荒木 茂氏

高いクオリティにこだわりながら
お客様の暮らしの向上に取り組む
三菱電機(株)
リビング・デジタルメディア事業本部
家電事業部長
荒木 茂氏
Shigeru Araki

三菱電機の家庭電器事業部門はこのほど、「SMART QUALITY」という新コンセプトを掲げ、これにもとづく成長戦略として、スマートハウスやビルまるごと、工場まるごとの最適化も視野に入れた取り組みを発表した。お客様の暮らしのクオリティを向上させる新たな価値提案、その展開における意気込みを、家電事業部長の荒木氏が語る。

 

機器同士をつなげたベネフィット
さらなる省エネ、節電を追求する

新たなコンセプトの宣言
SMART QUALITY

── 先日発表された「SMART QUALITY」は、御社の家庭電器事業部門における新たな方向性を示す非常に重要なコンセプトです。我々音元出版ではアワード「スマート家電グランプリ」を創設しますが、「スマート家電」とはスマートフォンで何かができるものと限定するのではなく、家まるごとすべての家電を対象に、「我々の暮らしを向上させてくれる家電」と考えます。今回の御社のお取り組みに大変共感しております。

荒木 昨年3月11日の東日本大震災以降、我々の生活には大きな変化がありました。生活者の意識や価値観に変化が芽生え、安全・安心、社会や家族とのつながりが重視されています。一方、電力インフラの問題も取り沙汰され、スマートグリッド、スマートハウス、節電や発電・蓄電のシステム構築の必要性が高まっています。こうした世の中の変化を捉え、当社家庭電器事業部門で新たに掲げたコンセプトが「SMART QUALITY」なのです。

当社家庭電器事業部門では2004年からユニバーサルデザインとエコを表す「ユニ&エコ」、2009年からさらなるエコを推進する「ユニ&エコチェンジ」、2010年から少子高齢化社会に対応して高度な機能を楽に使いこなして暮らしを楽しくする「らく楽アシスト」を推進してきました。さらに2011年から我慢しない快適な節電を提案する「節電アシスト」を加えました。

今回のコンセプトは、「らく楽アシスト」「節電アシスト」の考え方を踏襲しつつ、「ユニ&エコチェンジ」を「SMART QUALITY」に進化させました。「あしたを、暮らしやすく。SMART QUALITY」と表現し、目指すのは「賢い、つながる、ムダがないスマートな技術で、社会・暮らし・製品・人をつなぎ、明日の暮らしのクオリティ向上を実現する」ことです。

三菱電機は高いクオリティへのこだわり、本当に大切なことを大事にする姿勢を原点としています。リビング・デジタルメディア事業本部としての「SMART QUALITY」の取り組み姿勢は、「社会から暮らしまで」「顧客視点」「品質重視」「本物志向」の4つにこだわります。調理家電や家事家電の枠にとどまらず、映像情報・給湯暖房・太陽光発電、さらに換気空調・照明の7つの事業分野(※)をしっかりつないでいく展開とします。また家庭内の家電にとどまらず、社会との関係やビルなど建物や製造業との関係も視野に入れます。(※7つの事業分野=調理家電・家事家電・映像情報・給湯暖房・太陽光発電・換気空調・照明)

── 「SMART QUALITY」で大事にしていくという「本当に大切なこと」とは何でしょうか。

荒木 社会と暮らし、製品と人をどうつないで行くかがポイントになります。単に機器の機能を取り沙汰するのでなく、機器同士をどのようにつなげ、お客様にどのようなベネフィットを提供できるのか、そしてどのように省エネ、節電対応ができるのかが、今後重要視されると思います。一方で品質、本物志向は欠かせないものです。お客様視点のマーケティングを徹底し、三菱ならではのこだわりをもった提案内容が問われると思います。

新製品は本質的な性能の高さと
さらなる省エネを追求

── 白物家電は特に生活に密着した存在で、お客様によっては価格重視の価値観もありますが、「SMART QUALITY」の考え方は、そうしたお客様までも対象とするのでしょうか。

荒木 価値観や消費に対する考え方はお客様によってさまざまです。すべての考え方にお応えするのは不可能であり、どのセグメントをターゲットとするかがポイントだと思います。しかし昨年3月11日以降、お客様の購買行動は、それまでは価格重視の考え方が高いプライオリティを占めていたのが、省エネや節電においてより良いものをお求めになるような変化が見受けられます。

例えばルームエアコンは、夏の暑さがピークを迎える8月は、冷えれば良いと低価格帯が売れる時期ですが、昨年や今年は省エネや節電機能に優れた高級タイプが売れました。冷蔵庫も同じ傾向にあり、お客様の意識や購買行動の変化が感じます。

そういう意味では、当社が従来品や他社の商品と比較して、いかに良い提案ができるかが問われます。夏の午後2時頃からの電力需要のピーク、その山場をどう凌ぐかというピークシフトにも関心が集まり始めました。そこに機器が自動的に対応できるような機能が求められています。

荒木 茂氏── 従来節電というと、いかに電気代を節約できるかという考えでしたが、昨今原発などエネルギー問題が取り沙汰され、電気をいかに節約するかが重要視され、少しでも貢献しようという価値観に変わってきたと思います。そこで省エネ家電の存在感がますます高まり、高機能家電は富裕層だけでなく、生活者が普通に抵抗感なく購入するものになってきていると思います。

白物家電は、そういう付加価値を正しく提案できる市場があります。テレビを始めとするAVの市場が困難な状況になっている中では、こうした状況は非常に喜ばしく感じられます。今回発表された新製品では、「SMART QUALITY」のコンセプト以前に、冷蔵庫は冷蔵庫として、エアコンはエアコンとしての本質的な機能がしっかりと追求されているところも素晴らしいですね。

