細野昭雄氏

デジタルライフの豊かさの根底に必要なのは
信頼を得られる徹底したお客様目線
(株)アイ・オー・データ機器
代表取締役社長
細野昭雄氏
Akio Hosono

大きな変革期に直面し、“つなぐ”のキーワードが一層クローズアップされるデジタルAV市場。お客様に対する付加価値提案の実践に欠かせない無線LANやNASなど、キラーアイテムを展開するアイ・オー・データ機器の取り組みに注目が集まる。複雑化する市場の中で、ベネフィットをいかにわかりやすくお客様に伝えていくことができるか。むずかしくも避けられない課題に対する同社の市場創造戦略を、細野昭雄社長に聞いた。

 

Wi-Fiチューナーの存在が
これから当たり前になってきます

大きな転換期に
伝えることの大切さ

── 今年のCESでも、各社からスマートテレビの提案が大きく打ち出されました。テレビおよびそのビジネスは、大きな転機を迎えています。

細野 地デジ化とエコポイント制度を背景に、過去2年間だけでも約4500万台のデジタルテレビが出荷されましたが、購入されたお客様は決して満足されてはいないのではと考えています。確かに、大きな画面になり、ハイビジョンで映像も美しくなりました。しかしその一方で、「こんなものなんだ」と裏切られた気持ちがあるのではないでしょうか。

そのひとつの背景として、ネットワーク回線につながっているテレビが非常に少ないことが挙げられます。10台に1台という話も聞きますが、実際にはさらに程遠いレベルにあるのが実情です。今後、「スマートテレビ」という方向へ進んでいくにしても、まずは、ネットワーク回線にテレビをつなぐとこんなに便利になる、楽しくなるということを、少しずつでもいいから伝えていくことが前提ではないでしょうか。いまこそ本当にユーザーの立場に立って、考え、提案していく責務があると思います。

テレビを取り巻く環境は大きく変化し、もはや流れてくる番組を見るだけのものではないわけですから、「売ってしまった、あとはもう知りません」では、次の提案につながりません。しかも、若い人の間ではスマートフォンなど、ある意味で、テレビに代替する手段が台頭してきています。テレビ離れも指摘されていますが、本当にこのままではテレビは見向きもされなくなる、そんなリスクをもっと身近に受け止めなければなりません。

テレビは10年使うという認識が一般的ですが、今は、4年前、5年前のテレビでさえ、消費電力ひとつとっても大きな差があります。「もう地デジ化で買い替えたから大丈夫」という気持ちが、お客様はもちろんですが、販売する側にも需要を喚起する上でブレーキをかけてしまっています。2台目、3台目の需要で、別の部屋でも見られるDLNA(DTCP-IP)の提案が目に付き始めましたが、ここでも、リビングにある4年前、5年前に購入したテレビでは、DLNA(DTCP-IP)に対応していたものは決して多くありません。

── お客様にとって理解しにくい、説明する側も難しいということもあり、まだまだ踏み込んだ提案が十分に行えていません。

細野 例えば、テレビにもUSB端子が搭載されていますが、現在接続されているものはほとんどUSB HDDに限られています。もっと色々なデバイスがつながるのに、周辺機器メーカーとして提案しきれていないことを歯がゆく思います。

外付けのUSB HDDや地デジ化に伴う地デジチューナーは需要が大きく伸長しましたが、これらは一時のビジネスではなく、次のビジネスへのきっかけづくりでもあったのですが、必ずしもうまくいっていません。その点については、ご販売店各社も同じような思いではないでしょうか。

もう一度原点に立ち返って、きちんと説明していけば、ビジネスチャンスもまだまだあると思います。DLNAの啓発などもそのひとつですし、また、スマートメーターの日本での規格が3月にようやく決定されましたが、情報の表示デバイスのひとつになるテレビとの連携も、これからの大きなビジネスになってきます。

