法月利彦氏

オーディオからAVへの転換を図り
日本からワールドワイドに市場提案する
CAVジャパン(株)
代表取締役社長
法月利彦氏
Toshihiko Norizuki

2006年10月の設立以来今日まで、急角度で成長し続けるCAVジャパン。オーディオラックを事業の核に据え、国内からアジア、そしてヨーロッパ、北米へと着実にターゲットエリアを広げるとともに、その事業展開もさらなる局面を迎えようとしている。次なる仕掛けを準備する法月社長に、その近況を聞く。

 

今の時代の経営に必要なのは
重厚長大でなく身軽であること

新たな方向性を掲示
「AVへの転換」

── 御社はこの4月から第5期を迎えられました。2006年の設立から今日までを振り返っていかがですか。

法月 当社の事業の軸はオーディオラックですが、おかげさまで順調に推移し、数字としては堅調です。国内では現状の地デジ普及率が65%と言われていますが、2011年7月の完全移行までのテレビ需要に則して事業を進めていくこととなります。オーディオではハイファイ商品や、前期から手がけているIPIGLETやハイコンポVAZIOといったデジタル系の商品も提案してきました。そうしたことによってこれまでお取り引きの無かった新たなチャネルの開拓もでき、販路の拡大につながりました。そしてこの新たな販路が、オーディオラックの市販モデルの拡大にも好影響を及ぼしたと言えるでしょう。お客様に対するブランド力が認知され、流通様に対するCAVジャパンのポテンシャルが高くなったと思っています。同時に我々CAVジャパンも中国の生産工場も、より高い品質を目指して意識を高めており、全体にいいかたちになってきたと実感しています。

売上高は第4期で40億円を達成することができました。第2期が15億円で第3期が27億円、おかげさまで右肩上がりで推移しています。そして今期は100億円という数字を掲げていますが、新たなチャレンジが実現すれば、その先も見えてくるものと思っています。

期初に社内で経営会議を開き、今期の事業計画を発表しました。項目はいくつかあるのですが、主だったものをご紹介しますと、まず今後の大きな方向性として「オーディオからAVへの転換」が挙げられます。当社はオーディオだけでなく、ビジュアル市場へ参入を図ります。可搬性のある小型商品を皮切りに、ひとつで色々なことができるということをキーワードとして、24時間のそれぞれに使用シーンが想定できるようなプロダクトを考えています。今期、日本国内をはじめアジア、ヨーロッパ、北米とワールドワイドの規模で市場に提案したいという思いです。

そしてもうひとつは、新たに立ち上げたデジタル系のブランドである「F3」について、「ハローキティ」モデルの1号機を提案します。これは4月15日から開催された広州交易会でも参考出展致しました。今年度はこれを足がかりに、色々なことをやっていきたいと思います。またもちろんハイコンポ「VAZIO」も、昨年末にご提案したものに引き続き、さらなる展開を図ります。まず5月にT-3のCDプレーヤーを準備しており、これでiPodだけでなくCDというもうひとつの音源が加わります。さらに現行モデルのバージョンアップも図ります。「VAZIO」というブランドをせっかく立ち上げたわけですから、これはどんどん進めていきたいと思っています。

そしてオーディオの新たな事業としまして、ヘッドホン市場に参入したいと考えています。オーディオをとりまく現状を見てみますと、スピーカーよりもヘッドホンの方が圧倒的に若者のライフスタイルに沿うものと思われます。iPodやミニコンが2万円台というような中で、今や1本3万円とか5万円といった価格のヘッドホンがどんどん売れているのです。我々としては開発から手がけ、この市場にできるだけ早く参入したいと考えています。

AVへのシフトを図ると申し上げましたが、オーディオラックを始めオーディオのカテゴリーをやめてしまうということはありません。ただ市場の動向を見て、ピュアオーディオよりはむしろデジタルオーディオへ重心をかけ、腰を据えてじっくりとマーケティングを展開していくつもりです。ヘッドホンはそこにも関連して、今後も多いに伸びしろのある市場だと思っています。

それから、WEB事業の立ち上げを考えています。これはサイト構築としてだけでなく、我々にとってのチャネルのひとつと見ております。ひとつのカンパニーと位置付けて、デリバリー、ロジスティックスから決済までもすべてそこで解決できるようなものを想定し準備を進めているところですが、時間はかかると思います。

