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松下電器産業(株)
常務役員
パナソニックマーケティング本部本部長

牛丸 俊三 氏
Shunzou Ushimaru

 

デジタルだから簡単、
楽しい、便利な世界を
強力に推進していく



アテネオリンピック効果も手伝って薄型大画面テレビやDVDレコーダーの普及が急拡大した2004年。その中にあってパナソニックは、強力な商品の大量投入と緻密で斬新なマーケティング戦略で売上げと市場シェアをさらに大きく伸ばした。松下電器の常務役員でパナソニックマーケティング本部の本部長として、パナソニックブランドの戦略を指揮する牛丸俊三氏に、2005年の市場見通しと戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

日本発のデジタル家電が
これからの新しい家庭の文化を
創り出していきます

2005年はテレビを中心に
デジタルディバイドが解消

―― 最初に2004年を振り返っての感想から聞かせてください。

牛丸 昨年はアテネオリンピックの開催もあって、PDPやDVDレコーダーなどデジタル家電商品が大きく伸びました。その中で松下電器はプラズマテレビやDVDレコーダーなどヒット商品の連打で、業界の平均を大きく上回る伸びを達成しました。最近マスコミで市場が飽和してきたと言われているデジカメでも、パナソニックは、台数で前年比1・8倍と大きく伸張しました。FX7は導入以来毎月6万台を国内向けに作っていますが、秋から年末にかけて品薄状態が続いています。

―― 2005年はどのような年になると見られていますか。

牛丸 2005年はテレビが中心になってデジタルディバイドが解消し、高付加価値商品がもっともっと普及していく年になると思います。日本の人口の50%以上の人が50歳以上です。その人たちも含めてあらゆるジェネレーションの人たちにとって、デジタルだから簡単、デジタルだから楽しいという時代がきます。そしてそれによって新たな需要が創造されていきます。
アナログの時代には撮った写真をその場で確認できませんでした。しかしデジカメでは撮った写真がうまくとれているかどうかを、その場ですぐに確認することができます。それを自分の家のテレビに映して、欲しいカットだけをプリントアウトすることもできます。これはデジタルだから楽しくて、デジタルだからやさしいということのひとつの例です。デジタルだから難しいと思われがちですが、デジタルだから簡単・便利・優しいという時代がいよいよテイクオフします。

―― いよいよデジタルが切り拓くユビキタス時代が本格的に到来してきたということですね。

牛丸 昨年12月に発売したワイヤレスカメラモニターシステムの「KX―MS10」という商品があります。これはテレビを見ながら、離れた部屋にいる家族の様子などを見守れるものです。カメラとテレビアダプターの間はワイヤレスで120mまで飛びます。テレビアダプターとテレビは一本のケーブルでつなぐだけで、カメラの角度はリモコンを使って簡単に変えることができます。
テレビの画面には一度に4台のカメラからの映像を同時に映し出すことができます。その映像をSDメモリーカードに録画することもできます。カメラのセンサーが人の動きを検知した時に、テレビアダプターから音を出すこともできます。さらにテレビアダプターをLANに繋げば、外出先で、携帯電話やパソコンでも見ることができます。これほどのことができて、8万円前後というお買い求めやすい価格です。こういう時代になってきました。

―― 環境と並んで安全・安心に対する消費者の関心が高まってきています。

牛丸 簡単・安心・便利商品では、世界初のワイヤレスモニター付きドアホンの「VL―SW102K」もあります。これはドアホンの子機をワイヤレスで持ち歩けるもので、2階や庭にいてもワイヤレスのハンドセットで玄関の様子を見ることができます。ボイスチェンジャー機能もついていますので、女性の声を男性の声に変えてしつこいセールスなどを撃退する時にも便利です。
この商品は、今、全然足りません。お客様はこういう商品を望まれていたということです。これからこの分野の商品をもっと増やしていきます。こういったものが時代の先駆け商品だと思います。デジタルだから簡単・便利・楽しいという世界をもっともっと消費者の皆様にわかっていただけるようにしていきたいと思っています。

