宮城 謙二氏

もっと誰もが手軽に楽しめる提案で
ハイレゾを推進
体験を重視し新たなカルチャーを生み出す
オンキヨー&パイオニアイノベーションズ株式会社
代表取締役社長
宮城 謙二氏
Kenji Miyagi

パイオニアグループのホームAVや電話機、ヘッドホン関連事業を継承したオンキヨーの新組織オンキヨー&パイオニアイノベーションズ。配信サイトe−onkyo musicとの連携でハイレゾ機器を推進する同社の宮城社長が、今後の意気込みを語る。

ハイレゾで日本のオーディオブランドが
復活した証を見たい
世界を相手に強い気持ちで挑戦する

3つの強力なブランドの
シナジーを発揮する

── 今年3月2日より「オンキヨー&パイオニアイノベーションズ」としての新たなスタートが始まりました。

宮城オンキヨーとパイオニアが統合され、オンキヨー&パイオニア(OPC)、そして当社オンキヨー&パイオニアイノベーションズ(OPI)の2つの会社が誕生しました。OPCは主に据置型のオーディオやホームシアター機器を、当社はポータブルオーディオのカテゴリーで、ハイレゾ音源とヘッドホン、電話機を主に扱っており、今後はデジタルオーディオプレーヤーも扱います。ホームのカテゴリーは機器の開発期間も長期で投資額も大きいですが、ポータブルの機器は比較的短期間かつ部分的な開発投資で取り組めます。決定事項のスピードが違うそれぞれの組織を分けたということです。

当社はもともとオンキヨーグループ内で、インターネットを用いたネットワーク関連ビジネスを司っていたオンキヨーエンターテイメントテクノロジーに端を発し、オンキヨーとパイオニアの事業統合を機に、鳥取のオンキヨートレーディングも一緒にOPIとなりました。

当社の事業の核は、ハイレゾ音楽配信サイトの「e-onkyo music」。我々のビジネスの中で音源は最も重要な存在で、それを抜きにハードウェアは語れません。レコードやカセット、CDなどいろいろなフォーマットがありますが、我々はハイレゾに特化した音源と、さらにそれを再生するハードウェアをご提供する。そこにオンキヨー、パイオニア、フィリップスの3つのブランドが存在するのです。

フィリップスについては同ブランドの音響機器事業を担うウークスが昨年、我々とパートナーシップを築いているギブソングループの傘下になり、今年5月に「ギブソンイノベーションズ」に社名変更しました。現在我々と共に商品開発を行っているところです。

── 各ブランドの差別化は。

宮城それぞれのブランドは、もともとアイデンティティがはっきりしています。パイオニアはカーオーディオでもホームオーディオでも世界中で広く認知されており、オンキヨーはどちらかというと隙間に響く、プレミアムなブランドとして認知されたもの。フィリップスは欧州ナンバーワンのブランドで、オーディオも世界でトップ3に入る売上規模があり、高い技術力を持っています。

今後は3つのブランドの技術力を融合し、さまざまな展開を行っていきます。それぞれが違うキャラクターですから、いろいろな方向性が考えられますね。現にパイオニアとオンキヨーの技術の融合が実現し、パイオニアブランドとして商品化されたのがフラグシップヘッドホンの「SE-MASTER1」です。いろいろな材料が揃い、さまざまな戦略のもとに展開する。そのすべてにe-onkyoが絡んでいくということです。

── 宮城社長は海外でのご経験が長いそうですね。

宮城1990年の後半からアメリカ、その後ドイツを中心とした欧州で販売会社を預かって、昨年帰国した際にオンキヨーエンターテイメントテクノロジーの責任者となりました。

アメリカでは当時、オンキヨーがテキサス・インスツルメンツさんと一緒に世界初THX対応AVレシーバーを開発しました。家庭用シアターの商品化に本格的に着手したわけですが、AVレシーバーの開発はそう簡単ではなく、会社としてリソースをそこに集約する大きな決断を迫られました。しかしこれがアメリカの映画産業とホームシアターが融合し、うまい具合に花開いたのです。やがてホームシアター・イン・ナ・ボックスのような爆発的に売れたカテゴリーができたりもして、ホームシアターの大きな市場を創っていく良い勉強をさせていただきました。

いい音で手軽に聴く
新たな可能性を追求する

宮城 謙二氏── AVレシーバーのカテゴリーでは、グローバルでも日本のブランドが高い占有率を維持していますが、御社は市場のパイの大きいヘッドホンやDAPなどのカテゴリーでも力を発揮していくと発表されました。

宮城アメリカや欧州で、ホームシアターの形は変わってきました。我々がホームシアターを深く追求してきた一方で、もう少し手軽に音楽を楽しむ考え方が進んでいるのです。SONOSに代表される、ワイヤレススピーカーで家中で音楽を聴けるシステムが普及しており、パンドラ、スポティファイといった音楽のストリーミングサービスが盛んに広がっています。

我々は日本のメーカーとして、ここのトレンドに追いつけていなかった感はあります。ホームシアターをより深く追求することも大事ですが、もう一方でそうしたことにも着手する必要がある。ホームはOPCの領域ですが、我々もまた得意とする領域でトレンドをキャッチしていきたいと思います。

── やはりハイレゾがポイントですね。新たにカスタムイヤホンも投入されました。

宮城ヘッドホンやヘッドホンアンプ、DAPでハイレゾを聴きますと、オーディオのハイエンドシステムよりもずっと少ない投資でご満足いく音を楽しめる。それは今後につながる提案だと思います。このほどご提案したカスタムイヤホンは、昨年発表したスポーツイヤホンに次ぐシーメンス補聴器さんとの協業によるもの。両社にとってすばらしいシナジーとなりましたし、さらにここにパイオニアのスピーカーとヘッドホンの技術力も投入することができました。

