安藤貞敏氏

薄型テレビ拡大の好機を捉え
オーディオの価値を高めたい
ヤマハエレクトロニクスマーケティング(株)
代表取締役社長
安藤貞敏氏
Sadatoshi Ando

2011年7月に向け拡大する薄型テレビ市場を見据え、ヤマハが強力な新商品群を投入した。かねてより展開する「4本の柱」戦略の「薄型テレビオーディオ」カテゴリーを最重点テーマとして、さまざまなソースにつながってオーディオの楽しみを広げる「NEWリビング・オーディオ」を提案していく。これからの展開について、新社長の安藤氏に聞く。

 

ネットワークプレーヤーの領域で
国内ブランドの底力をお見せしたい

── 安藤社長は初めてのご登場です。ご経歴をお聞かせいただけますか。

安藤 大学卒業後、82年にヤマハに入社しました。そして程なくステレオの国内営業に配属になり4年間埼玉県を担当した後、当社の語学留学制度で1年間ドイツに行っておりました。その後ドイツに約8年駐在し、帰国後は浜松で商品企画を10年ほど担当しましたが、その頃に一度和田社長とお会いしましたね。さらに05年から2度目のドイツ駐在で責任者として、ドイツから欧州全体のオペレーションを見ておりました。そして昨年末帰国し、現職に就いたという状況です。

── 帰国されてから、国内マーケットの印象はいかがでしたか。

安藤 有力量販店が欧州以上に多い、というのが第一印象です。またモノの流行り廃りが激しく、その中で永続的に支持される商品を提案するのは難しいことであると感じました。

── 御社は近年「4本の柱」というテーマで商品を展開されていますが、今年の方向性についてお聞かせください。

安藤 まず我々に関連する市場状況からご説明したいと思います。ハイファイとホームシアターの国内市場規模推移をみますと、ピークは99年で2000億円くらい、ミニコンポが300万台ほど売れていた頃ですね。それが昨年でほぼ550億円というところです。またあるご販売店様のオーディオとテレビの売り上げ比率推移をみますと、2000年にはオーディオが7%、テレビが9.3%でしたが、2009年ではオーディオが3.3%でテレビが22.1%となっています。そのオーディオのうちのかなりの部分をiPodなどDAPが占めている状況ですので、残念ながら我々が関連する領域はかなり狭まっていると言えます。

オーディオはメディアの変遷に伴って様相が変化してきましたが、CD、MD、そしてデジタルオーディオプレーヤーが誕生する流れの中でハイファイ市場は縮小しています。DVDの登場により音と映像の世界が結びついて今に至るわけですが、我々の業界はこうしてメディアに依存し、モノ中心でやってきた結果こういうことになったのではないかと考えます。そこで我々は、モノの訴求だけではなくモノの楽しみ方(コト)や生活スタイルまで、提案していきたいと考えます。

我々の掲げる「4本の柱」とは「薄型テレビオーディオ」「iPodオーディオ」「AVコンポーネント」「ハイファイコンポーネント」のカテゴリーですが、今年はこの「4本の柱」のカテゴリーで全20モデル、34バージョンの新商品を投入して参ります。これだけのものを出すというのは、我々にとってもあまりないことです。

その中心は「薄型テレビオーディオ」。今、黒物市場は端的に言えばテレビ中心であり、それをもちろん無視することは出来ません。しかし我々とすれば、オーディオの位置付けをもっと高めたいという思いがあり、「つながる、ひろがる、オーディオの楽しみ」という考え方の「NEWリビング・オーディオ」を提案していきます。映像主体のリビングにテレビの音も、iPodもBDもつながるラックシアターを中心に、モノだけでなく、その楽しみ方(コト)も提案したいと考えます。

今年はラックシアターの新商品を多数投入しましたが、これはまさに「NEWリビング・オーディオ」の中核となるものです。3DやARC、HDオーディオ対応という切り口だけではなく、iPodがつながる、ヘッドホンでも楽しめるサラウンド、存在を主張しないリビングにとけ込むデザインなど、まさに新時代のリビング・オーディオを具現化するものです。

