木村 純氏

アクトビラ本格テイクオフテレビの在り方が大きく変わる2009年
機器とプラットフォームとコンテンツが三位一体となりさらなる発展を実現する
パナソニック(株)eネット事業本部
本部長
木村 純氏
Jun Kimura

待望の大型コンテンツ「NHKオンデマンド」や「TSUTAYA TVダウンロード配信サービス」も開始され、テレビはもちろん、さらには、ライフスタイルをも大きく変えていく存在として注目されるアクトビラ。一層の飛躍とデジタルAV市場へのインパクトが期待される2009年を、木村純氏は“アクトビラ本格普及元年”と位置付け腕を鳴らす。プラットフォームとしてのさらなる充実で普及加速を目指す、アクトビラの成長戦略を聞いた。

テレビが変わる
2009年

―― 大型コンテンツとして待望されていた「NHKオンデマンド」がいよいよスタートを切りました。

木村木村氏プラットフォームのひとつとしてアクトビラを選んでいただき大変光栄です。NHKさんがお持ちの膨大なコンテンツの中から1500本以上のメニューを揃えてスタートされました。さらに、1週間に約20本の新しいコンテンツを加えていく計画ということですから、一年間で約1000本、09年末には2500本以上に拡大していることになります。

「特選ライブラリーサービス」では、われわれの年代ですと「ひょっこりひょうたん島」や「夢で逢いましょう」などの大変懐かしいコンテンツもあります。「シルクロード」などは、もともとはフィルムなのを、いったん中国に返還したのをまたお借りしてきて、デジタルリマスタリングしてご提供されているとのことで、素晴らしい画質に仕上がっています。「見逃し番組サービス」も大変魅力的で、これは大きなうねりになっていくのではないでしょうか。

―― 「NHKオンデマンド」がスタートしたことで、テレビへの接し方や楽しみ方、テレビそのものの持つ意味合いが大きく変化していきそうですね。

木村まさにテレビが大きく変わる、それが2009年だと思います。放送のデジタル化が急速に進展し、一方では、ネットでFTTHが約1400万世帯にまで普及し、2010年3月には2000万世帯を超えると予測されています。そこへ、お店で購入したデジタルテレビをご家庭でネットにつなぐだけで、非常にクオリティの高い映像配信サービスが楽しめるアクトビラが始まりました。

現在、対応のテレビは、静止画を含めれば500万台を超えていると推定されますが、高画質の動画が再生できるものはまだ数十万台に過ぎません。しかし09年には、いままでとは桁が違う、圧倒的な数の高画質の動画再生に対応したデジタルテレビが店頭に並ぶと予測しています。恐らく09年末には、100万台以上がアクトビラにつながっているでしょう。こうなってきますと、テレビの見方、使い方がまったく変わってくると思います。

―― これまでは人が番組に合わせるか、或いは、レコーダで録画したりレンタルをする必要がありましたが、これからは、自分の時間に合わせて、見たいものを見たいときに見ることができる。生活スタイルも随分変わってくるのではないでしょうか。

木村ネットにつながることで、テレビの役割は大きく変わってきます。屋外のモバイル機器にも色々なサービスが増え、家の中ではテレビがインターネットの窓口になり、そのサービスプラットフォームと携帯電話やカーナビのサービスプラットフォームとが自然と融合してくる。最近は使わなくなりましたが「ユビキタス」な社会が、ようやく2009年に現実のものとなります。そして、この2009年と、アナログ停波の2011年が、テレビの在り方を大きく変えていくエポックメイキングな年になると思います。

3つの特長を
さらに研ぎ澄ます

―― ハイビジョンクオリティによるダウンロード配信サービスのスタートも、テレビの役割を大きく変えていくのではないでしょうか。

木村ストリーミングとの違いは、まず、画質が非常によくなります。ストリーミングでも、現在、DVDよりは格段にいい画質ですが、それが、BDに迫る高画質で楽しめるようになります。それから、「セルスルーサービス」といって、ダウンロードしたものをHD解像度のまま、ブルーレイディスクなどリムーバルメディアへのダビングが最大2回まで可能なサービスも展開されます。しかも、「セルスルー」の配信はタイトルによってはパッケージメディアと同時になりますので、パッケージメディアが売り出されたその日から楽しめるようになる。好きな方は一日でも早く見たいですから、この点のインパクトも大きいと思います。

