松岡 建志氏

ヤマハエレクトロニクスマーケティング(株)
代表取締役社長

鶴見 照彦
Teruhiko Tsurumi

ナチュラルサウンドを原点に
お客様に満足していただける
高品質な商品づくりを目指す

薄型テレビの爆発的普及とともに拡大するサラウンドシステムや、iPodを中心に伸長するDAPまわり、さらに真骨頂であるAVアンプにハイファイオーディオという4つの柱でAVの事業展開を図るヤマハ。お客様の満足を追求する「お客様第一主義」、ナチュラルサウンドを原点とした「高品質主義」を基本に、音の市場におけるニーズをしっかり見据えた提案で着実に歩を進めるヤマハエレクトロニクスマーケティングの新社長、鶴見氏にお話しを伺った

厳しい市場環境の中にあっても成長分野をしっかりと見据えて資源を集中投下していく

薄型テレビ周辺など
「4つの柱」を新たに展開

―― このたび本誌に初めてご登場いただきました鶴見さんですが、まずはご経歴をお聞かせください。

鶴見 私は1981年に旧日本楽器、現在のヤマハに入社致しました。その後AV機器商品を中心に販売とマーケティング業務ということで、国内市場の卸売り販売を中心に関西を2年ほど担当致しました。その後ヤマハ本社のAV機器事業部で管理業務や海外での法人の販売支援などを行い、スウェーデンに7年、帰国して後は中国に2年駐在しました。そして本体の営業部に所属した後、今年3月にヤマハエレクトロニクスマーケティングに赴任したという経緯です。

これまで海外の仕事が多かったものですから、国内市場の担当は二十数年ぶりとなり、新たな気持ちで臨んでおります。

―― ヤマハ本体の社長も替わられて1年が経とうとしていますが、活気を感じます。ヤマハにおける御社の位置付けをあらためてご紹介いただけますか。

松岡 建志氏

鶴見 私どもの業務内容は、オーディオ・ビデオ関連機器の日本市場に対するマーケティングと販売担当です。電機市場の業界の特性に対応しながらここ5年ほど活動しております。

―― この5年間にYSPの立ち上げなど、数々の商品が花開きました。昨今は薄型テレビが1000万台近く普及し、価格も下がってきたお陰で一般層が購入するようになりましたが、むしろこういったユーザーがホームシアターに対する関心度が高いと考えられます。これが御社の戦略である「新・4つの柱」の1つめになるわけですね。

鶴見 国内の音響市場は厳しいと感じておりますが、伸びていく要素としては、おっしゃるような薄型テレビまわりの商品やHDオーディオを担うAVアンプの中・高級機、ハイファイオーディオも団塊世代を中心に市場が活性化されつつあると実感します。さらにiPod周辺も大きく伸びています。厳しい市場ではありますが、成長の期待がもてるところに資源投下していきたいという思いです。

―― 御社がDSPを手がけた1984年頃から、当社ではコンシューマー誌「AVレビュー」で大々的にその動向を追い続けました。またYSPの登場には御社がサラウンドについて培ってきた技術のDNAを感じます。

鶴見 YSPについては、最初にYSP-1が出た2004年当時はほとんど認知度がなく、ご販売店様への研修会や、店頭ではYSPレディという女性のスタッフのデモというようなことで啓蒙活動をやらせていただきましたが、ようやく浸透してお客様に知られるようになっております。また最近では一般ユーザー様にもお買い求めいただきたいということで、量販店様にも展開していただきやすいようなラック一体型も出して認知に拍車がかかってきたという感じです。

YSPでは5月にYSP-600という新製品を発売致しましたが、お客様の利便性を大きなテーマと考え、5社のテレビメーカー様の商品とのリンクを実現しました。HDMIも搭載してより使いやすく、お客様にとって価値の高いものとなっています。これは今年のオリンピック商戦に向けた戦略商品ということで、力を入れて展開して参ります。昨年発売しましたフラグシップのYSP-4000はYSPを引っ張る代表的モデルとして存在し、YSP-3000、そしてYSP-600と普及価格帯のモデルへとシャワー効果を拡げていくといった位置付けです。

各々の領域で目指すのは
お客様が満足する商品づくり

―― 薄型テレビの普及に伴ってラックシアターも売れています。ここは御社でも大きな事業領域になるのでしょうか。

鶴見  テレビを中心としたビジネスが一番元気もあり、私どももその領域で成長を図りたいという考えです。ここはバリエーションを広く持ち、高額で付加価値の高いところから下の方へも商品を展開し、より広範なお客様にお求めいただける形にしております。

―― AVアンプも昨年から強力な商品が次々に登場しました。

鶴見 AVアンプは長年にわたりやや下降気味の傾向にありましたが、ここ数年の映像と音におけるHD化、特に昨年はHDオーディオが登場し市場が活性化して参りました。私どももリーディングメーカーのひとつとしてHDに対応し、よりヤマハらしい高音質ということで開発に力を入れております。先月から発売した63シリーズなどは品薄の状況が続いており、おかげさまでまずまずのスタートとなりました。AVアンプは実販で7万円〜10万円クラスのところが台数的にももっとも出ており、お買い求め安さをアピールできたと感じます。

新しい試みとしては黒い色の商品を出しましたが、この需要が思いのほか大きく、昨今のテレビの色に合わせて順調に売上げを伸ばしています。

―― ハイファイオーディオでは、2000シリーズを出されました。

松岡 建志氏鶴見 20数年前に販売しておりましたCA-2000、CA-1000という機種をデザインのモチーフとしており、中身は最新の技術を採り入れました。立ち上げの際に当社の設計陣とデザイナーが専門店様にそういったご意見を頂戴したことが発端となっています。最終的にはサイドウッドをつけて、ヤマハらしさをアピールできるかたちになったと自負しておりますが、おかげさまで高くご評価いただいております。

