菊池 康男氏

4Kは限られた層に
アピールするものでなく
誰にでも使いやすいテレビとして訴求する
三菱電機株式会社
リビング・デジタルメディア事業本部
家電映情事業部長
菊池 康男氏
Yasuo Kikuchi

生活家電の基本の機能を極め、お客様満足をもたらす提案で市場を刺激する三菱電機が、同社初の4Kテレビを発表した。画質、音質、デザインの価値を幅広いお客様へのベネフィットとして訴求していく。発売に向けた意気込みを、菊池事業部長に聞く。

 

お客様が喜ぶ提案でマーケットの拡大を目指す
その結果として単価アップが図っていける

市場の停滞感の中で
4Kがテレビをけん引

── 昨今の市場の手応えはいかがですか。

菊池 BtoBの分野は堅調で、FA、パワー系の半導体、ロボット、ビル関係は比較的安定的に投資が続いています。省エネ化や改善、効率化、人手不足を解消する投資も間違いなく進んでいます。しかしそれを受けての消費材、特に家電全般はすっきりしません。

マーケット全体は昨年の夏から今年の5月頃まで停滞し、その後も期待ほどの回復はないまま夏の天候不順を経て、今もお金があまり回っていない印象です。白物はその影響をもっとも受けて、大物商品が前年を上回らない状況が続いています。高付加価値商品はそれなりに出ており、プライスの安いものも動いていますが、本来一番ボリュームを稼ぐべき中間ゾーン、ほどよい価格と機能の商品の動きがよくないですね。

テレビの場合、4Kが単価を引き上げています。地デジ移行の3〜4年前の売れ方が異常で、テレビのプライスは、本来の役割や機能から、また海外のプライスから見ても大きく下落しました。今はようやく価格が戻りつつあるようです。

4Kのプライスラインは30万円以上になりますが、お客様があまり躊躇せず買えるのは20万円以内だと考えられ、このプライスが今後も続くかはわかりません。4Kが全体に占める台数ウェイトはまだ5%弱、導入期の高額商品の動きか、それとも一般の買い替えの動きなのか、見極めは必要です。

白物の場合は根本的に、生活において必要な基本機能が脈々と存在し、そこをベースに時代時代で求められる傾向や、家族構成などでニーズが変わって来ます。テレビの場合はコンテンツを見せる部分で、生活に則した情報収集と、趣味やパーソナルな楽しさを表現する側面とがあります。そのバランスがどう動くかを見極めるのが問題です。

特に4Kは情報収集の方向だけでなく、私どもも写真など趣味の世界へのアプローチ、ネットワーク機能、ハイブリッドキャストなどいろいろな拡がりを提示していますが、ニーズがどの方向に行くかはわかりません。まずは映像装置の本質的な機能として、画像と音声で情報をきちんと伝え、見る方がよりいい気持ちになっていただければと思います。

── 御社はこのほど満を持して4Kテレビを投入されました。4Kテレビは昨年来各社が商品を投入し、今年はサイズに選択肢も出て普及につながる動きが見えていますが、そういう中で本質をしっかりと追求し、あらためて高い価値訴求ができると思います。

菊池 私どもの家電商品は冷蔵庫もエアコンもテレビも、根本的にその本質を大事にしています。新商品のポイントも非常にシンプルに、画質、音質、そしてこれだけの大きなものを部屋に置くに際して必要となるデザイン性と、テレビがもつ本質的な機能を追求しました。

一方で4Kのゾーンのお客様が求める画質や音、デザインがすべてのテレビのニーズをカバーするとは思っていません。今回は65 インチ、58インチと大きなサイズを投入しましたが、我々としてはもともと2Kで展開していたサイズに4Kを投入してもあまり意味はないと考えます。4Kはある一定以上の画面サイズのマーケットであると見ています。下の方のサイズは2Kかまた別の形態か、パーソナルか業務用か。色々なマーケットでそれぞれのお客様のニーズに合わせ、棲み分けがなされます。ニーズに対応していく中でひとつの領域として4Kがあるのであって、何から何まで4Kで展開するのではありません。4Kの高画素のメリットを活かすには50インチ以上、それより下のサイズではよさが活きないのではと思います。

テレビの本質を極め
幅広いお客様にアピール

菊池氏── 今回の4Kテレビは、ターゲット層をどうお考えですか。

菊池我々の4Kテレビのご提案は、趣味性の高さを追求する狭められた領域で特定の方に限定するものではありません。放送コンテンツをよりリアルに表現でき、実物と同じような質感で映像を再生できる。これはどんなお客様にとっても大きなメリットになると思います。今4Kの放送コンテンツは試験放送以外にありませんが、2Kの放送もアップコンバートで解像度が上がってきれいに見える。そういう価値をどれだけきちんと伝えられるかが重要です。

また大きな画面、高い解像度で見ると、文字なども見えやすくなります。年配の方にとっても、小さいテレビでわかりにくい思いをされるより、しっかり情報をキャッチしていただけると思います。読み上げ機能や音で伝える番組表なども標準搭載していますし、この4Kテレビはある意味ユニバーサルデザイン対応なのです。どなたに対しても、使いやすいテレビだと思っています。

