安藤貞敏氏

モノからコトへ、訴求の幅を広げ
体感の場づくりで積極アピール
ヤマハエレクトロニクスマーケティング(株)
代表取締役社長
安藤貞敏氏
Sadatoshi Ando

「4本の柱」戦略として、「薄型テレビオーディオ」「iPodオーディオ」「AVコンポーネント」「HiFiコンポーネント」と、音に関する4つのカテゴリーを展開するヤマハ。地デジ化が終了してAV市場の様相が大きく変化する中、付加価値訴求に向けた新たな戦略を、ヤマハエレクトロニクスマーケティングの安藤社長に聞く。

 

お客様が幸せな思いになる
本質に返り、そのお手伝をしたい

薄型テレビオーディオとして
大きな地位を築いたYSP

── 地デジ化が終了するまでの1年間はテレビが大きく動き、周辺商品も影響を受けました。

安藤 私どもは「4本の柱」戦略の中心、「薄型テレビオーディオ」としてラックシステム「ポリフォニー」などYSP関連商品を重点的に展開して参りましたが、昨年のエコポイント特需の恩恵を受けビジネスとしては順調な状況でした。しかも制度改定の12月以降やエコポイント終了後の4月、さらに7月のアナログ停波後と反動でテレビが大きく落ち込んだ際も、私どもの商品はそれほど急峻な落ち込みはなく、その分大きくシェアを伸ばしております。

2004年に薄型テレビ時代のオーディオシステムとしてYSPを導入して以来、私どもの商品は薄型テレビの標準オーディオとして定着したのではないかと実感しています。ご販売店様でもイチ押しの商品として定番化していただき、お客様の認知が高まったことが大きいと思います。

── 販売店も地デジ化終了後を見越した展開をする中で、サラウンドシステムには注力されています。特に御社の商品は目立つ存在だと思います。

安藤 ありがたいことですね。テレビのメーカーさんもサラウンドシステムを出しておられますし、同じメーカーのもので展示するのはご販売店様にとってもやりやすいことと思います。そこに敢えて私どもの商品を展示して薦めていただいているのは、価値を認めていただけたからだと思います。

お客様にとっても、オーディオメーカーとしての高音質へのこだわり、単純なバーチャルサラウンドでないリアルサラウンドがもつ臨場感、そして使い勝手もいいことを感じていただけていると思います。そこを理解していただけたことは非常に嬉しいことですね。

── 今後はラックだけではなく、後付けのシステムも有効です。

安藤 昨年11月に出しました「YSP-2200」はバースピーカーでテレビの前に置くタイプのYSP商品ですが、非常に好評をいただいています。これまでのYSPはラックがないと設置が難しいといった側面もありましたが、YSP-2200はテレビの前に置いてリアル7・1チャンネルサラウンドが楽しめるということで、新しいYSPの形を市場に浸透させ、今期に入っても引き続き強い引き合いをいただいている状態です。価格が9万円前後ということで一般的なシアターシステムよりかなり高めですから、私どももここまでご支持いただけるとは当初思っていませんでしたが、これもご販売店様にトップオブシアターとして付加価値販売にご賛同いただいている証しかと思います。

YSP-2200の果たした役割は、シアターのハードルを下げたことだと思います。YSP自体がフロントサラウンドでリアルマルチチャンネルを楽しめる、ホームシアターシステムのハードルを大きく下げたものですが、残された設置性という課題をこの2200がクリアしたのだと思います。精悍なデザインも好評で、アルミボディで高級感があります。

統計によると昨年度の薄型テレビ出荷台数は2600万台で、この2年では約4200万台のテレビがインフラとしてご家庭に入っています。特に37インチ以上の大型テレビは1400万台近い数になります。そのうちどれほどのご家庭にホームシアターシステムが入っているかというと、ラックシステムだけで54万台、さらにそれ以外のシステムと統計に出て来ないところを合わせて100万台といったところでしょうか、つまり10軒に1軒もない状況です。まだまだホームシアターをご存じない、あるいは体験されていないお客様がたくさんおられて、本格的な音の楽しみを簡単に味わっていただく訴求でこれからチャンスが広がると思います。

