フォステクス HP-A3
■フォステクス HP-A3 ¥38,850(税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
旭化成エレクトロニクスの32bit DACを搭載するなど、マニアを意識した本格派の作りだが、電源はACアダプターではなくバスパワー方式を採用している。シンプルなDAC機能に加えて高音質ヘッドホンアンプとして使えるので、デスクトップ用途で活躍しそうだ。ボリュームは出力に連動する。

再生音は周波数レンジが広く、倍音領域までよく伸びているので、声や弦楽器の音色の微妙な変化がよく聴き取れる。低音は引き締まった音色ながら低い音域まで沈み、ジャズのウッドベースはボディの大きさが思い浮かぶリアルな音像を再現した。見かけは地味だが、ハイファイグレードの優れた再生音を聴かせる製品。LEDが明るすぎる点は気になった。

NuForce icon uDAC
■NuForce icon uDAC ¥13,650(税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
今回試聴した機種のなかで一番コンパクトで、まさに手の平サイズ。機能もシンプルだが、ヘッドホン出力もついているので、パソコン音源を外出先でもいい音で聴きたい人にも薦められる。サイズは小さくても仕上げは上質で美しい。同軸デジタル出力も取り出せるので、外部DACと組み合わせるとさらに音質のグレードアップを図ることができる。

アナログ出力レベルが2Vあり、アンプ内蔵スピーカーと組み合わせても十分な音圧が得られた。低域の響きはややスリムだが、音色が素直で質感が高く、ボーカルは積極的に前に出てくる。グレードは完全にピュアオーディオの領域に達している。

StyleAudio CARAT-TOPAZ
■StyleAudio CARAT-TOPAZ ¥49,350(税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
シャーシや端子部の精度が高く、コンパクトだが高級感がある。電源はバスパワーではなくACアダプターから供給する方式で、ノートパソコンとの接続にも不安がない。ヘッドホンアンプとしても音質を吟味した設計が自慢で、このクラスのUSB-DACとしてはオーディオ志向の強い製品だ。

細部を積極的に引き出す解像度の高いサウンドが特徴。ボーカルのイメージは適度に引き締まっているが、輪郭がクリアで、フォーカスがピタリと合っている点がよい。左右や奥行き方向への広がりもスケールが大きいので、デスクトップシステムで聴いていても心地よい伸びやかさがある。

【まとめ】
今回は声や楽器の音像やステレオならではの広がりに注意しながら各モデルの試聴を行った。音像の大きさや立体感はそれぞれの機種ごとに特徴があるが、パソコンの音楽ファイルでも明瞭なステレオイメージが得られることはすべての機種に共通していた。空間再現の精度が高い機種はステージの奥行き感が深く、左右の広がりもひとまわり大きくなる。次回のスピーカー編では、セッティングのノウハウなども交えながら、引き続き音場再現の可能性を探っていく。