長坂 展生氏

専門店の商売は、価値をご提案してこそ
見て、聴いて、触れる場を増やしていく
株式会社アバック
代表取締役社長
長坂 展生 氏
Nobuo Nagasaka

住宅展示場にホームシアターショップを展開するなど、北海道から沖縄まで全国の主要な地域で14の店舗を構えるアバック。ホームシアターとオーディオの専門店として、意欲的な活動を推進している。昨今の取り組み、今後の展開について、同社の長坂社長が意気込みを語る。

住宅展示場への展開で新しいお客様を獲得し
店頭での物販でマニアのお客様も刺激する

住宅展示場に拠点を構え
新たなお客様を獲得する

── 本誌2010年12月号にご登場いただきました。5年間が経過しましたが、その間の御社のお取り組みをお聞かせいただきたいと思います。

長坂アバックはおかげさまで今年、創業32年目を迎えました。創業当初は「電話の向こうは秋葉原」のキャッチフレーズでインターネットの通信販売から商売をスタートしましたが、会員様の数は現在全国で30万人を超えております。

我々は主にマニアのお客様に向けた商品を販売しているわけですが、ホームシアターとオーディオの専門店としての商売は、その価値をお客様にご提案してこそと考えます。そんな中でここ数年は特に、商品を見て、聴いて、触れる場をご提供すること、そんな原点に戻った活動を重視してきました。全国におられる30万人のお客様に対応するため、そしてAV市場の活性化の一助となればと。

2010年にお話させていただいた時は、全国の主要都市をまわるイベントキャラバンの活動をしておりましたが、その後各地に店舗をつくってきました。現在の市況の需要に合わなくなってきた既存の店舗を整理したり新たな場所に移したりもして、現在の店舗数は14となっており、秋葉原本店以外はすべて新たに構えた店舗となります。全国にいる会員様にはまだまだご不便をかけていますので、さらなる展開も進めているところです。

── 住宅展示場での展開は興味深いですね。

長坂これは新しいお客様をつくることが狙いです。メーカーさんは毎年一生懸命商品をつくってくださっていますが、我々は商品を売らせていただく立場として、そういう点ではまだまだメーカーさんに甘えていたところがあったと思います。お客様に対する啓蒙活動も、我々自身でしっかりとやらなければと考えました。

ではどういうお客様へのアプローチが有効か。今の時点でAVに興味がなくとも、きっかけ次第で誘引できる可能性があると思います。そのひとつが、家を建てるタイミングだと思います。新しい家にきれいに設置されたホームシアターがあれば、ご家族で楽しめます。そんな風にして楽しんでいく方々が、いずれはホームシアターのカルチャーに熱心に取り組んでくれる可能性があるのではと考えました。そこで、そういうお客様が集まる住宅展示場に注目したのです。

大阪のホームシアター千里店が、象徴的な存在です。千里住宅展示場は大阪最大規模の展示場で、ここで拠点を展開したいとずっと考えていましたが、取り仕切る法人様と交渉を成立させ出店することができました。今年2年目となります。展示場の中では1部屋だけですが、リビングルームをイメージできる効果的な店になっています。

ホームシアター立川店も同じ法人様と組んだものですね。ホームシアター札幌豊平店も、マイホームセンターという北海道最大規模の住宅展示場に出すことができました。昨年2月に出店したホームシアター福岡マリナ通り店は、地域の富裕層が集まる愛宕という地の展示場にあります。同様に横浜の富裕層のエリアに出店できたのがホームシアター港北ニュータウン店。大手ハウスメーカーのモデルハウスが30棟ほど建っている大型展示場です。ここには家の外溝や、警備サービスなどを扱う関連企業が集まっている建物がございます。その中に出店させていただきました。

ホームシアター千葉オフィスは、マンションの一室にホームシアター完備のリフォームを施したものになります。千葉エリアのお客様にホームシアターをご体感いただけるようにと出店いたしました。こうして家を建てる方への啓蒙に着手し、ようやく数字になり始め、手応えが出てきたところですね。

フランチャイズも展開し
全国にリアル店舗を置く

長坂 展生氏── 出店計画はどうお考えだったのですか。

長坂会員様が多くおられる地域に、本丸の店と住宅展示場の店を組み合わせて展開するのが理想です。住宅展示場は、家の中のシアターをお客様に楽しく味わっていただくイメージ訴求の場。クロージングも最後までできないケースもございます。あくまでもホームシアターを知っていただき、アバックを知っていただくのが狙いです。機材選びにあたっては本丸のお店に来ていただく。そんな導線をイメージして、本丸の店がある地域で周辺の住宅展示場に狙いを定め、出店していくイメージです。

お客様への啓蒙活動をしっかり行い、まずはホームシアターを好きになっていただく。これが最初のアクションと思っております。マニアではないお客様に対してホームシアターへのハードルをぐっと下げる。マニアのお客様とのパイプはしっかりとありますので、そうではないエントリー層のお客様を増やす。そこで刺激された方々がいずれ凝り出してくだされば、将来の商売にもつながる。ここ2〜3年はそういう考えで活動してきました。

── 出店に際して、人材の教育も必要になりますね。

長坂人の問題は一番大きいと改めて感じています。取り扱いの難しい機器をご提案するわけですから、ふさわしい人材を確保するのは簡単ではありません。そこで新しい店にはまず、既存のスタッフを派遣することになります。たとえば大阪梅田店のスタッフは現在は現地採用のスタッフがおりますが、オープン当初は関東の既存店から派遣したスタッフのみでした。彼らが時間をかけて現地で採用したスタッフに指導して現在に至っております。

