巻頭言

「ここからはじまる」「いつもお客様のそばに」

和田光征
WADA KOHSEI

「黄金の2013 年」の始まりの2011 年は、かつてない波乱の1年であったとともに、価値変化の巨大な流れを創出したといえよう。どの企業も2011年の3月決算でリーマン・ショック以来の負の部分を払拭し、4月以降から上昇気流へ舵を切る計画であったと思う。

私自身も3月1日の月旦朝礼で我が社の方向性を具体的に明示した。「しかし…」と私は続けたのである。「何十年も歩んで来た中で、巨大地震だけは来て欲しくないとずっと思ってきた。地震そして津波はすべてを破壊する。ましてや自分の事業が存在する場所がそうなったら、すべては終わりである。従って地震だけは来て欲しくない」と。

ヴェルレーヌの詩の一節に「恍惚と不安とふたつ我にあり」とある。太宰治はそれを引用し、「大きな歓喜と大きな悲惨と言い、だから自分はいつも、それを避けるのだ」と言っている。私が学生の頃に愛した詩の部分であり、小説のプロローグである。しかし、その思いはいつしか自分の思いの根本を成していて、今でも不変である。

そしてその処し方を「得意澹然 失意泰然」の一節で学びとった思いである。つまり、物事が順調なときほど淡々とせよ、決して有頂天になるな。物事がうまくいかない、進まないときは泰然とことに当たれ。悪い意味で悲観主義に陥るなということである。

私は三月の月旦の朝礼で何故、大地震の話をしたのだろうか。ここまでリーマン・ショック(人災)で全世界が苦しめられ、そこから一条の光が見え始めた、そんな時に巨大な自然災害がきたら、流石に泰然を超える悲しいことではないか。そんな思いがあったからである。

そして3月11日だった。千年に一度という巨大な地震と津波である。そして原発の大事故(人災)である。放射能の大禍など想像もしていなかった。しかし、未だ終息せず世界に不安を与えている。震災、津波からの復興も為政者の無能により未だ出口が見えず、冷たい冬になってしまった。

何ということだろう。2011 年は業界にとってエコポイントやアナログ停波で経済効果は抜群にあったが、負の部分は消えないまま新しい年への移行である。国家的に一刻も早い復興を願うものであり、そうした意味では明るさのある2012年である。

2013 年終了時、業界は完全に新たなかたちとなり、2015 年に向って大きく動き出し、新しい時代の姿になっている筈である。省エネ、エコが中心となり、その関連産業は巨大化していくだろう。テレビは相変わらず家電の主役で、本来の姿であるスーパー高画質へのチャレンジが強化され、既存の放送の受像機から世界中の情報が集まる家庭におけるエンターテインメントのディスプレイとして、役割が強化される筈である。

大変な時代が続くが、確実に新しいソリューションを創出する、そんな2012 年ではないだろうか。何はともあれ「ここからはじまる」「いつもお客様のそばに」がキーワードであり、黄金の2013年へギアチェンジである。

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