ダニエル・ゼンハイザー氏

オーディオファンへの最高の製品をつくることに
経営の全リソースを集中、全力で取り組む
Sennheiser electronic GmbH & Co. KG
CEO
ダニエル・ゼンハイザー
Daniel Sennheiser

ドイツが誇るヘッドホン/マイクロフォンブランドの雄・ゼンハイザー。創業者フリッツ・ゼンハイザー氏の孫である現CEOのダニエル・ゼンハイザー氏がインタビューに応え、2016年に創立70周年を迎える同社の新たなる展望を語った。

プレミアム・ブランド戦略の強化に
日本市場の声を重視
戦略を立て、さらなるアクションを起こす

プレミアムの領域に
さらなる注力を図る

── オーディオヘッドホンのプレミアム・ブランドであるゼンハイザーが創立から70周年を迎えました。CEOとしてこれまでのブランドの歩みをどのように振り返りますか。

ダニエル・ゼンハイザー(以下DS)ゼンハイザーは「The PursuitofPerfect Sound(完璧なサウンドの追求)」というコーポレート・ポリシーを掲げながらオーディオの発展に貢献してきたブランドです。完璧な技術や製品を追い求める思いにゴールはなく、常に積極的に前へと進むイノベーション・スピリットは、ブランドのDNAに刻まれています。先人たちが築いてきたブランドの伝統と技術に最大の敬意を表しながら、新たにCEOとしての使命を受けたアンドレアス(アンドレアス・ゼンハイザー)と私は、全社員とともにユーザーのニーズに近く寄り添いながらブランドを新たな成長に導きたいと考えています。

── 全世界でヘッドホン・イヤホンの市場が大きく伸びていると言われています。ゼンハイザーではこのトレンドをどのように捉え、アクションを起こしていくのでしょうか。

DSスマートフォンによる音楽リスニングが一般的なものになって、モバイル機器に付属するイヤホンでカジュアルに音楽を楽しむことができるようになりました。かたやヘッドホンをファッションアイテムとして注目する向きも含めて、市場全体が伸びていると言われていますが、私はこれからのゼンハイザーは、今までも重視してきたプレミアムカテゴリーの商品を最大の成長領域に位置づけながら、さらにそこに注力していくべきと考えています。

12年に発売したMOMENTUMシリーズは、音質とデザイン、マテリアルがハイレベルに融合したヘッドホンとしてゼンハイザーの新しいスタンダードになりました。その成功を糧に、いま世界中で注目が高まっているハイレゾ対応のコンテンツや、ポータブルオーディオプレーヤーなどの機器と連携しながら、プレミアム市場におけるゼンハイザーのプレゼンスをより強化していきます。

ダニエル・ゼンハイサー氏── その洗練されたサウンドとスタイルで若い音楽ファンも惹き付けるヘッドホン「MOMENTUM」シリーズが、今年第2世代へと進化を遂げました。

DSMOMENTUMシリーズにはゼンハイザーが誇る最高のアコースティック技術が惜しみなく注ぎ込まれているだけでなく、プロダクトデザインから、メタルやレザーなどマテリアルの細部にまで「完璧」であることを追求しています。これこそがまさに、ゼンハイザーのコーポレート・ポリシーを象徴するヘッドホンではないでしょうか。第1世代のモデルを発売して以来、既存のゼンハイザーを愛してくださるファンの方々だけでなく、若い音楽ファンやヘッドホンファンにも支持をいただいてきました。多くの女性のユーザーを開拓できたこともシリーズの勲章になっています。

全てのユーザーの皆様、あるいはMOMENTUMシリーズに期待される方々からの声を反映させるかたちで、今年は第2世代へのグレードアップを図りました。アラウンドイヤーとオンイヤー、いずれのモデルともにルックスは大きく変わっていませんが、例えば本体を折り畳んでよりコンパクトに持ち運べるようになったり、イヤーカップの装着性を高めたりと、元もと完成度の高かった初代モデルをベースにディティールをブラッシュアップしています。またBluetoothによるワイヤレスリスニング機能とアクティブノイズキャンセリングを搭載する、それぞれのワイヤレスモデルもラインナップします。いま現在手に入れられる最高クラスのポータブルヘッドホンであると自負しています。

よりよいものづくりへの
環境の整備に積極投資

── プレミアム・ブランド戦略を貫いていくために、これからの経営戦略として重視するポイントはどんなところですか。

DSそうです。ゼンハイザーは創業から三世代に渡って家族経営のスタイルを貫いてきました。株式を非公開としている理由は、オーディオファンのため最高の製品をつくることに経営の全リソースを集中することを優先したいからです。当然ながら私もこの経営理念を継承していきたいと思います。ブランドの長い歴史の間には難しい経営判断を迫られる時もありましたが、先人たちは常に挑戦する姿勢を守りながら進むべき道を、自らの意志で選択してきました。

例を挙げるならば、欧州における経済不振が伝えられていた2009年に、ゼンハイザーはドイツ本社にあるハイエンド製品を製造する工場を大きく拡張しています。ここではブランドを代表するフラグシップモデルである「HD 800」や「IE 800」を製造していますが、その製造キャパシティを拡大したことで、ゼンハイザーはプレミアム・ブランドとして大きな成長を遂げることができました。

