「九州ハイエンドオーディオ展示即売会」開催。
マックスオーディオ・大原社長に聞く

大原晴三氏

ふといい音を希求する瞬間がある
オーディオとの出会いに心動けば
その喜びを必ず誰かに伝えたくなる
まず自らがすぐに動き出そう
(株)マックスオーディオ
代表取締役
大原晴三 氏

オーディオ専門店の九州の雄「マックスオーディオ」は、今年で13回目を数える恒例「九州ハイエンドオーディオ展示即売会」を、4月29日から三日間にわたって開催した。昨年末からハイエンドオーディオ市場に立ち込めるもどかしい暗雲を吹き払うかのように、熱心なオーディオファンで会場は賑わいを見せた。同イベントの意義、そして、今後のハイエンドオーディオ市場が勢いを取り戻すためには必要なものは何か。同社社長・大原晴三氏に話を聞いた。

オーディオシステムを揃えるのは
とんでもなく高価なものだと思い込んでいる
それが、ひとつの壁になっています

お客様の気持ちを
喚起する節目が大事

── 今回で第13回を迎える「九州ハイエンドオーディオ展示即売会」。これだけ大きなスケールで、九州のオーディオファンにとってはひとつの年中行事ではないでしょうか。

大原ショウと展示即売会という側面があり、お客様に製品を購入いただくことが最大の目標です。やはり、見せるだけの「ショウ」のスタイルでは、収支を考えてもなかなか続けにくいところがあります。一展示会とはいえ、採算をとっていくことが大切。そこが、長く続けられるかどうかの岐路になってきます。

また、一年という流れのなかで商売を考えた時に、起爆剤や節目がないまま平坦にダラダラと過ぎていくのは寂しいですね。毎年新製品が登場してくるわけですから、大きく取り上げることができるフェアなどの開催には、とても大きな意味があります。そうした節目があるからこそ、お客様も「今年はこれを買おう」と購入の予定を立てていくようになるんですね。毎年楽しみに、東京から足を運ぶお客様もいらっしゃいます。

── お客様の背中を最後にもう一押しできる場所にもなりますね。

大原この場で決まるとは限りませんし、他所で買われるかもしれない。しかし、購入の決断をしたり、さらに深く関心を持ったり、何らかのきっかけになってくれればいいと思っています。

── 体験が何より大事であり、販売店自らがお客様との接点を創っていかなければならないと常々おっしゃっています。こうしたイベント会場は、専門店に比べると敷居が低く、新規顧客にリーチする場としても大切になります。

大原同じお客様ばかり、あれもこれもとご提案していても、やはり限度限界があります。将来へ視野を広げ、成長していく観点からも、新しいユーザーを獲得することはとても大事なことです。毎年、購入伝票を見ていても、「初めて」というお客様が必ず何割かを占めます。これは、うちだけに限ったことではなく、どのお店にとっても、また、業界にとっても大切なテーマとなります。

── 昔はオーディオが趣味として盤石の地位にありましたが、今は可処分時間の奪い合いで、能動的に仕掛けていかないとますます先細りしてしまいます。

大原すでに、オーディオは趣味のジャンルのなかのひとつにさえ、もう取り上げられていないのかもしれません。わたしはいつも、本屋の棚割やコーナーを、世の中の流れを映し出す鏡として気に掛けて観察しています。今、書店に「オーディオ」のコーナーがあるかと言えば、あっても細々としている。しかも、音楽のジャンルに入っていたり、趣味のジャンルに入っていたりバラバラです。一昔前には「オーディオ」のコーナーがきちんとあり、数多くの雑誌が並んでいました。社会的に今、どのようなポジションに置かれているのか。本屋さんのコーナー割りは、その辺りを非常に敏感にキャッチしています。バロメーターを計るには一番わかりやすいと思います。

カメラは昔も今もきちんとコーナーがある。しかし、オーディオは違います。それが、一般的な社会の捉え方なのです。非常にはっきりしています。そこを再度、確立していこうとしたら、業界が一枚岩にならなければ到底実現はできないでしょう。

