藤本勇治氏

リビングに家族団らんの風景を取り戻す
テレビ復権の切り札「Smart TV Box」
ジャパンケーブルネット(株)
代表取締役社長
藤本勇治氏
Yuji Fujimoto

テレビの復権が家族団らんの場としてのリビングを創造させると、ジャパンケーブルネットが普及へ向け渾身の力を振り絞る「Smart TV Box」。ケーブルテレビ発のスマートテレビサービスとして、その動向が注目されている。高齢化、防災対策など、地域とは切り離せない社会テーマからも、ケーブルテレビの存在が今、大きくクローズアップされている。ダイナミックな動きが期待される新たな年へ向けた意気込みを、藤本社長に聞く。

 

お客様に何かあればすぐに訪問
顔を見ながら説明ができます

 

「SmartTV Box」が
テレビ新時代を切り拓く

── 昨年11月28日より、Android4.0を搭載したセットトップボックス「SmartTV Box」の提供が開始されました。同製品では発表会も催され、テレビ市場に元気がない中で、「テレビの復権によってお茶の間を変える」と力強い発言もありました。本製品導入にかける狙い、思いをお聞かせください。

藤本 Smart TV Box」に対しては、すべてのリソースをかけるほどの意気込みでいます。若い人のテレビ離れも指摘されますが、これから20年、30年先になっても、お茶の間からテレビがなくなることはありません。ただ、限られた時間を効率的に使いながら、趣味や嗜好が多様化するライフスタイルの変化を背景に、これからはオンデマンド型がもっと普及してくると考えています。

恐らく、今のような放送波をそのまま流すスタイルだけでは大変厳しくなるやに感じています。そのような中で事業の成長を考えた時に、大きな開拓の余地が残されているのがインターネットの世界です。ケーブルテレビの場合は、特に50代以上の世帯から、何かあった時にはすぐに家まで来てくれるという安心感から高い信頼を得ており、多くの通信事業者に対して実績においても決して負けてはいません。

そのインターネットの世界で今、課題とされているのが、スマートフォンの普及などを背景とした固定回線離れです。我々にはそれを守るための武器が求められており、そうした中で登場したのが「Smart TV Box」なのです。

「Smart TV Box」には、多チャンネル放送と固定ブロードバンドの両方の契約が必要となります。また、昨年、一昨年にテレビを買い替えられたばかりのお客様でも、今あるテレビにつないでいただくだけで、単なるインターネット接続テレビではない、本当のスマートテレビを手に入れることができる画期的なサービスです。スマートフォンが一気呵成に普及していったような潮目を、今、テレビの世界にも肌で感じています。潮目というのは、「変わるかな?」というときに、「まだいいかな」という消極的な判断をしていると必ず痛い目に会う。真っ先に潮流に乗った者が勝つ。スマートテレビが今まさに、ブレイク前夜にあり、そこへ登場したのが「Smart TV Box」なのです。

── デジタル化により、商品が複雑化していく中で、もっとも身近なテレビという商品の進化において、高齢者世帯へのアプローチに大きな強みを持つケーブルテレビ会社からの提案という点が大いに注目されます。

藤本 Smart TV Boxの投入後1ヵ月程度の動向では、興味を示しているのはやはり若い人たちです。少しくくりが大きくなりますが、7割以上を60歳未満のお客様で占めています。われわれのお客様の構成比は50歳以上が半数を超えていますので、これまでケーブルテレビに対する関心が低かった若い層を開拓する意味では興味深いです。その一方で、60代、70代の方のお申し込みも着実にありますが、比率的にはまだマイナーであり、高齢者世帯にも広く受け入れてもらうことが今後の課題となります。

高齢層のお客様には、「スマートテレビとはどういうものなのか」というところから丁寧にお話していかなければなりません。しかし、Smart TV Boxを通してインターネットの世界に恐れることなく慣れてもらうことができれば、生活をより豊かにすることができます。例えば、今の地デジの番組に対し、高齢層のお客様から「あまり見たい番組がない」という声がよく聞かれます。しかし、インターネットを簡単に検索できるようになれば、ユーチューブやニコニコ動画など、ウェブの世界には楽しめるコンテンツが無尽蔵にあることを知ってもらえるのです。

