英 裕治氏

いい音の領域を絶対に守りつつ、
シンプルで使いやすいものを提供する
ティアック(株)
代表取締役社長
英 裕治氏
Yuji Hanabusa

ティアック、エソテリック、タスカムとオーディオ市場のさまざまな角度に切り込む3ブランドを展開するティアック。話題のネットオーディオに俊敏に対応する一方、同じ国内メーカーであるオンキヨーと業務提携を果たし、新たな展開を推進しようとしている。オーディオ市場に活路を開こうとする同社の近況を、代表取締役社長の英氏に聞く。

 

最先端に対応しつつ、従来メディアも
聴ける状態を保つことは重要な使命

3つの尖ったブランド展開
それぞれのシナジーも奏功

── 以前話を伺ったのはリーマン・ショック後、御社はオーディオの拡大に向けたさまざまな展開を開始されたところでしたが、その後の状況をお伺いしたいと思います。

 ご存じのとおり当社では、オーディオ事業において3つのブランドを展開しております。エソテリックはピュアオーディオのハイエンド向けブランドで、専門店様を中心に緻密な販売ノウハウを共有させていただいています。国内の販売がもっとも大きく、子会社で独自の販売形態をとって運営しています。

ティアックはゼネラル・コンシューマー向け、iPodのドックステーション関連からミドルクラスのピュアオーディオ商品まで展開しています。時代を先取りし、新しいものをどんどん取り入れることが重要な役割であり、コーポレートブランドと位置付けております。

タスカムでは業務用の録音機材から設備用機材、音楽制作機材などを扱っております。ハードのみならず、アプリケーションも非常に重要であり、お客様の求めるものを幅広くリサーチしたものづくりを行っています。

これら3つのブランドで、シナジー効果も発揮させており、一昨年エソテリックとティアックの組織を一つにし、さらに昨年の7月そこにタスカムを加えオーディオ事業全体を一本にしました。それぞれマーケティングの予算もひとつにまとめることでよりダイナミックな投下ができますし、販売面でもセールスの動きを一本化するよう進めています。

── 昨今注目されているネットオーディオですが、御社では関連商品が続々と登場していますね。

 ティアックから昨年UD-H01というUSB DACを発売しましたが、これはエソテリックとの共同開発商品です。エソテリックはPCオーディオとの親和性を取り入れた商品をいち早く出し、ストリーミングに対応しましたが、これをゼネラル・コンシューマーのお客様にも展開するため、エソテリックの技術とお求めやすい価格でご提供するノウハウを組み合わせています。

エソテリックはハイエンドブランドとしてのイメージの浸透により一層注力しています。タスカムは業務用として耐久性や使い易さ、メンテナンス性を含め信頼度の高さをご提供します。ティアックはその間に位置付けられておりますが、点として存在していたそれぞれのブランドが、ようやく線でつながるようになりました。これが面でつながるようお互いが教育しあって持ち上げられる戦略をとり、マーケティングや企画、販売面で少しずつ効果が出ているところです。

── オーディオの市場に新しいお客様を呼び込むという意味でも、ティアックやタスカムが重要な位置付けになって参ります。

 タスカムもICレコーダーを通じて、楽器店様のみならず家電量販店様でもお取り扱いいただいており、ゼネラル・コンシューマーに少しずつ近づいております。販売形態も変わってきて、特にここ最近ではネット系のビジネスが非常に拡大していますから、楽器系もゼネラル・コンシューマーもオーバーラップしています。そういった意味で両方がミックスするようなかたちで進めています。

オーディオの市場はここ何十年もの間、大きく伸びていくものではありませんでしたし、形態も少しずつ変わっています。しかしストリーミング、配信であっても音楽の高音質化が進んでいることは非常に好ましいことです。高品位のオーディオの配信がどんどん進むと、お客様がいい音に接する機会が増えます。エソテリックでは現状SACDプレーヤーを軸としていますが、こうしたハイエンドオーディオも見直されるのではと思います。

我々は録音の現場から再生までの機器を扱っており、タスカムのレコーディング機材を使っていただいて、パッケージメディアが完成し、それがエソテリック商品で再生されるというケースもあるでしょう。いい音を定義するのは難しいですが、我々はあくまでも原音に忠実に録る、再生するということにこだわっていますから、今後の流れにも非常に期待しています。

新たにオンキヨーと業務提携
さらなるシナジーに期待が

英 裕治氏── このたび御社はオンキヨーとの業務提携を発表されました。この経緯についてお話いただけますか。

  私自身、数年前からオンキヨーさんの大朏宗徳社長とお付き合いをさせていただいております。かねてから一緒に仕事ができたらという話をしたこともありましたし、お互いにお客様を紹介しあい、情報交換をさせていただくような機会もありました。しかし今回のような資本業務提携に至るような具体的な話が出たのは、ここ1?2年のことです。オーディオ業界がこれから少しでも発展できるよう、互いに日本の老舗メーカーとしてできることがあるのではないかと立ち上がったのがきっかけです。

オンキヨーさんはアンプやスピーカー、レシーバーの優れた商品を数多く展開されており、我々はメカトロニクスのCDプレーヤーの技術などを得意としております。双方が技術的に補完関係にあり、得意分野を相互利用すればいいものがつくれるはずだと思いました。オーディオの事業におけるオンキヨーさんの大きな規模、そしてご販売力は我々にとっても羨ましく、ぜひお力をお貸しいただきたいと思っております。当社にとっては新しいオーディオのコンポーネントを提案する際、今後はオンキヨーさんが展開しておられるスピーカーとの組み合わせも考えられるかもしれません。

