大塚重徳氏

バーベイタムが自分たちの財産に
なっていく大きなメリットがあるはずです
三菱化学メディア(株)
代表取締役社長 グループCEO
 
大塚重徳氏
Shigenori Otsuka

三菱化学メディアは、欧米やアジアパシフィックなど海外80ヵ国以上で展開する同社のグローバルブランド「Verbatim(バーベイタム)」を、日本市場へ本格導入すると発表。バーベイタムのブランドを冠したデータ用光ディスクの新商品が9月から市場投入されている。鮮やかなレインボーカラーのパッケージが、まさに鮮烈なデビューを印象付けるかのように目に飛び込んでくる。新ブランド「バーベイタム」導入の背景と新しいスタートに向けた意気込みを、同社社長・大塚重徳氏に聞く。

 

新たな挑戦。いよいよ国内市場へ本格導入
さらなる飛躍への推進力「バーベイタム」

市場変化に対応する
必然のブランド変換

── 「Verbatim(バーベイタム)」ブランドを、いよいよ国内市場へ本格投入されました。なぜ、「MITSUBISHI」ではなく「Verbatim」なのか。また、このタイミングを選ばれたのはどうしてなのか。国内市場への本格導入を決断された背景についてお聞かせください。

大塚我が社は、国内は三菱、海外はバーベイタムのブランドで展開して参りました。海外では、当初はパッケージデザインなども地域ごとにバラバラでしたが、コンセプトを含めてブランド統一を推進し、今ではどこの国に行っても、同じバーベイタムの商品を手にしていただくことができます。

一方、国内の「三菱」というブランドは、自動車から家電製品に至るまで、共通したイメージや認知度がありますが、記録メディアの販売会社として、自分たちでブランドの価値を高め、全世界に反映させていくことが一番望ましい姿であると考えたときに、そこに、ひとつの課題がありました。

記録メディアの世界も多様化し、マーケット構造も変わってきています。フラッシュメモリーをベースにした商品や外付けHDDなど、光ディスク以外の商品を含めた、総合的記録メディアのブランドとして、幅広い製品を扱っていかなければなりません。

また、営業面からも、どこかの時点で、バーベイタムへのブランド統一を決心しなければならないと考えていました。海外でのビジネスのボリュームが圧倒的に大きくなった結果、品揃えや商品導入などの点でスケールメリットを活かすことを考えてのことです。われわれは光ディスクで「シェアNo.1※」と言っていますが、それはバーベイタムブランドとしての部分が大きく、数量的な優位性を活かしたメリットも、これまで以上にお客様へ提供できるようになると思います。

このように、自分たちのブランドである「Verbatim」へ、統一していきたい、また、いかなければならない理由が数多くあったのです。

また、お客様の立場からすれば、光ディスク商品と同じブランドで、他の記録メディア商品を認識する方がわかりやすいはずです。

ブランドを変えていくわけですから、こちらが思ったようには受け取っていただけない可能性ももちろんあります。リスキーでもあり、結果が出ないとわからないところもありますが、一度決断した以上、不退転の決意で臨みます。


── 準備を進めていかれる中で、一番ご苦労された点は何でしょう。

大塚ブランドを変えるというのはむずかしいですね。お客様に迷惑をおかけしないように、1年半くらいの準備期間をかけました。

何よりもまず、社内の意識を統一する必要がありました。いまから私たちが行おうとしていることと、一方で、三菱のブランドを使い続けた場合の課題について提起し、議論を進め、時間をかけて理解をしてもらいました。特に、バーベイタムというブランドが自分たちの財産になっていくという大きなメリットを認識してもらうことが重要です。今までの、三菱ブランドは、はじめから認知度や信頼力がありますから、我々自身で独自のブランドを育てていくというカルチャーに乏しい面がありましたので、新しいブランドをゼロから育てていくという意識へ切り替えるのが大変でした。このために、新しいブランドのコンセプトを固める、土台づくりは相当しっかり行いました。

