河野 明氏

ライフスタイルの変化に伴いニーズも変わる
住空間全体の視点で新たな価値訴求を図る
パナソニックコンシューマー マーケティング株式会社 社長
兼 パナソニック株式会社 アプライアンス社 CMJ本部 副本部長
河野 明氏
Akira Kouno

2018年の創業100周年に海外を含めた家電売上げ2.3兆円を掲げるパナソニック。重要な拠点となる日本市場で新たな価値を創造し、強力なチャネル政策を推進するPCMCの河野社長が、その意気込みを語る。

お客様に必要とされている「あなたの街のでんきやさん」
高齢化の中、店とお客様の絆は大きな強みとなる

新たな価値訴求を進め
単価アップを実現

── 現在の組織体制についてご説明ください。

河野パナソニックは中期計画CV2015「Cross-Value Innovation 2015」を推進しており、2015年度が最終年度に当たります。計画達成のための組織づくりとして、2013年に販売会社であるパナソニックコンシューマーマーケティング(PCMC)に、ソリューションとエンジニアリング部門をもつSE社と、サービス部門を担当するCS社を設立しました。さらに昨年の5月から、パナソニックの「家電本部」にあたるコンシューマーマーケティングジャパン本部(CMJ)が同じ建物に入り、意思決定が加速しました。

パナソニックには4つのカンパニーがありますが、今年度からはそれぞれのカンパニーの下に事業部が移管されています。PCMCはそれまでどこのカンパニーにも属さずに各商品を取り扱っていましたが、今年度からCMJとPCMCもコンシューマーの家電を手がけるアプライアンス社の傘下になりました。開発、製造、販売を一気通貫し、より高価値の商品をお客様にスピーディに届けることがこの体制に与えられた命題です。

会社全体として収益を上げるため何をすべきかがより明確になりましたが、日本地域に与えられた喫緊の課題のひとつはテレビの収益性を上げること。ただおかげさまで日本市場は4Kのウエイトが高まり、パナソニックも一定のシェアをいただいています。商品ラインナップの拡大でさらに4Kシフトを進めていく。日本地域でのテレビ事業は黒字化が間違いなく見えており、大きな手応えを感じています。

── 直近のテレビ販売への取り組みをご紹介ください。

河野当社は2020年の東京オリンピックに向け、デジタルAV家電の取り組みに注力しています。昨年からはオリンピックまでの5年間にまたがるロングランのキャンペーンとして「ビューティフルジャパン」のプロモーションを開始しました。オリンピックのオフィシャルスポンサーとして、その効果を最大限活用して参ります。

テレビはこれから、アナログ停波でピークとなった需要に対する買い替えサイクルに間違いなく入ってきます。その需要を4Kで取り込む。4K放送のスケジュールも具体化してくるでしょうし、2020年のオリンピックを見るもっとも素晴らしいテレビは4K、とアピールしていきます。デジタルAVC家電の宿命として単価ダウンは年を追うごとに進みますが、おかげさまでここにきて平均単価が上がっています。

パナソニックは「4Kワールド」を標榜し、映像を見るテレビだけでなく、動画や静止画撮影のカメラも、コンテンツを貯めるレコーダーも、すべて4K対応として群のつながりも訴求しています。またデジタルカメラの「4Kフォト」、レコーダーの“全録”モデルとして訴求している「全自動ディーガ」などの付加価値訴求が奏功しています。さらに違った角度でのテレビの価値を提案する「プライベートビエラ」は、想定の倍の20万台ほどが出ています。これらはまだまだ伸長の余地があり、今後しっかり訴求して参ります。

一方で、従来型のテレビの概念はそろそろ変えなくてはならないと思います。今のテレビの設置手段は大きなラックに頼り切りなのが現実。独ベルリンでの国際家電見本市であるIFA2015で、パナソニックは住空間全体への取り組みをアピールしましたが、そういう視点でテレビを捉え、もっとライフスタイルに沿った柔軟な置き方を追求する必要があります。今そのテーマに一生懸命取り組んでおりますから、そう遠くない将来に新たなご提案ができると思います。

家電はずっと機能を追って進化してきましたが、お客様のライフスタイルの変化に寄り添い、商品にはもっと多くの要素が求められて来ます。たとえば冷蔵庫はキッチンの一部として、天板の色や材質がインテリアにマッチするよう求められます。製品そのものだけでなく、それが空間に設置された時どうであるかまで捉まえ、変わらなければならないものはたくさんあると思います。

河野 明氏価格以外の価値が
大きな意味を持つ

── お客様のニーズを吸い上げ製品に活かすにあたって、御社の存在はますます重要です。

河野パナソニックは創業100周年となる2018年に、売上高10兆円以上の達成を目標としております。家電のカテゴリーでは2・3兆円。そのために今はさまざまな商品を仕込んでいるタイミングです。ただもちろんそこは通過点であり、2020年の東京オリンピック、さらにその先に向けても当然ながら価値訴求は続いていきます。お客様の選択基準が価格だけに行ってしまわないよう、より明確な特長を提案する。そこでお客様が納得される価値をどうつくっていくかが課題です。

── 昨今の販売店向けの取り組みはいかがでしょうか。

河野地域専門店様向けの店舗政策としては、5年前からN&E(ネットワーク&エコ)ハウス認定を推進しており、認定店は全国1600店ほどに拡大しました。ただ5年の歳月の中で、取り組みは一定の節目を迎えたと感じます。世の中のさまざまな変化、家電の状況やご販売店様を取り巻く状況の変化、それらを踏まえて政策もよりよい方向に変化しなくてはなりません。これからしっかりと対応していきたいと思います。