また人的な意味でも有効なのがフランチャイズ展開です。しっかりご商売をやっておられる法人様が全国にありますから、ご縁があればまずお会いし、双方の利点がうまく合ったら契約を交わす。そういう法人様はもともと地元のAVファンの信頼も厚く丁寧な商売をなさっており充分な接客スキルをお持ちです。そういうかたちで2013年2月にアバック沖縄店を、同じ年の9月にホームシアター札幌平岡店を、さらにホームシアター大宮店も出しました。

── フランチャイズの展開は今後もやられるのですか。

長坂ご販売店とのお話し合いができれば、こうした展開をしていきたいですね。フランチャイズの場合は、アバックと同じ仕入条件で商品を確保できるのが先方にとってのメリットになると思います。また販売支援も。販促ツールや、図面をつくるためのパーツなどを共有できます。インストールビジネスで、サービスの均一化は絶対に必要だと思います。こちらの店でしてもらえたことがあちらの店ではできない、それではいけません。

アバックで販売ツールを整え、クオリティも要求して、それに応えてくださる法人様と一緒にやらせていただきたいと思っています。お客様にとって、フランチャイズ店もそうでない店も違いがなく、同じ値段でサービスを買えるのが理想。フランチャイズ店と直営店とで差が出るようではいけないと思っています。

インストールと物販
専任体制で臨む

長坂 展生氏── インストールビジネスや物販はどのような体制でなさっていますか。

長坂各店に専任のインストール担当がおります。図面段階から機材設置までお客様とは長いお付き合いになりますので熟練したスタッフが対応しております。ここの所の取り組みでインストール案件が急激に増えておりますが、まだまだ既存のお客様の単品購入で支えていただいております。

インストールビジネスは順調に伸びており昨年一年間で約400件、今期は目指せ500件を合言葉に取り組んでおります。お客様の平均単価は、工事代金や図面作成費などの代金も含み、一般的なボリュームゾーンの価格で150万円〜200万円ほど。数は多くないですが、専用室になるとさらにボリュームが大きくなります。

住宅展示場での展開で、ホームシアターの取り組みを強化されるハウスメーカー様も増えております。一定のホームシアターシステムをパッケージ化して“ホームシアターをプレゼント”とうたって販促の材料とする法人様もおられます。そういうBtoBの取り組みもできるようになりました。こうしていろいろな角度から、ホームシアターに出会うお客様が増えているわけです。

弊社では営業担当と、図面作成、現場での指示出しや工事のインストール業務を行うインストーラーが2人セットで一つの案件に取り組みます。内容に差が出やすいインストール業務は1人の人間が行うことでサービスの均一化にも寄与します。

── オーディオのお取り組みはいかがでしょうか。

長坂会社全体的として、今はインストールの強化に力を注いでいますが、2chのオーディオは古くからのお客様がおられ非常に重要なカテゴリーと思っています。最近ではネットワーク、ハイレゾでのお客様のニーズが高まっていると感じ試聴環境の整備に力を注いでいます。

中古市場も非常にお客様の動きが活発と感じます。特にオーディオは中古を売って新品を買うという動きが表裏一体ですから、中古の下取りをまずしっかりと行う。訪問スタッフと車両を本社に置いて、お客様のご自宅買取訪問に伺うサービスを行っております。お邪魔して、その場で買取金額を提示して新品を買っていただく際にお値引きで相殺する。お代を頂戴し、新品をお納めする時に中古をお引き取りすれば、お客様も切れ目なくAVを楽しめる。それができるのは強みだと思います。

日本中のお客様に
体感できる場を提供

── 市況の手応えはいかがでしょうか。

長坂当社ではここ数年間ずっと、売上げの前年比はキープしています。ここ2年ほど動かなかったAVアンプが、ドルビーアトモス、DTS:Xでようやく動き出しましたが、先ほど申し上げたようにメーカーさんの新製品ばかりに頼っていてはいけません。自分たちでできる販促活動を行っていかなくてはと常に思っております。そこで新しいお客様を作り出せるインストールビジネスは非常に有効な手段と考えます。そこで入門層のお客様とつながり長いお付き合いになるようにアプローチをかけ続けていく。複雑な機械の融合であるホームシアターはハウスメーカーも扱いが難しく我々の存在価値が発揮できるところだと思います。そして物販でもマニアのお客様とのつながりを大事にしていく。アバックの強みはメーカーさんが作られた、特にフラグシップ機の素晴らしさを100%ユーザーに紹介できるところ。しっかりとフラグシップ機を販売できる店舗環境を整えていきたいですね。

── 今後の展開についてはいかがですか。

長坂会員様にご不便をかけているエリアを優先して、店舗を増やしていきたい。お客様は旬なものを見たいわけですから、そのご要望にお応えしたい。理想は全国のアバックの会員様が必ずどこかの店舗でご体感いただけるよう店舗を増やすこと。ネットとの差別化でもあり、リアル店舗が増えることは業界全体を盛り上げることにもなると思います。お客様に納得して買っていただくことが何よりも大事。そういう思いで、頑張って参りたいと思います。

◆PROFILE◆

長坂 展生氏 Nobuo Nagasaka
1975年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。2002年2月(株)アバック入社、インストールビジネスに長年携わる。2006年2月 グランドアバック新宿営業部 部長就任。2009年2月(株) アバック代表取締役社長に就任、現在に至る。

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