画質がきれいで音がいい、そして使いやすいテレビは一般にも受け入れられると考えています。ただそれを実現する対価としてプライスはそれなりになりますので、そういう意味ですべてのお客様向けではないでしょう。しかし使用する場面で使い手を選ぶものではありません。選ぶのはあくまでも、お客様の側であると考えます。

── 4Kを加えて御社のテレビはラインナップも広がりました。店頭訴求はどのようになさるのでしょうか。

菊池4KのLS1シリーズは、バックライトに赤色レーザーとシアン色LEDを採用しており、立体感のある映像の表現を実現しました。こうした画の美しさを動画でも静止画でも体感いただけるよう、店頭用の素材も用意しております。またダイヤトーンのスピーカーを採用して、音についても迫力と臨場感、そして聴きやすさを体感していただけると思います。スピーカーをあえて見せるデザインには、外観からも音のよさを伝える意図があります。また2KのLSRシリーズ、BHRシリーズはHDDとBDを入れて「見る」「録る」「残す」の3in1機能を搭載し、他社との差別化を図っています。ここは4Kとはお客様層が違いますから、しっかりと区別した価値訴求を行って参ります。

販売チャネルとしては、家電量販店様と、私ども専用のストアチャネルが中心となります。そうした地域の電気専門店様にとっても、4Kテレビが従来以上に単価を上げる商材になると期待しています。

今ある領域を超えて
テレビの可能性を追求

── 4Kの提案がテレビの市場で突破口を開きそうですね。

菊池この3年ほど黒物のウェイトが減り、地デジ移行前に比べても金額規模は4割以上落ちました。流通の皆様方は白物だけでなく住設やゲームなどに注力し、さまざまな工夫で金額規模を確保されています。

ここでテレビがある程度挽回してきますと、全体の単価持ち上げ効果が期待できます。1台単価30万円のものが安定的に出るようになると、流通様としても予算がとりやすいこともあり、この秋以降の全体の売り場構成のバランスは、どの法人様も4Kでの単価アップを期待する内容になっています。テレビ売り場は一時期ぐっと縮小されましたが、最近は4Kを中心に広がって来ており、我々としてもタイムリーな時期にご提案できたかと思います。

我々は、どんな商品でもマーケットを広げたいという思いがあります。4Kはこうして、今までとは違うマーケットを広げる可能性があると思っています。またエアコンは、暖房機能を強化して北海道や東北地区の拡販を推進しますし、冷蔵庫は、食品保管庫としての役割も重視し大容量モデルを提案しています。お客様に喜んでいただくご提案でマーケットの拡大を目指し、結果として全体の単価が上がっていけばと考えます。

一方でコミュニケーションにも注力します。これまで店頭などを通じた間接的なコミュニケーションが中心でしたが、我々から直接お客様に対して発信していきます。わかりやすい商品をつくる一方で、商品をわかりやすくお伝えすることも大事だと思います。今回はテレビに関しても、テレビやそれ以外のメディアを使った広告宣伝、そして店頭展示での販促演出、これらを組み合わせて展開して参ります。

── 御社の家電事業の中で、テレビはどのように位置づけられますか。

菊池今回の4Kテレビへの参入で、三菱電機のテレビ事業への真剣な取り組みをアピールしました。インターネットなどが広がっても、情報伝達手段として放送はまだまだ主軸で、その対応はしっかりやる必要があると思っています。 また家庭向けのテレビだけに特化するのでなく、それ以外でも映像表示装置の可能性を追求していきます。さらに時代の中でステージが変化していけば技術でキャッチアップし、さらにその先へいかなければならないと思います。

私ども三菱電機の事業は、黒物白物の区分でなく、一般居住領域、つまり家全体の視点から生活する上で必要な機器を総合的に扱っているのです。空調、換気、照明、エネルギー創出、生活家電、調理家電、映像家電の7つの事業領域で、家全体を複合的にコントロールし、いずれはHEMSにつながってどんどん進化していくでしょう。

そうした中でのテレビは、マンマシーンのインタフェースと同様です。スマートハウス事業の中で、キーコンポーネントとしての映像表示装置と捉えます。空調や換気などの強みとも関連させ、優位性を確保していきたいと思います。 住宅というひとつのユニットは未来永劫まで残ると考えられますから、その単位でのベネフィットを確保する電気機器はカバーします。一方でBtoBの非居住分野、店やビルや工場などは三菱電機の非常に強い分野ですから、そこも当然追求していきます。どちらの領域でも、相手によって異なるニーズをしっかりと捉えて新たなご提案をして参りたいと思います。

◆PROFILE◆

菊池 康男氏 Yasuo Kikuchi
1959年生まれ、茨城県出身。82年4月 三菱電機(株)入社。01年6月 静岡製作所 営業部 冷蔵庫営業統轄部長、04年4月 リビング・デジタルメディア事業本部 販路部 次長、10年4月 リビング・デジタルメディア事業本部 販路部長。13年4月より家電事業部長。14年4月より現職。

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