渡辺潤一氏

プロジェクターで大画面文化を創造し
多くのお客様にその楽しさをアピールする
セイコーエプソン株式会社
取締役 ビジュアルプロダクツ事業部長
兼 事業基盤強化本部副本部長
渡辺 潤一氏
Junichi Watanabe

ビジュアルコミュニケーションの領域で取り組むプロジェクター事業で、20年間連続国内シェアNo.1を獲得するセイコーエプソン。常に新たな領域に挑戦し、お客様に高付加価値を提供し続ける同社の取り組みを、ビジュアルプロダクツ事業部長の渡辺氏が語る。

お客様が求めるものに全力でお応えする
そのために自らの技術を磨き極めていく

プロジェクターシェアNo.1
さらなる市場拡大に取り組む

── ビジュアルプロダクツ事業部の事業内容についてお伺いします。

渡辺プロジェクターと、新しい領域であるスマートグラスの商品を中心に展開しています。プロジェクターはビジネス系とホームシアター系の商品を幅広くご提案しており、今年で事業開始から27年目となります。

── 昨今の国内プロジェクター市場の動向はいかがでしょうか。

渡辺ビジネス系の国内市場は過去からずっと伸長し続け、2014年度の年間市場規模は約20万台ほど、当社のシェアは約60%でした。また直近の4月から6月ではシェア63%に達した状況です。当社は昨年度で20年連続となる国内1シェアを頂戴していますが、今後10年、20年と1を維持し、さらに市場そのものも拡大したい。その上でも2015年度は重要な節目の年になると認識しており、しっかり取り組んでいきたいと思っています。

ホーム系に関しては、フルHD機種の国内市場は2014年度でおよそ3万台強、当社はそこで約70%のシェアを頂戴しています。2013年度に当社がフルHDで10万円を切る価格帯のEH-TW5200を投入したことで市場が急激に拡大、今後もさらなる拡大が見込まれます。

── プロジェクターの有力な新製品がいくつも登場していますね。

渡辺ビジネス系では、この8月より4万円台〜10万円台前半の価格帯で7機種の新製品を発売しており、お求めやすさと使いやすさを兼ね備えたラインナップを充実させています。これまでは1280×800ドットの解像度であるWXGAの製品をエントリー機種群の最上位モデルとしてご提供していましたが、今回のラインナップでは図面や表計算ソフトも高精細に投写できる1920×1200ドットのWUXGAモデルEB-U32を加えました。お求めやすい価格の中で、プロフェッショナルな用途のお客様にも訴求して参ります。さらに全ラインナップで画面の歪みを補正する「ピタッと補正」や、映像信号を検知すると自動的にランプがつく機能を搭載するなど、使いやすさも向上しました。こうした内容は今後、高価格帯のモデルにまで共通化して参ります。

ホームプロジェクターでは、この4月に最上位モデルとして反射型液晶とレーザー光源を搭載した4K対応モデルEH-LS10000を発売しました。御社のVGPでも総合金賞を頂戴することができ、おかげさまで販売も大変好調です。他ホーム系ラインナップではEH-TW8200がこれに続き、さらに昨年発売の「超解像+ディテール強調機能」を新たに搭載したEH-TW6600。これに続くのが市場拡大に貢献したEH-TW5200ですが、このほどその後継機となる新製品EH-TW5350を発表しました。

新製品は、前機種と比較して明るさは2000ルーメンから2200ルーメンに、コントラストは15000対1から35000対1と飛躍的に改善しました。こうした基本スペックの向上に加え、ノイズリダクションやディテール強調、MPEGノイズリダクションといった進化した画質調整機能を盛り込んでいます。さらに、昨今多くの方がお使いになるスマートデバイスとの連携も強化され、ワイヤレスで動画や写真が投写できるようになりました。相当にブラッシュアップした内容となっています。

