坂本俊弘氏

2011年度も主役はテレビ
3Dをベースに付加価値を強化
パナソニック(株)
代表取締役副社長
坂本俊弘氏
Toshihiro Sakamoto

パナソニックの副社長である坂本俊弘氏が、本誌トップインタビューに初めて登場される。家電を取り巻く状況はもとより、経済、そして環境問題とさまざまなテーマにおいて重要な転機が訪れている今、パナソニックの姿勢と取り組みをあらためて伺った。2011年度に拡がろうとしている大きなビジネスチャンスを、ともにしっかりと掴んでいきたい。
※本インタビューは3月2日に実施されたものです。

 

エレクトロニクスNo.1の
「環境革新企業」を
目指して取組みを加速

好調に推移した2010年度
三洋電機とのシナジーに布石も

── 2010年度は御社の中期計画GT12の初年度に当たります。手応えはいかがですか。

坂本 2010年度の国内コンシューマー部門は、国のエコポイント制度と地デジ化推進のおかげで、非常に好調でした。加えて、この2年間のエコポイント制度期間中は、販売店さんへの来店者数が大幅に増えましたから、エコポイント対象3商品以外の商品の販売も極めて好調に推移しました。

国内コンシューマー部門の2010年度第3四半期までの累計販売は、昨年に続いて史上最高の販売を達成しており、この勢いを第4四半期へも継続していきます。

また次代に繋がる布石として、三洋電機とのシナジー創出に向けた助走ができたのも2010年度の大きな成果だと思います。ご存じのように、昨年7月に三洋電機製パナソニック太陽光発電システムを販売開始しましたが、販売店さんに対する販売研修と施工研修等も順調に進んでおり、エコポイント制度終了後の大型商材として大いに期待できる第4四半期の販売状況となってきました。

次代に繋がる布石ということでは、三洋電機にも地域をカバーしている系列専門店さんがいらっしゃいますが、当社の戦略にご賛同いただけるお店にパナソニックのお店として参画を呼びかけています。当社はスーパーパナソニックショップ(以下SPS)を中核とした地域専門店網を構築していますが、新たに1000店を超える三洋のお店がパナソニックのお店として加わってくれますと、ますます高齢化する地域社会をカバーする強力かつ無比なる地域販売網ができ上がることになります。

── ショップ店同士の融合というのは、メーカーにとって非常に大きな武器となりますね。しかし商圏の棲み分けはどのようになるのでしょうか。

坂本 私は各地へ出張に行くたびに、SPSの皆さんに「近々、三洋ショップの皆さんがお仲間に入ります」という話をさせていただいていますが、棲み分け論というような話は全く出て来ません。地域の専門店さんというのは固定的なお客様がいらっしゃって、それが強さの一つです。三洋系列の専門店さんもそれぞれきっちりとお客様を囲い込んでおられますので、問題はありません。

── これから2011年度がスタートします。国内の経済環境をどうご覧になりますか。

坂本 これまでのような景気を刺激する大型施策はしばらく見込めないと考えています。エコポイント制度が終了し、7月には地デジ化も完了して、テレビの台数も販売金額も前年からは激減します。また円高が定着し、かつてのような円安に振れる要素は今のところありませんし、さらに問題なのは原材料の高騰です。原油だけではなく、さまざまな原材料が値上がりし、日本の製造業にとっては大変な痛手となります。経済環境的には2011年度も引き続き景気全般の低迷感が続くと考えざるを得ませんが、私はそれほど悲観的に考える必要はないと思っています。

高付加価値訴求の3D
2011年を本格普及元年に

── それでは2011年度のデジタルAVCの戦略について伺いたいと思います。家電業界にとってはエコポイント制度の終了、7月にはアナログ停波と様々な変化が訪れる1年となりますが。

坂本 私の持論ですが、家電販売店の顔はテレビです。ポスト・エコポイントも、テレビが顔であるということです。テレビの総需要は、2009年度が1500万台前後、2010年度は2600万台前後になるでしょう。通常年の総需要はおよそ1000万台ですから、ひと言で言えば、この2年間で4年分の需要を先食いしたことになります。ところが2011年度の総需要をいろいろな角度から試算してみますと、1000万台から1100万台は見込めます。台数的には2008年頃に戻ったということですが、インチ構成の変化と慢性的な価格下落で平均単価はかなり下がりますから、金額的には厳しいというのが一般論ですね。

しかしながら私は、国のエコポイント制度のおかげで新しいビジネスインフラができ上がったと考えています。この2年間の販売の大幅アップもさることながら、例えば、3Dテレビのような市場創造型商品では、制度が立ち上がりのインフラ形成の後押しをしてくれました。