イヤホン市場では多くのメーカーが参入していろいろな商品が出ています。その中でもカスタムは、自分の耳にフィットする唯一無二のものであり、音質の高さはもちろん遮音性も高く、耳に音量の負担もかかりにくいものとして付加価値をアピールできます。

現在は当社のショールームとシーメンス補聴器さんのショールームを中心に展開しています。耳型をとるなどお客様との対応の比重が高いですから目の届きやすいところでスタートし、シーメンス補聴器さんのご教示を仰ぎながらノウハウを確立したい。そしてサプライチェーンも問題ないということであれば、今後はカスタムイヤホンの重要性をご理解いただける販売店様とも是非協力させていただきたいと思います。まずは日本での拡がりに注力し、カスタムといえどももっと裾野を広げていければと考えています。

さらにこれから、もっとも注力するのはDAPです。新製品の投入は、できれば今年のクリスマスには間に合わせたい。ハイレゾ対応はもちろんですが、それ以上にオーディオプレーヤーとしてもっと認知されることを目指したい。iTunesやスポティファイの音源も、いいアンプを使えばいい音で鳴ることを証明したいという思いで、搭載アンプ部には独自技術と共に特に注力しています。ご期待ください。

宮城 謙二氏コンテンツとともに
ハイレゾの認知を広げる

── 現状でのe-onkyo musicの手応えは。

宮城まだまだですね。楽曲を揃えるだけではだめで、音質以外の部分でもお客様にどれだけ満足感をご提供できるかが今後の差別化のポイントです。2005年に11曲からスタートして、今それなりのポジションにはいますが、これまでと同じくらいの苦労をもう一度やっていかないと、さらに先へは進めません。ハイレゾの世界ではまだ利便性はほとんど追求されていません。もう少し使いやすくなることは、インターフェースとして一番重要です。ユーザー視点でこれをしっかりとやっていくのが最大の課題です。

メディアがレコードからCDに変遷した時と同じです。CDは広く理解され、ノイズのない再生のメリットが認知されました。それと同様にハイレゾのメリットが認知されるように行動するのです。ビジネスモデルとしては、コンテンツのパッケージがなく在庫が存在しないということになり、大きなメリットです。そういうアピールも含めて、ハイレゾでやれることはまだまだたくさんあるのです。

楽曲そのものはレーベルさんがお持ちですから、それを我々がお借りしてどれだけの付加価値をご提供できるか。サイトの使いやすさ、楽曲の中身をわかりやすくするなどといったところを手助けするインフラを整えていかなくては。また楽曲数にしても、今のままではお客様のご要望にまったくお応えできていない、まだまだスタート地点という認識です。

── 国内のオーディオ市況をどうご覧になりますか。

宮城市況そのものはかなり厳しいですね。商品の多様化で、お客様の投資対象がどんどん変化してきています。ここ数年はヘッドホン、イヤホンに投資される方は多く、市況の中心がこれらのカテゴリーにシフトする可能性は大きい。我々としてはOPCとともに、室内で手軽にハイレゾを楽しめる提案を積極的に行っていきたいと思います。

そこで重要なのは、啓発活動ですね。「Gibson Brands Show room TOKYO」を活用しながら、イベントや演奏会、セミナーなど、ハイレゾやドルビーアトモスの切り口でオーディオやホームシアターを楽しむアピールを、我々も積極的に行っています。体験は重要なキーワードとなります。やはり体験していただかなくては、いい音の楽しみはわからない。そこで新たなカルチャーを生み出していければと思っています。

今のところ、ハイレゾはまだまだ業界用語に過ぎません。これが一般のお客様にも広くご理解いただけるようでなければ、我々の将来はないと考えます。海外での認知度も低いですが、日本でも実際にはまだまだマーケットはごく小さく、もっと大きくしていかなくては業界が満足できるようなボリュームにはなりません。そのためには、マニアの方ももちろん重要ですが、一般の方へのアピールです。ハイレゾの言葉が浸透し、ミュージシャンの方々の発言にも頻繁に出てくるようにならなければ。草の根的なマーケティングも、広げていく必要があるかと思います。

いいものは広がっていくはずです。しかし今は、おそらく圧倒的に機器の種類が足りていないと認識しています。音源の方はレーベルさんのところに豊富に眠っていますから、それを発掘してハイレゾ化するのはモチベーションの問題です。我々はハードメーカーとして、ハードの選択肢をもっともっとお客様にご提供しなくてはいけません。そこが広がれば、ハイレゾは普及すると思います。

事業展開として決断するのは簡単ではありませんが、国内の多くの会社が参入するようになってようやく広がっていけるのではないでしょうか。商品が数多く存在すれば、お客様もこういうものを使った方がいいだろうと思ってくださると思います。今はたまたまスマートフォンやMP3プレーヤーが主ですが、これからは間違いなくお客様の指向はそことハイレゾプレーヤーとに2分すると思います。

ハイレゾで、日本のオーディオブランドが復活した証を見たいですね。世界を相手にそこまでのことをするには強いモチベーションが必要であり、挑戦意欲が出てきます。かつてアメリカでAVレシーバーの市場を立ち上げた時と同じように、必ずできると私は思っています。

◆PROFILE◆

宮城 謙二氏 Kenji Miyagi
1957年生まれ。1982年 オンキヨー入社。1998年 オンキヨーUSA社長に就任。2006年 オンキヨーヨーロッパ社長、2014年 オンキヨーエンターテイメントテクノロジー社長を経て、2015年に現職に就任。

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