加藤修一

お客様の利便性を追求することは
我々にとって永遠の課題です
(株)ケーズホールディングス
相談役
加藤修一
Syuichi Kato

2017年の幕開け、新春の巻頭を飾るのは、ケーズホールディングス相談役の加藤修一氏である。第一線の経営者の立場から身を移され、業界全体を俯瞰してより明確にものごとを捉まえての興味深いご発言が聞けることとなった。高付加価値商品が堅調に推移し、いいもの、自分に合うものを求めるお客様の指向が顕在化してきた昨今の状況を踏まえ、必要とされる考え方とは何かを、新たな年の始まりに向け語っていただいた。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長 写真/柴田のりよし

2017年テレビ販売は
本来の水準に戻ってくる

── 昨年6月に相談役になられましたが、現在はどのような活動をされているのですか。

加藤これまで10年ほど外国人投資家向けにIRの仕事を行ってきましたが、会社での海外IRの活動には今も同行しており、国内の外国人投資家向け説明会にも同席させてもらっています。それ以外はほとんど何もしていないですね。

もともといわゆる仕事らしいことはあまりしていませんで、会社の基本的な考え方を折に触れて話してきた感じです。ケーズホールディングスでは全体朝礼が月曜日に開催されますが、6月以降は1回だけ出ましたね。店長ミーティングにも1回だけ出て、20分ほど話させてもらいました。

これまでずっと、基本的な考え方を語って来ています。社員はそれに基づいて活動していますから、私が居ても居なくても会社の状態にあまり変わりはないです。

── 2017年、家電市場の状況をどうご覧になりますか。

加藤昨今はお客様がいいものを買おうとする意欲があって、高付加価値商品が動いています。日本の家電品は普及率がほとんど100%に近くなっていて、だいたいのものは皆さんが所有しています。新規需要より買い替え中心で、壊れてからになるでしょうが、よりいいものがあればいつでも買い替えが動く可能性はあります。日本の消費者は高付加価値商品を支持してくださいますから、それに応えるものを提供できればいいですね。

またここ2〜3年、テレビの需要が通常より低いレベルで進んできましたが、2017年以降はこれまでより少しよくなるのではないかと思います。ケーズデンキでは既存店が前年を下回る環境が続いていましたが、徐々に前年並みに近づいていて、お客様の購買行動がだんだん通常に戻って来ていると感じられます。

過去に無理にできたテレビの買い替え需要によって、日本の家電業界は本来の実力以下の商売をさせられていましたが、ようやく本来の需要に戻り、2017年の状況はよくなってくると思いますよ。

── テレビのデジタル化以降の低迷から、いよいよ本来の水準になるということですね。

加藤5年ほど前に政府が講じたエコポイント制度は景気刺激策でしたが、そういうことの後には必ず反動が起きます。家電業界でさらに大きな痛手は、テレビ放送のアナログ停波。テレビ販売に極端なピークができてしまい、その後大きな反動が来ました。そこからなかなか抜け出せませんでしたが、それは当たり前ですよね。

テレビの買い替え需要の数年間分を、地デジ化のタイミングで一気に先食いされてしまった。本来は年間800万台〜900万台ほどあったはずの需要が、地デジ化の後は500万台ほどになってしまいました。その影響で販売店は、本来持っている力の85%〜90%ほどで推進することになってしまったと思います。

これからのテレビの買い替え需要は、2020年の東京オリンピックに向かって700万台から1000万台くらいに推移すると考えられます。それが動き出した時には、業界の需要のボリュームがもう少し上がってくるでしょう。ただ今度の買い替え需要はピークが突出するのではなく、もっとなだらかになるはずですね。2017年にはその最初の動きが出てきそうです。

無理な「頑張り」は
駄目な結果を呼んでしまう

加藤修一お客様の欲しい物を
買っていただくのであって
店が売りたいものを売るのではありません

── 地デジ移行では業界中が翻弄されました。

加藤今振り返るとアナログ停波では、日本全国で地域ごとに切り替え時期をずらすような措置をとるなど、5年くらいの幅で移行期間を設定して欲しかったですね。メーカーに対してもテレビの増産を一気に求めるのでなく、稼働率を少し上げて少し多くつくって、通常より少し多めにテレビが売れる期間が5年くらい続くようであれば、メーカーさんも無理に巨額の投資をして大規模工場をつくる必要もなく、テレビの販売で儲けも出たのではないでしょうか。