── デジタルネットワーク時代の付加価値の訴求において、売り場の問題をはじめ、様々な解決すべきハードルがあります。著作権もそのひとつで、例えば、せっかくの面白いアイデアの商品が、著作権の問題で発売できないといったこともありました。日本のメーカーはつくれるのにつくれない。その一方で、海外メーカーの製品がどんどん入ってきています。

細野 当社をはじめとする国内メーカーは、デジタルコンテンツに関する法規制を順守して製品開発を行っています。一方で、海外メーカーの商品の中には、日本国内の法規制をまったく無視したものが存在することも事実です。

また今は、著作権者の権利ばかりが重視されていて、手に入れたユーザーの権利が、日本ではほとんど語られていません。著作権者にとって著作権を守ってもらうことも大事ですが、利用してもらってはじめて意味やコンテンツとしての価値があるもので、その視点が弱いですね。このままではユーザーの利便性が失われるばかりではなく、実は、著作権者の真の権利も守られていることにならない。これから、スマートフォンをはじめとする様々な形態の端末が普及し、ネットワーク上のコンテンツと電波によるコンテンツが混在する時代になるのだから、なおさら、明確にしていく必要があると思います。

細野昭雄氏無線LANルーターで
切り拓く新たな境地

── 御社では今年、ワイヤレスを前面に強く打ち出された訴求を展開されています。

細野  年末からは新たに、無線LANルーターの「WN-AG450DGR」とUSB接続の地デジチューナー「GV-MVP/FZ」を組み合わせて、家の中で受信した地デジのフルセグ放送を、Wi-Fiに乗せ、iPhoneやiPadで見られる非常にユニークな提案を行っています。これからの視聴スタイルは、テレビで地デジを観るだけではなく、モバイル端末で家の中どこでもいつでも楽しめるWi-Fiチューナーの存在が当たり前になってくる。その先鞭をつけられたのではないかと思います。

4月中旬には、フルセグのチューナーを一体化したTVチューナー内蔵無線LANルーター「Wi-Fi TV(WN-G300TVGR)」を発売します。これからは、iPadの画面の隅にテレビを映し出しながら、インターネットを楽しむというながら見スタイル≠熨揩ヲてくるのではないでしょうか。iPad用だけでなく、パソコン用のアプリも用意していますので、もちろん、パソコンでも同様のワイヤレスでテレビを視聴できる環境を手に入れることができます。

── タブレットは今年、需要が何百万台にも膨らむとの予測もあり、そこへ、家の中でテレビを楽しむ新しいスタンダード感を創造できる、大変注目される商品になりますね。

細野 やはり、色々と組み合わせるのは難しいと感じているお客様は少なくありませんから、地デジチューナーと無線LANルーターを一体型にするメリットは大きいと思います。店頭でもお薦めしやすくなる。「これからネットワーク環境を導入するならこれ!」、というイメージを浸透させていきたいですね。

── 店頭でもネットワークが不可欠の要素になってきます。どう売り場づくりを行っていけばいいのか。お客様の反応を確かめながら、試行錯誤の状況にあります。

細野 2月くらいから先行して、いくつかの販売店で実演販売いただいています。やはり、言葉で説明しただけでは、なかなかメリットを実感していただけませんから、テレビ売り場など関連する売り場に商品を置いていただき、どんなメリットがあるのか、使い方ができるのかをきちんとお客様に伝えていくことが大切だと思います。

── ホームネットワークのアイテムでは、NASについても注目が集まっています。プライベートなクラウドとして、さらに伸びてくるとお考えでしょうか。

細野 実際に、スマートフォン普及の後押しもあり、外出先から自宅のNASへのアクセスを実現する当社のHDL-CEシリーズは、プライベートクラウドとして好評いただいています。また、個人向けNASでの展開はまだ出来ていませんが、法人向けNASの「HDL-XR/XVシリーズ」ではDropbox連携を実現しました。既存のクラウドサービスとの融合で新しい用途提案や顧客層の開拓を図っています。今後、「IPv6」が普及し個別の商品ごとにIPアドレスが割り当てられれば、ホームネットワーク活用、プライベートクラウドはもっと浸透していくだろうと考えます。