この業界には名だたる大手のメーカーさんがたくさんあり、私どもは新参者として参加させていただいている状況です。これから業界の中で事業規模を拡大していくならば、扱うアイテムを増やすか、チャネルやエリアを拡大するかという手段しかありません。アイテムを増やす手段のひとつがAVへの参入ですが、チャネルの拡大では今後はWEBということが考えられます。またエリアでは日本国内だけでなく、やはり海外をにらんでのマーケティングをしていかなくてはならないと思います。今それらを同時にやろうとして大きな風呂敷を広げています。しんどい思いをしていますが、元気よくやっていきたいと思っています。

1台で何でもできるものを
ホームエンターテイメントの核に

 

── オーディオブランドとしてのお立場から、日本のオーディオマーケットをどうご覧になりますか。

法月氏法月やはり厳しいと見ていますし、私自身はオーディオ復活をアナログ商品で実現させるのは無理だと思っています。かつてオーディオにはシーズンニーズというものがありましたが、それだけコンシューマーにとって必要性の高いものだったわけです。しかし今はどうでしょう。現代の若者は、アナログの音を聴きたいのではなく、音楽を聴きたいのです。アナログにこだわるのは、それを知っている人間だけ。そこから考えていかないと方向性を間違ってしまいます。

私自身はアナログを否定していませんし、いい音だと思っていますが、ビジネスとして考えた場合、市場が小さすぎると思います。我々としては、新しいマーケットをどれだけ築けるかが問題です。そうすると後戻りするより、デジタルでこれからの可能性を探る方が可能性は高いと思います。

 

── ホームシアターの展開についてはどうお考えでしょうか。

法月 現状でも我々は、オーディオラックでホームシアターの一端を担っています。オーディオラックの想定使用シーンは、薄型テレビとともにリビングに置いて楽しまれるというところですが、そういったお客様だけでなく、今後は部屋を改造してホームシアタールームにしてしまおうというようなお客様も多くなると見ています。我々としては、そういうお客様も対象としたプロダクト、さらに幅広いビジネスも視野に入れた展開もしていかなくてはと考えます。

音だけでなく、画も含めたエンターテイメントを提供するものが、これからは主流であろうと思います。たとえばラックの中に画が入ることも考えられます。センターの受光部に着脱式液晶ディスプレイがあって、そこにレコーディング機能も入れ、番組を録画して外で見る。ナビゲーションにもなる。ゲームソフトにも対応する。そういうようなものですね。

ホームエンターテインメント機器とは、要するに家の中で何でも楽しめるものだと考えます。そういうものが一家に1台あるというような。それがホームシアターであるとも考えられます。またそこまで大掛かりでなくとも、音楽に止まらないエンターテインメントをもたらすような道具、楽しい道具がAVの世界を変えると思います。

 

── 御社設立の当初は、中国のCAVの製品を日本で販売するというかたちで事業をスタートされました。その後オーディオラックやハイコンポなど、日本国内でのマーケティングを活かした独自の商品を展開されています。CAVジャパンと中国のCAVとのご関係はどのような形になっているのでしょうか。

法月 我々が手がけようとする新しい事業戦略については、その都度、中国のCAVと相談しながらすすめています。しかしCAVジャパンがスタートした際と今とでは、我々の関係にも変化があり、ひとことで言えばCAVジャパンの影響力が強くなったということですね。現在では、ワールドワイドでのマーケティングもCAVジャパンに任されていますし、WEBの事業に関してもどんどんやって欲しいというスタンスです。

私がまず考えるのは、ブランドを広く世間に認知していただくことです。そのためにはお金も時間もかかりますし、何よりもコンシューマーからの絶対的な信頼がないと成り立ちません。今この時点において我々は、国内でだんだんとまわりに認めていただけて、またご縁があって海外から一緒にやりたいとお声をかけていただくこともいくつかあります。