SDカードで広がる
イージーネットワークの世界

―― そこではテレビの果たす役割が大きくなっていくと思いますが。

牛丸 これは以前から何度も申し上げてきたことですが、これからはテレビに繋ぐ時代になります。かつてアメリカのPC派が勝つか、それとも日本のAV派が勝つかという話がありましたが、家庭の中心はPCではなくて、テレビだということがはっきりしてきました。
ホームシアターで映画を楽しむ。DVDレコーダーで名画を楽しむ。デジカメで撮った写真をテレビで見たり、簡単にプリントアウトすることができるという10年前には考えられなかったような世界になってきました。しかも操作や接続が面倒なPCを使う必要がありません。
今までデジタルだから難しいということを言い過ぎてきたと思います。「デジタルだから難しい」から、「デジタルだから簡単・便利」へのパラダイムシフトが起きてきています。今後このような環境がますます増幅されていきます。

―― お店にとっては客単価が上がることになりますね。

牛丸 「ビエラ」を購入されるお客様には「ディーガ」も一緒に買われる方がたくさんいらっしゃいます。パナソニックでは高付加価値商品の投入とイージーネットワークの実現によって、デフレファイターとしての役割を果たしていきたいという思いがあります。
ブラウン管のテレビから薄型テレビになって商品単価が上がりました。さらにそこにDVDレコーダーやデジカメ、プリンターなど、テレビに繋いで売れる商品もどんどん出てきました。先ほどのネットワークカメラやSDメモリーカードもそうです。お客様には繋いで簡単・便利に楽しんでいただき、流通の方々には繋いで儲けていただきたいと思います。

―― イージーネットワークを実現するためのブリッジメディアとしてのSDメモリーカードが好調のようですね。

牛丸 SDメモリーカードの普及がものすごい勢いで進んでいます。完全にデファクトスタンダードになりました。昨年9月現在で、SDコンソーシアムへの参加企業はワールドワイドで730社、国内市場でSDメモリーカードに対応している製品数は、119社・28カテゴリーで1333機種になりました。日本市場で販売されているデジカメでSDメモリーカードを採用している商品は昨年の段階で7割近くになっています。携帯電話にもどんどんSDメモリーカードがつくようになってきました。
デジタルディバイドが本当に解消されるには、操作が面倒なPCを使わずにすむことが必要です。その点で誰にでも簡単に使えるイージー・ブリッジメディアとしてのSDメモリーカードがものすごく役に立ちます。その普及が今後さらに進んでいくことによって、デジタルディバイドがどんどん解消されていきます。

―― SDメモリーカードにとっての今後の課題は何でしょうか。

牛丸 もっと価格を安くしたいですね。SDメモリーカードが安くなるともっと面白い製品が出てきて、デジタルディバイドをさらに解消できます。また、デジカメやムービーで撮ってきたものをテープやDVDに移し替えずにそのままで残しておけるようになります。
今、1GBのSDメモリーカードは市場で約3万円弱くらいです。その重さは2gほどですから、1g当たりの価格は1・3万円強になります。これに対して金の最近の市場価格は1g当り1300円ほどですから、グラム当り単価では、SDメモリーカードは金の10倍以上になります。もっともっと安くならないといけません。

これからが本格的な
普及期に入るデジタルAV

―― デジタルAVの成長を材料に日本の家電産業が復活してきました。

牛丸 日本発のデジタル家電製品が、新しい家庭の文化を創り出しています。私が嬉しいのは、これらがすべて日本発の商品だということです。海外にも液晶テレビを作っている会社はありますが、そこに繋がる色々なデジタル商品まで作っているようなところはありません。
パナソニックだけでなく、業界全体でメイド・イン・ジャパンが強くなってきています。当社ではプラズマは大阪の茨木で、DVDレコーダーは門真で作っています。デジカメは愛媛県の西条、SDカードやルミックスの非球面レンズは山形県の天童、ムービーは岡山、レッツ・ノートも神戸と全部日本で作っています。メディアも岡山県の津山で作っています。日本発のデジタル製品によって、まさに日本の元気印が復活してきました。