高音質とサラウンドに絶対の自信
お客様体感を拡げチャンスを掴む

── 待望の新製品も投入されました。

安藤 この秋以降は後付けタイプを中心に、新たにフロントサラウンドシステムの普及価格帯として「YAS-101」、ホームシアターパッケージの「YHT-S401」「YHT-S531」を発売致しました。商談を進める中でも、特に「YAS-101」は非常に好評です。ホームシアターシステムに注力してきたヤマハとしての普及価格帯の商品ということで、大きな引き合いをいただき、ほとんどすべての量販店様の最上位定番に入れていただきました。おかげさまでいただいているオーダーが当初計画の約3倍です。現在ご販売店様にご迷惑をお掛けすることがないように急いで増産をかけております。

これだけのご反応をいただけたのは長年にわたって築き上げた「シアターはヤマハ」への信頼だと思っております。ご販売店のバイヤー様もいろいろな商品と比較されて、あらためてその完成度に納得してくださいます。私どもは高音質とサラウンドの臨場感に絶対的な自信をもっておりますが、それをいかにお客様に確認していただけるかが鍵。体感していただければ間違いなく、お客様に欲しいと思っていただけると思います。

── 体感を伴う店頭展開は、重要な課題ですね。

安藤  昨今はご販売店様の方から、店頭展開についてのご相談をいただくことが増えてきました。ご販売店様にとっては、テレビの販売が落ち込んだ状況で付加価値ビジネスをいかに推進していくかという大きなテーマがあり、私どもにとってもいかにお客様に体験していただく場を数多く持つかというミッションがあります。お互いの目指すところがひとつになって、ご販売店様の方からヤマハにそういう場をつくれないかとご相談いただけるのですね。

昨年のエコポイント特需の反動で市況は今年の8月から11月までは、対前年比で大変厳しい数字になると言われており、実際に8月/9月は予想どおりとはいえ、その数字が現実となっています。それを目の当たりにするとやはり何か仕掛けなくてはいけない状況になりますね。ご販売店様から売り場をどうするかご相談を受けることが非常に増えて嬉しいと同時に、ぜひこれを早く具現化して一人でも多くのお客様に体験・体感していただけるような場所をつくりたいと思っております。

── 「ニューリビングオーディオ」という考え方を前面に打ち出しておられますが、あらためて解説していただけますか。

安藤 これまでAV製品は、マニアのお客様向けにハイクオリティのコンテンツをいい画・いい音で楽しむような、どちらかというとモノ寄りで展開してきた部分はあったと思います。「ニューリビングオーディオ」は、それをより楽しみ方、つまりコト寄りに変えていこうというものです。

昨年頃からネットワークを通じて音楽を入手し、再生を楽しんでおられる方が増えてきていますが、リビングの中心でテレビ番組やBD/DVD/CDなどのパッケージメディアを楽しむだけではなく、iPodやネットワークにもつないで高音質を楽しむ、新しいエンターテイメントスタイルの提案をしていきたいということです。この10月から試聴会の中ではこうした楽しみ方のデモンストレーションを行っていこうと考えております。

安藤貞敏氏シネマDSP25周年を迎え
AVアンプにさらに注力

── 付加価値訴求の大きなテーマとしてネットワークが上げられますが、販売店さんでの表現は難しいですね。

安藤 ご販売店様のテレビ売り場が縮小し、その空いたスペースで何を提案するかという時、エコ家電や太陽光発電をやられるお店様もあれば、ITを強化するお店様もあるでしょう。ただ総じて、シーンの提案、ライフスタイルも含めた楽しみ方の提案コーナーをつくっていきたいとするご販売店様の希望が顕著にありますね。そこにネットワークが関連してくるのです。単純にものを並べてつないで、音を出して終わりでなく、小道具も含めて生活空間を想起させるような場所をつくり、部屋をまたいだコンテンツのやりとりなど具体的なデモの場が求められます。ご販売店様と協力しながら、形にして参りたいと思います。