日本にはかつて地域ごとに商店街があり、いろいろなお店が「街の〜屋さん」として存在してきました。そうした個人事業主が経営するお店は今、どんどん消滅しつつあります。その中で「あなたの街のでんきやさん」はしっかりと残っておられる。それは、お客様がお店を必要としているから。だからこそ、大手量販店様やインターネットショップなどと競合することなくモノを買っていただけるのです。

世の中は変化しています。これまでのように数多く売っていく商売での価値基準は価格でした。価格をつきつめれば優位性があるのはネット販売。しかしここにきて価格以外のものさしが大きな意味を持っています。これからもネットショップはどんどん増えていくでしょうが、地域専門店さんの強みは、これからさらに輝きを増すと考えます。限定された商圏でのお客様との絆は大きな強み。それは高齢化が進む日本の社会の中で、いろいろな意味合いで見直されてくるでしょう。

また量販店様でも、それぞれの法人様が今さまざまな価値の訴求を模索しておられます。その地域でなくてはならないお店になれるかどうか。それは品揃え、接客のスキル、設置施工の品質、いろいろな要素があるでしょうが、最終的にお客様が「あそこで買ってよかった」と思ってくださることに帰結するでしょう。

地域専門店様と量販店様とは、戦う土俵が違います。大手量販店様が全国を席巻した20数年前はまったく様相が違い、その頃の地域専門店様はおそらく大きな危機感を感じておられたはずですが、その後大手量販店様と地域専門店様の活躍する場の違いは鮮明になってきました。

地域に密着した活動で価値訴求を図れている地域専門店様に対して、大手量販店様も法人様ごとにそれぞれ強みを持ち、自らの価値訴求に自信を持っておられます。これまで量販店様と言えば何より価格、他店より安い、というのが大きな価値でしたが、ここに来てそれぞれの法人様がテレビ宣伝などを通じ、特長をどんどんアピールされるようになりました。

我々は販売会社として、地域専門店さんに対しては店舗政策も含めてきめ細かなフォローをしております。一方大手量販店様に対しては商品政策。商品の価値をきっちりお客様に伝えるための売り場づくりをご提案します。そこから先は量販法人様自身がそれぞれの政策を展開していかれると思います。

我々のそうした販売店様向けの政策についても、流通・取引慣行ガイドラインの見直しなど少しずつ変化があります。我々はこれまで、すべての商品をすべてのチャネルで売っていただくことを基本としていましたが、ここ1年半ほどの間にチャネルを限定する商品も出てきて、それをはっきりと打ち出しています。その象徴的な存在はテクニクスのオーディオ商品。これは試聴環境が整ったお店だけに展開をお願いしております。また8月に発売した「ひざトレーナー」は、歩きながらひざ周りの筋肉を無理なく鍛えられるフィットネス機器ですが、お客様に詳しい商品説明をした上でのカウンセリング販売を行うため、当社指定の講習を受講したお店だけに販売を限定しています。

地域性やそれぞれ違ったお客様のニーズにより柔軟に応え、商品を投入すること。メーカーにとってはそこで投資に見合う利益の追求が求められます。我々の業界がこれまで苦しんで来たのは、たとえばテレビがそうであったように、莫大な投資にもかかわらずリターンが生まれてこなかったことがあったからです。これを繰り返していると、家電業界にはもう先がありません。それを打破するためにも、販売の窓口を絞った商品の展開は必要だと考えています。

河野 明氏「東京五輪」に止まらず
10年後の市場拡大へ

── テクニクスの展開では、今年のIFAで数々の新製品が出展されました。

河野2015年はテクニクス誕生50周年に当たり、新たにいくつもの製品を投入します。昨年度テクニクスでのオーディオ再参入を発表させていただいた当初は、やはり一気に多くの製品を手がけるのは難しく、第一弾はテクニクスの存在をシンボリックに象徴するリファレンス、そしてプレミアムの2シリーズの展開となりました。今年の新しいモデルはさまざまな角度からオーディオにアプローチする展開で、パナソニックとしてのテクニクスへの意気込みを感じ取っていただけるかと思います。オーディオの価値訴求を得意とする販売店様と手を取り合い、お客様への訴求をしっかり行って参ります。

── 商品展開もチャネル政策も、いろいろな意味で今転換期にありますね。

河野我々の組織はパナソニックの中で、日本地域における家電をメインに扱っている立場です。家電市場は成熟し、各カテゴリー商品の普及率も高く買い替えサイクルにある中で、商品の単価は下がっています。また国策や大型イベントに影響を受けやすく、需要の山谷も生じやすい。その状況を変えるためには、商品やチャネルの変化が必要です。目下のところの一番大きなエポックは2020年の東京オリンピックで、そこに向けて需要はゆるやかに上昇していくはず。我々もそのための仕掛けは施しています。

しかし市場はそこでなくなるわけではなく、むしろその後の展開を重視する必要があります。今から10年後の2025年には、国内の家電需要はどうなっていくか。今の延長線上での想定ではなく、そこで活発な需要がもたらされるような商品政策、チャネル政策を施す必要があります。それを今やらなければ間に合わない。

パナソニックが掲げる、2018年の家電の売上げ2兆円。その半分は国内の数字です。パナソニックにとって日本の家電は、非常に大きな位置づけなのです。そこを実現し、さらにもう1段高い目標に照準を合わせていく。今から着実に新たな手を打って、それを実現していきたいと思っています。

◆PROFILE◆

河野 明氏 Akira Kouno
1984年 (株)岩田屋に入社。1990年 松下電工(株)入社、2005年 松下電器産業(株)ナショナルウエルネスマーケティング本部に配属。2007年パナソニックコンシューマー マーケティング(株)LE九州社 社長。2011年 同社LE首都圏社 社長。2013年 同社SE社 社長。2015年 現職に就任。

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