巻頭言

液状化現象

和田光征
WADA KOHSEI

私は2001年、iPodがアップルから発売された時、これはソニーの製品だと思い、業界の行く末を正直憂えた。オーディオは結局音楽を楽しむものだが、それが圧倒的な量のデータ音源を手軽に再生できるとなると旧来の常識を一変させることになる。こうした異変は次々と様々な形として業界を席巻し、ワールドワイドなボーダレス時代を迎えるとともに従来の業界の不文律も変形させ、従来の常識は氷解してしまうのではないかと危惧した。そのことは現在、極を迎えていると言えるであろう。

また私は、Googleの台頭、その検索のシステムの登場によって世の中は一変すると思っていた。一方Yahoo!のような検索サイトは、トップページにコンテンツを並べ、次々にアクセスしながら目的に辿りつく構造となっており、そこに違和感を覚えた。現象、つまり自分が識りたいことばや関連現象語をストレートに入力すれば大量の情報が瞬時にキャッチできるGoogle検索は、やがて圧倒的支持を得ることとなった。

スマホの時代はGoogle検索によって生み出されたと言える。事実、Yahoo!は今年度は創業以来の営業減益の可能性が高いと言われているが、不振の元凶はパソコンからスマートフォンへ進行する構造変化に対応できていないからだと言われている。

このことはまさに、従来の常識と化したものを溶解し、新たな秩序へと変質させるものである。さらにハイスピードで世界のしくみを変えていくだろうと思う。それは人間社会を根本的に変えるものであり、同時に負の要素も拡散するだろう。世の中がここまでボーダレスになり、ものごとが制御不能になる時代が創られようとしている。

そして、それは人間社会、国家を巻き込み、地勢的要素や時間軸を超えて広がっていく。例えば紀元前2000年から始まる歴史も過去のものとして滞らず、現世へと呼び戻される。それが要因となって人間の尊厳や人権といった様々な要素が軽んじられ、「イスラム国」等の現象として顕在化する。それはさらに大国をも巻き込んでいくだろう。これに対する国際連合のようなしくみはボーダレスで弱体化、なおかつ大国も大国としての姿が消滅する道にあると言っても過言ではない。国家もボーダレス化されていく、それはまさに液状化現象と言えるだろう。

人間は国家を構成している。しかし、北アフリカからヨーロッパへ、豊かな場所を目指すということで遥な生命の安寧の場所へと移動するボートピープルも存在する。

ボーダレス化した時代の情報は、スマホで見聞きできる。国家という領域を超えて移動するのである。現在は紛争地域に見られる現象もボーダレスによって制御できなくなる。やがて国境という概念が抜け落ちていく。つまり、植民地主義によって連邦という線が引かれてきたことが、人々の意識から薄れていき、それが今までに全くなかった様々なことを生み出して、液状化させていくのではないかと思う。ウィンドウズ95から僅か20年で激変したボーダレスと液状化現象は、これから20年の間にさらに加速され、人類は全く別の価値世界を見ることとなるだろう。

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