大画面の楽しみを
より多くのお客様に

渡辺潤一氏── 御社ではさまざまなお客様に対し、それぞれの用途に応えるさまざまなプロジェクターをラインナップとして展開しています。DVD一体型モデルが大きな市場提案を実現しましたが、TW-5350もスマートデバイスとの親和性で、大きなインパクトとなりそうですね。

渡辺私どもはプロジェクター市場をリードする立場として、文化を創造するという意志を持っています。お客様のニーズに密着し、ライフスタイルの変化に応えて利便性を追求していくことを強みとしています。お客様の映像の楽しみ方は大きく変化しており、その最たるところがスマートデバイスによるもの。若い方を中心にスマートフォンなど一人で映像を楽しむ状況が定着していますが、そうした気軽さを生かし、またご家族や友人などとも映像を楽しみたいというご要望に応えました。前モデルは主にディスク再生機やテレビチューナーをつなぐことが前提でしたが、TW-5350ではもっと気軽に大きな画面を楽しんでいただけます。ぜひ多くの方に訴求したいと思います。

── どんなお客様層をターゲットとされますか。

渡辺これは新たなチャレンジになると思います。現在エプソンのプロジェクターのお客様は、大半が30代後半から40代。もっと若年層の方々への提案は十分にできていなかったという反省がありますが、今回の新製品はそうした方々に向け、大画面の魅力をぜひアピールしたい。テレビよりもスマートフォンで映像を楽しむ傾向の若年層の方々に、プロジェクターの大画面映像に触れ、新たな楽しさに気づいていただきたいと思います。音楽も映像もスマートフォンを通じて一人で楽しむのが日常的な今、大切な方々との時間を共有することを、プロジェクターを通じて発見していただければと思います。

── ビジネスとホームのモデルはどう差別化していますか。

渡辺ホームプロジェクターでは、趣味性にもとづくこだわりも重要視しています。それは、一般的なコンテンツに採用されている16:9のアスペクト比の採用、そして大画面との組み合わせで大きな魅力を発揮する3Dへの対応、そして高いコントラスト。これらはビジネスモデルとは一線を画する内容です。

明るさと高いコントラストは本来両立できることが理想ですが、技術的な制約やコストの課題からどちらかに最適化することが求められます。ホームプロジェクターでは明るさ以上にきれいな色とコントラストを極めること、ビジネス系では明るい環境下での使用に対応して明るさを極めることに重点を置いているのです。

今回TW-5350に採用したスマートデバイスとの連携や無線LAN対応といった便利な機能は、ビジネスプロジェクターにも搭載しており、使い方としてどちらも同じことはできます。しかしホームプロジェクターは、お客様のエモーショナルな部分に訴えかけるものでありたい。商品の性能や機能をお伝えする以上に、それを使って味わえることや楽しさをしっかりお伝えする必要があると思います。

── アナログ停波に伴うテレビ販売によって、店頭では一時プロジェクターの訴求が疎かになりました。その後の反動でテレビ販売の苦戦が続く今、プロジェクターは再び魅力的な商材として認識されるタイミングになっていると思います。店頭で積極的に展開されることにより露出の機会が増え、これまで触れたことのない方々へのアピールにもつながりそうです。

渡辺これまでプロジェクターは一部の愛好家の方を除いては、学校の授業やビジネスのプレゼンテーションといった限られた場で使われるのがほとんどでした。我々はもっと幅広い使い方を、幅広いお客様にご提案したいと考えます。エントリーからハイエンドまでラインナップを展開するのもそのため。手軽に使えるところをもっと訴求していきたいと思います。

昨今ではプロジェクションマッピングなども広く浸透していますが、我々もプロフェッショナルや業務用途向けにプロジェクションマッピング、展示会、サイネージなどでも使用していただけるよう、高光束プロジェクターにも注力し、高精細かつ高い信頼性を備えたラインナップを展開しています。おかげさまでこうした業界からもエプソンのプロジェクターへの信頼性や色再現性をご評価いただきまして、これまでお付き合いの少なかったレンタル業界の方々からもお声をかけていただけるようになりました。