提携を発表してからは販売や開発、企画などいくつかの部門でプロジェクトをスタートしており、オンキヨー、ティアック双方の担当者が意見交換する場を設けています。具体的にどんなことができるかが明確になるには、少なくともこれから2ヵ月はかかるかと思いますが、お互いに話し合っていく中で合意が得られたものは順次進めて参ります。商品化については設計に時間もかかりますので1年程の時間は必要とは思いますが。新規につくるものもあれば、お互いのもっているものを融通し合ってつくるものもあるでしょう。私としては、来期あたりに効果が出るようなかたちにしたいと思います。

── 御社の中でも3つのブランドがそれぞれのシナジーを発揮しておられますが、今回の提携はその延長線上にオンキヨーブランドが加わったと考えることもできますね。

 シナジーがどこまで拡がるのか、私自身が非常に楽しみです。お互い資本を出し合うところまでやっておりますから、オンキヨーさんの企業価値を高めることができれば我々にとっても利益になりますし、その逆もあります。

企画、開発だけでなく、販売、そして製造についてもシナジーを出していきたいと思います。お互い独自の製造拠点をもっており、私どものティアック、タスカム、エソテリックそれぞれの得意なところに寄せていくこともできるでしょう。販売もこれからですが、一緒に展示会に出るというような小さなことから、プロモーションを一緒にやらせていただいたり、拠点を近づけたり、ということができるのではと思います。ぜひとも、ここはしっかりとやって参りたいと思います。

── 新たなブランド創出ということもありますか。

 ブランドについては新たなことはまだまったく考えていないです。ブランドマネジメントはお互いに既存の状況をきっちりと推進していきたいと思っています。大朏社長と話をさせていただく中で、管理面においては1+1を2ではなく1以下にして経費を抑えていく。一方で販売面は1+1を2以上にしていくような効果を出す。より効率よくお互いの力を利用して、物流面も融通しあうと良い効果をもたらせると思っております。

いい音を一層追求しつつ
使いやすさにこだわる

── 昨今のオーディオ市場を、どのようにご覧になりますか。

 技術革新が目覚ましく、メーカー各社さんはいろいろなことをおやりになっていますが、私自身はそれによって自ら機器を複雑にしてしまっているような気がします。

ティアックでもタスカムでもエソテリックでも、お客様が我々に一番求めておられるのはいい音だと思っており、ここは絶対に守りつつ、できるだけシンプルにお客様が使いやすいものをご提供するということにこだわりたいと思います。そのためにも、新しいものが出たら詰め込むというのではなく、わかりやすく展開するのが使命だと思います。あらゆる機能を詰め込むより、実際に使う機能に重点的にフォーカスし、分かりやすくした方がいい。細かい機能を省くことでコストをよりいい音に振り向けることができれば、そうするべきだと思います。

── 現状でエソテリックはSACDを中心とした高音質再生、ティアック、タスカムはネットを含めた最先端の方向となっています。今後注力するメディアや再生方法は何でしょうか。

 やはりパッケージメディアは重要だと思います。我々は数少ないCDプレーヤーのメカをもっていますし、MDも未だに手がけております。ただこれが未来永劫続くわけではないですね。タスカムでもコンパクトフラッシュを使った業務用製品やICレコーダーもありますし、いずれパッケージメディアからメモリーやストリーミングに変わっていくことは避けられないことと思います。

その時に大事なことは、過去積み上げてきたものが継承されるようなこだわりをもっていくこと。これからメンテナンスの形も変わってくると思いますが、それも時代に合ったもの新しいものをきっちり取り上げていかなくてはと思っております。当社はアナログレコードやカセットテープを再生し、MP3データに変換できるような機器も展開しており、以前から使われてきたメディアを今も聴ける状態にしておくことに使命も感じております。

── 2012年度の方向性をお聞かせください。

 情報量がどんどん大きくなり、高音質、高画質が普及していきます。我々にとってその方向性はありがたいことであり、昨今は非圧縮の音源に対する認知度も上がってきました。そこに対応する商品を出していける時代となってきましたので、非常に期待しています。パッケージメディアもエソテリックで引き続きSACDプレーヤーを軸にやっていきますが、これも再評価されると思っています。我々のコンセプトであるいい音で使いやすい商品≠ニいうのは、今年いい意味で花開くと思います。

世の中は今厳しい状況ですが、おかげさまでエソテリックは昨年の半ば頃から好調です。新商品を出したこともありますが、リーマン・ショック以降一時かなり落ち込んでいたハイエンドオーディオの需要も戻りつつありますし、いいものがいいものとして評価されることを期待しています。そういう方向へいきたいという思いです。

リーマン・ショック以降価格競争に拍車がかかり、特にエントリーモデルは非常に影響を受けています。しかし数を追うといいものはつくれませんから、いいものを追求するという意味で上の方へシフトしようとしています。UD-H01もその方向でしたが、ティアックではミドルクラスのフルサイズコンポシステムも計画しており、こういったものをしっかりやっていきたいと思います。

国内で高齢化が進む中、お客様がゆとりや豊かさを求める傾向は強まると思います。そういった中、オーディオも見直されるのではないでしょうか。

オンキヨーさんとはこれからいろいろな形でメッセージも発信しながら、2社の協力関係の中で何が進んでいくのかをわかりやすく伝えていきたいですし、お互いにプラスになると思っています。海外の展示会などでは一緒に出ようという動きも進んでおります。そうやって協力関係も市場に伝えていきたいと思います。

◆PROFILE◆

英 裕治氏 Yuji Hanabusa
1961年生まれ。1985年成蹊大学工学部卒業、同年ティアック(株)入社。2001年2月 タスカム部長、2004年6月 執行役員 タスカムビジネスユニットマネージャーに就任。2005年5月 執行役員 エンタテイメント・カンパニープレジデント、2006年6月代表取締役社長に就任、現在に至る。

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