── AVコンポーネントも新たな展開を打ち出してこられました。

安藤 今回「AVENTAGE(アベンタージュ)」という新しいシリーズを発売しました。私どもの独自技術として一番象徴的な「シネマDSP」があります。1986年のデジタルサウンドフィールドプロセッサー「DSP−1」、家庭にいながら欧米の著名ホールやクラブの実測音場が楽しめる商品の発売から今年で25周年を迎えます。

AVアンプの歴史をひもときますと、機能、フィーチャー、サラウンドフォーマットなど常に最新のものに対応していくことだったと思います。しかしデジタルの宿命で、最新の機能もやがては急速な低価格化が進行し、数年後には確実に一般化/陳腐化するということです。これではご販売店様が期待される付加価値販売にはなかなかつながりません。

私どもはシネマDSP25周年をきっかけに、AVアンプの本質とは何かということに立ち返りたいと考えました。それは家庭において、いい音で臨場感を簡単に楽しむものだということ。もちろん最新デジタル機能を搭載はするもののそれを全面に打ち出した訴求を敢えてしない、そういう思いで開発したのが「AVENTAGE」です。

今までオーディオシステムとテレビは別々の場所にありましたが、テレビが大画面化し、デジタルハイビジョンになって、さらにいい音があればもっと楽しくなる。しかもシステムにiPodがつながったり、ネットワーク機能をもっていたり、さまざまなソースに対応できる。まさにリビングオーディオのコンセプトです。それをお客様にお届けし、お使いになったお客様に幸せだと思っていただける状況をご提供するのが我々のミッションであり、そのお手伝いができれば嬉しいことです。

私どもが推進する「4本の柱」は、全てそういう方向でつながっているということです。

── 専門店さんの活躍の場が広がりますね。

安藤 ここのところ薄型テレビオーディオに軸足を置いて、我々の原点であるAVアンプの展開が手薄になってきておりました。「AVENTAGE」の発売をきっかけにもう一度音をしっかりと聴いていただくということで、シネマDSP25周年記念にかけて全国で視聴会を25回実施致します。また長らく中断していたご販売店様向け研修会も積極的にやらせていただき、今後も継続的に強化していきたいと思います。

── オーディオ業界は厳しい状況の中で推移しています。しかしテレビ周りの音など、工夫次第でオーディオを膨らます材料はたくさん転がっているかと思います。そういう時、一部のマニアでなく、幅広いお客様に訴求する御社のスタンスに、懐の深さを感じます。

安藤 私どもヤマハというブランドは、他のオーディオブランドさんとは少し違い、音・音楽を中心にしたモノとコトの幅広いビジネスユニットを展開しています。たとえば今回、ヤマハの研究開発センターがもともと音場の要素技術として開発し、既に楽器の事業部門で取り扱っていた調音パネルという商品の展開も始めました。音・音楽に対する私どもの本質的な姿勢を、多くのお客様にもっとご理解いただければと思っております。

私がヤマハに入社したのは約30年前ですが、当時から楽器を中心にオーディオやリクリエーション、スポーツなどを手がける、生活を豊かにすることをコンセプトにする会社でした。振り返ってみると私は、ただモノを売るだけでなく、人の心を豊かにする事業形態や、ライフスタイルの提案ができるところに共感して入社したのです。元気の出ない話題ばかりの昨今ですが、ここで今一度原点に立ち返り、私どもの事業を通じて音・音楽を中心に楽しく豊かな社会作りに少しでもお役に立てればと考えております。

◆PROFILE◆

安藤貞敏氏 Sadatoshi Ando
1982年日本楽器製造(株)(現ヤマハ(株))入社。以来AV機器のセールスとマーケティング業務に携わる。2003年6月AV機器事業部マーケティング室長。2005年9月ヤマハエレクトロニクスヨーロッパ社長。2009年11月AV機器事業部営業部長。2010年4月より現職。

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