オーディオに触れたい
思いを叶えてあげる

── 今、「ハイレゾ」がブームとなり注目されています。しかし、さらなる普及・拡大を目指す上で、踊り場にあるとの指摘も聞こえます。

大原話題をつくり、積極的に取り組んでいくのは大切なことですね。ただ、私もいろいろな団体に入っていて会合や集まりに顔を出す機会も多いのですが、そこで「オーディオを持っていますか」とお聞きしてみると、ご年配の男性で何人かに一人は必ず持っていらっしゃいます。しかし、30年から40年近くたった今も、当時から時間が止まったままなのですね。そうしたケースが非常に多いことに気づかされました。昔、オーディオが全盛の時代に、ある程度の金額を投じて製品を買い揃えた。ところが、手持ちの製品はそのままになっていて、まったく進化していない。そういう人が実に多いのです。

そこに、ハイレゾ云々とお話しをしても、まず、頭から拒否されてしまいますね。今のものはむずかしい、わからないから要らないというわけです。ところが、最近レコードがまた流行っていて、発売枚数も増えている。海外ではさらに売れているようだと話を振ると、「カートリッジでも新しいものを買ってみるか」と目を輝かせて話に乗ってきます。それはそうですよ。レコードは耳になじんだ言葉だし、何枚も持っているわけですからね。

ですから、ハイレゾなのか、アナログなのか、お客様ごとにうまく使い分けて話題を提供することが大事。ご年配の休眠しているオーディオファンの関心を揺さぶり、引き起こすためには、今のアナログの盛り上がりは格好の材料です。

── なぜ、そこまでの時間、離れてしまったのだとお考えですか。

大原今はハードの性能を追求した新製品が、どこが優れているのか、どれだけ魅力的なのかといった話題づくりが中心となっています。お客様の関心を引き寄せるためには大事なことですが、一方、休眠しているファンを呼び起こすきっかけにはなりづらい面があります。 ある時、ふといい音で音楽を耳にする機会に遭遇し、無性に自分の部屋でもいい音で音楽を聴いてみたいと思う。自分の生活のなかにもう一度採り入れることで、それが人生のひとつの支えになるのではないか。そう感じた瞬間に、オーディオに触れてみたいという思いを叶えてあげられることが重要だと思います。

ハイレゾも大変注目度が高いけれど、そればかり打ち出していても、今、関心がそこへ向いていない人には情報が入っていきません。ライフスタイルのなかで、自分の体や心がいい音で音楽を聴くことを求めていることにあるときふと気づく。久しぶりにオーディオでもやってみるか、聴いてみるかと思い立つチャンスを、もっと生かしていくことができる工夫やアイデアが必要なのだと思います。

誤解・勘違いが阻み
一歩が踏み出せない

── ふと生活のなかで感じる、そうした機会も少なくなっているのではないでしょうか。

大原さきほどの本屋の例でも、ふとオーディオのコーナーに目が止まる例が少なくなっているはずです。趣味にもいろいろあります。生活の中で、ただ、音楽が流れているのではなく、自分のためにいい音で聴いてみたいと思う。どうしたらふとそう思い立つのか。

最近は人がどういうことに集っているのかに注目しています。例えば「ワイン会」。年配のご夫婦が定期的に集まって、1日数万円出して、ソムリエが付き、ワインを楽しんで過ごすのだそうです。それこそ色々な集いがあります。そういうものも意識して目を光らせていると、見えてくるものがあります。全国のオーディオ店がそういう眼を養って活動していくことも大切なことだと思います。

── オーディオ製品の価格や専門店の敷居の高さなど、なかなか身近に感じにくいという人も少なくありません。

大原いろいろな会合や集まりに顔を出していても、そこで大変に驚いたのは、私がオーディオ屋だということがわかると、ほとんどの方が「いくらくらい出せば、満足のいくオーディオのシステムが揃えられるのですか?」とまず質問してくることです。皆さん、とんでもなく高価なものだと思い込んでいるのです。そこも、オーディオに足を踏み込めずにいるひとつの壁になっていると思います。

