中川晋治氏

チャレンジし修正し、
次につなぐことを繰り返し
新しいマーケットは創れるのです
株式会社ディーアンドエムホールディングス
取締役 ジャパン・セールス&オペレーション プレジデント
兼APACチーフ・ファイナンシャル・オフィサー
中川 圭史氏
Yoshifumi Nakagawa

デノン、マランツの2大ブランドを展開し、国内オーディオ市場をけん引するディーアンドエム。同社の取締役に新たに就任した中川氏が意気込みを語る。転機を迎えた国内オーディオ市場に、新たな可能性を切り開く。

社内でのコミュニケーションの質を高めることは
お客様や販売店様へのご提案が
きちんとできることにもつながります

2大ブランドの差別化と
新市場の創造に着手

── ディーアンドエムで日本のセールスアンドオペレーションのプレジデント、アジア・パシフィックのCFOに就任された中川さんにご登場いただきました。

中川私は1988年に当時の日本コロムビアに入社し、海外事業部で1990年にドイツに出向したのを皮切りに、10年強の間海外におりました。欧州で販売会社のコントロール、アメリカで販売会社でのサプライチェーン業務や輸出業、また現地で調達したスピーカーの輸入ビジネスなどを経験しました。

当時はCDが全盛で、欧州のCDプレーヤーのアンチダンピングの障壁に対し、メーカー各社が現地での生産と販売に着手していました。欧州でのCDプレーヤーの販売量は日本とは桁違いに多く、その時現地でのデノンブランドの評価の高さを目の当たりにしました。

しかしその後赴任したアメリカではデノンはまだ十分に浸透できておらず、状況を打破するためにAVレシーバーの販売拡大に取り組みました。90年代前半は景気も悪く、アメリカではAVRで1000ドル以上のマーケットはないと言われていました。価値訴求が困難な、非常に狭い価格帯に留まらざるを得ない状況です。

我々はそこでお客様の求める機能をきっちり見極めて商品展開をしたところ、お客様に対して音楽や映画の新しい楽しみ方をご提案することができたと思います。結果として2000ドル、3000ドルのマーケットを創出できました。これが発端となりAVRのカテゴリーは世界的にもブームとなりましたが、従来の常識を覆して新たなマーケットを創ったことは、我々にとって非常に大きな自信になりました。

その後2001年に日本に戻り、2002年にデノンと日本マランツがディーアンドエムになる際の統合のプロセスをセグメント毎に推進する業務のリーダーとなりました。特に海外の販売、サプライチェーン、ファイナンスの統合リーダーとして、2つの会社の融合を図るプロジェクトに従事したかたちです。

2004年からデノンブランドカンパニーのコントローラー、2008年にコーポ―レートの経営企画、2009年からはブランドグループジャパンでデノン、マランツ、プロのブランドを統括する事業体のコントローラーを勤めました。そして今年2月からティム・ベイリーの役目を引き継いで日本の組織の責任者、6月30日からは取締役の立場としてアジア・パシフィックの開発、製造、サプライチェーンのファイナンスの責任者という2つの役割を担っています。

── デノンとマランツの統合は、オーディオ業界での大きなセンセーションでした。

中川異なる文化を持つ会社の統合は難しいことです。当初まずお客様に影響のない部分の統合を図り、ロジスティクス、サプライチェーンといったところから着手していきました。あとはバックオフィスの経理や総務、財務などですね。

そして大きな課題だったのはデノン、マランツの2大ブランドの棲み分け。それは非常に困難でした。それぞれのブランドのポジショニングは国や地域によっても異なり、答えは1つではないのです。そういった意味でも整合性を取るのに当時非常に苦労しましたが、プロジェクトチームでそれぞれの地域をレビューして、どうあるべきか、どういう方向性でいくかを相当に議論しました。

それぞれのマーケットシェアの違いは、各地域でのお客様からの評価の表れです。いいところとよくないところの差がなぜ生じるのかを分析し、どう最適化できるかを議論しましたが、そうした業務に従事できたことは、今振り返ると非常に貴重な経験でした。そしてデノンとマランツについては、音づくりやデザイン面で明確な差別化ができ、お客様に納得のいく評価を得ていると自負しています。

また現在では、国内の営業体制が完全にひとつになりました。営業はややもすると売れるもの、売りやすいもの、得意なものに傾倒しがちですが、今は組織の中で情報の共有を徹底し、何がどう売れているか、どこに伸び代があるか、訴求ポイントが何かを皆でシェアして考えられるようになりました。販売店様からも当社に対して厚い信頼をいただき、大変ありがたく思います。今後ともお困りごとは何でもご相談いただきたいと思います。

国内市場に広がる
新たな可能性

中川圭史氏── 昨今の国内オーディオ市場をどうご覧になりますか。

中川国内市場は十数年来落ち続けてはいますが、今いい兆候が出てきて、ハイファイが見直される時代になったと感じます。大きな顧客層である団塊世代が縮小していく一方、団塊ジュニアやさらに若い世代が音楽に入りやすい環境が整備され、音楽に接する時間は間違いなく延びた。そうした方々が高級ヘッドホンやDACを体験し、いい音の感動を覚えるシーンも増えており、ハイファイに少しずつ意識が向いてきていると感じられます。

