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<山本敦のAV進化論 第139回>

完全ワイヤレスイヤホンの “途切れ” を無くす伝送技術「MiGLO」とは? 開発元のNXPに聞いた

公開日 2017/07/26 10:08 山本 敦
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大手半導体メーカーのNXP Semiconductorsが小型のワイヤレスイヤホン向けに開発した「MiGLO(ミグロ)」テクノロジーが注目され始めている。今回はNXPの日本法人であるNXPジャパンを訪ね、エンジニアの平賀浩志氏にMiGLOの特徴をうかがった。

NXPジャパン(株)平賀浩志氏

「MiGLO」は完全ワイヤレスイヤホンに向いている伝送方式

NXP Semiconductors(以下:NXP)は、フィリップスの半導体部門であったNXPと、モトローラの半導体部門であったフリースケールが2015年に統合合併して誕生した会社。プロセッサやマイコン、インターフェースといった半導体を開発する世界有数規模のメーカーだ。得意とするソリューションは自動車、セキュリティ、通信、IoTや音声認識など広範囲に及んでいる。また、高精度なDSPによる音声処理とストリーミング技術にも多くのノウハウを持っている。

MiGLOのベースになる近距離磁気誘導(NFMI)は、NXPが両耳タイプの補聴器向けに開発して、約10年間に渡って実績を積み上げてきたものだ。今年からワイヤレスイヤホン向けプラットフォームとして、あらためてMiGLOという名前でブランディングを開始した。

「MiGLO」はNFMI(近距離磁気誘導)がベースとなる

「近距離磁気誘導は両耳に着ける補聴器用に搭載して、それぞれの耳の間で双方向に音声を伝送しあうために開発した技術です。片方向だけでなく、左右の耳に聞こえる音を相互に伝送でき、アンビエント音を取り込んだ、より自然な聴感を得られるのが特徴です。フィリップスの製品をはじめ、多くのメーカーの補聴器に採用されてきました」(平賀氏)。

MiGLOの近距離磁気誘導による伝送方式は、コイルとコイルの間に発生する電磁界の相互誘導を利用するシンプルな仕組みをベースにしている。ひとつのコイルに電流を流すと磁界が発生する。ふたつの磁界を寄せ合うと片側の磁界がもう一方のコイルに入り込んで電流が流れる。これを相互に誘導しながら双方で電流の制御を行い、信号を伝送するという仕組みだ。現在のところ、類似の技術を持つライバルは存在しない。

筆者が記憶する限りでは、昨年Jabraが発表した完全ワイヤレスイヤホン「Jabra Elite Sport」が、初めて左右のイヤホン間の通信に近距離磁気誘導を採用したことを大々的に謳った製品だった。その後、今年のCESで発表された新生ブランドYEVOの「YEVO 1」やモトローラーの「Mini TWS Twins」など、近距離磁気誘導を採用した完全ワイヤレスイヤホンが続々と出てきた。

2月にバルセロナで開催されたMWC2017にNXPセミコンダクターズが出展。音声認識やMiGLOのテクノロジーを展示した

スウェーデンのスタイリッシュな完全ワイヤレスイヤホン「YEVO-1」。日本での発売も間もなく発表されるかもしれない

MWC2017にNXPが出展したブースにも、いくつかの完全ワイヤレスイヤホンが並べられていた。そして直近では8月に国内発売が予定されているEARIN「M-2」が、新たにブランディングされたMiGLOを搭載したことを表明している。

MiGLOを搭載する完全ワイヤレスイヤホンが集まった

8月に日本でも発売を予定するEARIN「EARIN M-2」

MiGLOでは10MHz程度という非常に周波数の低い磁気を使うため、人体に吸収されにくいという特性がある。また水中でも高品位な通信が可能という。

平賀氏は完全ワイヤレスイヤホンの泣き所である、信号のドロップアウトやノイズによる干渉に対して、MiGLOが圧倒的な強みを持っていると主張する。「Bluetoothは環境的な影響を受けやすいワイヤレス通信技術です。室内でも電波の反射に影響を受けて安定性が変わることもあります。電波が人体に吸収されないよう、出力を高めるために大きな電力を必要とします。最近のBluetooth技術は低消費電力化が進んでいますが、MiGLOはさらに消費電力を低く抑えることができます」

MiGLOは左右イヤホン間の音声伝送にNXP独自のプロトコルを使うことにより、信号伝送の遅延=レイテンシーを最小に抑えられることも特徴となる。

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