―― スピーカーのSoavoなどとのシステム販売をご推奨されているのでしょうか。

鶴見 基本的には単品販売ですが、お客様がセットでお買い求めいただいているケースは多いと認識しています。もともとはSoavoを発売して、ハイエンドのハイファイをやっていきたいという思いがありました。そして2000シリーズを出し、またここで、4年ほど前に廃番となっておりましたGTラックも当時と同じ仕様で復活させ、人気を呼んでおります。さらに今月は1000シリーズという新製品も投入します。こちらは価格的には2000シリーズの8掛けといったところになりますが、デザインはほとんど同じテイストとなっております。2000シリーズの流れを汲む「もうひとつの主力モデル」として、幅広くバリエーション展開をしていきたいという考えです。

ヤマハグループ全体の事業展開に当たって、高品質主義ということがテーマのひとつとなっています。AV機器商品ということに関してはいくつかのポリシーを持っておりますが、中でもナチュラルサウンドということを原点としながら、お客様を魅了するような音を実現したいということ、そして美しいデザインということを目指して試行錯誤しております。

この2000シリーズ、1000シリーズについてはノスタルジーやぬくもりを感じさせるようなデザイン、さらに使いやすさ、先進性、信頼性の高さといったところにポイントをおいています。私どものもうひとつのポリシーとして顧客第一主義といったテーマも掲げておりますが、やはりお客様がよしとされるような商品づくりを目指すということに尽きると思います。

スピーカーについては先に発売しておりますSoavoシリーズがおかげさまで高くご評価いただいておりますが、このカテゴリーの商品群の拡充も図って参りたいと思います。私どもは楽器を手掛けるメーカーとして、AV機器商品の音や形においても楽器に通じるような美しさ、といったところを求めております。これから年末にかけてさまざまな製品を準備しておりますが、それらもそのような線上での商品開発を進めているところです。

―― 2000シリーズ、1000シリーズのデザインは今みても非常に新しいです。そして「新・4つの柱」としてはもうひとつ、iPodまわりの展開がありますね。

鶴見 私どもはお客様のニーズや、実際の音楽の楽しみ方に沿った商品を出したいと常々考えております。昨今はデジタルオーディオプレーヤーで音楽を楽しまれるお客様が多いということで、この周辺は今後とも商品を拡充していきたいと思います。すでに色々な商品を出しておりますが、ひとつはデザイン、ひとつは先進性といった切り口で展開しています。

今年のモデルはNX-B02というブルートゥース対応商品で、携帯電話の音楽などをブルートゥース経由で再生することができるものです。デザインもヤマハらしくすっきりとまとめました。

もうひとつにはオーディオ商品としても楽しんでいただける、iPod対応CDクロックラジオといったようなものも出しております。ここ数年こういったビジネスをやらせていただいておりますが、こういったもので音楽を楽しまれるお客様は大変多いと実感しています。ヤマハの商品を楽しんでいただく領域として、重要な位置付けになってきております。

こういった4本の柱につきまして、現状の比重としてはやはりハイファイ、単品コンポーネントの領域が大きいですが、さらなる成長を見込めるという意味ではテレビ周辺、iPod周辺をより重視していきます。

音のよさを基本に据えて
各々の領域を拡充させていく

―― マーケティングの方向性が非常にわかりやすく、中心商品がしっかりと存在するのが重要だと思います。ユーザーの中でも実際に商品を買っている30代、40代の人たちにヒットするところを採り入れています。あとは流通政策がテーマとなりますね。商品価値、ブランド価値をしっかりとアピールするため、量販、専門店など特性に合った対応が求められると思います。

最後にマーケットにつきまして、今後の展望などお聞かせください。

鶴見 AVはデジタルの切り口で発展していくだろうと考えます。HDの音や映像、放送といったところが新しい技術をもって伸びていき、それをもとに市場は活性化すると見ています。もうひとつはネットワークという中でさまざまなものがつながっていき、オーディオ、PCなどさまざまに形態を変えつつ、より使いやすく付加価値の高い商品が出ることで活性化が図れると思います。

―― 音についてのデジタル化は、御社は早くから取り組んでこられました。これからマルチチャンネルやスタジオクオリティなどさまざまなコンテンツが入ってくるようになりますが、よりこだわった環境を各家庭に備えられるようになりますね。そこで御社の活躍の場がますます拡がってくると思います。

鶴見 デジタル技術と本質的なアナログの音のよさ、この両面をしっかりとやりながらお客様に支持していただけるようなブランドをつくって参りたいと考えております。楽器メーカーであるということも含め、原点であるナチュラルサウンドを基本に展開していきたいと思います。ハイファイの中・高級機をふたたび手掛けていくということもそうですが、音にこだわりをもつメーカーとして、基本をしっかりとおさえながら事業展開をやっていきます。

ヤマハグループの中でAV事業はひとつのコアビジネスになっていますが、お客様に喜んでいただくことが根本にあり、またビジネスである以上成長させたいという思いが強くあります。商品の領域をしっかりとおさえながら、そのひとつひとつを、ラインナップの拡充などを通じて大きくしていきたいと思います。

―― 今後がますます楽しみになって参ります。ありがとうございました。

◆PROFILE◆

鶴見 照彦 氏 Teruhiko Tsurumi

1958年生まれ、静岡県出身。81年ヤマハ(株)入社、AV機器商品を中心としたセールスとマーケティング業務に携わる。2005年ヤマハ楽器音響(中国)有限投資公司副総経理。07年ヤマハAV機器事業部営業部長。08年3月ヤマハエレクトロニクスマーケティング(株)代表取締役社長に就任、現在に至る