お客様に対しては、今年の6月から7月にかけて徐々に告知を行ってきましたが、われわれが思った以上に好意的に受け止めていただけました。現在はこの流れに乗り、全社一丸となってブランド移行を進めています。

しかし、営業スタートの段階では、受け入れていただけるかの心配は大きなものでした。そこで、新商品のパッケージデザインに、著名なアートディレクターを起用して、印象的なレインボーカラーを採用しました。その結果、店頭で、お客様が「これはなんだ」と目を留め、実際に商品を手にとっていただく確率が期待以上に高くなっているようです。まず興味を持っていただかないと始まりませんが、目立たせるという戦略が奏効しているようです。また、これまで光ディスクにはなかった明るいデザインは、店頭のスタッフの方からも「売り場がとても明るくなった」と大変ご好評いただいています。


常にグローバル市場を
リードする総合ブランド

── メディアは特にブランドの持つ意味が大きいですね。新しいブランドを導入されるということで、生産や製造・開発の体制に変化があったのではないかという誤解も一部にはあるのではないでしょうか。

大塚氏大塚海外のブランドということで、一番気を使うのはそうした点です。しかしそこでは、「三菱」が大きな信頼の担保となります。製品パッケージで、三菱化学メディアをどう表記するかをいろいろ考え、新しいパッケージでは「Verbatim」のロゴをメインに大きく、そしてそのヨコに「MITSUBISHI KAGAKU MEDIA」のロゴを付記する形を採りました。三菱でいままで培ってきた品質の継続を、バーベイタムで世界で一番たくさんの人が使っている実績を。両者のメッセージを組み合わせることで、ベストの商品であることを表現しています。

開発・生産体制にはもちろん変化はありません。光ディスク全般で捉えれば、開発に対して一番力をかけている会社であると自負しています。素材開発から生産技術確立まで、次世代の多層やホログラムなど多岐に開発しているのは当社だけです。そこにはまったく変わりはありません。


── 今回はまず、データ用光ディスクからの導入となりました。

大塚国内では2年前より、フラッシュメモリーやポータブルHDDからバーベイタムブランドの導入を試験的にはじめていますが、本格導入にあたる今回、われわれのもっとも強いPC系から攻めていくことにしました。

データ用である程度根を張って、AVの売り場に行ったときにも「あっ、これ見たことがある」というくらいの状況にしておかないと、むずかしいと判断しました。目標はもちろん、一貫しての導入ですから、タイミングを見極めていくことが大切だと思います。


── テレビの中にHDDが入ってくるなど記録メディアが多様化する中でこれからの記録メディアビジネスはどのような方向へ向かっていくのでしょう。

大塚アーカイブするのは光ディスクが一番いいと思います。ただ、光ディスクはドライブも要りますし、形状も大きい。容量を大きくするためには規格を変えなければなりませんから、時間も、投資もかかります。フラッシュメモリーに記録するのは当然の流れですが、あくまで一時的な用途が適していると思います。

カメラやケータイにはフラッシュが圧倒的に強いし、対容量で見たコストならHDDが優っています。永久に保存するというニーズはもちろんありますが、そうでないニーズもかなりある。そうした多様なニーズやマーケットの動きにフィットしていくことが大事だと考えています。

当社は、基本技術の開発は光ディスクを中心に行ってきました。HDDやフラッシュメモリーでは、応用商品をビジネスとして展開していますが、今後の市場成長への期待は大変高いです。記録メディアの総合ブランドという立場から、市場が伸びていくところは積極的に注力していきたいと思います。


── 9月3日には、外付けHDDを中心とするコンピューター周辺機器事業を展開する、オランダのフリーコム社の買収を発表されました。

大塚ここ数年で市場が急速に伸びているのが外付けHDDの分野です。リテーラーさんの棚も大変賑やかになりました。われわれも2年前に参入し、デザインや機能などの最小限の開発能力をもって事業を行ってきましたが、さらにビジネスを大きくしようとしたときに、基本的なファンクションの充実が必要でした。販路が主にBtoCとBtoBで差異化できますので、当面は、ボリュームゾーンはバーベイタム、ハイエンドはフリーコムと棲み分けていくと同時に、商品開発や部品の調達等、重複している部分の合理化を行っていきます。