荒木 ルームエアコンはより一層の省エネを目指しています。ルームエアコンをつけたままでトイレや風呂に入る、ちょっとした外出をするような時間帯がありますが、ここでセンサー機能を使って自動的にルームエアコンの出力をコントロールし、つけっぱなしの無駄や再起動時の無駄を省きます。

また冷蔵庫の課題は設置スペースです。限りあるスペースの中でより大容量を求めたいという声に応え、新商品は新たな断熱材を開発して、大容量化を実現しました。省エネ性能もおそらく業界トップクラスだと思います。こうしたことで、お客様の買い替えニーズに対応していきます。

── こうした商品の個々の特徴と、全体としての「SMART QUALITY」のコンセプト、お客様にはそれぞれをどのようなかたちで訴求されるのでしょうか。

荒木 全体のコンセプトと個々の特長について、包括した訴求を目指します。賢い制御機能が「SMART QUALITY」のひとつであり、そこを強調していきます。さらに部屋の変化や冷蔵庫内の変化をどう検知するか、そしてスペースを無駄なく効果的に使える設計やデザイン、これらを「SMART QUALITY」の意味を込めていきます。そして、今までは個々の機種で機能を追求してきましたが、今後は機器同士がつながって、ピークシフトに対応するようなことを目指していきます。これはスマートハウスを視野に入れた進め方をしていくべきだと思います。

── 今後、HEMSを含めたスマートハウスに至る展開となってきますと、お客様の現実の生活と理想のスマートハウスとのギャップをどう解消するかということも課題になるかと思います。

荒木 いくつかのケースが考えられます。新築の際は、家電品の買い替えも含めてスマートハウスとして対応できます。リフォームは、これまでの状態も残しつつ、一部家電品を買い替えることもできるでしょう。家はそのままいじらず、一部家電品を買い替える際に他の家電との連動性を商品の選び方をするということもできるでしょう。この3つ目のケースが最も多くなるので、そこに様々な提案をしていきたいと思います。

これまで家電は、単品ごとに寿命を迎えて買い替えられました。今後「SMART QUALITY」でつながるシステム連動ができるようになれば、個々の買い替え時期がずれたとしても連動性を保つ必要があります。この考え方は単年度で完結させるのでなく、継続されるべきものです。機器同士がそれぞれ数年を経て違う時期に買い替えられても、共通したシステム制御があればお客様にご満足いただけます。そうした視点を常に持ち続けなくてはなりません。

新コンセプトを訴求するための
新たなアプローチが必要

── 家電同士がつながって新たな価値が生まれるようになってきますと、店頭訴求はどのようになってくるでしょうか。従来の店頭では、個々の商品の特徴を際立たせる訴求に止まると思われます。これでは「SMART QUALITY」の本質は伝えきれません。

荒木 店頭訴求も大きく変わるだろうと思います。現在の店頭は商品毎の展示や提案の場となっていますが、今後はつながるシステム連動をどう伝えていくかが課題です。量販店の店頭のみならず、お客様の生活に密着した地域店の存在もより重要になります。

当社家庭電器事業部門は、調理家電・家事家電・映像情報・給湯暖房・太陽光発電・換気空調・照明と7つの事業分野をもっていますが、ここまでの展開をしているメーカーは少なく、様々なご提案ができる可能性があります。今後の新たな提案やお客様への訴求の仕方をどうするかは重要なポイントだと思います。商品企画や開発の段階で、お客様への訴求の仕方も含めて考えていかなくてはなりません。そうでなくてはせっかくの提案も伝わりません。

── 今回発表されたエアコンと冷蔵庫を皮切りに、これから順次「SMART QUALITY」コンセプトの新たな製品が登場してくるわけですね。

荒木 そこにAV商品も含まれます。「SMART QUALITY」としてさまざまな展開をしていく際、AVの位置づけは重要なものになります。また今後は家電同士のみならず、インテリア性や家具とのつながりといった考え方も重要になります。そういう意味でも、家具店やインテリアショップ、リフォームショップといったところでもどんな提案ができるかを考えていかなくてはならないでしょう。生活トータルのアプローチを意識していかないとうまくいかない、とあらためて思います。

── 家電同士がつながる、また高級機が多機能化していくとなると危惧されるのは、まさにその方向性を突き詰めてAVがグローバル競争に負けてしまったということです。高機能なものがどの地域でも絶対に売れるわけではなく、それぞれに価値観は違います。

荒木 グローバルな戦い方は商品それぞれで違うと思います。当社家庭電器事業部門は基本的に国内の市場を対象にしています。日本は少子高齢化市場であり、その中で変わらないのは「らく楽アシスト」の考え方です。今後も重要視していかなくてはいけないコンセプトだと思います。「らく楽アシスト」「節電アシスト」のコンセプトに、昨年3月11日以降の価値観に応える「SMART QUALITY」をトータルコンセプトとして傘の位置付けで付加し、良いもの、他社とは違うものを打ち出していく、そこが頑張りどころだと思います。幸いにもルームエアコンや冷蔵庫は、韓国や中国メーカーに負けている状況ではありません。それは日本の消費者の望むものに対する提案、マーケティングと開発力でリードできているのだと思います。今後も「SMART QUALITY」を通じて、ひと味違う切り口の提案ができると思っています。

◆PROFILE◆

荒木 茂氏 Shigeru Araki
1956年10月17日生まれ。宮城県出身。1980年三菱電機(株)入社。販売会社などを経験し、2006年京都製作所営業部長を経て、2010年リビング・デジタルメディア事業本部家電事業部長に就任、現在に至る。好きな言葉は「反省すれども後悔せず」。

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