当時は業界挙げて頑張って、テレビをつくって売りました。しかし結果として、テレビが強かったメーカーさんはどこも苦労することになったわけです。それって、変ですよね。だから「頑張る」というのは、「変なことをしてしまう」ということに聞こえてしまいますよ。無理をして将来を駄目にしましょうという意味に。私はずっとそういうことを言ってきましたが、なかなか理解してもらえないですね。

ケーズデンキはそうではなくて、無理なことはしない。極端なピークをつくらないようになだらかな山で、安定的に成長し続けるということをしているわけですね。それが「頑張らない」ということです。私はずっと「頑張らない」考え方で来ましたけれど、無理にやったようなことは、結局は後にほとんど消えてしまったと思います。だから無理なことはやらない方がいい。

地デジ化はその最たるものでした。できれば二度とそういうことはないといいですね。あのときも業界で、たくさん売れるとその後売れなくなるはずだからどうしたらいいのか、考えた上で最盛期を迎えられればよかった。けれど現実的には、売れる時にもっと売っていくことしか考えていなかった。売れない時の対策を売れなくなった時に考えていては遅いですよね。

もし先のことを考えられていたら、テレビの増産も工場を長時間稼働することで対応して、新しい工場は増やさない考え方もできたでしょう。政府から放送の方式が変わるからテレビをはやくたくさんつくって売りなさいと言われても、短期間にそんなにたくさんはつくれません、と言えばよかったかもしれませんね。そうすれば、もっと長い時間をかけて売りましょう、という方針になったかもしれません。

しかし実際にはメーカーは巨額の投資をし、テレビが売れなくなって投資が回収できず、大変な目にあいました。頑張ったのに報われない、それっておかしくないですか。先を考えることは大事です。こうなったらどうなるか、とするとどうしておくべきか、予測を立ててあらかじめ動いておく。余計なことはしない。

そもそも成長している段階から、無理があったのかもしれませんね。成長している最中にもう少し肩の力を抜いていれば、ゆっくりと長い間の成長になったかもしれません。伸びているからチャンスだと思って、さらに伸ばそうと無理をする。そうなると駄目になった時に極端に落ちるのです。

「頑張らない」を
痛感した過去の経験

── 家電業界は成長し続けてきた結果、成長が止まってからいろいろと無理するようになりました。加藤さんの「頑張らない」考え方は、昔からのものだったのでしょうか。

加藤 私も若い頃は、どうやったら上手くいくか一生懸命考えましたし、いろいろなことを試しました。さぼったりしていたのではなく、相当頑張っていたと思いますよ。でもその頃の私は、今のような世の中はまったく見えていなかったのですね。

30代の頃には、メーカーさんの販売研修の特訓を受けたこともあります。最近働き方の問題が取り上げられた企業さんの厳しい行動規範が話題になりましたが、あんな感じですよね。オイルショックの頃などは、家電業界もそういう研修が流行っていましたよ。それまでは高度経済成長で家電はどんどん売れていましたが、オイルショックの頃に消費が低迷して、全体に厳しい状況になったのです。

その頃はメーカー系列の家電店が数も多く販売力を持っていましたから、メーカーの販売会社はどこも販売推進策を立てて、それに一生懸命に取り組んでいましたね。うちの会社でも最初に私が泊まり込みの研修を受けて、嗄れるまで声を出し続けたり、走ったりしましたよ。そして影響を受けて会社に帰って来て、社員にもこれからはこうしようと言っていたわけです。

そうして朝から晩までお客様を訪問して、店に戻ると売れた金額をグラフに書き込む。8時間労働の倍の時間働いていても、残業代も出ないようなやり方だったかもしれません。お客様も誠意に負けて義理で買ってくださったんじゃないでしょうか。けれどもそのうちにこのやり方はおかしいんじゃないかと気づいて、すぐにそこから抜け出しました。

その時代は、業界全体がそういうやり方を夢中になって続けていました。ものがまだ普及していない頃でしたから、そんな無理が多少はよかったこともありました。お客様が家電品を持っていないわけですから、大きくアピールすれば普及が早まります。当時そういう経験で手応えを感じた人が今業界で上の立場になって、体育会系の運動部のように先輩から後輩に「伝統」を伝えているかもしれません。