ユーザーの立場に立つ
意識の再徹底が不可欠

── 細野社長は(アイ・オー・データという)一企業の枠だけでなく業界全体としてのユーザー視点ということで、デジタルライフ推進協会(以下、DLPA)を立ち上げ、活動されておりますが、DLPAとしての活動、今後の取り組みはどう考えていらっしゃいますか。

細野 先頃の理事会で牧会長からバトンを受け、新たに会長に就任しました。ホームネットワークはつながってはじめて、利便性や新たな楽しみ方が実現できるわけですから、それぞれが勝手なことをやっていては意味がありません。ユーザーの利便性向上のためにも、メーカー同士が意識を合わせていく必要があります。そのためのパイプづくりは重要ですし、また、私どもの活動が、より快適なデジタルライフの実現のお役に立てば、とても有意義なことだと思います。

── ユーザーからすれば、新たな付加価値を得られるのはうれしいことですが、どんどん囲い込みの中に巻き込まれて、好きな商品が選べなくなるという不満もあります。本当にユーザーの立場を考えた、環境の整備が必要ですね。

細野 確かに囲い込みの一面では、リモコンが各機種で共通して使用できるとか、動作が保障されるといったメリットはあります。しかしデジタル機器がつながる楽しみが、ひとつのメーカーの商品の中で完結するかというと、決してそうではありませんね。ユーザー目線を大切にして、もっと真剣に考え、対応していかなければならないテーマだと思います。

── デジタルライフ推進活動では、まず著作権保護のデジタル放送番組をいかに自由に楽しむかに重点を置かれていたと思いますが、他にも、ネットワークオーディオがブレイクしつつあり、ハイエンドメーカーからも続々と商品が投入されています。そこで、テレビと外付けUSB HDDとの関係同様に、各社のネットワークプレーヤーとNASとの相性の問題が表面化してきています。

細野 写真や音楽などのコンテンツを、ネットワークを介してテレビやPCで共有できるよう、DLPAではガイドラインを「DLPA NAS」として策定しました。コンテンツの共有が可能な「レベル1」、著作権保護コンテンツの配信が可能な「レベル2」、書き出しまで行える「レベル3」と3段階に分けて規定し、対応範囲をわかりやすくしました。対象商品のパッケージにはロゴも入ります。

現在は、テレビやレコーダー中心になっていますが、活用範囲はどんどん拡がっていくことが予想されますので、今後、ネットワークオーディオの世界における動作検証も項目として入れるとか、機器メーカーとのコンタクトもより密にしていきたいと思います。

── メーカーと流通とが一体になったお客様へのメッセージ発信や売り場づくりの提案が、今後ますます重要になってくると思われます。ご販売店へのメッセージをお願いします。

細野 メーカーそれぞれが魅力ある、特長あるモノづくりを行っていますが、お客様がその魅力を味わい尽くすには、色々な商品と商品がつながり、付加価値が生まれるということをきちんと伝える必要があります。迷われるお客様に対しては、メーカー、販売店がユーザーの立場に立って、ご説明していかなければなりません。こうした課題の解決に、家電メーカーとの連携や各ご販売店のご協力を得ることで一緒になって取り組んでいきたいと思います。

◆PROFILE◆

細野昭雄氏 Akio Hosono
1944年3月18日生まれ。石川県金沢市出身。1962年、石川県立工業高校電気科を卒業。ウノケ電子工業(現在の咳FU)、金沢工業大学等に勤務。1976年、地元金沢でアイ・オー・データ機器を創業(代表取締役社長 現任)。趣味はゴルフ。座右の銘は「継続は力なり」。

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