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NTTぷらら 永田勝美社長インタビュー

“スマホ・ファースト”時代の新たな価値を創造、NTTぷらら「ひかりTV」が貫く攻めの姿勢

2019/09/10 PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
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話題を集めた4Kの立ち上がりにも、積極的な取り組みが注目を集めたNTTぷららの映像配信サービス「ひかりTV」。“激動の時代”を迎えた映像配信の世界で、ニーズを先取りした提案で存在感を見せる。スマートフォンが台頭し、5Gのスタートを目前に控えた、AI、IoTで進化する新時代に、「ひかりTV」はどのようなプラットフォームを思い描くのか。6月にNTTぷらら 代表取締役社長に就任した永田勝美氏に話を聞く。


株式会社NTTぷらら 代表取締役社長/CISO(最高情報セキュリティ責任者)
永田勝美


プロフィール/1964年3月9日生まれ、愛知県出身。岐阜大学大学院 工学研究科 電気工学専攻。1989年4月 日本電信電話株式会社 入社。94年3月 東海技術開発センタ 主査、96年4月 マルチメディアビジネス開発部 主査、96年10月 ジ―アールホームネット株式会社(現 NTTぷらら)出向 技術部リーダー、99年7月 技術部次長、99年8月 技術部長、2000年5月 株式会社ぷららネットワークス(現 NTTぷらら)出向 技術開発部長、05年6月 取締役 技術開発部長、11年4月 株式会社NTTぷらら 取締役 技術本部長、11年11月 株式会社アイキャスト 取締役兼任、18年6月 ジャパンケーブルキャスト株式会社 取締役兼任、19年6月 株式会社NTTぷらら/株式会社アイキャスト 代表取締役社長(現任)。趣味は園芸と日本酒。

■「世の中の人の生活を豊かにすること」が本来の目的

―― 本年6月、「NTTぷらら」「ひかりTV」の“顔”とも言える、実に21年にわたって社長を務められてきた前任の板東浩二氏からバトンが手渡され、社長にご就任されました。プレッシャー等はございましたか。

永田 いや、大きなプレッシャーですよ。特に、板東が築き上げてきた、23期連続での増収は、日本企業においても稀有な高い実績となります。それを、私が引き継いだタイミングで途絶えさせるわけにはいきません。すなわち、会社をさらに成長させ、増収を継続していくことが私の仕事と言えます。

―― 社長にご就任されての信条をお聞かせください。

永田 NTTぷららは、創業以来「新たな事業領域を開拓する」ことをミッションとして取り組んできました。それは今も不変のテーマです。会社を大きくしていくこと、売上げを大きくしていくことが目的ではない。それはあくまで目標設定のひとつ。本来の目的は、ICTの技術を駆使したさまざまなコンテンツサービスをご提案し、世の中の人を楽しくしたり、「すごいね!」と驚かせたり、「便利だね」と感心していただき、生活を豊かにしていくことだと思っています。

7月にNTTドコモのグループ傘下に入りました。ドコモが展開するサービスの機能を切り出して担当する機能分担会社ではないかとの誤解もありますが、これまで以上に新たなサービス展開を進め、われわれのビジネスを拡大していきます。そのことが、グループに貢献し、グループのビジネスを拡大することにもつながっていくはずです。NTTグループの映像を中心とした戦略会社として役割を果たしていきたいと考えています。

■“スマホ・ファースト”に対応した変革が急務

―― 価値観やライフスタイルが多様化していますが、ここ数年の間にも御社は、趣味学習サービスの「Shummy」や「ひかりTVミュージック」「ひかりTVゲーム」など新規サービスを次々に立ち上げています。AI、5Gの新時代へ、ひかりTVはどのようなプラットフォームを目指すのでしょうか。

永田 多くの映像サービス事業者はこれまで、総合編成で何万本ものコンテンツを品揃えしていることをアピールしてきました。しかし、サービスや価格も似たり寄ったりで同質化しています。そこへさらに、外資系をはじめとする競合他社が相次いで参入してきた。そこで各社は差別化の手段として、他では見ることができないオリジナルコンテンツの制作に注力しています。そこは、われわれもしっかりと追随していき、自社制作の他、共同制作、制作委員会などさまざまな方法を用いてオリジナルコンテンツの品揃えを行っていきます。

