オーディオテクニカの起源 カートリッジの生産工場をレポート

アナログ全盛期を支える
屋台骨として誕生する



この池田工場で製造された同社のカートリッジ。パーツの製作から組み立てまで全てをここで行っているのは上位モデルのみである



テクニカカートリッジは1962年に第1号製品(MM型の「AT-1」)が開発され、その5年後の1967年には独自の特許VM型カートリッジ「AT35X」を誕生させ、国内はもちろん、海外でも圧倒的な人気を博した。

そんな矢先の1970年、さらなる量産に応えるため、(株)テクニカフクイは(株)オーディオテクニカの100%子会社として、福井県武生市に工場を作り、MM型、VM型カートリッジの生産を請け負うことからスタートした。

そして1980年代、同社のカートリッジが世界でもトップシェアを誇ったといわれる全盛期、VM型のみでも900機種以上を生産したラインを支えてきたのがこのテクニカフクイである。

『季刊・オーディオアクセサリー』でも、約20年前に同社の武生工場を訪れ、当時アナログ全盛時代に活況を呈したカートリッジの生産ラインをレポートしている。今も当時と変わらぬ外観をみせているこの武生工場であるが、ここではもうカートリッジを作っていない。

モノ作りを行う唯一の工場に
カートリッジのラインが集結



アナログ全盛時代から同社のカートリッジ生産ラインをよく知り、現在は(株)テクニカフクイ取締役を務める佐々木進氏
3月というのに大雪に見舞われたこの日、この時期にこれだけの量の雪が降るのは地元の人たちにとっても大変珍しいことであるという。武生市から車で、いくつもの雪深い峠を越えた先に同社の池田工場はある。テクニカフクイは現在、福井県内に武生工場、清水工場、池田工場の3つの工場を持っている。

この3つの工場はかつて全てがカートリッジ製造のために設立されたものであるが、アナログブームの衰退と共にこの池田工場に全ての作業が集約されることになった。

同工場で我々を迎え、案内をしていただいたのが、カートリッジ全盛時代の事をよく知るテクニカフクイ取締役の佐々木進氏である。

「当時は1カ月に100万個以上作る時期が続きまして、作っても作っても注文が減らない時期がありました」と佐々木氏は語る。現在はこの池田工場のみにラインを残し、年に40万から80万個を生産しているが、その中で9割がOEMとなっているという。自社ブランドのカートリッジに関しては、かつて東京で開発製造されていた高級モデルも含めて、現在ではテクニカフクイに集約されている。つまりこの池田工場が無くなるとカートリッジはできないことになるのだ。

アナログで培った技術は
他の製品にも応用される



カートリッジの部品自動組み立て。同機械を介することで形が揃うのだ

何と針カバーまでもが同工場で作られている

スタイラス部分とボディを組み合わせる工程

顕微鏡をのぞくと針先は先端のみにダイヤモンドが使用されていた

着磁の検査。適性に着磁されていれば鈴が鳴る仕組みとなっている

カートリッジのパッケージングを行う

かつて販売もされていた自社製のアナログチェックディスク。溝ごとに何Hzかの周波数が刻まれている。同ディスクでは針の高さも確認できる

現在この池田工場で作られている代表的MCカートリッジである「AT33PTG」
「モノ作りを行っている唯一の工場」と呼ばれるこの池田工場ではカートリッジの他にも、テクニカフクイ全体の事業であるCDやDVDプレーヤーの光ピックアップ部、ワイヤレスマイクなどの製造も担っている。しかし、これらの製品に関しては製造といってもオペレーションをするのみであり、実際の組み立ては中国で行っているのが現状である。

また、近年注目されているのが同工場で生産されているレーザー墨出し器である。同社独自の技術を取り入れ、高い精度を誇るこの墨出し器は、同社が開発した光ピックアップの技術のほかにもアナログプレーヤーのトーンアームの技術を取り入れているとのことである。このようにオーディオテクニカの起源ともいえるアナログ製品で培った技術は、オーディオ分野を離れた場所でも応用されているのである。

熟練した技術を持つ
女性たちが携わる


さて、いよいよこの池田工場におけるカートリッジの生産ラインを紹介しよう。同工場で現在もパーツ製造から完成までの工程が行われているのは、同社を代表する上位モデル「AT33」シリーズなどである。ただ、これらの製品も作っている量が限られているため、常にラインを流しているわけではない。今回は同社のご協力をいただき、取材用に回していただくことにした。

「AT33」シリーズは独自の機構を備えたMC型として1980年代の半ばに誕生して以来、改良が加えられながら、高い人気を誇っている。なお、現在発売されているのは35周年記念の「AT33PTG」(4万2000円)と40周年記念「AT33R」(8万4000円)である。

同工場では各パーツの集結から始まり、組み立て、測定まで全ての工程を行っている。かつては測定部門のみ東京の本社工場にて行っていた時代もあったが、現在はこのテクニカフクイにも有能な技術者たちが待機しており、ここで出荷までの工程が完結できるようになっている。

今回の取材では針をカンチレバーに取り付ける作業、発電コイルの巻線、着磁検査、テストディスクを使った実測作業を見学できた。詳しくは写真とキャプションにて参照して欲しいが、実際の作業はすべて、熟練した技術を持つ女性たちによって行われ、アナログの全盛期から携わっている方もいるとのことである。



古き良き製品を知ることが
現在のサービスにつながる



テクニカフクイで作られてきたカートリッジのラインアップが展示されている。他メーカーのOEMも数多く受け持っていた


武生工場にある記念ホール。地元の催しやコンサート会場としても開放している

記念ホールには数多くの蓄音器コレクションが並んでいる。同社製品の品質管理を担当する市橋政信氏は蓄音器にも大変詳しい

懐かしのサウンドバーガーも展示されていた
次に、福井県内にある3つのテクニカフクイの工場のうちで、最も多くの従業員が携わっている武生工場を訪れた。前述したように、かつてこの武生工場にカートリッジの生産ラインはあったのだが、現在はCD、DVDのピックアップ部の開発や検査を主に行っている。また、工場内にある音響ホールは音響設備が整っており、同社内の行事の他にも、コンサートや試聴会を催すなど、地元の人達にとっても憩いの場となっている。同施設には、蓄音機のコレクションも数多く展示されており、その全てが実際に音楽を楽しめる状態になっている。同工場に所属し、品質保証室カスタマーサービス課マネージャーを務める市橋政信氏も、蓄音機に魅了された人物の一人である。市橋氏は蓄音機のメンテナンスに関する技術も持っており、ある時は“地元の修理屋さん”となり、またある時は蓄音機の素晴らしさを幅広く伝える公演を行うなど幅広い分野で活躍している。「品質管理という職種の立場からしても、蓄音機のように古き佳き時代の機械を大切にすることは、我々が現在行っている業務にも直結する点があるのです」と述べている。

今回取材したテクニカフクイを含め、オーディオテクニカには全体的に“古きを温め新しきを知る”という精神が深く根付いており、そういう意味で創業の基礎であるカートリッジは本当に貴重な存在であることがよくわかった。




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