ゼンハイザーらしい革新的なオーディオ製品を、いつの時代も絶えずユーザーに提案し続けるためには、スタッフが生き生きと働きながら、個々の能力をフルに発揮できる環境を整えることもCEOとして重要な役割だと私は考えています。ゼンハイザーは伝統的にR&D(研究開発)の部門に大きく投資してきた企業です。昨年度はグループ全体の営業利益のうち「6.8%」をR&D部門の予算として割り当てました。この数字は、おそらく当社の規模で事業を展開している他のオーディオメーカーと比べていただければ非常に大きなものであることがおわかりいただけると思います。R&D部門の発展に注力することで、スタッフが活躍する工場設備や開発環境が充実したものになり、引いてはユーザーの手元に良質な製品やサービスを届けることができます。ゼンハイザーがヘッドホンのプレミアム・ブランドとして、これからもリーダーシップを発揮していくためにとても大事な活動の一つです。

日本の皆様が自国の生産品の高いクオリティを誇るときに「メイド・イン・ジャパン」という言葉を使われるように、ドイツでも「ジャーマン・クオリティ」という言葉があります。この「ジャーマン・クオリティ」を前面に掲げるゼンハイザーは、いつも誇りをかけて最高品質の商品をユーザーに届けなければならない使命を帯びています。イノベーションの先端に立ち続けながら、同時に商品の品質にも妥協しないことが肝心です。

ゼンハイザーは今年の3月に、本社敷地内に新しく「イノベーション・キャンパス」という施設をオープンしました。約7000平方メートルの広大なイノベーション・キャンパスの敷地内には、全てのゼンハイザーの社員が自由に使える多くのミーティングルームが設けられています。エンジニアから商品企画、営業・販売のスタッフまでが一堂に集まって、活発にディスカッションしながらより良いものづくりを探求できる場所です。人材を育てることは、これまでにもゼンハイザーが最も大切にしてきた取り組みの一つです。クリエイティブな仕事環境をつくることが、70周年を迎えたゼンハイザーがこの先も飛躍していくために大事な戦略の一つに他なりません。

高木 一郎氏完璧なサウンドを求め
音楽文化をけん引する

── 日本には、世界の中でも特にプレミアムヘッドホン・イヤホンに関心の高いユーザーが集まっています。

DSおっしゃる通りです。日本のヘッドホン・イヤホンユーザーからの声を丁寧に聞きながらニーズを理解することこそ、これからのゼンハイザーが未来に向けて正しい道を選択していくためには欠かせません。14年度の業績を振り返ってみても、日本を含むアジア・パシフィック地域は前年度比で30.9%の大きな成長を遂げました。これは特に日本市場でゼンハイザーのハイエンド商品の売り上げが好調に推移したためで、ブランド全体の収益性向上に大きく貢献しています。

日本のオーディオファイルの皆様が「完璧なサウンド」を求める情熱は、まさにゼンハイザーのコーポレート・ポリシーや企業文化に重なり合うのではないでしょうか。私も仕事だけでなく、プライベートで日本を訪れる機会を楽しみにしていますが、日本文化のクオリティに対するこだわりと誇りを敬愛してやみません。

これからゼンハイザーがますますプレミアム・ブランド戦略を強化していくにあたって、いかに日本市場からの声を正確に把握して、ものづくりへ柔軟に活かしていくことができるかという点が重要な鍵を握っていると感じています。そのためにこれから具体的な戦略を立てながらアクションを起こしていくことが肝要です。

── 70周年を超えたゼンハイザーは、これからどんな未来を実現していくのでしょうか。

DSコーポレート・ポリシーである「完璧なサウンド」を休むことなく追求していきます。この秋、日本でも70周年の記念イベントを盛大に開催することができました。会場でもお披露目させていただいた「ネクストマイルストーン」(本インタビュー実施後の11月3日に次世代のフラグシップモデル「HE1060/HEV1060」として正式発表)は、今後のゼンハイザーが向かう新たな道標と呼べる魂のこもった製品です。ヘッドホン・イヤホンを中心とするコンシューマービジネスは、これからも日本のファンの皆様をはじめ、世界中でゼンハイザーのプレミアムモデルを愛してくださる皆様の声に耳を傾けながら、期待に応えられる“ゼンハイザーらしい製品”を世に送り出していきます。新しいフラグシップモデルを皆様にお見せした今、私自身も改めて自らを奮い立たせています。

ゼンハイザーが手がけるオーディオ製品はヘッドホン・イヤホンに限りません。子会社であるノイマンのスピーカーシステムも含めて、プロフェッショナル向けのマイクロフォンやワイヤレスシステムまで、音楽リスニングに関わる全てのソリューションを手がけられることがゼンハイザーの誇りです。だからこそ、ゼンハイザーはこれからも音楽文化をけん引していくブランドでありたいと思います。

デジタルオーディオがプロフェッショナルの現場にも広く普及してきたことで、新しいビジネスが生まれ、より高品位なオーディオソリューションを求める声が高まりつつあります。このセグメントにもゼンハイザーらしい製品やサービスを提供できる可能性が溢れています。音楽文化をよりいっそう発展させるため、これからも技術革新への情熱を胸に「完璧なサウンド」を追い求める旅路を歩んでいきたいと思います。

◆PROFILE◆

Daniel Sennheiser
祖父は創業者フリッツ・ゼンハイザー、父は前CEOのヤルグ・ゼンハイザー。大学でプロダクトデザインを学んだ後、いくつかの企業でコミュニケーション、インタラクティブ、デザインなどの仕事に携わる。2008年、ゼンハイザー入社、2011年に役員就任。2013年7月1日よりCEOに就任、現在に至る

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