市川博文氏

お客様の音楽の楽しみ方が変化する中でも
良い音をきちんと訴求してビジネスの成長につなげたい
株式会社ディーアンドエムホールディングス
代表取締役 CTO CSBU
デザインセンター プレジデント
市川博文氏
Hirofumi Ichikawa

国内オーディオ市場をけん引するデノン、マランツの2大ブランドから、ハイファイの強力なる新商品が登場した。いい音≠軸に、ハイコンポ、ヘッドホンとシチュエーションに応じた商品展開で、次なる拡大を見据える両ブランドを有するディーアンドエムホールディングス。同社の市川氏に、意気込みを聞く。

 

専業メーカーの真骨頂を発揮できるハイファイ分野では
ブランドの音をしっかりと訴求していく

堅調な手応えの中
価値訴求を推進する

── 国内では昨今、全体に明るい兆しが見えていますが、オーディオの状況をどのようにご覧になりますか。

市川 デノン、マランツブランドで展開する商品カテゴリー全般では、比較的安定した状況にあるのではないかと思います。

まず、ハイファイカテゴリーは、数量ベースは微増ですが、価格帯別には、高価格帯の商品に手応えを感じています。チャネル別では特に大型販売店様は前年対比で伸長しており、オーディオ専門店様も、高額品中心に良い状況が続いています。また、Eコマースを中心としたチャネルも比較的堅調な状況です。全体にまだ伸長の余地もあると見ています。ハイコンポ関係でも、ネットワーク機能を搭載した商品が中心となり、市場をけん引している状況が見られます。 一方でホームシアター関連は、全体的に数量ベースは伸びていますが、直近に限っては4Kなど新しい規格の登場でお客様の買い控えの傾向があり、高価格帯の商品、AVアンプなどコンポーネント製品は厳しい状況にあるかと思います。一方でサウンドバー関連商品はファミリー層を中心にご支持いただいており好調な状況を保っています。

映像と音楽は、コンテンツを楽しむということでは密接に関わっており、相乗効果でお客様に感動を与えます。薄型テレビの需要が一巡して買い替え需要が生まれ、テレビ販売でもさらに高画質・高付加価値のものが求められる状況になっています。しかし、まだ“音”に対しては不満を持つお客様が多いようです。そこに我々オーディオ専業メーカーにとってのチャンスがあります。テレビまわりの音を改善したり、それを楽しむ市場には伸び代を感じますし、ここは販売店様にも期待されているところと思います。

── 地デジ放送への移行の際、テレビ販売が一旦大きく混乱して低迷しましたが、これがリセットの作用となって今ようやく本当にお薦めすべきものが何か、それをどう訴求すべきかが店頭でもしっかり実践できるようになったと思います。昨今はEコマースも拡大していますが、量販店、専門店も含めてそれぞれに違った特色をもつこれらのチャネルに対して、どういった対策をとっておられますか。

市川 基本的には、新たなチャネルと従来のチャネルが共存する形で、正しい情報が発信され、お客様に商品の価値を提案できていければ、お互いにWin−Winの関係を築けるのではないかと思っています。Eコマースチャネルが先行して拡大している欧米でも我々は自らのブランドや商品の価値を訴求することを中心に展開してきました。日本でもそうしていきたいと考えています。

── メリットの違いを踏まえてチャネルを選ぶのはお客様ですから、それに対してどのチャネルに対しても真摯に対応していくということですね。

市川 そうですね、オーディオの専業メーカーとして我々が開発した商品をしっかりと訴求していただける販売店様、商品の魅力を生かした音楽の楽しみ方をお客様に提案していただける販売店様と、強固なパートナーシップを組ませていただきたいと思っています。

核となるのは音
そこから価値を拡げる

市川博文氏── 今年御社では、ピュアオーディオの強力商品を次々に投入されており、期待が高まります。

市川 ピュアオーディオの商品については、デノンブランドでは、SACDプレーヤーの最上級モデルである「DCD-SX1」、マランツブランドでは、USB-DAC/SACDプレーヤー「SA-14S1」とプリメインアンプ「PM-14S1」といった核となる商品を始め、強力なモデルを発売しています。

ここはオーディオの専業メーカーとしての真骨頂を発揮できる分野です。自分たちの商品開発の規範になる音、求めている音をしっかりと訴求できる商品が必要ですし、お客様も常にそれを期待されていると思います。単なるモデルチェンジではなく、メーカーとしてエンジニアが新しく生み出した技術を搭載し、さらにグレードアップした音質をお客様に楽しんでいただく、この努力を継続することが重要だと考えています。

そしてハイコンポのラインナップの充実にも重点的に取り組んでいます。モバイル音源やストリーミングコンテンツの高音質再生を重視したもの、機能やデザイン、もちろん音質的にもステップアップした商品を考えています。

夏から発売しておりますマランツブランドの「M-CR610」が大変好調です。クラシックなデザインにネットワーク機能を搭載してモバイル音源のコンテンツ再生などにも対応したものです。またデノンブランドの商品群も今後さらに充実させていきたいと思います。