そういう中で、引き続き家電の顔となるテレビについては、何よりも3Dを中心に推進していきます。昨年は「3D元年」を提唱して参りましたが、2011年は「3D本格普及元年」とします。当社は今春の新製品から、プラズマテレビには3Dを標準搭載しており、大画面テレビは3Dが当たり前となるラインナップとしました。さらに、37V型と32V型の液晶テレビでも3Dモデルを導入し、32V型から65V型まで、計15モデルの3Dビエラを揃えました。

3Dビエラの品揃えに連動して、ブルーレイディーガも全6モデルを3D標準搭載としました。ムービーは普及モデルにも3D対応機能を搭載し、4モデル展開としました。デジカメはコンパクトと一眼のそれぞれ3モデルを3D対応としました。「3D本格普及元年」は、まずハード面で、「創る」「見る」「録る」機能を充実強化しました。

一方、ソフト面では、良質の3Dコンテンツの提供はメーカーの最重要努力項目という認識でして、昨年はBS放送で「パナソニック3Dミュージックスタジオ」という音楽番組を制作・放映し、大変ご好評をいただきました。既に第二弾を検討中で、番組制作にも積極的に関与していきます。

またユニークな取り組みとして、3Dディーガに搭載されている「2D→3D変換機能」を積極的に訴求していきます。今年は3D映画ソフトが多数リリースされる予定ですが、全体としてはまだまだ少ないですね。それを補うためにも、「2D→3D変換機能」を使って3Dの楽しさを拡げるマーケティングを推進します。先日、「アバター」の2Dソフトをディーガの3D変換機能を使って観ましたが、なかなか楽しめますよ。

新たなビジネスインフラ
ネットワークを積極展開

坂本俊弘氏── テレビと同時にアナログレコーダーのデジタル化需要もこれからです。

坂本 アナログ録画機の30%ほどしかデジタル化が進んでおらず、4000万台前後のアナログ録画機が残っている計算になります。4000万台の全てが買い替えられるとは考えていませんが、これからの1年から2年で、間違いなく3000万台は需要として見込めます。この需要を徹底的に刈り取るのが2011年度の重点取り組みの一つですが、これも、エコポイント制度と地デジ化でデジタルテレビが一気に普及したおかげです。本来なら、5年も6年もかかる大仕事だったのです。

ありがたいのは、これだけの台数のデジタルテレビが一気に普及したことで、「お部屋ジャンプリンク」とか「Skype」ビデオ通話といった新しいライフスタイル提案のチャンスが生まれて来ました。その前提は光回線によるインターネット接続の普及ですが、光回線に接続されている世帯数は2010年には2000万世帯、2011年には2500万世帯と予測されていまして、来年度は日本の世帯の半分以上が光回線で繋がることになります。いよいよ、光回線とデジタルテレビのインフラを使った新しい提案ができる時代になったわけです。

昨年の春以降に発売されたパナソニックのブルーレイディーガには、「お部屋ジャンプリンク」機能が搭載されており、例えば、2階の寝室のテレビで1階のリビングのブルーレイディーガのコンテンツを見られるようになりました。この機能を持つパナソニックのテレビとBDレコーダーは、この3月末で累計出荷400万台、来年の3月末には倍以上になるでしょう。WiFiルータがあれば、ワイヤレスのジャンプリンクが実現でるようになりました。先日発売した当社の10.1V型ポータブルテレビも、家中のどこででもブルーレイディーガのコンテンツを見られます。こういう世界ができ上がってきました。これはもう立派なインフラですね。

家庭内ネットワーク接続の重要な要素の一つとして、ビデオ通話のSkypeがあります。昨年の春以降に発売された中級モデル以上のビエラにはSkype機能が搭載されていますが、この3月末までに約150万台のSkype対応ビエラが出荷される見通しです。来年3月末までには、Skype機能搭載のブルーレイディーガも含めますと、これも倍以上の累計出荷となるでしょう。スマートフォンやパソコンともSkypeで繋がるこのビデオ通話インフラも、エコポイント制度のおかげです。

2011年度は、こうした付加価値商品をどんどん訴求していきます。慢性的下落傾向の平均単価を、まず3Dという付加価値商品で引き上げて、エコポイント制度で生まれた新しいインフラを活用したライフスタイル提案で、さらなる付加価値マーケティングを実現していきたいと考えています。

“テレビの後”もテレビが
新たな価値を生み出す

── ネットワーク環境を普及させるのは非常に難しく、販売店さんでの店頭対策も悩みの種となっています。ここは地域専門店さんの出番でもありますね。

坂本 ありがたいことに、地域専門店さんの店頭のネットワーク環境は、既にかなり整備されています。SPSには販売促進用の材料をネットで配信して、店頭のビエラで再生できるようにしています。3Dのデモコンテンツもネット配信しています。あとは、店頭の3Dビエラを使って、お客様に分かり易い説明やデモができるように、当社が全面的にバックアップすることです。