インターネットもパソコンだと一人で壁に向かう閉じられた世界ですが、Smart TV Boxならご夫婦で一緒に楽しむことができます。お孫さんが来たら一緒にゲームも楽しめる。そうした団らんの場を創る切り札が、「Smart TV Box」なのです。

高齢層のお客様に対しては、部屋の中での見守りサービスや、健康データを蓄積して病院へ送るサービスなど、健康・生活に関連したアプリも充実させていきたいと考えています。これからの高齢化社会においても大きな意味を持つ商品・サービスになると確信しています。

── Smart TV Boxを利用できるサービス「JCN スマートテレビ」では、タブレットを同時購入するコースもご用意されている点が目を引きます。

藤本 セットトップボックスのリモコンも、高齢層のお客様にとっては、操作は決してかんたんではありません。スマートテレビならではの面白さを実感していただくためにも、できればタブレットを併せて購入いただきたいと考えています。タブレット付きのコースは月額料金で1575円のアップとなるため、当初は1割程度ではないかと予測していましたが、現在、3割ほどとなっています。

料理等のレシピでも、タブレットならキッチンまで持って行って、見ながら料理ができますし、トリプルチューナー搭載ですから、テレビを見ながら別の番組を録画して、さらに、2つめのスクリーンとなるタブレットで自分の寝室で楽しむといった使い方もできます。アプリのひとつとして提供しているトランプゲームの「大富豪」では、タブレットを使うと自分の手札はタブレットに表示され、カードを切ると、カードがテレビ画面に飛んでいくように見える、これまでにはなかった臨場感たっぷりの楽しみ方も可能になりました。

スマートテレビの面白さや便利さを本当に知ろうとすると、マルチスクリーンの価値はぐんと上がってきます。すでに、予想を上回るお客様から敏感に反応していただいており、今後、もう少し買いやすい工夫を行っていきたいと検討しているところです。

── 大画面化により家族をリビングに引き寄せたテレビに、もう一度、そのチャンスが巡ってきたわけですね。

藤本 ケータイの普及によって大きく文化が変わりました。しかし今では、家族がバラバラになることを加速するなど負の面が表れていることも否めません。お茶の間のテレビの前にせっかく家族が集まったのに、子どもたちはずっとスマホやケータイとにらめっこしている。そんな光景も珍しくないのです。

そこへ、テレビを復権させることによりもう一度、お茶の間の家族を楽しませたいのです。家族が同じ画面を見て一緒に笑ったり、遊んだりして楽しむ時間を、Smart TV Boxなら取り戻すことができます。発表会のときに、「テレビの復権によってお茶の間を変える」というメッセージを送ったのは、このような思いからなのです。メーカー、家電販売店、また、コンテンツを制作される方などが一緒になって、「テレビを復権させることで家族の絆を取り戻そう」を合言葉に頑張っていかなければならないと思います。

藤本勇治氏高齢化社会や地域発展に不可欠
“地域密着”は最大の強み

── ケーブルテレビは地域密着が大きな強みのひとつになります。さきほどの高齢者視点のお話にも表れているように、強みを活かした大きな役割が期待されています。強みが発揮された例として、コミュニティチャンネルの「にっぽんケーブルチャンネル」があります。

藤本 コミュニティチャンネルには本当に良質な番組が数多くあります。制作費の関係から、NHKさんのようなかっこいいものはできませんが、中身の深さには自負を持っております。

「にっぽんケーブルチャンネル」は日本各地のCATV事業者が制作する地域の番組を集めて、昨年10月1日の放送開始以来、大変大きな反響をいただいています。JCNが主にカバーする首都圏でも、半分以上の方が首都圏以外の出身者とのことです。私も関西出身です。地域ならではの故郷の情報として喜んで見ていただいていますし、もちろん、これまで知られていなかったお祭りや日本の地域文化に触れられる番組としてもお楽しみいただいております。

このような地域の情報が日本全国から集まってくることで、JCNのブランドも上がってきます。全国の物産品も扱っている通販会社さんからは早速、コマーシャルの契約もいただけました。そうした収入は、コミュニティチャンネルの番組の質の向上や制作費のかかる生放送の時間を増やすことに使っていく方針です。