また、劇的に変化する環境の下、スマホで視聴することが本当にごく当たり前となり、とりわけ若年層においてはむしろそちらがメインストリームで、テレビはプラスαの位置づけになっているようにも思います。ひかりTVはサービスを開始して10年以上になります。スマホやPCなど新しいデバイスが登場し、マルチデバイス戦略も進めてきましたが、目指してきたのはあくまでも“テレビ・ファースト”のサービスでした。しかし、この劇的な地殻変動に、もはやテレビ・ファーストではなく、スマホ・ファーストの時代がいよいよ到来したことを実感せずにはいられません。

それでは、スマホ・ファーストになると何が違ってくるのか。例えば、コンテンツが縦型になったり、短尺になったり、動画だけで音声を聴かないで人もいますから、“聴かなくてもストーリーがわかるコンテンツ作り”も必要になってきます。テレビは“世帯のデバイス”ですが、スマホは“個人のデバイス”です。「オールジャンルで3万本あります!」と謳っても心に響かない。個人の趣味・趣向をもっとぐっと入れたコンテンツにしていかなければなりません。深掘りしたパーソナライズ化された世界が必要になってきます。

スマートフォンで躍動感ある卓球の試合観戦実現へ、NTTドコモが提供する配信サービス「dTVチャンネル」向けに、卓球のTリーグの試合中継では初となるタテ型動画の生配信を行った

例えば、大好きな釣りの番組を見ている人が、気になる道具が出てくれば、欲しくなり、購入する。購入すればその道具を持って、実際に釣りに出かけたくなります。ひかりTVは、映像だけでなく、ショッピングや書籍、ゲーム、音楽などマルチサービスを提供していますから、こうしたサービスの連携により、お客様の深化する要望に応えられる快適な環境を提供することができます。ここはさらに強化していくポイントになると考えています。

■生活シーンに溶け込み一体となるサービス

―― 7月には「Amazon Echo Show」への対応を発表されました。

永田 Amazon Echo Showの取り組みはまた少し切り口が異なります。お客様がアクティブに「使うぞ!」と意思を持って利用するサービスは、時間がないと利用されない点が課題です。従来のテレビが凄いところは、スイッチを一度つけさえすれば、あとは受け身でずっと利用してもらえる。Amazon Echo Showへの対応は、生活に密着したサービスの実現を目指したいという想いで実現しました。

ひかりTVでは、「Amazon Alexa」向けのサービス提供をスタート

例えば、電車でスマホを使って見ていたひかりTVのコンテンツを、家に着いて続きを見たいときには、「テレビの電源を入れる」「ひかりTVを起動させる」「コンテンツの続きを見る」という一連の動作が必要になります。しかし、そんな面倒な動作なしに、テレビ(STB)が「続きを見ますか?」と尋ねてきて、続きを自動で再生してくれたら大変便利なわけです。Amazon Echo Showなど音声インターフェースに対応できるデバイスは、そうした生活に溶け込んだサービスを実現する突破口となります。

―― ひかりTVが蓄積してきたビッグデータがそこでは物を言うわけですね。

永田 ビッグデータがあり、そこへAIや音声認識の技術を組み合わせることで実現できる世界です。現在、技術、営業、マーケティング、コンテンツなどいろいろな部門でアライアンスを積極的に進めていますが、技術面でアライアンスしている会社の1つに「ABEJA社」があります。そこは蓄積されたビックデータからAI(人工知能)のディープラーニングを活用し、多様な業界・シーンで社会実装事業を展開しています。

われわれもABEJAのAI技術をいろいろなシーンに活用する取り組みを進めていて、パーソナル化の面からはすでに、AI技術を用いたリコメンドを採用しています。お客様の視聴動向から、ビデオサービスのトップ画面に出るコンテンツはユーザーひとりひとりが違うものをレコメンドしています。アクションが好きなお客様に、たとえ新作でもラブロマンスでは心に響きませんからね。これまでは新作、話題作を優先してマスで表示していましたが、AI技術を用いたパーソナル化の導入後、見放題のアクティビティが上がり、実に有料ビデオの視聴率が2割アップしています。その効果をつくづく実感しました。

AIはユーザーインターフェースのみならず、制作にも活かすことができます。そのひとつがスポーツのダイジェストです。試合時間の長いスポーツに対し、「長くて全部見ていられない」「ダイジェストで見たい」といった要望は少なくありません。しかし、これまでダイジェストの映像を制作するためには、5時間かかった試合ならば、まずその5時間を見ないとつくることができず、大変手間のかかる作業でした。ところが、観客の声援や点差などからAIを使って映像をピックアップすることで、人手は本当に最後の編集のところだけ。非常に効率的で、試合終了から数時間後にはダイジェストをお届けできるようになりました。AI技術でダイジェスト映像を自動生成して配信することは、卓球「Tリーグ」ですでに導入しています。


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