ネットワーク接続については、地域の多様なお客様に対して、専門店さんにはワンストップソリューションの拠点になっていただきたいですね。高齢化社会になればなるほど、田舎のおじいちゃんやおばあちゃんと都会のお孫さんがSkypeで話をするといったライフスタイルが日常的になってきますから、間違いなく地域の専門店さんの出番になります。昨今の専門店さんは何とかして単価アップを図らねばという危機感をお持ちですので、大きなイノベーションが起こるのを期待しています。

── テレビでYouTubeも見られるようになりました。今後お客様がご覧になるテレビを介したコンテンツの選択肢が広がるのではないかと見ています。

坂本 テレビは家族の絆を強める情報の窓です。ちょっと古い話で恐縮ですが、私は3年前のCESでの基調講演で、これからのテレビを「デジタル囲炉裏(Digital Hearth)」にしようと提唱しました。COMCASTのブライアン・ロバーツ会長やYouTubeのスティーブ・チェン創業者が主旨に賛同してくれて、講演にも登場してくれました。かつては家族が囲炉裏を囲んで一家団欒を楽しんだように、現代はテレビの周りに家族が集合して、失われがちな家族の絆を取り戻す。そういうことに当社のテレビが生かされるようにしないと、事業としては楽しくも面白くもありませんからね。

10年ほど前に私がテレビの事業部長だった頃、その頃はパソコンの隆盛期でDVDの創生期でしたが、テレビはそのうちになくなるとか、単なるモニター化してしまうとか、いろいろご心配いただいたものですが、最近はそんなことを言う人はいません。IPTVとかスマートTVとか、その後のテレビはイノベーションが進んで、デジタル囲炉裏に近づいてきたからでしょう。見るだけならパソコンでもいいわけで、IPTVで見るネット配信コンテンツというのは、ご家庭のデジタル囲炉裏で「使う」コンテンツでなければなりません。例えば、「2階の部屋からリビングへジャンプリンクして、みんなで映画を見よう」といったような、具体的生活シーンで訴求できるコンテンツとテレビの融合進化が必要に思います。テレビの後≠焜eレビが新たな価値を生み出すように、さらなる仕掛けを考えていきます。

創業100周年に向け
環境貢献は重要ミッション

坂本俊弘氏── 2018年に御社は100周年を迎え、そこに向け「エレクトロニクス1の環境革新企業」を目指しておられます。環境、エコについての手応えはいかがでしょうか。

坂本 当社は2018年に創業100周年を迎えますが、1918年の創業時の当社第1号商品は「アタッチメントプラグ」という商品でした。当時の一般家庭の電気の取り出し口は電灯用のソケットで、そのソケットにアタッチメントプラグを挿し込んで、アイロンやコタツなどの電気製品に繋げるといった使い方でした。当時の製造技術で難しかったのは、電灯用のソケットにねじ込む口金部分の加工です。ここがピッタリしていないと危険ですし、ピッタリしすぎるとソケットに入りません。

幸之助創業者が寸暇を惜しんでたどり着いたのが「使い古しの電球の口金をアタッチメントプラグにリユースする」というアイデアでした。電球の口金なら、元々ソケットにピッタリ寸法が合っているので精度は抜群、しかも再利用品なので省資源かつ値段が安い。手前味噌な話ですが、当社は1918年の創業当時から「環境貢献と事業成長の一体化」という考え方が基盤としてあったように思います。

ご存じのように、日本は2020年に1990年比でCO2排出量25%削減を対外的な中期目標としています。2005年比で換算すると30%削減ということですが、これはとてつもなく高いハードルで、工場、事務所、家庭の全部門で大きな削減が必要です。

特に家庭部門は、単純計算で2005年比50%削減しなければならないのですが、CO2を効果的に削減する家電製品なしには達成できません。そういう中で、当社は、工場の生産活動で2012年にグローバルで170万トンのCO2排出量削減を目指すとともに、使用時のCO2排出量を削減するダントツ省エネ商品の開発を加速していきます。すなわち、販売する商品による「CO2削減貢献量」という観点からも社会貢献を目指す考えで、2012年には2005年基準でグローバルに4830万トンのCO2削減貢献量を目標にしています。

家庭で使うエネルギーの約30%を給湯が占めていますので、給湯の見直しが家庭でのCO2削減の鍵になります。ある電力会社さんの試算では、機種や使用条件にもよりますが、エコキュートを設置するとCO2は約20%削減でき、エコキュートと太陽光発電システムを組み合わせると約50%の削減になるそうです。

当社はオール電化製品で既に高い占有率をいただいていますが、太陽光で高い占有率をいただいている三洋電機をグループに迎え入れて、販売する商品によるCO2削減貢献を加速します。