今では、「県の宣伝をさせてほしい」「県人会の人に情報を知らせたい」などいろいろな話が寄せられるほどになりました。地方文化の活性化や、首都圏にいながらにして自分の故郷に接することができる特性を活かし、もっと多様な可能性がありますから、メディアとしての価値もさらにぐんと拡がってくると思います。

── このような有意義な番組の存在をより多くの人に知っていただくためにも、JCNのブランド戦略が注目されますが、親会社であるKDDIのスマートフォンと組み合わせた「auスマートバリュー」が大変好評とお聞きしています。

藤本 「auスマートバリュー」による新規加入者獲得は追い風となっていますが、それでは、KDDIを常に前面に出していけばいいのかというと、必ずしもそうではありません。Smart TV Boxのケースでは、「これはauのお客様向けなのですよね」と誤解をされているお客様も少なくありません。KDDIという知名度もケースバイケースで使い分けていく必要があるでしょう。

── 秋にはJ:COMさんとの経営統合も控えておりますが、2013年の抱負をお聞かせください。

藤本 今回のJ:COMさんとの経営統合の話でも言えることですが、JCNは地場に密着していることが最大の特長であり、コミュニティチャンネルの視聴率も大変高い。お客様に何かあったらすぐに訪問し、顔を見ながら説明させていただくことができる。そうした安心感をJ:COMというブランドにプラスオンしていくことで、ケーブルテレビとしての強みがさらに増していくと考えています。

ケーブルテレビは単なるローカルのサービスではありません。技術的にも最先端にある、ナショナルワイドのサービスです。さらに、地域の発展に不可欠な地場に密着しているという固有の強みを備えたサービスなのです。その存在価値を、きちんと啓発していかなければならないと感じております。

そのためには、日本のケーブルテレビ全体で1つのブランドやイメージをかついだり、或いは、良質のコミュニティチャンネルをお互いに提供しあうことも必要です。そこで、日本ケーブルテレビ連盟で共通のプラットフォームづくりの検討がはじまりました。例えば、ライブカメラなどとも連携すれば、これからの旅先の地域情報を得たり、お客様が引っ越した場合にも、移転前の情報をそっくり引越し先のケーブルテレビが受け継ぐことができたりするようになります。

すでに総務省が中心になり、ケーブルテレビのアプリケーションソフトの共通化へ向けた第1回の会合が開催されています。高齢化社会が進む中で、ケーブルテレビはこのような問題に大きく貢献することができる存在なのです。JCNはそれぞれの地域と防災協定を結んでおり、地震などの災害時に、自治体が住民に向けて音声で放送する防災行政無線の情報を、JCNのコミュニティチャンネルのデータ放送で表示するプラットフォームの提供も開始しています。また、コミュニティFMとも連携し、緊急時に取材協力して、住民の皆様に情報を提供するなどの体制を整えつつあります。

ケーブルテレビは、小さな街で完結しているサービスのように受け取られがちですが、実は、日本全国のサービスを地域ごとにアレンジしたサービスなのです。そのようなメジャー感≠ノ加えて、総務省をはじめとして行政が期待する地方自治や住民の安全のために不可欠な存在であることを、さらに力強く訴えて参りたいと存じます。

◆PROFILE◆

藤本勇治氏 Yuji Fujimoto
1950年7月18日生まれ。東京大学法学部卒業。1989年1月 日本移動通信(株)(現KDDI(株))入社。2003年4月 KDDI(株)執行役員 au事業本部 au営業本部長。2004年4月 執行役員 経営戦略本部長。2005年4月 執行役員 モバイルソリューション事業本部 モバイルソリューション事業企画本部長。2006年4月 理事 コンシューマ事業統括本部 ケーブル事業推進室長、ジャパンケーブルネット(株)取締役(非常勤)。2010年4月 KDDI(株)理事 コンシューマ事業本部 ケーブル事業推進本部長。2011年4月 ジャパンケーブルネット(株)特別理事。2011年6月 同社 代表取締役社長。ジャパンケーブルネットホールディングス(株)代表取締役社長。現在に至る。趣味は陶芸、ダイビング、スキー、園芸他。座右の銘は信義誠実。

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