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<山本敦のAV進化論 第139回>

完全ワイヤレスイヤホンの “途切れ” を無くす伝送技術「MiGLO」とは? 開発元のNXPに聞いた

2017/07/26 山本 敦
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音楽再生だけでなく、通話や映像鑑賞で低遅延が活きる

Bluetooth技術をベースに左右のイヤホンを接続した場合も、音楽だけを聴くぶんには遅延の問題を感じることは少ない。ところがハンズフリー通話の場合は、左右の音声のズレをほとんど感じさせないほど低遅延である、近距離磁気誘導のメリットが活きてくると平賀氏は説明する。「アプリケーションやユースケースによって数値は異なってきますが、両耳タイプの補聴器では5ms以下のレイテンシーを実現できています。より広帯域の音声信号を伝送する必要のあるオーディオの場合はもう少し遅延が発生しますが、それでもBluetoothと比べてと大きな差があります」。

イヤホンや補聴器など、両耳に固定して使うデバイスの場合、MiGLOの特徴が、より安定して発揮されるという。イヤホンの場合は左右の距離感がだいたい20〜23cm程度になるため、コイルの巻き数、流す電流の量ともに20cm前後で磁界が触れ合うようにチューニングしている。コイルの大きさや電流の量を増やせばよりデバイス間の距離を広げることも可能になるが、消費電力やデバイスのサイズも比例して大きくなる。コイルのサイズと流せる電流、消費電力と最終製品の大きさはそれぞれ密接に関わっているのだ。

MiGLOではコイルの向きや巻き数が重要になってくるという

一方、コイルと磁界の向きが合わないと電流を流せなくなるため、デバイスの向きと間の距離が動的に変わる可能性があるアプリケーションについては、近距離磁気誘導の技術はやや不向きであると平賀氏は説明を加える。つまり、イヤホンのようにパーソナルな距離感でセキュアな使い方をするデバイスで、MiGLOの技術がその真価を発揮するというわけだ。

NXPでは開発者向けにMiGLOテクノロジーの組み込みを可能にする半導体パッケージのほか、アプリケーションボード、SDKなどものづくりをサポートする様々なソリューションを提供している。平賀氏は、NXPのリファレンスデザインと設計ガイドラインが示す範囲内であれば、イヤホンメーカーが音質やハンドリングの精度を高めるようなカスタムチューニングも可能と述べている。

「音を良くするという意味では、肝になるのはコイルと基板のデザインだと考えます。基板から発生する磁気をコイルが拾ってしまい、ノイズとして認識されると音質にも影響を与えてしまいます。磁気の上手なコントロールは、各メーカーの腕の見せどころになると思います」(平賀氏)。

Bluetoothのデータの処理は、まずスマホから送信された音声データはBTチップを搭載した側のイヤホン(仮に左chとする)で受信し、デコードする。この際、左chの音声データはそのまま再生されるが、右chの音声データはSBCやG.722などに再度エンコードし、右chのイヤホンにMiGLOで伝送される。そしてそれを受けた右chのイヤホンで、改めてデコードを行い再生することになる。一度デコードしたものを再度エンコードするのは、MiGLO音声伝送帯域や消費電流の効率の関係から、そのほうが有利なためという。

現段階ではまだ、MiGLOはLDACやaptX HDのような“ハイレゾ相当”のデータ量をBluetoothで伝送するオーディオコーデックをサポートできていない。平賀氏は「普及に伴ってハイレゾ対応への要求が出てくることはもちろん把握していますので、これから新しいハードウェアを開発してサポートできるようにしたい」と、広がるニーズに対して早めに応える構えだ。

今回はオーディオ向けのソリューションであるMiGLOの詳細を中心にインタビューしたが、近距離磁気誘導の技術は複数のデバイスを身に着けて相互に通信を行う、新しいスタイルのウェアラブルデバイスや、水中で活用する機器のワイヤレス通信など、ほかにも様々な用途に応用できそうだ。今後最先端のIoTデバイスの発表とともに、NXPと近距離磁気誘導の名前を耳にする機会が増えることだろう。

<インタビュー協力>
NXPジャパン(株)
第二事業本部 マーケティング・アプリケーション技術統括部 セキュリティ&コネクティビティ技術部 シニア・フィールド・アプリケーション・エンジニア
平賀浩志氏

(山本 敦)

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