前々回CES会場で試聴したTADの新フラグシップスピーカーの話題を紹介したが、今回はそのときに紹介できなかったもうひとつの注目モデルであるエソテリックの新しいスピーカーの音について報告しよう。まもなく正式に発表されるはずだが、このスピーカーは日本市場でも大きな話題を集めることが予想されるので、そのパフォーマンスの一端をいちはやくお伝えしておきたい。
スピーカー開発は市場の変化に対応する姿勢の現れ
そもそもエソテリックがスピーカーの開発に取り組むことになった背景には、オーディオ市場の活性化を目指す同社の強い意志が存在する。これまでエソテリックブランドはハイエンド市場を中心に存在感のあるモデルを投入し、最近は日本国内だけでなく海外でも高い評価を獲得するにいたっている。一方、映像機器の台頭やオーディオファンの志向の変化など市場の変化に対しても柔軟に取り組んできた。ユニバーサルプレーヤーの開発やZシリーズの投入は、そうした新しい取り組みの成果である。
手頃な価格帯でオーディオ入門/再入門層に最適
今回新たにエソテリックが投入するコンポーネントはそうした新しい取り組みの一環だが、価格設定は従来以上に身近なレンジになりそうだ。スピーカーシステムはブックシェルフ型のMG-10が40万円弱、トールボーイ型のMG-20が60万円弱(いずれもペア)という価格帯で登場すると予想され、同時に発売されるCD/SACDプレーヤーSA-10とデジタルプリメインアンプAI-10はいずれも30万円台を実現する見込みだ。
これまで「エソテリック=超高級機」というイメージが強かったが、今回のように手に届きやすい価格で登場することで、同ブランドのファンは一気に広がることになるだろう。プレーヤー、アンプ、スピーカーの組み合わせでざっと100万円という投資は、これからオーディオに本格的に取り組むファンにとって無理のない金額である。ハイエンドと普及価格帯の間隙を埋め、今後の伸びが期待される市場でもあるし、新市場開拓を目指すエソテリックにとって重要なカテゴリーであることはいうまでもない。
日本金属とタンノイとのコラボレーションが結実
プレーヤーとアンプは別の機会に取り上げることにし、ここではスピーカーに焦点を合わせて話を進めよう。2機種に共通する最大の特徴は、新開発ユニットの振動板に全面的にマグネシウムを採用していることである。これまで高域ユニットへの採用例はあるが、ウーファーを含めた全帯域を高純度マグネシウム合金でカバーするというアプローチは世界的に見ても例がない。内部損失、音速、比重など多くの点で振動板の理想的な特性を有するにも関わらず、これまで採用例が少ないのは、酸化(いわゆる「さび」)の対策が極端に難しいためであった。
特殊な表面処理でその難問を解決したのが、独自のノウハウをもつ日本金属である。同社の金属加工技術がなければ、今回のMGシリーズが日の目を見ることはなかったであろう。ちなみにMGとはマグネシウムの元素記号そのものである。
重要な役割を果たしたもう一つのメーカーは英国のタンノイだ。ティアック/エソテリックとの関係の深さはいうまでもないが、新技術の導入に意欲的なタンノイが、今回のエソテリックのプロジェクトに積極的に関わっていることは非常に興味深い。今回の製品は、企画と基本コンセプトをエソテリック、設計をタンノイ、ユニット技術を日本金属という具合に、3社が共同で取り組んだ3ウェイプロジェクトの成果なのである。
MG-10とMG-20のユニットはいずれも2.5cmトゥイーターと16.5cmウーファーを搭載し、MG-20のみウーファーがツイン構成になっている。写真からもわかる通りダストキャップ部分までマグネシウムを採用しているが、このコストは半端ではないはずだ。キャビネットはいずれもバスレフ型でポートは前面に配置されている。
外見はオーソドックスだが再生音は最先端
SACDとCDを再生し、MG-10とMG-20の音をじっくり聴く。まず、低域から高域までスピード感が見事なまでに揃っていることに驚かされた。俊敏な低音の立ち上がりと自然な音離れの良さは、ピアノでもオーケストラでもこれまで聴いたことがないような、ある種の爽快感を生む。楽器から音が出る瞬間の僅かな空気の動きまで感じ取れるほど、振動に対する余分な負荷が少なく、ストレスがまったくかかっていない。
アルミなど他の金属を採用したユニットでは固有のキャラクターを感じることが少なくないが、マグネシウムはそうした「色付け」が極端に少ないことでも特筆すべき素材である。ボーカルの透明感と伸びの良さ、歪み感と無縁の純度の高さは、そこに理由がありそうだ。MG-20は大編成の管弦楽で低音の芯が一回り太くなるが、空間のパースペクティブの広さと奥行きの深さは、MG-10とMG-20の両機に共通する美点。外見はオーソドックスだが、再生音の志向は最先端をいくスピーカーである。