薄型テレビはこの年末間違いなくボリュームを高めて来ますので、そこで我々のできることを最大限にやっていこうと思います。この分野はテレビメーカーさんのラックシステムとの競合でなかなか難しい部分もありますが、我々は04年にYSPという商品を出し、薄型テレビ時代の標準オーディオを目指して長年販売店様と一緒にその普及に取り組んできました。おかげさまで認知もかなり高まり、今ではお客様や販売店様には相当のご支持をいただいています。

今は薄型テレビが家庭に普及するまたとない機会ですから、ここで単にテレビの付属品としてラックシアターを売っていただきたくないという思いです。ご販売店様もそこは同様で、今年2000万台とも言われる薄型テレビが来年700万台に落ちる可能性を考えますと、バリューアップ、単価アップが必要です。そんな中で付加価値が上がるような売場づくりがしたいと望まれるのは自然の流れであり、そこに当社が必要とされていると感じます。

薄型テレビのお客様に当社のシアターを薦めていただくことで、無理なくお客様に価値が伝わり、お客様も喜ばれる、単価アップにつながってお店様も嬉しいということになればと考えます。我々としてもここはオーディオをリビングに持ち込む千載一遇の機会であり、そこに合わせて投入した今年の商品はダントツに強いものと自負しております。

薄型テレビカテゴリーに注力
強力な2010年新製品群

── 今回のPOLYPHONYはスペックはもちろん、細かいところに至るまで配慮がなされた仕上がりとなっています。

安藤 たとえばサラウンドインジケーター。これまでの商品ではお客様からYSPの効果が感じられないといったお問い合わせが結構あり、サービスマンが訪問してみるとそのほとんどが、アナログの2ch接続になっていたという状況でした。また販売店様の配工の方々と話をさせていただくと、テレビとデジタル接続をほとんどしていなかったということも判りました。そこでサラウンド音声が入力されたらオレンジ、さらにHDオーディオですと青と、色で接続の状況を一目でわかるようにしたのです。

また移動しやすくしたいというご要望には、フローリングの床に傷のつきやすいキャスターではなくインテリアスライドシートを付属しています。さらに背面が本当に壁にぴたりとつけられるよう、配線の引き回しが出来るスペースを背面に確保するなどの配慮を施しました。余談ですが、この壁ピタは見た目の美しさだけではなく、耐震効果という面でお求めになられるお客様も多いですね。

ラックはテレビ購入と同時に買われるケースが多いのですが、既にテレビを購入された方にホームシアターシステムをどう訴求していくかということも課題であり、エコポイント終了後、アナログ停波後のテレビ販売の落込みを補う手段としても重要なテーマです。従来あったような5.1chのシステムではスピーカーを後ろにおく必要があるので一般のお客様に受け入れていただきにくいところがありましたが、かと言ってバーチャルのフロントサラウンドでは物足りない。YSPはそこで誕生したものですが、やはり物理的に幅のあるものですのでこれまではラックで展開するのが主流となっておりました。

そこで今回ご提案したのが「YSP-2200」という、テレビの足をまたぐYSPです。どんなテレビの前にも置けて、本格的な5.1chを楽しむことができるのです。テレビ周りは今年我々が最も注力するカテゴリーです。「ホームシアターはヤマハ」ということで選んでいただける状況を目指します。

安藤貞敏氏── AVのコンポーネントも、強力な新製品が登場しました。

安藤 AVアンプで我々は、シネマDSPでまさに20年以上にわたって立体音場を手がけて参りました。今年は漸く画面も3Dとなり、「3D観るなら、ヤマハで聴こう。」というスローガンで進めて参ります。ただAVアンプの市場が今後どうなるのかはあまり見えてこないところであり、昨年で6万台強といわれていますが、今年はテレビの勢いで若干伸びそうな傾向です。できれば10万台位の市場になってくれればという思いで頑張ります。