―― 最近のマスコミでは、薄型大画面テレビやDVDレコーダーなどに対して悲観的な論調が多く見られます。決してそんなことはないと思いますが。

牛丸 総務省の発表では地上デジタル放送を視聴できる世帯数は、04年12月で1800万世帯、05年12月で2700万世帯、06年12月には3700万世帯になる見込みです。これに対して地デジ対応テレビの世帯普及率は10%と緒についたばかりです。
2011年までに日本の家庭に存在している1億台のテレビがすべて切り換わっていくことを考えれば、これからもっともっと伸びていきます。業界を挙げてこの膨大な需要を刈り取っていきたいと思います。デジタルテレビが売れれば、それに繋がる商品がもっと売れるようになります。利益率ももっと良くなっていきます。メーカーにとっても販売店さんにとっても、これからデジタルは絶対に儲かるようになります。

―― 日本市場の特性を考えると、付加価値の高い商品がもっと伸びていくように思います。

牛丸 日本のお客様には単に安いだけの商品は受け入れられません。そこが海外との大きく違うところです。デジカメでも400万画素以上が7割を超えています。プラズマも42V型以上の大画面が6割を占めています。
需要が常に上へ上へと振れていくことが日本のお客様の特徴です。この基調は今後も変わることがないと思います。こういう消費者がいる限り、私は日本市場の将来を楽観的に見ています。当社では高付加価値商品をどんどん投入して、デフレファイターとしての役割を果たしていきたいと考えています。

ネットワーク時代の到来で
狭さが武器になる専門店

―― 今年はヨドバシカメラが秋葉原に出店します。駅前のITビルも完成し、ツクバエクスプレスも開通するなど、秋葉原の街が大きく変わります。

牛丸 問題はそれに備えて秋葉原の街をもっと魅力的にしていかないといけないということです。若いカップルが買い物に行きたくなるような街にする必要があると思います。街を歩いている人も男性が中心で、女性はあまり見当たりません。以前は大きな買い物をする時にお父さんが主導権を持っていましたが、最近では女性が主導権を持っています。ビジネスの仕方も旧態依然のままではいけません。若い人の中には相対での価格交渉が嫌な人が多くいらっしゃいます。

―― 家電流通業界では大型店の動向に注目が集まっていますが、ここ数年地域店の健闘が目立ちます。

牛丸 このところ地域専門店が大変元気になってきました。2004年上期で地域専門店の4割が前年2桁伸張を達成しました。売上げが前年を上回った地域専門店は、全体の半数に拡大しました。
当社のプラズマテレビは、約6割が地域専門店で販売されています。プラズマテレビを中心に、地域専門店にとって売りやすい商品が揃ってきたことが、お客様が専門店に戻ってきていることの最大の理由です。

―― 地域密着の専門店の強みが発揮される時代になってきましたね。

牛丸 地域専門店さんにとって「狭さこそ武器」になる時代がきました。巨大な店舗にできないことで、小さいお店だからこそできることがあります。大型店ではそれぞれの商品の売り場がわかれているので、ネットワーク商品を一人で全部説明できません。ところが地域専門店はそれほど広くありませんので、テレビに繋がる商品を一人で全部説明することができます。デジカメの楽しさを説明できるし、プリンターの説明もできます。
ホームシアターでも量販店ではテレビとオーディオの売り場が別れていますが、地域専門店では同じ売り場です。まさにネットワーク販売の時代になって、地域専門店の強さが改めて活きてきました。

―― 最後に販売店さんへのメッセージをどうぞ。

牛丸 薄型テレビの世帯普及率はまだ10%ほどです。DVDレコーダーの世帯普及率もようやく10%を超えたところです。これらの商品をもっともっと世間に認識してもらって、その普及率を加速度的にあげていくことれがわれわれメーカーのミッションだと思います。
パナソニックマーケティング本部の目標は、SDメモリーカードを核にしたイージーネットワークの加速、新しい需要の創造、高付加価値商品の推進です。どの世代の人にとっても優しい商品で、デジタルディバイドをもっと解消していくことを目指して今年も頑張っていきます。

◆PROFILE◆

Shunzou Ushimaru

1944年5月生まれ。長崎県出身。1968年入社後、海外経験が長い。国内事業部、およびカナダ、イギリスでは現地法人の社長を歴任。2000年より国内営業担当。2003年4月より松下電器産業(株)パナソニックマーケティング本部長 兼 松下コンシューマーエレクトロニクス(株)社長に就任。同年6月より同社役員に就任。趣味はオペラ鑑賞、映画鑑賞、スキューバダイビング他。