これらに加えてワイヤレスのミュージックシステムや、ヘッドホンのカテゴリーについても、今後拡充を図っていきます。

── ヘッドホンについては昨年来商品を大々的に投入されていますが、手応えはいかがですか。

市川 オーソドックスなタイプの商品は、我々も長年手がけてきましたが、昨年からは生活のさまざまなシーンに合わせたライフスタイル型の商品の提案も開始しました。そこで、幾つかの発見がありました。例えば、新提案の「エクササイズフリーク」はスポーツシーンを想定したものですが、ライフスタイル型の商品であっても最終的に我々の決め手になるのはやはり音なのです。音が良いからデノンを選んだという多くのお客様の声に、それこそが我々の訴求ポイントだと実感し、さらにお客様の好みに合わせて商品の特徴づけを行うことの重要さを改めて確認できました。

「エクササイズフリーク」は当初の3色の展開から、さらにバラエティに富んだ色の展開や、ラインナップの幅を広げていこうと考えています。またオーディオファン層をターゲットにしたモデルにも商品を加えヘッドホンのカテゴリーも より充実させていきたいですね。

── 2チャンネルのオーディオ市場は堅調とはいえ、新規のお客様に対するアピールが進んでいません。イヤホン、ヘッドホンは伸長していますが、そこからピュアオーディオの入り口としてスピーカーで音を聴くことについてはもう一歩訴求が踏み込めていない状況です。

市川 潜在的に音楽を楽しまれているお客様は増えていますし、その楽しみ方は 多様化しています。薄型テレビを通じて映画などのコンテンツを家で楽しむ、スマートフォンを通じて移動しながらでもいつでもどこでも音楽を楽しむ。いずれのシチュエーションでも、いかに良い音を訴求するかが我々の使命だと認識しています。我々はオーディオ専業メーカーとしてお客様の音楽の楽しみ方が変化する中で、音について妥協することなく、常に良いものをきちんと訴求していくことで、我々のビジネスの成長につなげたいと考えています。

また、お客様自身が、音楽を携帯プレーヤーとイヤホンの世界で楽しむところからスピーカーで聴くところへ導くためには、“接続性”がひとつのキーになると思います。従来は、文字通り結線しなくてはなりませんでしたが、今はブルートゥースやWi-Fiなど無線の手段もある。ここで手軽さ、快適さ、そしてスピーカーで音楽を聴くことの良さをお客様に実感していただくことができれば、ハイコンポ、ピュアオーディオのチャンスも広がると思います。我々としてもここで、モバイル機器とも簡単に接続できるコンポーネント商品群をさらに提案していきたいと思います。

復活を遂げた国内拠点から
さらなる飛躍を図る

── 音は御社にとって絶対的な価値。そしてそれをもっとお求めやすく、またライフスタイルのさまざまなシチュエーションに対して、と提案のバリエーションが広がるということですね。

市川 我々の核となるのはやはりハイファイオーディオ。デノンもマランツもそれで成長してきたブランドなのですから、そこは引き続きブレることなく妥協せずやっていきます。

ディーアンドエムは、今後もビジネスを拡大・成長させるために、新しい商品群にチャレンジしていきます。しかし、一方で我々は、今まで、ある意味頑固にオーディオ専業メーカーとしての位置を守ってきましたし、今後もそうあるつもりです。オーディオメーカーとして築いてきたハイファイを核として積極的に周辺の商品ラインを広げていく。この考え方は、この先も変えるつもりはありません。

── 国内の拠点となる白河工場が稼働を再開し、ものづくりをけん引していますね。

市川 白河工場は、東日本大震災で非常に大きな被害を受けましたが、その後順調に稼働しています。我々は日本の中でも未だにコツコツと生産を続けている会社であり、白河工場はその核となるハイエンド、Hi-Fiオーディオ商品の生産を担う非常に重要な拠点です。

震災では、生産ラインに加えて設計の拠点も非常に大きなダメージを受けました。3ヵ月以上も使えなかったような状況でしたが、工場のスタッフの努力もあって震災後わずかな期間で仮操業が開始でき、半年ぐらいでなんとか元の状態に戻すことができました。その際は、ご販売店の皆様から非常に厚いご支援をいただきましたし、部品メーカーさまにも色々と助けていただきました。この場を借りて皆様に厚くお礼申し上げます。

この震災のダメージからの回復後も円高など厳しい状況が続いてきましたが、ようやくここに来て一服ついたというところです。そうしたことを踏まえても、震災からの復興は、我々が引き続きハイエンドを一生懸命やっていく力を与えていただいたという思いです。

── 日本のものづくりの拠点という視点からも、大事なところです。

市川 我々はグローバルなメーカー・ブランドではありますが、やはり今まで自分たちがブランドとして長年にわたり築いてきたものを、将来にしっかりと繋げていきたいと思います。

── まずは年末商戦ですね。これからの商品展開を含め、大きな期待がかかります。

市川 ご販売店様のお力をお借りしながら、しっかり推進して参ります。ぜひご期待いただきたいと思います。

◆PROFILE◆

市川博文氏 Hirofumi Ichikawa
静岡県出身。1981年 日本コロムビア(株)入社。設計部にてデノンの民生機器の企画、開発を担当。初のAVアンプ「AVC-500」「AVC-2000」、プリメインアンプ「PMA-2000」など数々のオーディオ、AV機器の開発に携わる。2001年 (株)デノン 商品企画部長、設計部長を経て、D&Mホールディングス設立後の2004年にデノンブランドカンパニーのプレジデントに就く。2007年 D&Mホールディングス執行役に就任。2009年 同社取締役。2011年より現職。

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