 

「世界No.1」のインパクトを
まず、強烈に印象付ける

── これからバーベイタムという新しいブランドを、自分たちのものとして育てていくにあたり、他との差異化は、また、それをどのようなコミュニケーションで伝えていくのでしょう。

大塚氏大塚まず、ブランドに込めたお客様に対するメッセージを、新商品のパッケージ裏面に「世界No.1記録メディアバーベイタム上陸」として凝縮しました。もちろん、お伝えしたいことは山ほどありますが、世界No.1の記録メディアブランドであることが、差異化の上で大きなアドバンテージであり、また、もっともお客様の心に届きやすいメッセージです。年末商戦期には、これまでにない大きなキャンペーンを計画しており、お客様とのコミュニケーションも活発にしていきたいと思います。

── 御社が他社に対して明確に差異化されている開発力や技術力、最終商品の品質を保証する力、あるいはもっと上流の部分での技術的な開拓力があります。それらを強みとしてどう活かし、かつ、お客様に理解していただくのでしょうか。

大塚今回、バーベイタムの導入に伴い、ブランドコンセプトとして、われわれの強みを「スマート」「アドバンスト」「コンフォート」という3つのキーワードに整理しました。

「スマート」は、メディアを使って色々なコミュニケーションを行うライフスタイルそのものをスマートなカタチにしていきたいという私たちの思いです。また、三菱がどちらかというと堅いイメージがありますから、バーベイタムブランド商品では、もっと柔らかで斬新なものにしていきたいと思います。

「アドバンスト」は、新しい技術や規格をつくることができる最先端の技術力、世界初の技術力です。その結果として、世界No.1のシェアを持っているユニバーサル・アドバンテージを表現しています。

「コンフォート」には快適や安心という意味が込められています。安心して使える背景にあるのがスリーダイヤの三菱です。製造地は海外でも、日本人の手でつくりあげた製造ラインで、日本人の管理のもと、製造のレシピや材料はすべて指示していくという意味から、「ジャパンクオリティ」で生産されていることを訴えて参ります。また、保存性に優れた長期保存用DVD「アルレディア」や「点字CD-R」を作るカルチャーがあり、いろいろなお客様のニーズに合致していく力、という意味も表しています。

消費者目線で考えていかないと、いきなり堅苦しいことを並べてもむずかしいだけですからね。中でも最もインパクトがある「世界No.1」というメッセージを訴えることで、まず注目してもらいたい。バーベイタムの技術は日本発ですが、海外から返ってきたというちょっと複雑なプロフィールを持っています。親しみやすい、お客様に注目してもらえるようなメッセージを投げかけていくことが必要だと思います。


── バーベイタムによるブランディングは、欧州での圧倒的な強さを、日本市場でも発揮していくチャンスになりますね。

大塚世界全体の中での日本、そこで私たちはきちんと生き残り、最終プレーヤーになることを決心しています。そうすれば自ずとシェアは上がってくると考えています。当社は記録メディアの総合ブランドです。光もフラッシュもHDDも、これからも総合的に取り組んでいく決意の証しとして、この時期にあえて、新しいブランドを立ち上げました。積極的に、品質とボリュームともに安心してご販売いただける体制をさらに整えて参りますので、「バーベイタム」をどうぞ宜しくお願いします。

※記録形CD、DVDのブランド別販売数量2005〜2008年、4年連続で世界シェア1(米国調査会社Santa Clara Consulting Group調べ)

 

◆PROFILE◆

大塚重徳氏 Shigenori Otsuka
1947年生まれ。大阪出身。72年東京大学大学院物理工学研究科卒業。72年三菱化成(現 三菱化学)入社。中央研究所研究開発室、三菱化学インフォニクス社副社長、三菱化学(株)執行役員などを経て、05年三菱化学メディア(株)代表取締役社長に就任。現在に至る。趣味はウォーキングと料理。好きな言葉は「挑戦」。