そこに訴求するのは従来型のハイファイ機器だけではなく、USB DACやヘッドホンアンプ、ハイレゾ再生に関連する新しい製品群。我々はそれをデジタライゼーションとして新たにカテゴライズし、注力展開しています。

── デジタライゼーションシリーズはヘッドホン、イヤホン市場のお客様にハイファイの気づきをもたらすものとして非常に注目されます。

中川そうした効果はかなり出ていると感じます。また日本では80%の方がパッケージメディアを聴いていますから、我々は今迄の強みであるアナログプレーヤーやCDプレーヤーもきっちり展開したい。ここにデジタライゼーションを融合させた提案として、6月にCDプレーヤーDCD-50も発売しました。今年の国内での製品展開はこれに加えてAVR、そして我々がレガシーと呼ぶコアカテゴリーである、ピュアなハイファイについても発表を控えるものがあります。ぜひご期待いただきたいと思います。

国内マーケットの基盤はハイファイ。そこはきちんとやって参ります。ここが揺るぎなく存在してこそ、デジタライゼーションやヘッドホンのカテゴリーもしっかりと訴求できると思っています。デノンとマランツの2大ブランドで、お客様に納得していただけるクオリティを提供していきます。

── いよいよ国内でも、音楽のストリーミングサービスが本格的に始まりました。

中川ストリーミングサービスは欧米ではすでに広く浸透していますが、オーディオの新たな可能性も広がっています。ワイヤレス・マルチルーム・オーディオシステムと呼ぶカテゴリーで、この市場は2010年に100億円ほどの規模だったものが現在すでに1000億円を超え、今年度は1500億円、2018年にはおそらく3000億円を超えると思われます。その原動力となっているのが配信音楽の存在で、ストリーミングサービスが国内でも始まったことは、我々も非常に好意的にみています。

我々は昨年から欧米で、このカテゴリーに関連するHEOS(ホームエンターテイメントオペレーティングシステム)という製品を発売しました。マルチルームのワイヤレスオーディオシステムで、ストリーミングのコンテンツを含めスマートフォンやタブレットに入っている音楽を、いろいろな場所に置いたスピーカーへ同時送信したり、エリア別に違うコンテンツを送信したりできます。

外ではモバイルデバイスとイヤホンで、家の中ではスピーカーでといった、音楽をシームレスに楽しむ新たな提案ができます。我々にとってこれはデジタライゼーションシリーズとも違った、新たな市場を創造するものとなります。すでに北欧を中心に非常に高く評価されていますが、国内でもストリーミングサービスが浸透すれば、いずれこうした製品群も展開しやすくなりそうです。

コミュニケーション力を高め
組織を強化する

中川圭史氏── オーディオ市場は明るくなってきますね。

中川ヘッドホンでしか音楽を聴かれたことのない方がまだたくさんいらっしゃいますが、空気の振動を感じ、スピーカーで聴く楽しさをご提案するのは我々の使命だと思います。そうした方々が年を経て、インドアでの音楽の楽しみ方にも目覚めてくだされば。そのためにも専門店様の存在はますます重要になってきます。

専門店様の強みは、オーディオの知識の高さに加え、個々のお客様に合ったソリューションを提供できること。アンプひとつ、スピーカーひとつの選択や、それらをどう組み合わせるか、またアクセサリーを絡めてなどさまざま。積み重ねたご経験と知識で、お客様に感動をもたらし続けることができます。専門店様に対するお客様の導線の確保、また魅力的な提案を常に行う方策を、我々は一緒に考えていきたいと思います。

アメリカで体験したように、マーケットは創れるのです。違うセグメントをどう結びつけるか、そこにはいろいろなアイデアもあります。ひとつひとつチャレンジし、結果を見て修正し、次の新しいことにつなげていく。そういうことの繰り返しが大事だと思います。

── マーケット創造のために、何を重視されますか。

中川やはり組織の人材づくりだと思います。営業や開発、サプライチェーンといったすべての組織の中で、まずお客様を知り、目指すところを共有化した共通の価値観として認識しなくてはなりません。

大きな会社は組織が縦割りになりがちで、我々もその弊害を感じてきましたが、今は組織をコンパクトにして動きやすくなりました。違う部門間でも互いが何をしているか理解し、会社の価値をどこまで高められるかを一丸となって考えていく。そのためにコミュニケーションの改善も行いました。設計がハイファイをどう考え、製造がどう苦労し、その結果どのように商品がマーケットに出ていくか。ビジョンを共有し、互いのやっていることを理解し合い、熱い情熱をお客様や販売店様にお届けする。

その繰り返しで組織は強くなっていきます。そしてコミュニケーションの質と頻度を高めることは、社内に止まらずお客様や販売店様にきちんとご提案ができることにつながります。今後もそういうところに腐心しながら、市場の活性化に貢献して参ります。

◆PROFILE◆

中川圭史氏 Yoshifumi Nakagawa
1988年に日本コロムビア(株)に入社。ドイツ及びアメリカの販社においてコントローラーとしてマネジメントにあたる。2002年のD&M設立後は全体の経営計画とコンシューマー機器部門の戦略策定を担当。2015年6月より現職。

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