商品によるCO2削減貢献ということでは、当社独自の「エコナビ」商品群があります。エコポイント政策でお客様のエコ意識が格段に高まったおかげで、家電製品自体がムダを見つけて省エネを行う「エコナビ」商品のような高付加価値製品を評価してくださるお客様が一気に増えました。「エコナビ」は冷蔵庫に初めて搭載してから2年になりますが、徐々に搭載商品を拡大し、今や12アプライアンス商品群、83モデルにまで広がりました。12アプライアンス商品群の販売金額の半分以上を「エコナビ」搭載商品が占めるまでに育ちました。最近では、AV商品のビエラやディーガにも「エコナビ」が搭載されています。

引き続き、「エコナビ」新技術の開発と搭載商品の拡大を図るとともに、商品によるCO2削減貢献量をマーケティング部門の重要ミッションとして取り組んでいきます。

当社は2018年に「エレクトロニクス1の環境革新企業」の実現を目指しておりますが、全ての活動の基軸を「環境」に置き、創業商品であるアタッチメントプラグに込められた「環境貢献と事業成長の一体化」を、全社を挙げて実現して参ります。

“家まるごと”コントロール
エネルギーマネジメントを推進

── 環境ビジネスはエコポイント終了、地デジ化終了の後も見越し、流通も期待するカテゴリーです。

坂本 このカテゴリーはAVより大きくなるかもしれません。当社は「Panasonic Home Energy Solution」というコンセプトを打ち出していますが、「創エネ」「省エネ」「蓄エネ」という3つの切り口から、家まるごと≠フエネルギーマネジメント提案を推進していきます。

「創エネ」商品には、太陽光発電システムや燃料電池があります。「省エネ」商品には、エコナビ商品などの省エネ商品群があります。太陽光発電システムで創った電気は、今は電力会社が買い上げてくれていますが、買い上げ財源がなくなった時には、使わなかった電気を貯めておく「蓄エネ」商品、すなわち蓄電池が必要になります。また、「創エネ」「省エネ」「蓄エネ」をばらばらにやるのではなく、家の中と外で最も効率的に電気が使えるように制御することも必要になってきました。

このような家まるごとのエネルギーマネジメント事業は、新築住宅需要のみならず、既築住宅のリフォーム需要でも大きな需要が見込まれており、流通の皆さんからも期待していただいています。ただ、お客様に10年を大きく超える長期間のご使用をいただく工事商品ですので、太陽光発電システムなどでは、正しい販売、正しい施工、正しいメンテを合い言葉に、販売店さんには少々厳しい目の販売研修と施工研修を受講いただいています。今後もコンプライアンスの順守を徹底した事業展開を図りつつ、ポスト・エコポイントの大型新規商材として大切に市場創造していく考えです。

お客様起点で推進する
2012年の事業再編

── この4月1日で三洋電機とパナソニック電工の完全子会社化が完了するとお聞きしておりますが、その後計画されている事業再編についてお教えください。

坂本 事業再編は2012年の1月の予定です。グループの持続的な成長を目指して、パナソニック、パナソニック電工、三洋電機の三社のリソースを最も効率的に再編しようとしています。

これまでの当社の体制は、共通技術プラットフォームをベースにした5事業セグメントと16ドメイン会社で組織されていましたが、今後は、お客様を起点としたビジネスモデルをベースに再編しようとするものです。具体的には、「コンシューマー」「ソリューション」「デバイス」の3事業分野と9ドメイン会社に再編します。9ドメイン会社とは、コンシューマー事業分野の「AVCネットワーク」「冷熱アプライアンス」、ソリューション分野の「セキュリティ&コミュニケーションソリューションズ」「環境・エナジーソリューションズ」「ヘルスケアメディカルソリューションズ」「ファクトリーソリューションズ」、デバイス事業分野の「オートモーティブ」「デバイス」「エナジーデバイス」のドメイン会社です。

グループ本社の大きなガバナンスのもと、各ドメイン会社が開発・製造・販売でグローバルに自主責任経営を展開する中で、人事、経理、企画、法務、R&D、調達、ロジスティックなどの職能が行政と支援を行いながら、グループの総合力を最大化したパナソニックらしいグローバル経営を目指して参ります。2012年1月のグループ再編に向けて、社内プロジェクトで詳細を検討中ですが、最終決定しましたら順次報告させていただくことになると思いますので、よろしくお願いします。

── 2011年度からのご活躍も、大変期待しております。ありがとうございました。

◆PROFILE◆

坂本俊弘氏 Toshihiro Sakamoto
1970年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社、96年海外企画室長、98年台湾松下電器株式会社社長、2000年取締役テレビネットワークシステム事業部長、04年常務取締役企画担当、06年代表取締役専務AVCネットワーク社社長、09年代表取締役副社長 国内コンシューマーマーケティング総括担当、国内CS総括担当、デザイン担当

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