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ソニーの技術を結集した「オールソニー」製品

「自分たちが欲しい商品を作った」 − ソニーのヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T1」開発者インタビュー

公開日 2011/09/21 10:00 インタビュー:ファイル・ウェブ編集部
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■「劇場を作ったらどうか」の一言で試作機を開発

楢原:サイズについて色々と悩んでいた時にヒントをもらったのは、光学系の開発の応援を頼んだプロジェクターの担当者です。彼が「せっかくレンズの設計次第でどんなに大きなサイズもできるのだから、テレビやホームシアターなんてケチくさいことを言わず、『劇場』を作ったらどうか」と言うんですね。

私はレコーダー畑の人間なので、とんでもないことを言うなと思いましたが、同時にすごく面白いな、と。それで、色々な実験を行ったわけです。ミラーを目の前に2枚置き、左用と右用の2つのディスプレイの画面が、左目右目に独立してみえるようにした試作機を作り、視野角を変えたり距離を変えたりしながら、ああでもない、こうでもないと繰り返しました。

最後には本社2階の大講堂を借り切って、SXRDプロジェクターを2台使って実験したら、非常に臨場感が感じられた。この路線で行こうということで決まりました。

■「よし、作ってみろ」とソニー幹部が即決

ーー そこで開発にGOサインが出たのですか。

楢原:はい。まずは2011年初頭のCESで参考展示をしようと計画した(関連ニュース)のですが、そのためには2010年の春には開発を依頼しないと有機ELパネルが間に合わないことが分かっていました。

αで使われているEVFは0.5インチで解像度は1,024×768ですが、ヘッドマウントディスプレイには、0.7インチで、1,280×720ピクセルのものを使いたかった。新たにデバイスを開発することになるので、投資が必要になるわけです。

こういう新たな投資を伴う案件のプレゼンを上司に行ったのですが、その頃にはデモ機に使うレンズがまだありません。ですので、上司へのプレゼンはミラーを使ったシステムで行わざるを得ませんでした。まず事業部長、事業本部長に見てもらい、開発から商品化へフェーズを進めてもらうこと、半導体事業本部にパネルを作ってもらうよう働きかけることを相談し、快諾を得られました。そこで、ハワード・ストリンガーCEOや、我々の部署のトップだった吉岡浩副社長(当時)、半導体事業本部のトップの方々に見てもらえることになりました。そうしたらどの方も、これは凄い、是非やろう、パネルを作ろうと、話がどんどん進みまして。

それにしても私が「ソニーらしいな」と思ったのは、非常に原始的な試作機のデモと、私の「この視聴体験をレンズで実現して見せます」という言葉だけで、「よし、作ってみろ」と言ってもらえたことですね。

ーー それは、確かに何ともソニーさんらしいお話ですね。今レンズのお話が出ましたが、レンズについてはどのような苦労があったのですか?

楢原:そうですね。先ほど申し上げたように、商品の大まかなコンセプトは「劇場を作る」ということになりました。で、どうせなら大きな劇場が良いだろうと。

■スクリーンは約750インチ、視聴距離は20mに決定

楢原:そこで疑問に思ったのは、大きな映画館とは一体どういうサイズなのか、ということです。色々な映画館を訪ねたり、様々な方法で調べたり検証してみたら、スクリーンサイズは約750インチがいいのではないか、という結論に至りました。

ーー スクリーンからの距離や視野角も大切な要素ですね。

楢原:色々な席で座ってみた結果、視聴距離は20mくらい、視野角は45度くらいのが良いのではないかという結論に至りました。近すぎると首を動かす必要が出てきて、楽に見られない。また、20mから離れると画面が小さく感じられるのですね。

様々な検討の結果、スクリーンサイズは約750インチ、距離は約20mに決定した

ということで、これで画面の大きさや視野角が決まりました。実はそれを決めた翌日が、レンズ仕様の発注締切日だったのですが…。

その数カ月後にレンズが出来上がってきて、有機ELパネルの試作機を作りましたら、2011年初頭のCESで出展したものとほぼ同じようなクオリティの画がいきなり出ました。そこから詳細な設計フェーズに移り、具体的な商品企画に入ったわけです。

ーー 商品企画は森さんがご担当されたのですね。

森:そうです。本当に、多くのエンジニアが色々な技術を持ち寄って種を育てたという実感があったので、私の方では、最終的にどういう商品にまとめ上げようかということを考えていきました。

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