海外ビジネスを独力で展開するには、大変なエネルギーが必要になります。それよりも、海外メーカーと組んで、日本では弊社が代理店になりマーケティングをやり、海外では組んだメーカーがCAVの代理店になり、OEM供給先になって、マーケティングをやってもらうということを考えています。既に2、3社と話し合いを持っております。ですから中国のCAVとの関係については、現在CAVジャパンがマーケティングや商品企画全般を手がけ、CAVで生産するという構図になっています。CAVで生産するCAVジャパン製品の比率は、昨今では8割に達するところまで来ています。

フレキシブルに動けることが必須
スピード感でチャレンジする

 

── 商品企画をする際、往々にしてモノからユーザーの行動を考えてしまいがちですが、御社ではユーザーのライフスタイルを想定し、その上で商品を企画しチャネルを定めておられます。そして足りないモノは柔軟に他社とコラボレーションして入手し、先を見据え、そこに合ったものをかたちとしてつくりあげておられますね。今後の中期的な展望をお聞かせいただけますか。

法月 今期は売上高100億円という目標を掲げています。ただ、2011年7月の地デジ完全移行の後、日本では間違いなくテレビの需要は落ちます。今我々の事業の柱になっているオーディオラックもテレビの需要に伴い、少なくとも今の売り方の延長線上では落ちていくことになります。それならば、今のような売り方でも落ちない可能性があるものは何か。そのひとつは「3D」だと思っています。

私は以前に所属した会社で3Dの開発を手がけた経験があり、その段階では懐疑的な印象だったのですが、今現実に国内の各社が次々に名乗りを挙げています。すでにテレビが発売され、3D用のテレビラックも発表されています。テレビにおける臨場感を考えると、5・1ch、7・1chと本来音の方が先に行っていたはずです。そこで我々としても、3Dに照準を定めたオーディオラックを開発するべく、準備を進めているところです。

このマーケットができるのかどうか、今の段階ではまだわかりません。しかしどういう状況になろうと我々はすぐ発進できるようでなくてはなりませんから、そういう体勢をつくっていくということです。我々に求められるのは、スピード、クオリティ、そしてコスト。生き残る手段はそこなのです。そのために3Dを今から研究し、それなりの下地をもっていなくてはなりません。

今の国内2Dテレビの需要が2011年を境にガクンと落ち、それに伴ってラックの需要も落ちてしまう。それならばラック自体に付加価値をつけることを考えなくては。ラックだけでも欲しいというくらいのものです。それはホームエンターテインメントの、センターボックスになり得るかもしれません。あらゆるパッケージソフトや通信の基地になるようなもの。我々は他社とのコラボレーションで、こういったものにも着手しています。

しかし海外では地デジ需要など関係ありません。「平面テレビ」という切り口で、ブラウン管からの置き換えがこれからまだまだ起こって来ますから、ここに目標を定めていきたいと思っています。またラックというかたちではないかもしれませんが、音という部分でどれだけ付加価値をつけていけるかという考え方は、これまでと同様です。

今まで申し上げてきたのは、CAVジャパンとしての事業展開です。しかし我々はそこに止まらず、さらに大きな事業展開も視野に入れています。今詳細を申し上げることはできませんが、今後じっくり取り組んでいきたいと思います。

戦後の日本経済を支えてきたのは重電のメーカーさんであり、そのモノづくりです。そしてモノづくりはこれからの時代でも本流だと思います。しかし私は、傍系でもいいと思っているのです。今の時代の経営を考えると、重厚長大であるより身軽である方が生き残りやすい。ただしポイントがいくつかあって、そこをきちんと押さえないとうまくはいかないのです。たとえば、生産は自社内ではなく強いパートナーシップを持った拠点に置くが、品質管理については自社で終始徹底して行う。自社には高い商品企画力やマーケティングの推進力を持つなどがそれにあたります。そしてスピード感があること。これまでのようなやり方では、これからのビジネスに対して重すぎて身動きがとれないと思います。フレキシブルに動けることが、我々の一番の強みだと思っています。

 

◆PROFILE◆

法月利彦氏 Toshihiko Norizuki
1995年にパイオニア(株)国内営業部長に就任以来、2001年ビジネスシステム事業部事業部長、2003年パイオニアグループの中国拠点である先鋒電子(China)の董事長兼総経理を歴任。退任後2006年10月にCAVジャパン(株)を設立、同社代表取締役社長として現在に至る。

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