また、テレビだけでなく、HDD付ブルーレイディスクレコーダーにもブラウザがどんどん搭載されて、普及への大きな牽引役になると考えています。現在、パナソニックのブルーレイディーガ3機種に搭載されていますが、9、10月の2ヵ月間、パナソニックの動画ブラウザ搭載機種の接続数ではディーガがビエラを上回っています。ビエラでは高価な最上位機種に搭載されているという背景はありますが、アクトビラのビデオフルサービスを楽しむには、今あるテレビにブルーレイディーガをつなげるのが非常にコストパフォーマンスの高い方法だということを、お客様もよくご存じのようです。

普及の上での課題となるのは、やはり、ご家庭内での接続ですが、最近はPLCの性能がかなりよくなり、広帯域の配信にも対応されるようになってきています。設定も差し込んでボタンを押すだけと大変簡単です。アクトビラの普及を後押しする力強い存在になると期待しています。

―― 動画配信のスタートにより、静止画のコンテンツの持つ意味と役割には変化はありますか。

木村例えば、テキストベースであっても、その中に動画があり、商品の説明もよりわかりやすいショッピングなど、静止画にも動画をうまく取り込んでいきたいですね。これまでは動画対応のブラウザを搭載した機種が少なかったため、商売ベースにも乗りにくかったのですが、これからはどんどん増えていきますから、静止画と動画を組み合わせた、いかにもアクトビラらしいサービスにシフトしていきます。

―― PCの側からも、映像配信には大変力が入っていますが、アクトビラの強みを改めてお聞かせいただけますか。

木村大きく3つあります。一番は「安心・安全」です。食の安全、犯罪や薬物に対する安全など、安心・安全が大変高い注目を浴びていますが、アクトビラのコンテンツは、お子さんからお年寄りの方まで、家族の誰もが安心して楽しんでいただけます。各メーカーさんのご協力で端末との間は必ず機器認証をしてつないでいますから、きちんと登録された端末でないとつながりません。ですから、パソコンで問題となるウイルスとかスパムメールといった心配も不要です。

2つ目は高画質。例えばNHKオンデマンドでは、パソコン向けはWMVの768kbpsまたは約1.5Mbpsのビットレートで配信されますが、アクトビラはH.264で約6Mbpsです。これは地上デジタル放送の画質に匹敵します。さらにダウンロードの場合には、H.264で平均10Mbps、マックスでは20Mbpsになり、より高画質でご提供できます。

また、NHKさんの「特選ライブラリー」でも、昔の素材はほとんどが4対3のアナログになりますが、今回、NHKさんではマスターから映像を起こしていますので、30年も前の4対3のアナログの素材がH.264の6Mで配信すると本当に美しい。こういうメリットも出てきます。しかし、1.5Mではこの差はなかなか出てきませんね。

3つ目は、今後の課題としての意味合いが強いのですが、ユーザーインターフェースです。アクトビラではセキュリティに万全を期すために、現在はリモコンのボタンでクレジット番号を入れたり、購入する手続きもステップ数が非常に多いなど、リモコンで簡単と言いながらも、色々なステップが必要になっています。

携帯電話と違い、テレビのリモコンの数字キーで文字を入力するのも一苦労ですが、今後、安全性と両立させながら、メーカーさんと一緒に改善していきたいと思います。しかし、パソコンを起動して、OSが立ち上がるのを待って、アプリケーションソフトを動かし、IDパスワードを入れて、ようやくサービスにたどり着くパソコンの行程と比べれば、電源を入れて、アクトビラボタンを押せばつながるわけですから、原理的には格段にシンプルだと思います。

「安心・安全」「高画質」「簡単操作」、アクトビラの3つの特長を、これからどんどん磨いていきたいと思います。

課題はスケーラビリティと
ユーザーインターフェース

―― 09年は、08年までとはまた違った、一段上のステージへ突入していくわけですね。

木村氏木村デジタルテレビ、携帯電話、カーナビゲーション、いずれもノンPCのプラットフォームであるということが非常に大切です。私は、ノンPCでどう連携させていくか、ノンPCをいかにネットにつなげてお客様の生活を向上させていくかが大きなテーマであると常々考えてきました。