── 流通はこれまでテレビとエアコンを売るので精一杯でしたが、?これからは付加価値訴求ができやすい環境になってきます。既にテレビを購入された方が音に物足りなさを感じるなど、さまざまなリアクションも出て来ます。

安藤 流通様と話を致しますと、皆様付加価値を訴求したい、オーディオを何とかしたいとおっしゃっていますが、我々としてもなかなかそれを実現できないもどかしさはあります。しかし皆様思いは同じだと強く感じます。これまではやり方を模索してなかなか方向性がみつからないという状況でしたが、薄型テレビ拡大のいい機会を捉えて、オーディオの価値を高めていきたいと考えます。そしてこれで音の世界をわかってくださった方が、将来もっと上の世界へと進んでくださるという期待も持ちたいですね。iPodを楽しんでいる方も、それをiPodオーディオやPOLYPHONYとつないでスピーカーで聴くことができます。こんないい音がするのか、と実感していただけたらと思います。

ピュアオーディオ注目アイテム
ネットワークプレーヤー登場

── こういったコンセプトの明快な商品が登場し、大きなチャンスが広がります。

安藤 オーディオ専業メーカーとして、そして音楽の専業であるヤマハとしてできること、それは特に音の重要性をわかっていただくことだと思います。iPodオーディオのカテゴリーでは、我々はお客様のこだわりを「カラー」「デザイン」「シンプル」「音」の4つのセグメントにして、それぞれに対する提案をしていきます。色々なお客様にヤマハのiPodオーディオの音を楽しんでいただく展開をしていきたいと思います。

また2chコンポーネントでは、ネットワークプレーヤーを投入します。この商品については、販売店の皆様にご協力いただかないと進めていけない領域です。かつて我々は選択と集中でホームシアターに注力し、2chハイファイ分野の比重が軽くなったところがありましたが、3年ほど前に2000シリーズというオーディオコンポーネントを提案し、ご好評をいただきました。今回のネットワークプレーヤーはその流れを汲んだものであり、2000シリーズのアンプにつないでいただく新しいソースプレーヤーという考え方で、販売店様とお客様を巻き込んでしっかりと展開したいと思います。ここは海外のブランドが先行しておりましたが、国内ブランドとしての底力をお見せしたいところです。

ネットワークは将来に向けた様々な可能性をもっており、 先々商品カテゴリーも拡がっていくと思われますが、 今は本当に黎明期です。ここでご販売店様としっかり協力し、すすめていくことが肝要だと考えます。当社でも営業マンに対する社内研修も強化し、外に向けてはお客様に聴いていただく機会を持ちながらやって参ります。

── 店頭展開についてはいかがですか。

安藤 これからは自然の流れで価値訴求ができる環境になってくるかと思います。それに応じて店頭展示も進めていきたいと考えておりますが、それは我々の意志だけではできません。ご販売店様、またテレビ周りについてはテレビメーカーさんとも協力していかなくてはならない領域です。

テレビメーカーさんとはこれまでも売場展示でご協力をいただきましたが、我々の音の部分でテレビの価値も高まったと評価してくださり、今年の年末商戦に向けても一緒にやっていきたいとお声掛けいただいています。それは販売店様も同じであり、皆様と協力して、少しでも多くのお客様に見て聴いていただける環境づくりをしていければと思います。まずは年末商戦。これからどんどん広がるチャンスに向けて、お客様にオーディオの価値が、そしてヤマハの価値が伝わる提案を行って参ります。どうぞよろしくお願い致します。

◆PROFILE◆

安藤貞敏氏 Sadatoshi Ando
1982年日本楽器製造(株)(現ヤマハ(株))入社。以来AV機器のセールスとマーケティング業務に携わる。2003年6月AV機器事業部マーケティング室長。2005年9月ヤマハエレクトロニクスヨーロッパ社長。2009年11月AV機器事業部営業部長。2010年4月より現職。

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