経験的によかったことは私にとってもたくさんあったと思いますが、中には無理なこともあるかもしれませんね。よそがやっているからうちでもやらなくては、と考えたりしました。それはお客様のためではなくて、他の会社に勝つことが目的になってしまっていますよね。

販売研修も経験しましたし、経営のテクニックのようなことは私もいろいろと勉強をしてきました。でも結局、そういうことはことごとく駄目だと思ったわけですね。いろいろと経験した結果、いつも物事を反対の側面から見てみる癖がついたのかもしれません。私の頑張らない哲学は、私自身の経験の結果で実感したものです。いろいろとやった結果、あまり無理なことをやっても却ってマイナスだと悟ったわけです。

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ただ増やすだけでなく
店はつくり直していく

── 家電販売店として歩んでいくケーズデンキに対して、加藤さんが伝えておられる考え方とは。

加藤お客様の考えていることやご希望を聞いて、それに応えるようタイミングを逃さずにやっていきましょうということですね。お客様の欲しい物を買っていただくのであって、店の方が売りたいものを売るのではないということ。マージンの高い商品を買っていただくと店が儲かりますから、そういう商品を一生懸命買っていただこうとする。けれどもそれは店の都合でしかありません。流通業の仕事は、お客様とメーカーさんとの間を取り持つことです。まずはお客様が何を言っているかを聞かなければ仕事になりませんよ。

そうしながら、少しずつ成長するためにケーズデンキのお客様を増やそうと思っていますが、店がないところではお客様は買えない。だから日本全国に店舗ネットワークをつくる。今はその最中です。

── ネットワークが行き渡った後はどのような展開をお考えでしょうか。

加藤ケーズデンキでは毎年30店ほどをつくっていますが、10店ほど閉めてもいます。それは撤退ではありません。店舗が既にある地域であっても、もっと便利のいい場所で、もっと広い土地にお買い物しやすい店をつくり直しているということです。その地域でより支持されるように、タイミングを見て店を替えていく必要があるのです。

ケーズデンキでは、20年以上使っている店舗は少ないです。店舗を借りる際などの契約は、20年までということが多いですね。その20年の賃貸期間中に新しい店をつくって契約の満期を迎える、ということをしています。

新しい地域に店をつくりながらそういうこともやっていますから、全国にまんべんなく店をつくってネットワークを強固にするには、あと20年から30年はかかるでしょう。まずはそこをしっかりやっていくこと。それより先のことは、まだわかりません。

── 今は広い敷地を使った店舗展開が中心ですが、そのかたちが変わる可能性は。

加藤都会に近い場所に店をつくる時には、広い土地は見つかりにくいと思います。そういう時はまた別のスタイルの店になると思います。ただ郊外では違うスタイルになることはないですよ。出せる場所には基本、ワンフロアの広い店を出す。店舗展開の上ではそういう形が都合がいいですから。大きな店をつくると、商品がたくさん並んでいて、自分の欲しいものがあるはずだとお客様に思っていただける。そこに正しく説明できる社員がいれば安心です。

リアル店舗の存在感は
ネットの時代でも高まる

── これまでもネット販売の話を伺いましたが、昨今では注文してから届くまでの時間がどんどん短縮されてきて、配送業者の負担が増大していると言われますね。

加藤配送業者の負担になるようでは、やはり無理をしているということでしょうね。サービスの一環として商品が早く届くことは魅力ですが、それをどうやるかです。スピード競争ならケーズデンキは有利ですよ。店舗網があり、各店に在庫もありますから、お客様の家に近い店の在庫を出せば、ネットで注文が来てから30分以内に届けることだってできる。

すでにケーズデンキでは、お客様からネットで注文が来たら、お客様の家に一番近い店の在庫を確認して、そこに自動的に伝票を出す。伝票に基づいて店から商品を持ってお客様のところに行けば、距離的にも無駄なくお届けすることができるのです。ネットの注文も店の注文と一緒に扱っています。

店舗網がしっかりと構築されている地域ではそういうことができますが、まだそこまで至らない地域もある。だから店舗網をもっと広げていかなくてはならないのです。単に土地を確保して店を建てるだけでなく、配送も含めたネットワークの構築も重要ですから。