現在のプラットフォームはほとんどが「機器バインドサービス」です。例えば携帯電話であれば、携帯電話という機器に結び付けられた(バインドされた)サービスで、携帯電話で受けたサービスはその携帯電話でしか楽しむことができないわけです。しかし、実はこれは大変おかしいことで、僕は「パーソナルバインドサービス」と言っていますが、サービスとは本来、人についてくるものであるはずです。ある人が一度購入すれば、デジタルテレビでも携帯電話でもカーナビでも、機器を問わずに自由にそのサービスを使えるのが理想です。

パーソナルバインドにどんどん変えていくことで、ネットワークサービスの本当の意味でのユビキタスが実現されます。家庭にあるデジタルテレビが核になり、携帯電話やカーナビなど、外へ出て行く機器につながっていくというのがもっとも自然な発展の仕方だと思います。それを実現させるためにも、アクトビラでネットにつなげるという環境をしっかり構築していかなければなりません。その目鼻が、2009年にようやく見えてきたという感じがします。

―― 2009年はアクトビラの本格テイクオフの年になります。

木村パナソニックでは、ビエラ、ディーガを購入してアクトビラにつなぐと、アクトビラを3000円分無料でご利用いただけるポイントがもらえるキャンペーンを、11月20日から年明けにかけて展開しています。大変好評で、接続するアクトビラ会員さんが通常月の倍に達し、NHKオンデマンドのサービススタートという相乗効果もあり、動画対応機種をお持ちの方の接続が急速に増えてきています。

アクトビラはプラットフォームですから、まず、お客様につないでいただかなければなりません。接続数を増やす観点からはやはり、メーカーさんとのタイアップキャンペーンは欠かせません。対応テレビを販売いただいている各社にどんどん提案していきたいと思います。一方、何回もご利用いただくためには、コンテンツプロバイダーさんとのタイアップキャンペーンが大切です。この2つの並行した展開が、2009年のアクトビラのマーケティング方針となります。

―― テレビという概念が明らかに変わろうとしています。それでは最後に、これからアクトビラが、世の中に対してどのような役割を担おうとされているのか、抱負をお聞かせください。

木村ネットワークサービスの世界では、プラットフォームという考え方が非常に重要です。例えば、駅のプラットフォームは電車の乗り降りを安全に簡単にするためにある。同様にアクトビラは、お客様がコンテンツに安全、簡単、自由にアクセスできるようにしていく役割があります。これから電車の本数もどんどん増えて来ます。満員になれば車両の編成も増やさなければなりません。

特に大切なのは、さきほどお話した「ユーザーインターフェース」と「スケーラビリティ」です。今はまだ数十万のお客様のご利用ですが、これが100万、200万と拡大していったときのトラフィックやサーバーの容量、回線の問題など、スケーラビリティが大きな課題となってきます。

プラットフォームでもうひとつ重要なことは、ニュートラルであるということです。

現在、アクトビラは家電5社の出資を受けて経営をしています。各社からアクトビラのサービスが簡単に受けられるテレビがどんどん出てこなければ、これまで申し上げましたような夢も実現できません。メーカー各社は市場で非常に熾烈な競争をしています。競争とはすなわち差別化競争です。しかし、各社のテレビご担当の皆さんのアクトビラに対するご理解が非常に深く、ご支援をいただいております。

2009年も、メーカー各社さん、コンテンツプロバイダーさんとともに、機器とプラットフォームとコンテンツが三位一体となり、さらなる発展を実現していきたいと思います。

◆PROFILE◆

木村 純氏 Jun Kimura
1973年 松下電器産業(株)入社。97年 パナソニックデジタルコンテンツ(株)代表取締役社長、00年 松下電器産業(株)ネットワーク事業推進本部欧州事務所所長、01年 eネット事業本部ハイホービジネスユニット長を歴任した後、03年にeネット事業本部本部長に就任。現在に至る。