── 大変もったいない話ですね。

大原関心のありそうな方に「いい音を聴きにいらっしゃいませんか」と話をします。例えばそこで「スピーカーは1000万円。合わせて3000万円するシステムが聴けますよ」と切り出してしまうと、初めの目の輝きは失せ、声もだんだん小さくなってしまいます。それではダメなんです。それは、店に行ってみたら、そんな高価なシステムもあるのかという発見でいいのです。そこを通常のことのように切り出してしまったら、壁が立ちはだかってしまいます。30万円でも50万円でもいいわけです。興味を持てる範囲で喜びを膨らませてあげることです。べらぼうに高い、そういうものは確かにあります。クルマでもスーパーカーがあり、憧れとして大事な存在ですが、皆が購入して乗り回しているわけではありませんからね。

── 販売店、メーカー、メディア、それぞれの取り組みのなかでそうした誤解も解消していかなければなりませんね。

大原そうした積み重ねのなかで、「これは見逃せないぞ」と、普段はオーディオを取り上げない雑誌が特集を組んだりするようになるわけです。そうして徐々に、未開拓なお客様にも手が届くようになります。ライフスタイルのなかのふとした瞬間に「オーディオをやってみようかな」と思う。そういうアクションが随所に芽吹いてくることが大事ですね。

大切なのは感じる喜び
必ず誰かに伝えたくなる

── オーディオの世界へと心動かされる製品との出会いが欠かせません。メーカーについてはいかがですか。

大原創業者の哲学や理念を、しっかりと継承してほしいですね。それがきちんとできているメーカーからは、やはり魅力あふれる、利益の出せる製品が出てきます。これは、オーディオや家電の業界に限ったことではありませんが、厳しい経営環境にあるとは言え、自分の会社が社会に対してどう関わっていくのか。そうした考えがどんどん希薄になり、社会から見たときに何をやっているのかよくわからないような会社が増えていることはとても残念でなりません。

アップルのスティーブ・ジョブズ氏は、亡くなる時に「あの世に持っていけるのは、富や名声ではない。持っていけるのは、愛情にあふれた思い出だけだ」という言葉を残したそうです。オーディオも単なるモノではないはずです。あの世にも持っていけるような、温かい心に感じるものを伝えることができます。そうした気持ちや喜びを、作る側も売る側も、もっと考えていかなければいけない。

ものを作るにしても、販売するにしても、お客様が製品を手にした時の得も言われぬ喜びの表情を、もっと心に焼き付けて商売しないとだめですね。人は“喜び”を感じると必ず誰かに伝えたくなります。「昨日、オーディオが届いたんだよ。今度、家に聴きに来いよ」と喜びはどんどん連鎖していきます。

── もっとお客様目線≠磨いていかなければなりませんね。

大原自分ひとりがはじめたところでどうしようもないという考えでは、何も起こりません。よそはやらなくてもまず自分のところから。来年からやるのではなく、いますぐ始める。ひとりひとりがそう思えば、すぐにでも動き出すはずです。


マックスオーディオ主催
「第13回九州ハイエンドオーディオ展示即売会」

■4月29日(祝)〜5月1日(日)
■福岡国際会議場

会場は、博多から地下鉄で三駅、徒歩でも約20分という福岡国際会議場。4階の特設スペースに用意された10のブースに、50社以上が参集。各社が力を入れる製品をアピールするとともに、メイン会場には商談スペースが広く取られている。マックスオーディオでは会期中、店舗を締め、スタッフが結集して対応する一大イベントだ。会場で目につくのはやはり、50代以上の男性。ハイエンドオーディオに接することができる貴重な場に、はるばる東京から足を運ぶお客様もいる。今年はゴールデンウイークに開催期間が重なったこともあり、例年に比べて初日から好調な出足となった。

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