加藤修一  ネットとリアルは
  どちらも買い方の選択肢
  ネットの差別化も、
  いずれ集約されるでしょう

── リアル店舗を持っていれば、ネット販売でも優位性がありますね。/p>

加藤ところがネット販売はどうもいいように誤解されていますよね。店舗がないから安く商品を提供できるとか、店で商品を見ても買うのは最安値を探せるから有利なネットに流れるとか。本当にネットで買うのが便利だったら、お店はいりませんよ。メーカーがネットで直売すればすむことです。でも現実的にはそれが上手くいかないから、メーカーはそうしませんよね。

ケーズデンキの売り場を見ていると、昔と違って新しいいろいろな商品が並んでいるなと思います。お客様がそれをいつ知るか。そういう意味でもネットだけでは厳しいと思いますよ。ネットでは、買いたい物を少しでも安く買うため値段を比較するのは便利かもしれません。でも自分の頭の中にない新しい商品に出会うのは難しいですね。メーカーが力を注いでつくった新しい商品も、誰にも知ってもらえない。だからメーカーも売り場がなくては困るのです。ネットしか手段をもたない流通は、そこがネックですね。

産地直送の限定品とか、誰もが知っていて価値が伝わり、手に入りにくいものはネットで売るのに向いていますね。でも家電品は種類がたくさんありますし、特に大型の冷蔵庫や洗濯機などは説明もなくネットで買っても、寸法が合わず設置できないとか、ドアから入れられないとかいうこともある。そうなったら困りますよね。家電品を買う時には本来、据え付けや保証など重要なことがいろいろあるのに、ネット販売ではそこが問題にされないのもおかしなことです。

売り場を持つ店がネットで売る、ネットしかない店が売り場をつくる、結局はどちらも同じ。ネットとリアルのどちらがいいかではなくて、どちらも買う手段の選択肢のひとつです。お客様は店に行けなくてネットや電話で注文することもあるし、どうしても店で見て確かめてから買いたいこともある。単に買う方法の違いだけなのです。

出かけるのがおっくうならクリックで商品が届いたら便利ですし、逆に宅配便で届けられても不在がちでしょっちゅう再配達を頼まなければならず面倒なこともある。お客様が自分で店に行って買って帰る方が早い場合もあるでしょう。それなのにマスコミの報道は、ネットとリアルとどちらが得かという話に集約しますよね。どちらの買い方が得かとか、安いのかとか考え出すとおかしなことになりますよ。

日本ではこれから、リアルもネットも両方やる店が増えていくと思います。そうなるとリアルもネットも値段が一緒になるでしょう。リアルならば相対値引きできますが、ネットではそれがやりにくいから値段を安く見せる。そういう舞台裏までお客様に正しく伝わって欲しいですね。でないとお客様は、店に行って商品を見て、それをネットで探して最安値で買えばいいと思ってしまいますから。

ネットで売られている商品は安いと思われがちですが、何かの理由で安くなっているものもあります。ずっとその値段で提供できるわけでなく、一時的な安値であっても、全商品がその値段と比べられてしまう。しかしいずれ、そういうものはなくなっていきますよ。

家電業界で昔はメーカーの系列店が強かったですが、量販店が出て来て安売り競争になった。安いことだけが勝負になりましたが、やがて量販店同士で店の個性を出して勝負するようになった。それが、ネット販売が出てきたとたんに、また価格競争に戻ってしまいました。そしてまた、ネット販売の中でも配送などサービスの面で差別化が始まっているわけですね。そういう繰り返しが起きるのではないでしょうか。

お客様にとって
どうであるかを追求

── 全国に拡がる販売網でお客様の利便性を高めるためにも、またお客様が新しい商品といつでも出会えるためにも、リアル店の存在感はますます重要になりますね。重要なことはすべて、お客様にとってどうであるかですね。

加藤お客様の立場で利便性を追求することは、永遠の課題です。私自身も店に行くと、わからない商品が並んでいますが、そういうものにお客様は気がついているか、価値は伝わっているかと考えると、まだまだだと思います。お客様の身になって思考するということは、未来永劫続けなくてはなりません。そうしてケーズデンキは一歩一歩進んでいきますし、無理な成長をしようと頑張りすぎることのないように、私は見守っています。

◆PROFILE◆

加藤修一氏 Syuichi Kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。2011年6月(株)ケーズホールディングス代表取締役会長兼CEO。2016年6月より相談役に就任。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「がんばらない経営」で安定的な成長を続ける。

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