富士フイルムイメージング(株)
執行役員 営業本部次長 兼
ファインピックス営業部長

小島 正彦
Masahiko Kojima

写真メーカーとしての強みと視点を活かした
商品をつくり続けていく

デジカメ市場の不満ニーズを解決し、需要喚起の急先鋒として活躍する富士フイルムFinePix「高感度シリーズ」。写真メーカーならではの存在感が、他と一線を画した商品の強さを生み出している。市場環境がますます厳しくなる中で、どのような新しい提案を繰り出すのか。執行役員に就任した小島正彦氏に、新商品の狙い、市場課題等をお聞きした。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

―― デジタルカメラのFinePixシリーズが大変好調ですね。このたび執行役員にご就任されました。その意気込みをお聞かせください。

小島 昨年3月に投入した高感度シリーズのヒットで、デジタルカメラ市場での当社のシェアもかなり上がって参りました。何よりお客様から、「撮れなかった写真が撮れるようになった」とか、「写真を撮る楽しみが増えた」といった声を非常に多くいただき、この一年間訴えてきた方向性が正しかったと確信しています。高感度シリーズの元祖ですから、今後の商品化においても、他社さんの一歩先を行く、販売店、お客様のご期待に応えることができるいい商品をつくり続けていきたいと思います。

―― 上半期のデジカメ市場はどのように捉えていらっしゃいますか。

小島 デジタル一眼のウエイトが増す一方で、コンパクトデジカメは前年割れするとの見方がありました。各メーカーからの出荷データから見る限りでは、1〜5月は非常に意欲的に商品を出されています。しかし、店頭でのお客様の商品を見る目はますます厳しくなっていますね。買い替え・買い増しが圧倒的な構成比となる中で、それに足る性能・機能がなければ商品を選んでいただくことはできません。

―― デジカメ市場は各社入り乱れての激戦ですが、その中で、小島さんが戻ってこられてから御社のシェアの伸びは凄いですね。

小島 昨年は大苦戦でした。そのときの大きな反省材料は、フジフイルムがつくるデジカメはこうなんだという主張が打ち出せなかったということです。

当社が高感度シリーズを発売する半年前に、松下電器さんが光学手ブレ補正という画期的な差別化ポイントを打ち出されました。手ブレ防止という部分は非常に評価しつつも、私どもは写真メーカーとして、フジフイルムがつくるコンパクトデジカメについて、もう一度原点に立ち返って考えました。そのときに、お客様の声として強く感じたのが、せっかくシャッターを押したのに写真にならないではないか、という不満の声でした。

――  そこで出てきた答えが、高感度シリーズというわけですね。

小島 高感度シリーズにより、撮れない写真が撮れるようになりました。テレビコマーシャルでもアピールしたように、例えば、ディズニーランドで、動いているドナルドダックがきちんと撮れる、被写体ブレに強いという新しい提案です。それから、夜景のシンデレラ城をバックに、人物も背景のシンデレラ城もきちんと撮れる。

私どもはカメラメーカーでも電気メーカーでもなく、写真メーカーです。ですから、失敗写真を無くし、撮ろうと思ったものが必ず写真になる。しかも、プリントできる画作りである。ここが他社と違う点であり、強烈にアピールしていきたいと思います。

今春発売したFinePixF30では、ISO3200へ感度を一段上げました。感度をあげるということは、さらに暗いところでもキレイに撮れる、そして、一段早いシャッターが切れる、その結果、今まで撮れなかったものが撮れるようになるということです。撮影領域をさらに広げることを可能にしました。

―― 運動会商戦を前にネオ一眼の新商品S6000fdを新発売されます。

小島 わたくしどもは写真メーカーなので、お客様がどんな写真を撮っているのかという知見があります。そこから出てきたのが、撮影の7〜8割が、実は人物写真であるということです。それならば、撮ろうとした人物写真をすべてキレイに撮れるようにしようではないかと、そのために、顔をいかにキャッチアップしてキレイに撮るかに相当時間を割いて、研究・開発した結果が、この商品に搭載した顔検出機能「顔キレイナビ」という新技術です。

―― まさに、写真メーカーならではの強みですね。ユーザーがどんな写真を撮っているのか、どんなところに失敗しているのかがわかるわけですから。

小島 S6000fdの顔キレイナビボタンを押すと、わずか0・05秒で顔にオートフォーカスします。しかも、一度に最大10人まで合わせられる。撮った瞬間に顔の露出まで合わせてしまいますから、暗いときには顔を明るくする、明るいときには逆に適正にほどほどの明るさにするという機能を同時に行います。

オートフォーカスでよくある失敗写真の例なのですが、ふたりで並んで写真を撮るときに、中抜け写真といって、ピントが背景に合ってしまうことがあります。肝心の二人の顔にピントがこないわけです。しかし、顔検出機能の「顔キレイナビ」に設定しておけば、こうした失敗も防ぐことができます。

もちろん、V10から搭載してご好評いただいている高感度2枚獲り、フラッシュはiフラッシュですから、近いところからフラッシュをたいても、光量を自動で調整し、人物が白飛びせず、キレイに撮影できます。レンズは昨年発売のS9000で高い評価をいただいた広角28mmから望遠300mmのズームレンズを搭載しています。

S6000fdの登場で、デジカメの世界が変わるのではないか、お客様のデジカメの楽しみ方が大きく変わるのではないか。それくらい自信を持った史上最強のデジタルカメラであると自負しています。