またプロジェクターの画面が明るくなり、明るい部屋で、スクリーンを気にせず壁に投写しても楽しめるようになりました。超単焦点にも注力し、狭い部屋が多い日本の住宅環境で、至近距離に置けて楽しめるご提案も続けていきたいと思います。

渡辺潤一氏技術力を極めて
新提案を連打する

── スマートグラスの昨今のお取り組みをご紹介ください。

渡辺第一号モデルは2011年のコンシューマー向けモベリオBT-100。2014年には進化した新モデルモベリオBT-200を発売し、昨年1年間の販売はおかげさまでほぼ計画どおりに推移しました。それに加えて6月にはBtoBモデルとして、スマートヘッドセット モベリオ プロBT-2000を発表し、9月から発売予定です。スマートグラスはコンシューマー向けで広く認知していただきながら、BtoBでのさまざまな要素をさらに探っていきたいと考えています。いろいろな使い方がこれから生まれるでしょう。拡大する市場として我々も期待していますし、我々自身も市場を創っていきたいと思います。

── 新製品投入で勢いが加速しますね。意気込みをお聞かせください。

渡辺エプソンは20年間プロジェクターの国内シェア1を貫き、市場開拓をけん引してきた自負があります。その源泉は、独自の技術力を使っての垂直統合です。エプソンの持つ液晶パネル、製造技術、そして開発から企画、販売からアフターサービスまで全てを一貫させ、お客様に寄り添ういい製品づくりを目指しています。エプソンの長期ビジョンには「究めて極める」という言葉があります。自分たちの技術を磨いて磨き抜いて、本当にお客様が求めるもの、使いやすいものを極める、技術陣がそういう執念を持って取り組んでいるのです。

ビジュアルプロダクツ事業部は2012年に松本市島内から安曇野市豊科へ移転しましたが、もともと工場だった豊科事業所を改装し、ワンフロアに仕切りのないスタッフルームをつくりました。広いスペースの中に1000人のスタッフが入り、全員がお互いを見渡せる環境です。何かあれば部署間を越えてミーティングもでき、問題や課題に迅速に対応できるようになっています。

製品開発には最新のシアタールームを活用しています。200インチのスクリーンを備えてEH-LS10000の映像を最新のドルビーアトモス音響システムとともに体感することができます。お客様へのプレゼンテーションにも使用していますが、今後は近隣の学校の児童や生徒さんを招待するなど、地域貢献にも活用するつもりです。

私どもの社員に対しても、自分たちが手がける製品がどんな効用をもたらすか身をもって体験する機会を持つことは重要だと思います。たとえばインタラクティブプロジェクターは実際に会議の場で使用してその使い勝手を実感するとともに、次の製品開発にも役立てています。またスタッフルームに隣接した広い集会室には壁一面を利用し700インチの映像を投写できるシステムがあります。こうした環境を自ら作り上げて顧客価値の創造を行うとともに、社内方針大会などでは従業員が一堂に会し、大画面体験を通じて皆で商品の価値を共有しているのです。

私どもは、自らの高い技術力とその垂直統合によって優れた製品を生み出せると自負しておりますが、これからも一層ものづくりのこだわりを極めて参ります。27年目を迎えたプロジェクター事業、市場拡大に向け魅力的な製品を続々とご提案して参りますので、ぜひともご期待ください。

◆PROFILE◆

渡辺潤一氏 Junichi Watanabe
東京都出身。1985年4月(株)諏訪精工舎(現セイコーエプソン(株))入社。2005年11月VI生産管理部長 兼 機器調達部長、2011年11月 VI生産管理部長 兼 Pプロジェクト部長。2013年6月 ビジュアルプロダクツ事業部長。2014年6月 取締役就任、2015年6月 事業基盤強化本部副本部長を兼務、現在に至る。

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