―― 御社ではネオ一眼に力を入れていますが、市場動向はいかがですか。

小島 デジタル一眼の登場で、写真の奥深さをさらに体験できるようになってきたことは大変いいことだと思います。CIPAのデータでは、昨年一年間のデジタル一眼のメーカー出荷が6・3%、今年の1〜5月も6・4%と堅調ですが、実はネオ一眼もそれに迫る数字で推移しています。

当社の調査では、830万台といわれる市場の中で、コンパクトタイプの購入希望者の330万人くらいの人には実は迷いがあります。この人たちがデジ一眼、ネオ一眼、コンパクトのどれを選ぶのか。デジ一眼についても、「値段はできれば安いほうがいい」「レンズ交換が面倒」「ちょっと重い、大きい」といった不満があります。

―― ネオ一眼の魅力を教えてください。

小島 特に家電店さんなどでは、ネオ一眼はデジ一眼と違って、交換レンズをシステムで揃えたりとか、その在庫の問題などを気にすることなく販売できるメリットがあります。動画撮影や可動式の液晶ディスプレイ、さらに新搭載の顔検出機能「顔キレイナビ」は、デジタル一眼にはできないネオ一眼ならではの機能です。デジタル一眼が話題になっている今だからからこそ、ネオ一眼という商品があることを、店頭からきちんと伝えて欲しいと思います。

―― せっかく架け橋となる存在なのに、店頭で一足飛びになっているのはもったいないですね。

小島 そうなんです。コンパクトかデジ一眼かではないんです。お客様にも喜んでいただけるだけでなく、単価ダウンという課題にも直面する中で、単価アップにもつながる商品と言えます。

―― 現在、市場にはいろいろな課題があると思います。

小島 新商品を出しても、本来の機能や使い方をお客様にきちんとお伝えできていないのではないかというのがもっとも心配ですね。店頭に置いてあるだけでは、店頭が本来担うべき大事な部分を、すべてお客様に委ねてしまうことになります。カメラ誌を読んだり、ネットで情報を得ているお客様だけしか商品がわかりません。

お客様は店頭で迷われている。デザインだけとか、価格だけといったお客様も実際にいらっしゃいます。開発陣は今、激烈な競争をしていて、他社にない特長や、お客様にとってのベネフィットを出そうとやっています。ところがそれが伝わっていない。当社では、まず自分自身が商品や市場の動きに強くなることで、私どもの思いを販売店の方にお伝えしようと力を入れています。

デジカメが登場して昨年がちょうど10年です。市場も変わりました。いままではデジタルカメラをつくることに各社腐心してきましたが、10年を期して、撮ろうと思った気持ちを写真にすることが重要であることに、各社とも目覚めてきたのではないかと思います。

―― 基本スペックはクリアできるレベルになり、次のステージに入ってきたということですね。

小島 そのような中で、現在の商品には使い勝手が優れた機能や技術が搭載されています。しかし、きちんと伝えられないばかりに、すぐに価格もダウンしてしまうし、商品サイクルも短命で終わってしまいます。せっかく開発したものが、あまねく世の中に伝わる前に商品が終わっていくのは大変痛ましいですね。

お客様にとっても、短命に終わってしまうのはよくないことで、5万円も出して買ったのに、3ヵ月経ったらもう店頭にないとか、凄く安い価格になっているというのは、はっきり言って、商品の価値観を下げていると思います。これから買ってくださるお客様も大事ですが、すでに買っていただいたお客様のことも考えていかないといけないですね。

―― 写真メーカーとして、プリント需要についてはどのようにお考えですか。

小島 カメラ店でのプリント処理枚数は残念ながら減っています。しかし、今では5割以上を占めるデジカメプリントが、今年に入ってさらに大きく伸長しています。使用するメディアも512Mや1Gの時代になり、写真も一杯撮れる。それをご自分でプリントするとなると、インク代や紙代などのランニングコストも馬鹿にならないし、何より、自分でプリントすることがものすごい苦痛になります。自分でするのとそう変わらない料金で、お店へ持っていけば簡単に写真になることに、気付き始めたお客様も増えてきているようで、今年に入り、カメラ屋さんもデジカメプリントの盛り上がりで大変元気になってきています。

―― プリントしておけばすぐに見られますしね。

小島 紙にして残すことは物凄く大事だと思います。プリントして残しておけば、そこからリプリントもできます。メディアに入れたままだと、どこに入れたかわからないとか、メディアをなくしてしまうこともある。気が付いてみたら、小学生のときの記録がないとか、我が家の記録がないということにもなりかねない。今のままいったら、あと10年もしないうちに、そうしたことが頻繁に起きるのではないかと心配しています。

リビングの大画面で家族でワイワイ見たり、楽しみ方はいろいろあっていいと思います。それは否定しません。ただ、保存という点を、今後もっとケアしていかなければなりません。紙にして残すことを、業界をあげて、お客様に啓蒙していきたいと思います。

―― 杉原社長による新体制が発表されました。大変、変化の激しいマーケットですが、方針として特に強調されている部分はありますか。

小島 社長が常々言っていることは、私たちの会社がやろうとしていることを、お店の方にもきちんとわかってもらわなければいけないということ。店頭重視ですね。商品を実際に販売されるのはお店の方ですから、そこへ、メッセージをきちんと出していくことです。それとスピードですね。やる以上はスピード力をさらに高めていきたいと思います。

◆PROFILE◆

Masahiko Kojima

1951年東京生まれ。1974年3月慶應大学卒。同年4月富士写真フイルム(株)入社。光機部、記録メディア営業部、宣伝部、プロフェッショナル写真部にて主にマーケティングを担当。2004年10月富士フイルムイメージング(株)北海道支店長。2005年3月ファインピックス事業部次長。2006年4月同事業部長、2006年6月現職。趣味はゴルフ、スポーツ鑑賞。